この記事で分かること
1. 銅の充填方法
まず真空スパッタリング等で穴の内壁に電気が通る極薄の「銅の下地(シード層)」を作ります。その後、添加剤を加えた特殊な「電解めっき液」に浸し、穴の底や中央から湧き上がるように銅を隙間なく精密に充填します。
2. 応力差の問題とは何か
ガラスと導電体の銅は熱膨張率が2〜5倍も異なるため、製造時や動作時の温度変化で激しい応力差が生じます。これにより、穴の周囲のガラスが割れる、銅が突き出す、配線が剥がれる等の断線リスクが発生します。
3. その解決方法
ガラスと銅の間に応力を吸収する「緩衝層(チタンや極薄樹脂)」を挟む、銅の膨張率に近づけた専用ガラスを開発する、めっき後の熱処理で銅の結晶構造を安定化させ急激な変形を抑える、といった方法で解決を図ります。
ガラス基板における銅との応力差
韓国SKグループの素材部門であるSKCは、次世代AI半導体パッケージングの中核素材とされるガラス基板(Glass Substrate)事業への投資を急激に強化しています。
2026年5月、同社は大規模な有償増資を成功させ、量産化に向けた資金力を確固たるものにしました。
従来の半導体パッケージングでは樹脂(プラスチック)製基板が主流でしたが、AI半導体の高集積化・大型化に伴い物理的な限界を迎えています。次世代の超高帯域幅メモリ「HBM4」などの先端3Dスタッキングやチップレット技術において、ガラス基板の採用は必須のステップとみなされています。
一方で、課題も多くあり、今回の投資を活用し、商用量産化ハードルをクリアできるかどうかが、今後の世界のAI半導体パッケージング市場の勢力図を大きく左右することになります。
前回はガラス基板の特性、利点に関する記事でしたが、今回は製造における課題である銅とガラスの応力差に関する記事となります。
どのように銅を充填させているのか
ガラス基板に開けた極小の穴(TGV)へ銅を満たすプロセスは、主に「電解銅めっき(湿式めっき)」という化学技術が使われています。
しかし、ガラスには電気が通らないため、単にめっき液に浸すだけでは銅はつきません。そのため、以下の3つのステップを踏んで精密に充填(フィルタリング)させています。
1. 銅を密着・充填させる3つのステップ
ステップ①:下地づくり(シード層の形成)
電気が通らないガラスの穴の内壁に、電解めっきの「足がかり」となる極薄の金属膜(シード層)を作ります。
- 通常、真空状態で金属を気化させて付着させる乾式プロセス(スパッタリング)を使い、ガラスとの密着性を高めるチタン(Ti)などの緩衝層を敷いた後、その上に薄い銅(Cu)の膜を形成します。
ステップ②:電解銅めっき(ボトムアップ充填)
シード層に電流を流し、硫酸銅などが主成分のめっき液に浸します。
- 普通にめっきをすると、穴の入り口ばかりに銅が厚くつき、中央が空洞(ボイド)になってしまいます。これを防ぐため、液中に「添加剤(インヒビターやアクセラレーター)」を混ぜます。
- 添加剤の働きにより、穴の入り口のめっき成長を抑え、「穴の底や中央から湧き上がるように銅を埋めていく(ボトムアップ充填)」、あるいは「穴の壁面から均一に太らせていく」特殊な制御を行います。
ステップ③:余分な銅の除去(CMP)
穴が完全に銅で埋まった後、ガラスの表面(外側)にハミ出して盛り上がった余分な銅を、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)という技術で平らに削り落とします。
2. 穴の形状による2つの充填方式
T GVの穴の形(プロファイル)によって、銅の詰まり方が異なります。
- アワーグラス型(砂時計型):レーザーで両面から穴を開けると、中央がくびれた砂時計の形になります。この場合、くびれた中心部から外側へ向かって銅を成長させて埋めます(Xライン充填)。
- ストレート型(円柱型):まっすぐな穴の場合、片側を一度金属テープ等で塞ぎ、まさにコップに水を注ぐように底から順に銅を積み上げて埋めていきます。
髪の毛よりも細い(直径数十マイクロメートル)深い穴の奥底まで、気泡や隙間を一切残さずに、かつガラスを割らずに均一に銅を詰め切る有機添加剤の配合と電流制御が、各社の最高機密(ノウハウ)となっています。

