この記事で分かること
- どんな材料を増産するのか:増産対象は、AI半導体等の高性能パッケージに使用される「高機能樹脂材料」です。特にチップの多層化や微細配線に不可欠な材料の膨張を抑える機能を持つ樹脂を増産すると思われます。
- なぜ熱膨張を抑えることが重要なのか:半導体の動作時に発生する熱で部材が膨張・収縮を繰り返すと、シリコンチップと基板の膨張率の差から接合部に歪みが生じ、断線や亀裂が発生します。これを防ぎ、製品の信頼性と寿命を維持するために低熱膨張化が不可欠です。
- どのように膨張率を下げるのか:分子鎖にベンゼン環等の硬い構造を導入して熱運動を抑え、架橋密度を高めて三次元的に固定します。さらに樹脂自体にフィラーと結合する機能を与え、低膨張な無機粒子をナノレベルで均一分散させることで実現します。
日本触媒の半導体パッケージング材料の増産
日本触媒が兵庫県・姫路製造所において、半導体パッケージング(後工程)向け材料の増産体制を整えるための数十億円規模の投資を決定しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF033MY0T00C26A3000000/
日本触媒は、長年培った触媒技術と高分子設計技術を応用し、微細化が進む半導体製造において熱膨張を抑えたり、絶縁性を高めたりする高機能な樹脂を提供しています。
どんな材料を増産するのか
日本触媒が注力しているのは、半導体パッケージの信頼性を左右する「低熱膨張(低CTE)特性」を備えた樹脂材料です。
半導体デバイスは動作時に熱を持ちますが、シリコンチップとそれを載せる基板では熱による膨張率が異なります。この差が大きいと、熱変化のたびに接合部が引っ張られたり押し潰されたりして、断線やチップの割れ(クラック)の原因となります。
日本触媒は、以下の技術によってこの問題を解決する材料を供給・開発しています。
1. 高耐熱・低熱膨張な分子設計
同社が得意とする高分子合成技術を用い、分子構造そのものを熱に対して動きにくい強固な構造(剛直な骨格)に設計しています。これにより、樹脂そのものの熱膨張係数(CTE)を極限まで抑えています。
2. フィラー(充填剤)との高分散技術
樹脂の中にシリカなどの無機粒子(フィラー)を混ぜることで熱膨張を抑制する手法が一般的ですが、日本触媒は樹脂とフィラーを均一に混ぜ合わせる、あるいは樹脂自体にフィラーと強固に結びつく特性を持たせることで、材料全体としての寸法安定性を高めています。
3. 次世代実装(CoWoS等)への対応
特にAI半導体で採用されるCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)のような複雑なパッケージでは、異なる素材が何層も重なるため、材料の膨張コントロールが非常にシビアです。日本触媒の材料は、こうした最先端工程での歪み対策として期待されています。

同社は分子設計技術により、熱変化による変形が少ない「低熱膨張樹脂」を展開しています。チップと基板の膨張差による断線や亀裂を防ぐこの材料は、熱負荷の大きいAI半導体の実装工程で極めて重要な役割を果たします。
低熱膨張な分子設計とはどんなものか
「低熱膨張な分子設計」とは、熱エネルギーが加わっても分子の動きや広がりを最小限に抑えるための工夫です。
一般的に、樹脂(プラスチック)は熱で大きく膨張しますが、半導体材料ではこれを極限までシリコン(金属に近い膨張率)に近づける必要があります。主なアプローチは以下の3点です。
1. 剛直な骨格(リジッド構造)の導入
分子の鎖の中に、折れ曲がりにくい「ベンゼン環」などの硬い構造(芳香族骨格)を組み込みます。
- 仕組み: 鎖がバネのように伸び縮みするのを防ぎ、熱運動による体積変化を物理的に抑え込みます。
2. 高密度な架橋構造
分子鎖どうしを網目状に強く結びつける「架橋(かけはし)」の密度を上げます。
- 仕組み: ジャングルジムのように分子が三次元的に固定されるため、熱が加わっても分子が自由に動けるスペースがなくなり、膨張が抑制されます。
3. 分子間の相互作用の強化
分子間に水素結合などの強い引き付け合う力を働かせます。
- 仕組み: 分子同士が互いを強く引き寄せることで、熱によって離れようとする力に抵抗します。

