この記事で分かること
- コットン調の風合いとは:天然の綿繊維が持つ、微細な毛羽(けば)による柔らかな肌触りと、適度なシャリ感が特徴です。繊維が中空構造のため吸湿性が高く、光沢を抑えたマットな質感と、肌に馴染む自然な温もりが安心感を与えます。
- ポリエステルでの再現方法:熱と撚りを加える「仮撚加工」で糸にランダムな縮れを作り、空気流で表面に微細な毛羽を立たせます。さらに繊維の断面を「Y字」などの異型にすることで、化繊特有の光沢を抑え、綿に近い質感と機能を両立させます。
- 増産を行う理由:天然の風合いと、化繊の速乾・防シワ性を両立した「日常で着られる高機能素材」の需要が世界的に急増しているためです。リサイクル原料による環境対応や、日本独自の高度な加工技術への信頼も背景にあります。
帝人フロンティアニッティングのコットン調の生地2割増産
帝人フロンティアニッティングは、綿の風合いと速乾性を両立したポリエステル生地を2割増産します。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC267T00W6A320C2000000/
専用の糸加工設備を増強し、アウトドアやカジュアル服向けの需要拡大と、環境配慮型素材の供給強化に対応します。
コットンの風合いとはどんなものか
「コットンの風合い」とは「天然繊維ゆえの不均一さが生む、心地よい違和感」です。具体的には、以下の4つの要素が組み合わさって構成されています。
1. 微細な「毛羽(けば)」による柔らかさ
コットンは短い繊維をねじり合わせて糸にするため、表面に微細な繊維の端(毛羽)が飛び出しています。これが肌との間に空気の層を作り、ふんわりとした柔らかいタッチを生みます。
2. 「シャリ感」と「ぬめり感」のバランス
適度な硬さと弾力があり、肌に張り付きにくい「シャリ感」があります。一方で、植物油脂分をわずかに含んでいるため、しっとりとした「ぬめり感」も同居しており、これが独特のしなやかさに繋がります。
3. 吸湿性による「自然な温度感」
繊維の内部が空洞(中空構造)になっており、水分を吸い込みやすい性質があります。そのため、汗を吸っても表面がベタつかず、夏は涼しく、冬は体温を逃がさないという、化学繊維にはない「落ち着いた温もり」を感じさせます。
4. 視覚的な「マット(艶消し)感」
ポリエステルのような規則的な光沢ではなく、光を乱反射させるマットな質感です。これにより、目に優しく、落ち着いたナチュラルな印象を与えます。

コットンの風合いは、微細な毛羽が作る柔らかな肌触りと、適度なシャリ感が特徴です。中空構造による吸湿性で蒸れにくく、光沢を抑えたマットな質感と自然な温もりが、安心感のある着心地をもたらします。
どうやってポリエステルで再現するのか
ポリエステルでコットンの風合いを再現するには、化学繊維特有の「細くて、真っ直ぐで、光沢がある」という性質を、いかに天然繊維に近い「不均一で、縮れていて、マットな」状態に加工するかが鍵となります。
1. 糸の形状加工(仮撚加工・サイドバイサイド構造)
ポリエステルの糸に熱を加えながら強くねじり、それを戻す「仮撚(かりより)加工」を施します。
これにより糸にランダムな捲縮(けんしゅく:パスタのような縮れ)が生まれ、糸の間に空気が含まれるようになります。これがコットンのような「ふくらみ」と「柔らかさ」を生みます。
2. 微細な「毛羽(けば)」の創出
特殊な空気流(エアジェット)を用いて、糸の表面にあるフィラメント(長繊維)の一部をわざとループ状に飛び出させたり、カットしたりします。
これが天然の綿糸にある「毛羽」の役割を果たし、肌に触れた時のチクチク感を抑えたソフトなタッチを実現します。
3. 断面形状と光沢のコントロール
通常のポリエステルは断面が正円ですが、これを「Y型」や「星型」などの異型断面にします。
- 光の乱反射: 断面を複雑にすることで、化繊特有のギラつきを抑え、コットンのようなマットな質感を出します。
- 吸汗性の向上: 繊維の隙間に毛細管現象が発生し、本物のコットン以上に素早く水分を吸収・拡散できるようになります。
この「合繊による天然素材の再現」は、現在ではウール(羊毛)やリネン(麻)調にも応用されています。

