この記事で分かること
- MEGTRONとは:MEGTRONは、AIサーバー等の高速通信に不可欠な「低伝送損失」を特長とする多層基板材料です。電気信号の劣化や熱ロスを極限まで抑える独自樹脂技術を持ち、業界のデファクトスタンダードとして普及しています。
- なぜMEGTRONの伝送損失が低いのか:独自開発の低誘電・低誘電正接樹脂を採用し、電気信号が熱に変わるエネルギーロスを極限まで抑えた点にあります。また、平滑な銅箔や特殊なガラス布との密着性を高め、信号の乱れを防いでいます。
- なぜ増産するのか:生成AIの急速な普及により、膨大なデータ処理を支えるAIサーバー向け需要が激増しているためです。世界シェアの高い「MEGTRON」の供給能力を5年で倍増させ、旺盛な需要を確実に取り込む狙いがあります。
パナソニックHDのMEGTRON増産
パナソニックHD(パナソニック インダストリー)は、2026年3月4日、AIサーバー向け多層基板材料「MEGTRON(メグトロン)」の増産に向け、中国・広州の拠点に約75億円を投じて新ラインを設置すると発表しました。
https://news.panasonic.com/jp/press/jn260304-4
2027年4月の稼働を目指し、旺盛なAIインフラ需要を取り込み、その他拠点への投資も行い、世界生産能力を5年で倍増させる計画です。
どんな基板を増産するのか
増産するのは、業界トップクラスの「低伝送損失」を実現した多層基板材料です。
高周波帯域での信号劣化を極限まで抑える特性を持ち、膨大なデータを高速処理するAIサーバーやハイエンド通信機器の心臓部に採用されます。
主な特徴と背景
- 高速・大容量通信への対応: AIの学習や推論には膨大なデータ通信が必要ですが、通常の基板では電気信号が熱に変わって失われる「伝送損失」が課題となります。MEGTRONは特殊な樹脂設計により、この損失を最小限に抑えています。
- 多層化技術: AIサーバー用基板は数十層にも及ぶ高多層構造になりますが、同製品は熱に強く、加工精度が高い(寸法安定性に優れる)ため、高度な積層が可能です。
- 市場シェア: 同シリーズは世界のハイエンドサーバー市場で非常に高いシェアを持っており、今回の中国・広州工場への投資(約75億円)により、急拡大するAIインフラ需要への供給責任を果たす狙いがあります。
この材料は、NVIDIAなどのGPUを搭載する最新のAIアクセラレータ基板や、スイッチ・ルーターなどのネットワーク機器において「デファクトスタンダード(事実上の標準)」に近い存在となっています。

業界トップクラスの「低伝送損失」を実現した多層基板材料、MEGTRON(メグトロン)シリーズです。高周波帯域での信号劣化を極限まで抑える特性を持ち、膨大なデータを高速処理するAIサーバーやハイエンド通信機器の心臓部に採用されます。
なぜMEGTRONの伝送損失が低いのか
MEGTRONの低伝送損失は、パナソニック独自の樹脂設計技術とガラス布の制御によって実現されています。
技術的な3つのポイント
- 低誘電正接(Low Tan δ)樹脂の採用基板を構成する樹脂(エポキシ系やポリフェニレンエーテル系など)の分子構造を最適化し、高周波電流が流れた際に分子が振動して発生する「誘電損」を最小化しています。
- 銅箔の平滑化と密着性の両立高周波信号は導体の表面を流れる特性(表皮効果)があるため、銅箔の凹凸を減らすほど損失は減ります。MEGTRONは、平らな銅箔でも樹脂と強固に密着させる技術により、伝送効率を高めています。
- ガラス布の低誘電化補強材であるガラスクロス自体も、低誘電率な「Eガラス」やさらに高性能な「NEガラス」などを使用し、基板全体としての電気特性を均一に保っています。
MEGTRON 8などの最新グレードでは、さらに高帯域な信号に対応できるよう、これらの材料配合が極限まで磨き上げられています。

低伝送損失の理由は、独自開発の低誘電・低誘電正接樹脂を採用し、電気信号が熱に変わるエネルギーロスを極限まで抑えた点にあります。また、平滑な銅箔や特殊なガラス布との密着性を高め、信号の乱れを防いでいます。
なぜ増産するのか
増産の背景には、生成AI市場の爆発的成長に伴うAIサーバー用高多層基板の世界的な品不足があります。
背景にある3つの要因
- AIインフラの特需: NVIDIAのGPUなどを搭載したAIサーバーは、従来のサーバーより多くの基板層数(多層化)と、MEGTRONのような低損失材料を大量に必要とします。
- 中国市場のローカル需要: 中国国内でも独自のAI開発やデータセンター建設が加速しており、地産地消の観点から広州工場の能力増強が不可欠となっています。
- デファクトスタンダードの維持: ハイエンド基板材料で高いシェアを持つパナソニックは、先行して大規模投資を行うことで、競合他社の追随を許さない供給体制を築く戦略です。
今回の広州工場(約75億円)だけでなく、タイの新工場(約170億円)も合わせると、グループ全体で極めて強気な投資姿勢を見せています。

