この記事で分かること
1. どんな研磨材料を増産するのか
増産するのは、ウエハー研磨液(CMPスラリー)の主原料となる「コロイダルシリカ」です。
ナノサイズの超微細なシリカ粒子が液体中に分散した材料で、特に最先端のAI半導体や、チップを何層も積み上げる「HBM(高帯域幅メモリ)」の製造に欠かせない高付加価値品が対象です。
2. 技術の特徴:なぜ日揮が強いのか
最大の特徴は、石油精製用の触媒開発で培った「粒子の精密制御技術」です。
- 均一性: 全ての粒子の大きさと形をナノ単位で完璧に揃えることで、ウエハー表面に傷(スクラッチ)をつけずに平滑に磨き上げます。
- 高純度: 半導体の欠陥の原因となる金属不純物を極限まで排除しており、2nmなどの最先端プロセスに対応できる品質を誇ります。
3. なぜ今、増産するのか
主な理由は「半導体の3次元積層化(HBM)」による需要激増です。
- 工程の増加: AI半導体ではチップを薄くして重ねるため、表面だけでなく「裏面」を削る工程が新たに増えています。
- 消費量の拡大: 1枚の半導体を作るのに必要な研磨工程が増えたことで、研磨材の消費量が爆発的に伸びており、世界シェア約5割を持つリーダーとして供給責任を果たす狙いがあります。
日揮ホールディングスのウエハー研磨材原料増産
日揮ホールディングス(HD)が、先端半導体製造に不可欠なウエハー研磨材原料を最大3割増産する方針を固めたことが報じられています。
化学事業子会社である日揮触媒化成が中心となり、2040年までに国内での生産能力を現在より2〜3割引き上げる計画で、先端半導体の国産化(Rapidusのプロジェクトなど)が進む中、川上の材料供給を国内で強化することは、日本の半導体産業全体のレジリエンス(復元力)向上に寄与します。
また、 汎用的なエンジニアリング事業に加え、利益率の高い機能性材料事業を強化することで、グループ全体の収益構造をより強固にする狙いもあります。
ウエハー研磨とは何か
ウエハー研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing / 化学機械研磨)とは、半導体製造プロセスにおいて、シリコンウエハーの表面を「原子レベルで平坦」にする技術のことです。
単に削る(物理的)だけでなく、薬品で表面を溶かす(化学的)プロセスを組み合わせることで、極めて高い平滑性を実現します。
1. なぜ「研磨」が必要なのか
現代の半導体は、10層〜20層といった非常に薄い回路を積み重ねて作られます。
- 積層の安定化: 下の層が凸凹していると、その上に重ねる回路が歪んでしまいます。高層ビルを建てる際に、各階の床を真っ平らにする作業と同じです。
- 露光の精度向上: 回路を描く「露光」工程では、レンズの焦点深度が非常に浅いため、ウエハーがわずかでも反っていたり凸凹していたりすると、ピントが合わず回路がぼやけてしまいます。
2. 研磨の仕組み(CMPの構造)
CMPは、以下の3つの要素を組み合わせて行われます。
- 研磨パッド: ウエハーを押し当てる回転する台座。
- スラリー(研磨剤): 研磨粒子(シリカやセリアなど)と化学薬品を混ぜた液体。
- キャリア: ウエハーを保持し、パッドに押し付けながら回転させる部分。
- 化学的(Chemical)作用: スラリーに含まれる薬品が、ウエハー表面の材料と反応して柔らかい膜を作ります。
- 機械的(Mechanical)作用: その柔らかくなった部分を、スラリー中の微細な粒子が物理的に削り取ります。
3. 先端半導体における重要性
日揮HDが増産を決めた「原料(コロイダルシリカなど)」は、このスラリーの主成分です。
- ナノ精度の制御: 回路の線幅が2nm、3nmと微細化するにつれ、研磨粒子一つひとつの大きさがバラバラだと、ウエハーに微細な傷(スクラッチ)がついて不良品になってしまいます。
- 均一な粒径: 日揮の強みは、この研磨粒子を「すべて同じ大きさ、同じ形」で大量生産できる高度な触媒技術にあります。
このように、ウエハー研磨は半導体の「超微細化・多層化」を支える、地味ながらも極めて難易度の高い必須技術といえます。

ウエハー研磨(CMP)とは、化学薬品による表面腐食と、研磨粒子による物理的切削を組み合わせて、半導体ウエハーを原子レベルで平坦にする技術です。回路の多層化や露光精度の向上に不可欠な、最重要工程の一つです。
どんな研磨材料を、増産するのか
日揮ホールディングス(日揮触媒化成)が今回増産するのは、CMPスラリーに使用される「コロイダルシリカ」という超微細なシリカ粒子です。主に以下の2つの特徴を持つ材料に注力しています。
1. 超高純度・均一な「コロイダルシリカ」
石油精製などの触媒製造で培った技術を応用し、液体中に微細なシリカ(二酸化ケイ素)を安定して分散させた材料です。
- 粒径の均一性: 粒子一つひとつの大きさをナノ単位で完全に揃える技術が強みです。粒子の大きさがバラバラだとウエハー表面に微細な傷(スクラッチ)がつく原因になりますが、日揮の製品は極めて滑らかな仕上がりを可能にします。
- 高純度化: 先端半導体では微量な不純物(金属イオンなど)も致命的な欠陥になるため、極限まで純度を高めた原料を供給しています。
2. 「裏面研磨(バックグラインド)」用原料の強化
特に注目されているのが、ウエハーの表面ではなく、「裏面」を削るための研磨材原料です。
- 薄層化への対応: AI半導体などで使われる「HBM(高帯域幅メモリ)」は、チップを何層も垂直に積み上げます。そのため、一つひとつのチップを極限まで薄く削り込む必要があり、裏面研磨の重要性が急激に高まっています。
- 次世代パッケージング: チップと基板を繋ぐ「CPO(共同パッケージ光通信)」技術など、新しい積層構造において同社の研磨材が重要な役割を果たします。
日揮は、このコロイダルシリカの分野で世界シェア約5割を誇るトップクラスのサプライヤーであり、今回の増産によって2040年までに国内生産能力を最大3割引き上げることで、AI半導体の進化を支える狙いがあります。

