この記事で分かること
- なぜ上方修正できたのか:生成AIの普及に伴うデータセンター向け大容量HDD用部品の需要急増が最大の要因です。加えて、高機能スマートフォンの好調による二次電池の販売拡大や、円安による為替差益も利益を大きく押し上げました。
- データセンター向けHDDとは:クラウド企業等の巨大施設で、膨大なデータを24時間休まず保存するために設計された大容量・高耐久なハードディスクです。
- ニアラインHDDとは何か:データセンターで使われる、大容量・低コストな保管用ストレージです。SSDほどの速度は不要だが、必要な時にすぐ引き出したい膨大なデータ(SNS動画やAI学習用等)の保存に最適です。
TDKの通期連結業績予想の上方修正
TDKが2026年2月2日、2026年3月期の通期連結業績予想の上方修正を発表しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB022T40S6A200C2000000/
生成AIブームに伴うデータセンター需要の爆発と、最新スマートフォンの好調が、同社の業績を力強く押し上げています。
なぜ上方修正できたのか
2026年3月期の業績を上方修正した具体的な理由は、主に「AIデータセンター市場」と「高機能スマホ市場」の2つの追い風が、当初の想定を上回る勢いで吹いたことにあります。
特に、TDKの「稼ぎ頭」である2つの事業が非常に強い動きを見せました。
1. 磁気応用製品:データセンター向けHDDの「想定外」の伸び
最も大きな要因の一つは、データセンター用HDD(ハードディスク)関連部品の絶好調です。
- 背景: 生成AIの普及により、AIの学習や運用に必要な膨大なデータを保存するストレージの需要が急増しました。
- 具体的な動き: データセンターで使われる「ニアラインHDD」の生産台数が当初の予測を大きく上回り、TDKが世界シェアの大半を握るHDD用磁気ヘッドやサスペンションの出荷が大幅に増えました。
- 収益性: これらは高単価・高利益率な製品であるため、売上高以上に利益を押し上げる要因となりました。
2. エナジー応用製品:スマホ向け二次電池の「高付加価値化」
TDKの連結営業利益の半分以上を稼ぎ出す二次電池(リチウムポリマー電池)が引き続き好調です。
- AIスマホの登場: AI機能を搭載した最新のスマートフォンは消費電力が大きく、より大容量で高性能なバッテリーが求められます。この「高付加価値モデル」への採用が進みました。
- シェアの維持: スマホ市場全体の台数は横ばいですが、TDKが得意とするハイエンド機種(iPhone等)の売れ行きが堅調だったことが追い風になりました。
3. 産業機器・センサー市場の底堅い需要
ICT(情報通信技術)市場向け以外でも、以下の動きが業績を支えました。
- センサー: 産業機器やスマートフォン向けの温度・圧力センサーなどの販売が拡大。
- 受動部品: 一部の産業機器向けコンデンサなどが、設備投資の回復に伴い堅調に推移しました。
不調だった分野
すべてが絶好調というわけではなく、以下のマイナス要因を上記のプラスが大幅にカバーした形です。
- BEV(電気自動車)市場の減速: 電気自動車向けの電源部品や受動部品は、世界的なEV普及スピードの鈍化により、当初の計画を下回る苦戦が続いています。
- 為替の変動: 第3四半期累計では一部円高局面もあり減益要因となりましたが、通期では概ね想定の範囲内に収まり、業績への打撃は限定的でした。
自動車の不振を、AIとスマホの勢いが完全に上書きしたという構図です。

生成AIの普及に伴うデータセンター向け大容量HDD用部品の需要急増が最大の要因です。加えて、高機能スマートフォンの好調による二次電池の販売拡大や、円安による為替差益も利益を大きく押し上げました。
データセンター用HDDとは何か
「データセンター用HDD」とは、Google、Amazon、Microsoftなどのクラウド企業が運営する巨大な施設(データセンター)で、膨大なデータを24時間365日休まず保存するために設計された特殊なハードディスクのことです。
一般的なPC用HDDとの大きな違いは以下の通りです。
1. 「ニアラインHDD」と呼ばれる主力製品
現在、データセンターで最も使われているのが「ニアラインHDD」です。
- 役割: 「超高速ではないが、すぐにアクセスできる大容量ストレージ」という位置づけです。
- 用途: SNSの投稿画像、クラウド上のバックアップ、AIの学習用データなど、消えては困る膨大なデータの保存に適しています。
2. 一般用(PC向け)との違い
| 特徴 | 一般PC用HDD | データセンター用HDD |
| 稼働時間 | 1日 数時間程度 | 24時間 365日(連続稼働) |
| 耐久性 | 数年で買い替え想定 | 圧倒的に高い信頼性(故障しにくい) |
| 容量 | 1TB 〜 4TB程度 | 20TB 〜 30TB以上の超大容量 |
| 価格 | 安価 | 高価(高性能・高耐久のため) |
3. なぜTDKに関係があるのか
TDKはHDDそのものを作っているわけではありません。HDDの心臓部である「磁気ヘッド」という部品を作っています。
- 世界シェア: TDKはHDD用ヘッドで世界トップクラスのシェアを誇ります。
- 技術の難易度: データセンター用は極限まで密度を高めてデータを書き込む必要があるため、非常に高度な技術(HAMR:熱アシスト磁気記録など)が求められます。
データセンター用HDDは、「情報の倉庫」を支える柱です。生成AIが普及すればするほど保存すべきデータが増えるため、この「倉庫の部品」を作っているTDKの業績が上がっているのです。

