ディスコ四半期出荷額で過去最高 どんな装置が好調だったのか?

この記事で分かること

  • どんな装置が好調だったのか:生成AI向けのHBM(高帯域幅メモリ)を極限まで薄く削るグラインダや、精密に切り出すダイシングソーが爆発的に伸びています。また、世界的なEV化の流れを受け、パワー半導体向けの加工装置も好調を維持しています。
  • KABRAとは:レーザーでインゴット内部に分離層を形成し、ウェーハを剥離させるディスコ独自のSiC加工技術です。従来の物理的な切断より加工時間を約1/10に短縮し、素材ロスも抑えられるため生産性が劇的に向上します。
  • 今後の見通しはどうか:HBMの積層数増加やSiCの普及を背景に、中長期的な成長が続く見込みです。2027年3月期に向け、AIインフラ投資の継続と次世代デバイスの量産化が追い風となり、業績のさらなる積み上げが期待されています。

ディスコ四半期出荷額で過去最高

 ディスコは2026年4月6日、2026年1━3月期(第4四半期)の個別出荷額が981億円(前年同期比28.2%増)となり、四半期ベースで過去最高を更新したと発表しました。

 https://jp.reuters.com/markets/world-indices/JJQJPNWTVZKWBISWMG2WA5M6ZM-2026-04-06/

 これにより、2026年3月期通期の連結純利益も過去最高を更新する見通しで、精密加工における「切る・削る・磨く」の高い世界シェアを背景とした強さが改めて示されました。

どんな装置が好調だったのか

 ディスコが過去最高の出荷額を記録した背景には、主に「生成AI関連の先端装置」「次世代パワー半導体向けの革新技術」の2つがあります。どのような装置が好調だったのか、その内訳と技術的背景を詳しく解説します。


1. 生成AI・HBM向け「後工程」装置の爆発的需要

 最も大きな牽引役となったのは、生成AI用GPUや、それに積層される高帯域幅メモリ(HBM)向けの装置です。

  • グラインダ(研削装置): HBMはメモリチップを何層にも積み上げるため、個々のチップを極限まで薄く削る必要があります。この「薄化」工程で同社の高精度グラインダが不可欠となっており、増産投資が相次ぎました。
  • ダイシングソー(切断装置): 巨大なGPUチップや精密なHBMを切り出すための装置です。特に、従来のブレード(刃)ではなくレーザーで加工する「レーザソー」の需要が急増しており、累計出荷台数が2026年2月に4,000台を突破するなど、技術転換の恩恵を直接受けています。

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2. パワー半導体(SiC)向けの「KABRA」技術

 電気自動車(EV)や産業機器に使われる次世代パワー半導体「SiC(炭化ケイ素)」向け装置も好調を維持しています。

  • KABRA(カブラ): 硬くて加工が難しいSiCインゴットを、レーザーを使って高速に切り出す独自技術です。従来の方式に比べて素材のロスを大幅に減らし、生産スピードを数倍に高められるため、世界中のデバイスメーカーで導入が進んでいます。

3. 安定した収益を支える「消耗品」

 装置本体だけでなく、加工に使用する精密加工ツール(ブレードや研削ホイール)の出荷も過去最高水準です。

 これは、顧客である半導体メーカーの工場がフル稼働していることを意味します。装置という「ハード」を売るだけでなく、動かせば動かすほど利益が出る「リカーリング(継続課金型)モデル」が同社の高収益体質を支えています。


 今回の記録更新は単なる市場の回復ではなく、「AIによるチップの高積層化・微細化」「パワー半導体の素材革新」という、半導体産業の最も熱い領域において、ディスコの「切る・削る・磨く」技術が代替不能なポジションを確立している結果と言えます。

生成AI向けHBM(高帯域幅メモリ)の積層化に伴う薄化研削用のグラインダや、精密切断用のダイシングソーが極めて好調です。また、SiCパワー半導体向けの独自加工技術「KABRA」関連装置も寄与しています。

KABRAとは何か

 ディスコが開発した「KABRA(カブラ)」は、次世代パワー半導体の主流素材であるSiC(炭化ケイ素)の生産効率を劇的に高める、世界初のレーザー加工技術です。正式名称は「KABRAプロセス」と呼ばれます。

 これまでSiCは「ダイヤモンドの次に硬い」と言われるほど加工が困難で、インゴットからウェーハを切り出す工程が製造全体のボトルネックとなっていました。KABRAはこの問題を以下の仕組みで解決しました。