日揮は、CMPスラリーの主原料である超高純度の「コロイダルシリカ」を増産します。石油精製触媒の技術を応用し、ナノ単位で粒径を揃えたシリカ粒子が強みで、特に積層化が進むAI半導体の裏面研磨用途で不可欠な材料です。
日揮のコロイダルシリカ技術の特徴は何か
日揮ホールディングス(日揮触媒化成)のコロイダルシリカ技術は、長年培った「触媒製造技術」を極限まで精密化した点に最大の特徴があります。
1. ナノレベルの「粒子制御」能力
同社は、液体中に分散するシリカ粒子の「大きさ」と「形」を自在にコントロールする高い技術を持っています。
- 均一な粒径: 粒子が大きすぎるとウエハーを傷つけ、小さすぎると研磨効率が落ちます。日揮は数ナノ〜数百ナノメートルの範囲で、誤差が極めて少ない均一な粒子を安定して製造できます。
- 形状の多様性: 真球状だけでなく、あえて表面に凹凸をつけた粒子や、特定の形状を持たせることで、研磨速度(スループット)と表面品質(平滑性)のバランスを最適化しています。
2. 極限の「高純度化」
先端半導体の製造工程(FEOL:トランジスタ形成工程など)では、わずかな金属不純物がデバイスの動作不良(ショートやリーク電流)を招きます。
- 金属イオンの排除: 石油精製用触媒で培った精製技術を応用し、ナトリウムや鉄などの不純物を極限まで低減しています。これにより、2nmプロセスなどの最先端領域でも使用可能なクオリティを実現しています。
3. 多彩な「表面改質」技術
シリカ粒子の表面に特定の化学的な性質を持たせることで、スラリー(研磨剤)としての機能を高めています。
- 分散安定性: 液体中で粒子が凝集(固まり)しないように保つ技術です。凝集はウエハーへの深い傷(スクラッチ)の主因となるため、この安定性は歩留まり(良品率)に直結します。
- 特定の材料への選択性: 絶縁膜(酸化膜)だけを削り、金属膜は削らないといった、ターゲットに合わせた高度な研磨選択性をスラリーメーカーに提供しています。
日揮はこのコロイダルシリカにおいて世界シェア約5割を握っていますが、それは単に量を作れるだけでなく、こうした「微細化する回路を傷つけず、かつ高速に平坦化する」という、矛盾する要求をナノテクノロジーで解決しているからです。

日揮の強みは、触媒事業で培った粒径・形状を自在に制御する技術です。ナノ単位で均一な粒子を製造できるため、微細化が進む最先端ウエハーを傷つけず、超高純度かつ平滑に磨き上げる高い品質を実現しています。
なぜ増産するのか
日揮がコロイダルシリカの増産に踏み切る理由は、主に「生成AIの普及」と「半導体の高層化(3D積層)」という2つの大きなトレンドに対応するためです。
1. 生成AI市場の爆発的拡大
ChatGPTなどの生成AIを動かすには、膨大な計算処理を行う「AIサーバー」が不可欠です。
- 需要の急増: AI用GPU(画像処理装置)などの先端半導体の生産が世界中で加速しており、それに伴い消耗品である研磨材(スラリー)の需要も右肩上がりで増えています。
- 高付加価値化: 先端半導体ほど回路が微細なため、日揮が得意とする「傷をつけない高品質なシリカ」が必要とされています。
2. 「HBM」などの積層技術(3D化)の進展
最近のAI半導体は、性能を上げるためにチップを縦に何層も積み重ねる「HBM(高帯域幅メモリ)」という技術が主流になっています。
- 研磨面積の増加: チップを重ねる際、一つひとつのチップを極限まで薄く削り、表面を真っ平らにしなければなりません。
- 裏面研磨の重要性: 従来の表面研磨に加え、チップを薄くするための「裏面研磨」の工程が激増しており、研磨材の消費量そのものが増えています。
3. サプライチェーンの安定化とシェア維持
日揮は世界シェア約5割を握るリーダーですが、競合他社も追随しています。
- 経済安全保障: 半導体材料の供給網を国内で強化したいという国の方針(Rapidusへの支援など)に呼応し、日本国内での供給能力を固める狙いがあります。
- 先行投資: 2040年までの長期需要を見据え、今から生産体制を整えることで、次世代プロセス(2nm以降)でも主導権を維持しようとしています。
「AI半導体がたくさん作られるようになり、しかも1個あたりの半導体により多くの研磨工程が必要になった」ことが、増産の最大のトリガーです。

生成AIの普及により先端半導体需要が爆発しており、特にチップを縦に積む「HBM」などの積層技術の進化が要因です。薄層化のための裏面研磨工程が増え、研磨材の消費量が急増しているため、供給体制を強化します。

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