クラウド企業等の巨大施設で、膨大なデータを24時間休まず保存するために設計された大容量・高耐久なハードディスクです。生成AIの普及で激増するデータの保存先として、現在需要が急増しています。
メモリ半導体との違いは
「メモリ半導体(主にDRAMやNANDフラッシュ)」と「HDD」の決定的な違いは、「データの処理速度」と「保存できる量(コスト)」の役割分担にあります。
PCやサーバーの中での役割を例えると、メモリは「作業机」、HDDは「巨大な倉庫」です。
主な違いの比較表
| 項目 | メモリ半導体 (SSD/DRAM) | データセンター用HDD |
| 保存の仕組み | 電気的に記録(半導体素子) | 磁気で記録(回転する円盤) |
| 読み書き速度 | 圧倒的に速い | 低速 |
| 容量あたりの単価 | 高い | 圧倒的に安い(1/5〜1/10程度) |
| 電源OFF時 | DRAMは消える / NANDは残る | データはそのまま残る |
| 得意なこと | AIの高速演算、アプリ起動 | 膨大なデータの長期保管 |
1. メモリ半導体(作業机)
AIが「今まさに計算しているデータ」を扱います。スピードが命なので、高価ですが高速な半導体が使われます。スマホがサクサク動くのはこれのおかげです。
2. データセンター用HDD(巨大倉庫)
AIが「過去に学習した膨大な写真や動画」をしまっておく場所です。スピードよりも「いかに安く、大量に保存できるか」が重要なため、現在もHDDが主役です。
なぜTDKにとって重要か
「これからは全部半導体(SSD)になるのでは?」と思われがちですが、データセンターでは扱うデータ量が多すぎるため、すべてを半導体にするのはコスト的に不可能です。
そのため、「速い処理は半導体、大量保存はHDD」という棲み分けが続いており、データセンターが巨大化するほど、TDKのHDD用ヘッドの出番もなくならないというわけです。

メモリは「作業机」で、処理速度が速くデータの一次的な展開や演算に使われます。一方HDDは「巨大倉庫」で、低速ながら大容量・低コストでの長期保管に優れます。生成AIの膨大なデータを安価に貯めるにはHDDが不可欠です。
ニアラインHDDとは何か
「ニアラインHDD」とは、「オンライン(超高速)」と「オフライン(低速なテープ保存など)」の中間に位置する、データセンター向けのストレージのことです。
1. 「ニアライン」の名前の由来
- オンライン(SSDなど): 常にアクセスされ、超高速な処理が必要なデータ。
- オフライン(磁気テープなど): 滅多に使わないデータの長期保管。
- ニアライン(Near-online): SSDほどの速度は不要だが、ユーザーがアクセスした際に「すぐに(ニア)」取り出せる必要があるデータを指します。
2. 生成AI時代の役割
SNSに投稿された動画、メールの履歴、AIの学習に使われる膨大な生データなどは、このニアラインHDDに格納されます。
SSDにすべて保存するとコストが膨大になるため、「大容量」と「低コスト」を両立したこのHDDが世界中のデータセンターで採用されています。
3. TDKとの関係
ニアラインHDDは、1台の箱の中に多くの円盤(ディスク)を詰め込み、超高密度で記録します。TDKは、その狭い隙間で精密にデータを書き込むための「磁気ヘッド」や、ヘッドを正確に動かす「サスペンション」を供給しており、世界シェアの大部分を握っています。

データセンターで使われる、大容量・低コストな保管用ストレージです。SSDほどの速度は不要だが、必要な時にすぐ引き出したい膨大なデータ(SNS動画やAI学習用等)の保存に最適で、現在需要が急増しています。

コメント