日立製作所と米GEベルノバの小型モジュール炉に関する覚書 小型モジュール炉とは何か?

この記事で分かること

  • 小型モジュール炉とは何か:出力30万kW以下の小型原子炉で、工場でのモジュール製造と現地での組み立てが可能です。従来の大型炉より建設期間を短縮でき、電源喪失時も自然対流等で冷やす「受動的安全系」を備える次世代の原子力技術です。
  • BWRX-300の特徴:実績ある沸騰水型(BWR)技術をベースに構造を大幅に簡素化。原子炉圧力容器に隔離弁を直結し、大規模な配管破断リスクを排除しました。建屋容積を大型炉比で約90%削減し、低コスト・短工期を実現しています。
  • 小型モジュール炉の課題:量産による習熟効果が未実証で、出力あたりの建設単価が大型炉を上回る懸念があります。また、単位発電量あたりの放射性廃棄物量が増加するとの指摘や、分散設置に伴う核不拡散・警備コストの増大も大きな課題です。

日立製作所と米GEベルノバの小型モジュール炉に関する覚書

 日立製作所と米GEベルノバは、2026年3月14日、次世代型原子炉である小型モジュール炉(SMR)の東南アジア展開に向けて協力する覚書(MOU)を締結しました。今後、両社が共同開発した「BWRX-300」の導入機会を、東南アジア諸国で調査・検討します。

 https://jp.reuters.com/markets/global-markets/3DKYLEHMVBNHTJJS32RJXMAR5I-2026-03-14/

 特に東南アジアではベトナム、インドネシア、フィリピンなどが原子力導入に前向きな姿勢を見せており、今回のMOUが具体的な受注につながるかどうかが今後の焦点となります。

小型モジュール炉とは何か

 小型モジュール炉(SMR炉)とは、一般的に出力が30万kW以下(大型原発の約3分の1程度)の原子炉を指します。

 「モジュール」の名が示す通り、主要な機器を工場で組み立ててから現地へ搬送し、据え付ける方式が特徴です。

1. 優れた安全性(受動的安全系)

 多くのSMR設計では、事故時に電源が失われても、重力や自然対流を利用して自動的に炉心を冷却する「受動的安全システム」を採用しています。ポンプなどの動力を必要としないため、福島第一原発事故のような全電源喪失時でも、深刻な事態を回避できる設計となっています。

2. 建設コストの抑制と工期短縮

 従来の大型原発は現地での大規模な土木・建設工事が必要で、工期の長期化とコスト増大が課題でした。SMRは工場生産による標準化が可能なため、品質管理が容易になり、建設期間を大幅に短縮(5年程度を目安)することで投資リスクを抑えられます。

3. 多様な設置ニーズへの対応

 出力が小さいため、送電網が未発達な地域や、離島、あるいは老朽化した火力発電所の代替としての設置に適しています。また、発電だけでなく、高温の熱を利用した水素製造や、海水淡水化への活用も期待されています。


主要な技術方式

 現在開発されているSMRには、大きく分けて以下のタイプがあります。

方式特徴代表例
軽水炉型既存の原発技術を小型化。実用化に最も近い。日立GE「BWRX-300」、米ニュースケール社
高速炉型高速中性子を利用。核燃料の利用効率が高い。米テラパワー(ビル・ゲイツ氏出資)
高温ガス炉型冷却にヘリウムガスを使用。900℃超の高温熱供給が可能。日本原子力研究開発機構(HTTR)

現在の状況

 世界中で80件以上の開発プロジェクトが進行しており、カナダのダーリントン原子力発電所では日立GE製のSMRの建設が始まっています。

 2020年代後半から2030年代にかけての商用運転開始が、脱炭素社会実現に向けた大きな節目になると見られています。

小型モジュール炉(SMR)は、出力30万kW以下の次世代原子炉です。主要機器を工場で分割製造(モジュール化)して現地で組み立てるため、工期短縮と低コスト化が可能です。自然対流等による高い安全性も特徴です。

なぜ小型炉では受動的安全システムを利用できるのか

 小型モジュール炉(SMR)が「受動的安全システム(パッシブ・セーフティ)」を導入しやすい最大の理由は、炉心が小さく、発生する熱量が大型炉に比べて圧倒的に少ないからです。


  • 出力密度の低さと表面積の比率: 小型炉は出力が小さいため、事故時に発生する「崩壊熱」も少なくなります。炉の大きさに比して表面積の割合が大きくなるため、自然な放熱だけで冷却しやすくなります。
  • 自然対流の活用: 炉がコンパクトなため、水やガスの温度差によって生じる「自然対流」だけで冷却材を循環させることが物理的に可能です。大型炉では循環に巨大なポンプが必要ですが、小型炉では重力と熱の浮力だけで十分な冷却能力を確保できます。
  • 地下配置やプールの利用: 小型ゆえに原子炉全体を巨大な水プールの中に沈めたり、地下に配置したりすることが容易です。これにより、外部電源が喪失しても、周囲の水が自然に熱を吸収し続ける設計が可能になります。