ポリエステルに熱と撚りを加え、空気流で表面に微細な毛羽を作ることでコットンの質感を再現します。さらに繊維断面を異型化して光の反射を抑え、天然素材特有のマットな見た目とふんわりした肌触りを両立させます。
どうやって異型断面を作るのか
ポリエステルの異型断面は、主に「口金(くちがね/ノズル)」の穴の形を変えることで作り出します。
ポリエステルは、高温でドロドロに溶かした原料(ポリマー)を、シャワーヘッドのような「口金」から押し出し、冷やして固めることで糸になります(溶融紡糸)。この際、口金の穴を工夫することで、糸の断面形状を自在にコントロールします。
1. 口金(ノズル)による形状制御
通常のポリエステルは円形の穴から押し出されますが、異型断面糸の場合は以下のような特殊な穴を使用します。
- スリット(切れ込み)型: Y字、L字、十字などの形をした細い切れ込みからポリマーを押し出します。
- 複数孔の合流: 隣り合った複数の小さな穴から出たポリマーが、冷え固まる前にくっつくことで、雪だるま型や中空(ストロー状)の断面を作ります。
2. ポリマーの特性と冷却管理
単に穴の形を複雑にするだけでは、液体の表面張力によって丸まろうとしてしまいます。これを防ぐために高度な技術が使われます。
- 粘度の調整: ポリマーの粘り気を調整し、押し出した直後の形を維持しやすくします。
- 急冷技術: 押し出された直後に冷風を当てて一気に固めることで、口金の穴の形を正確に再現します。
3. 主な断面形状とその効果
代表的な異型断面には、それぞれ以下の役割があります。
| 形状 | 主な効果 |
| Y型・L型 | 光を乱反射させ、テカリを抑えてマットな質感にする(コットン調に必須)。 |
| 十字・多葉型 | 繊維の隙間に水を引き込む「毛細管現象」を起こし、吸汗速乾性を高める。 |
| 中空(マカロニ型) | 内部に空気をため込み、軽量化と保温性を両立させる。 |
この技術によって作られた生地は、スポーツウェアの「ベタつきにくさ」にも直結しています。

溶けた原料を押し出す「口金」の穴をY字や十字などの特殊な形にすることで作ります。表面張力で丸まらないよう、粘度調整や急冷技術を駆使して精密な断面を維持し、光沢抑制や吸水性などの機能を付与します。
なぜ増産するのか
帝人フロンティアニッティングが2割増産に踏み切る理由は、主に「世界的な衣料トレンドの変化」と「機能性素材の日常着化」という2つの大きな需要増加に対応するためです。
1. 「見た目は天然、機能は化繊」への需要集中
近年、アウトドアウェアと普段着の境界がなくなる「アスレジャー」や、仕事着のカジュアル化が加速しています。
- 消費者の本音: 「コットンのような優しい見た目がいいけれど、洗濯後に乾きにくかったり、シワになったりするのは避けたい」というニーズが非常に強まっています。
- 解決策: この「コットン調ポリエステル」は、天然の風合いを持ちながら、ポリエステル本来の「速乾性」「防シワ性」「形態安定性」を備えているため、旅行着やビジネスカジュアルとして爆発的に普及しています。
2. サステナビリティへの対応(脱・天然繊維の補完)
天然のコットン栽培は、大量の水の使用や農薬による環境負荷が課題視されることがあります。
- リサイクル原料の活用: 帝人フロンティアは、ペットボトルなどを原料としたリサイクルポリエステルを用いてこの生地を作る技術に長けています。
- 環境意識の高いブランド: 欧米を中心としたアパレルメーカーが、環境負荷を抑えつつ高品質な素材を求めており、受注が右肩上がりで増えています。
3. 日本国内での一貫生産による「高品質・短納期」
今回の増産は、糸の加工から編み立て(ニッティング)までを国内(岐阜県など)で一貫して行う体制を強化するものです。
- 差別化: 海外産の安価なポリエステル生地に対し、日本独自の精密な異型断面技術や仮撚技術による「本物に近い質感」は、高価格帯のブランドから強い信頼を得ており、供給不足が続いていました。

天然素材の風合いと、化繊の速乾・防シワ性を両立した「日常で着られる高機能素材」の需要が世界的に急増しているためです。リサイクル原料による環境対応や、日本独自の高度な加工技術への信頼も背景にあります。

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