1. KABRAプロセスの仕組み

 従来の切断(ダイシングソー)が「物理的に削り取る」のに対し、KABRAは「レーザーで内部を剥離させる」という全く異なるアプローチを取ります。

  • レーザー照射: SiCインゴットの上面から特定の深さにレーザーを連続照射します。
  • 分離層の形成: レーザーによってSiCが分解され、内部に平らな「KABRA層(剥離の起点となる層)」が形成されます。
  • 剥離: この層をきっかけとして、インゴットからウェーハをパカッと剥がし取るように分離します。

2. 圧倒的な優位性

 この技術が導入される前と後では、生産性に以下の3つの大きな差が生まれます。

  • 驚異的なスピード: 従来のダイヤモンドワイヤーソーでは1枚切り出すのに数時間から十数時間かかっていましたが、KABRAは約10〜20分程度にまで短縮可能です。
  • 素材ロスの削減: 物理的に削らないため、切りしろ(カーフロス)として捨てられる高価なSiC粉末が激減します。結果として、同じ長さのインゴットから取れるウェーハの枚数が最大1.5倍に増え、コストダウンに直結します。
  • 後工程の簡略化: 切り出した面が非常に平滑であるため、その後の研磨(ポリッシング)の負荷が大幅に軽減されます。

3. 市場での重要性

 電気自動車(EV)の航続距離を伸ばすためにSiC半導体の需要は世界中で爆発しており、テスラをはじめとする主要メーカーが採用を進めています。

 KABRAは、SiCの「高い・作るのが大変」という最大の弱点を克服する技術として、世界中のパワー半導体メーカーで導入が進んでおり、現在のディスコの好業績を支える強力な柱となっています。

インゴット内部にレーザーで分離層を形成し、ウェーハを剥離させるディスコ独自のSiC加工技術です。従来の切断方式に比べ、加工時間を大幅に短縮しつつ素材ロスを抑制できるため、生産性とコスト効率を劇的に高めます。

なぜレーザーで内部を剥離させると時間を短くできるのか

 従来のダイヤモンドワイヤーソーによる切断は、極めて硬いSiCを「物理的に少しずつ削り進める」方式であり、摩擦熱の抑制やワイヤーの断線防止のために、速度を上げられないという物理的な限界がありました。

KABRAが圧倒的に速い理由は、以下の3点に集約されます。

  • 「全面を削る」から「層を作る」への転換:インゴットの断面すべてを削り落とすのではなく、レーザーで内部に「剥離のきっかけ」となる薄い層(KABRA層)を瞬時に形成するだけなので、加工面積が実質的に最小限で済みます。
  • 非接触加工:物理的な刃物が素材に触れないため、摩擦抵抗や負荷を考慮する必要がありません。レーザー走査による超高速なスキャンだけで分離準備が整います。
  • 一括剥離:一度レーザーで分離層を作れば、あとは機械的に力を加えるだけでウェーハが「パカッ」と剥がれます。削り進める時間を待つ必要がなくなりました。

 「ノコギリで木を挽き切る」のをやめて、「板の層に沿って一気に剥がす」仕組みに変えたことが、短時間化の最大の要因です。

物理的に削り進めるワイヤーソーに対し、KABRAはレーザーで内部に「剥離の起点」となる層を瞬時に形成し、一気に分離します。切断面積を最小限に抑え、非接触で超高速走査するため、加工時間を劇的に短縮できます。

今後の見通しはどうか

 今後の見通しは、「生成AI関連の継続的な拡大」「次世代パワー半導体(SiC)の本格普及」を二大柱として、非常に明るいと予測されています。

短期の見通し

 短期的には、AI向けGPUや高帯域幅メモリ(HBM)の進化が追い風となります。HBMは世代が進む(HBM4など)につれて積層数が増えるため、チップを極限まで薄く削るグラインダの需要は、単なる台数増を超えた「高付加価値化」による単価上昇も期待できます。

 2026年3月期は人件費等の先行投資で増益幅が抑えられた側面もありますが、2027年3月期にはこれらが収益化し、大幅な増収増益に復帰するとの見方が強まっています。

中長期の見通し

 中長期的には、現在は一時的な調整局面にあるSiCパワー半導体市場が、2026年後半から2027年にかけて再び成長サイクルに入ると見られます。ここで「KABRA」技術が標準採用されることで、装置・消耗品の両面で爆発的な伸びが期待できます。

懸念点

 為替変動や中国市場の投資動向、米中対立による輸出規制のリスクが挙げられますが、精密加工において世界シェア約7割〜8割を誇る独占的な立ち位置は揺るぎません。

 半導体の微細化・積層化が進むほど同社の「切る・削る・磨く」技術への依存度は高まるため、持続的な成長が見込まれます。

今後の見通しについては、生成AI市場の拡大とパワー半導体の普及を背景に、中長期的な成長が続くと予想されます。AIインフラ投資が続く限り、ディスコの高度な精密加工技術への依存度はさらに高まる見通しです。

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