 炉心が小さく崩壊熱が少ないため、ポンプ等の動力を必要としない自然対流や重力、空気の循環だけで冷却が可能です。

 容器を巨大な水プールに沈める等の簡素な設計が成立し、外部電源喪失時も安全を維持しやすくなります。


小型炉は出力が小さく崩壊熱の絶対量が限定的なため、ポンプ等の動力に頼らず重力や自然対流といった物理法則のみで冷却可能です。表面積の割合が大きく熱を逃がしやすい構造も、受動的安全系の採用を容易にしています。

BWRX-300の特徴は何か

 日立GE製の小型モジュール炉「BWRX-300」の主な特徴は以下の通りです。


  • 実績ある技術の継承: 第10世代の沸騰水型原子炉(BWR)技術をベースに小型化。既存の燃料やサプライチェーンをそのまま活用できるため、技術的リスクが低いのが強みです。
  • 構造の簡素化: 冷却材喪失事故(LOCA)を防ぐため、原子炉隔離弁を容器に直結。大型炉で必要だった大規模な非常用炉心冷却装置(ECCS)の一部を不要とし、機器点数を大幅に削減しました。
  • 受動的安全性の実現: 事故時には外部電源やポンプを使わず、重力と自然対流のみで原子炉を冷やし続ける「受動的格納容器冷却システム」を備えています。
  • 経済性の追求: モジュール工法の採用により、従来の大型炉と比較して出力あたりの建設コストを約60%削減することを目指しています。

実績あるBWR技術をベースに、構造を大幅に簡素化した出力30万kWのSMRです。隔離弁の容器直結等により事故リスクを低減し、自然対流による受動的安全系を採用。低コスト・短工期での建設を強みとします。

BWRX-300の稼働状況は

 BWRX-300は、2026年3月現在、世界各地で計画が進んでいますが、最も先行しているカナダのダーリントン原子力発電所で建設フェーズに入っています。


主要プロジェクトの稼働・進捗状況

国名 / サイト現在のステータス(2026年3月時点)運転開始予定
カナダ / ダーリントン建設中。2025年4月に建設許可を取得し、2026年初頭には原子炉建屋の基礎となる「ベースマット・モジュール」の設置が開始されました。2029年後半〜2030年
アメリカ / クリンチリバーテネシー川流域開発公社(TVA)が建設許可を申請中。2030年代初頭
ポーランド2026年2月に「汎用設計合意(PGDA)」を締結。国内6箇所で最大24基の導入を計画し、詳細設計段階へ移行。2030年頃

進捗のポイント

  • カナダの先行: ダーリントンでは1号機の建設と並行して、さらに3基(計4基)の追加設置に向けたライセンス準備が進んでいます。
  • 標準化の推進: ポーランドでの合意に見られるように、設計を標準化して量産することで、コスト削減と工期短縮を図る「モジュール化」のメリットを最大化する戦略が取られています。
  • 規制当局の動き: カナダ、アメリカ、イギリスの規制当局が情報共有を進めており、国際的なライセンス取得の迅速化が期待されています。

 カナダのダーリントン原発で1号機が建設中で、2026年初頭には建屋基礎の設置が始まりました。2029年末から30年の運転開始を目指しています。ポーランドや米国でも計画が具体化しており、商用化に向けた最終段階にあります。

小型モジュール炉の問題点はなにか

 小型モジュール炉(SMR)は多くの利点を持つ一方で、実用化に向けた課題もいくつか指摘されています。主な問題点は以下の通りです。


1. 経済性の不確実性(規模の利益の喪失)

 従来の大型炉は、一度に大量の発電を行うことで1kWあたりの単価を下げる「規模の利益」を追求してきました。

 SMRは小型化することでこのメリットを失うため、工場での量産(習熟曲線効果)が十分に機能しなければ、かえって発電コストが高くなるリスクがあります。

2. 放射性廃棄物の発生量

 米スタンフォード大学などの研究チームは、SMRは出力単位(1MW)あたりで見ると、大型炉よりも多くの放射性廃棄物(中性子漏れによる周辺機器の汚染など)を排出する可能性があるという試算を発表しています。廃棄物の処理・処分問題は依然として解決すべき大きな課題です。

3. 核不拡散とセキュリティ

 設置場所が分散されるため、核物質の管理やテロ対策といったセキュリティコストが、基数が増えるごとに増大する懸念があります。

 特に送電網が未発達な新興国や遠隔地に設置する場合、国際的な監視体制をどう構築するかが問われます。

4. 許認可・規制の壁

 現在の原子力規制の多くは大型炉を前提としています。SMR特有の設計(受動的安全系や地下埋設など)に合わせた新しい規制基準の策定や、国際的な標準化が進まなければ、輸出や量産が進まないという制度面のハードルがあります。


量産によるコスト低減が未実証で、出力あたりの放射性廃棄物量が増える可能性が指摘されています。また、多数の地点に分散設置することによる核物質管理の難化や、既存の規制枠組みとの乖離が導入の壁となっています。

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