増産の理由は、生成AIの普及でデータセンター向けAIサーバー需要が激増し、高性能基板「MEGTRON」の供給が追いつかないためです。中国やタイでの投資を通じ、世界生産能力を5年で倍増させ、市場独占を狙います。
なぜ熱に強く、加工精度が高いのか
MEGTRONが熱に強く加工精度が高い理由は、主成分である樹脂の高耐熱化と、熱膨張を抑えるフィラー制御技術にあります。
技術的背景
- 高Tg(ガラス転移点)樹脂の設計樹脂の分子架橋密度を高めることで、熱による分子の動きを拘束しています。これにより、200℃を超えるような高温環境でも基板が変形しにくく、接続信頼性を維持します。
- 低CTE(熱膨張係数)の実現樹脂自体の膨張を抑えるため、熱膨張の小さい「シリカ(二酸化ケイ素)」などの無機フィラーを高度に分散させています。これにより、基板の縦横・厚み方向の伸びを抑え、数十層に及ぶ多層基板のドリル加工やビア形成の精度を高めています。
- 寸法安定性AIサーバー用基板は非常に大きく厚いため、熱による「反り」や「ねじれ」が致命的となります。MEGTRONは材料の収縮率を緻密にコントロールすることで、製造工程全体での歩留まり向上に寄与しています。
この高い加工精度が、NVIDIAのGPUモジュールやスイッチなどの超多層・高密度設計を支える鍵となっています。

高耐熱の「高Tg樹脂」を採用し、はんだ付け等の高温下でも軟化を防いでいます。また、低熱膨張なシリカフィラーを高充填する独自技術により、加熱時の寸法変化を極限まで抑制し、多層基板の高度な加工精度を実現しています。
競合にはどんなメーカーがあるのか
MEGTRONの競合には、台湾、中国、アメリカ、韓国などのグローバル企業が名を連ねています。
特にAIサーバー市場では、パナソニックHDが「絶対王者」として君臨していますが、以下のメーカーが激しく追随しています。
主要な競合メーカーと特徴
| メーカー名 | 国・地域 | 特徴・主力製品 |
| Elite Material (EMC) | 台湾 | 最大のライバル。 AIサーバー向け(NVIDIA用など)で急速にシェアを拡大。ハロゲンフリー材料に強み。 |
| Taiwan Union (TUC) | 台湾 | 高速通信向け「ThunderClad」シリーズを展開。コストパフォーマンスを武器にサーバー市場で浸透。 |
| Shengyi (生益科技) | 中国 | 中国最大手。 圧倒的な生産能力を持ち、今回のパナソニック広州工場増産の直接的な競合。 |
| Isola Group | 米国 | 欧米市場に強く、データセンター向け「Tachyon 100G」などで高い技術力を保有。 |
| ITEQ (騰輝電子) | 台湾 | ハイエンドサーバーやネットワーク機器向けに強み。 |
| 南亜プラスチック | 台湾 | 汎用からハイエンドまで幅広く手掛ける巨大素材メーカー。 |
競争のポイント
- NVIDIAサプライチェーン: 従来、AIサーバー基板材料はMEGTRONの独壇場でしたが、近年はEMCなどの台湾勢がNVIDIAの認証を取得し、供給シェアを奪い合う展開になっています。
- 次世代規格(112G/224G): 通信速度が上がるにつれ、材料への要求はさらにシビアになります。パナソニックは最新の「MEGTRON 8」で逃げ切りを図っていますが、競合各社も同等の低損失材料を次々と投入しています。
今回のパナソニックによる中国・タイへの大型投資は、これら競合の追撃を振り切り、圧倒的な供給量と品質で「デファクトスタンダード」の地位を死守するための防衛策でもあります。

競合は、台湾のEMCや台燿科技(TUC)、騰輝電子(ITEQ)、中国最大手の生益科技、米Isolaなどです。特にEMCはNVIDIA向けで実績を伸ばしており、各社は「低損失」と「低価格」を武器にシェア奪還を狙っています。

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