低熱膨張な分子設計とは、分子鎖にベンゼン環などの硬い構造を組み込み、網目状の結合を密にすることで、熱による分子の動きを抑える手法です。これにより、樹脂特有の「熱で伸びる」性質を極限まで抑制します。
どのように樹脂とフィラーを均一に混ぜ合わせるのか
樹脂の中にシリカなどの無機フィラー(充填剤)を均一に混ぜ合わせるには、単に撹拌するだけでなく、ナノレベルでの界面制御と強力な物理的シェア(剪断力)が必要になります。
日本触媒などの化学メーカーが用いる主な手法は以下の通りです。
1. 表面処理(カップリング剤)の活用
フィラー(無機物)と樹脂(有機物)は本来、水と油のように馴染みません。そこで「シランカップリング剤」などの仲介役を使用します。
- 仕組み: フィラーの表面をカップリング剤でコーティングします。分子の一端が無機物と、もう一端が樹脂と結合する性質を持つため、フィラーが樹脂に引き寄せられ、ダマ(凝集)になるのを防ぎます。
2. 強力な機械的分散
「3本ロールミル」や「高圧ホモジナイザー」といった装置を用いて、物理的にフィラーを押し潰し、引き剥がしながら樹脂の中に分散させます。
- 仕組み: 非常に狭い隙間に材料を通し、強力な剪断力をかけることで、固まったフィラーを一次粒子(最小単位)までバラバラにして樹脂と混ぜ合わせます。
3. インサイチュ(In-situ)重合
樹脂(ポリマー)を作ってから混ぜるのではなく、フィラーが存在する液体(モノマー)の中で、その場で樹脂を合成(重合)させる手法です。
- 仕組み: 分子が成長する過程でフィラーを取り込むため、後から混ぜるよりもはるかに緻密で均一な分散状態を作り出すことができます。

シランカップリング剤でフィラー表面を処理し樹脂との親和性を高める手法や、強力な剪断力をかける機械的分散が主流です。また、フィラー存在下で樹脂を合成する技術等により、ナノレベルでの均一な分散を実現します。
樹脂自体にフィラーと強固に結びつく特性を与える方法は
樹脂そのものにフィラー(無機物)との親和性を持たせるには、ポリマーの分子構造の中に、フィラー表面と化学的に反応したり引き合ったりする「官能基」をあらかじめ組み込んでおく手法が取られます。
これを「樹脂の機能化(変性)」と呼び、主に以下の3つのアプローチがあります。
1. 極性官能基の導入
樹脂の分子鎖の末端や側鎖に、シリカ(フィラー)表面の「水酸基(-OH)」と相性の良い官能基を導入します。
- 代表的な基: 水酸基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、エポキシ基、アミノ基など。
- 効果: これらがフィラー表面と水素結合や静電的相互作用で引き合うため、カップリング剤なしでも樹脂がフィラーを「しっかり掴む」状態になります。
2. 反応性ポリマー(ポリマーカップリング)
樹脂自体を一種の巨大なカップリング剤として機能させる方法です。
- 仕組み: ポリマーの構造内に、フィラー表面と共有結合(強固な化学結合)を形成できる反応基を組み込みます。
- 効果: 加熱などのプロセスを経て、樹脂とフィラーが「一体化」したネットワークを形成するため、熱膨張の抑制効果や機械的強度が劇的に向上します。
3. ブロック/グラフト共重合
フィラーに馴染む部分(親水性)と、樹脂本体の部分(疎水性)の両方を併せ持つ特殊なポリマーを設計します。
- 仕組み: 界面活性剤のような役割をポリマー自身が果たすことで、フィラーの周囲を専用の樹脂層が包み込むように配置されます。
- 効果: 樹脂全体の中にフィラーが「溶け込む」ような状態を作り出し、高度な均一分散を実現します。

樹脂の分子鎖に、フィラー表面と結合・吸着しやすい官能基(水酸基等)を直接組み込む手法が有効です。樹脂自体に「掴む力」を持たせることで、界面の剥離を防ぎ、材料全体の熱安定性や分散性を飛躍的に高めます。

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