まず真空スパッタリング等で穴の内壁に電気が通る極薄の「銅の下地(シード層)」を作ります。その後、添加剤を加えた特殊な「電解めっき液」に浸し、穴の底や中央から湧き上がるように銅を隙間なく精密に充填します。
詰めた銅との応力差の問題とは
ガラスとそこに詰める(あるいは積層する)「銅」との応力差(熱膨張率のミスマッチ)は、ガラス基板の信頼性を左右する極めて深刻な課題の一つです。
半導体の製造工程や動作時には激しい温度変化(常温〜300℃近く)が起こりますが、この熱によってガラスと銅がバラバラの比率で伸び縮みするため、構造に大きなストレス(応力)がかかります。
1. 圧倒的な「熱膨張率(CTE)の差」
問題の根本は、それぞれの材料が持つ熱膨張率(CTE)のミスマッチにあります。
- シリコンチップ:約 3 ppm/℃
- 半導体用ガラス:約 3 〜 8 ppm/℃(シリコンに非常に近い)
- 銅(配線・TGV):約 16.5 ppm/℃(ガラスの2〜5倍も熱で膨張しやすい)
ガラス基板は「チップ(シリコン)と熱膨張率を合わせられる」という最大のメリットを持つ反面、「電気を通すための銅とは激しく熱膨張率が異なる」というジレンマを抱えています。
2. 応力差が引き起こす3つの具体的トラブル
熱がかかった際、銅は大きく膨張しようとしますが、硬いガラスがそれをガッチリと抑え込むため、逃げ場を失ったエネルギーが以下の破壊現象を引き起こします。
① TGV(貫通電極)周辺のマイクロクラック
ガラスに開けた穴(TGV)の中に詰まった銅が、熱によって内側からガラスを強く押し広げます。ガラスは引っ張られる力に非常に弱いため、穴の周囲に目に見えない微細なひび割れ(マイクロクラック)が入り、これが基板全体の割れに発展します。
② 銅の突き出し現象(銅ポンピング / Cu Pumping)
熱によって膨張した銅が、TGVの穴から上部へニュルッと飛び出すように変形する現象です。これにより、ガラス表面に形成された繊細な微細配線層(RDL)を突き破り、断線やショートを引き起こします。
③ 界面の剥離(デラミネーション)
ガラスはもともと金属との密着性が悪い物質です。そこに熱による大きな応力差が加わると、ガラスと銅の境界線(界面)からペリペリと剥がれてしまい、導通不良(動かなくなる原因)を引き起こします。
3. どのように解決しようとしているのか
この応力差をコントロールするため、素材・プロセス両面から以下のような高度なアプローチがとられています。
- 緩衝層(バッファー層)の導入:ガラスと銅が直接触れないよう、穴の内壁にチタン(Ti)などの薄い金属膜や、応力を吸収できる柔軟な特殊有機膜(シランカップリング剤や極薄樹脂)を挟み込み、クッションの役割を持たせます。
- ガラスの組成ブレンド:ガラスメーカーは、シリコンへの親和性を保ちつつも、意図的に熱膨張率を少し高め(8〜9 ppm/℃付近)、銅との差を中和させた「半導体パッケージ専用ガラス」の開発を進めています。
- めっきプロセスの最適化(低温化・熱処理):銅をめっきする際の温度を極力下げて初期の応力を減らすほか、めっき後に特殊な熱処理(アニール)を施すことで、銅の結晶を安定化させて熱による急激な膨張・変形を抑える工夫がなされています。
「銅との応力差」は、ガラス基板が避けて通れない物理的な宿命です。SKCやインテルなどの先行企業が現在最も特許を出願し、ノウハウを競い合っているのが、この「応力を逃がすバッファー層の材料選定とプロセス技術」になります。

ガラスと導電体の銅は熱膨張率が2〜5倍も異なるため、温度変化で激しい応力差(ミスマッチ)が生じます。これにより、穴の周囲のガラスが割れる、銅が突き出す、配線が剥がれるといった深刻な断線リスクが発生します。
緩衝層の導入は伝送損失に影響するのか
緩衝層(バッファー層・密着層)の導入は、ガラス基板の最大の強みである「低伝送損失」に対して悪影響を与える(損失を増加させる)要因になります。
応力差による「割れ」を防ぐための対策が、皮肉にも「電気的特性」を落としてしまうというジレンマが存在し、これがガラス基板開発の非常にデリケートな技術戦となっています。
1. 「表皮効果」により、高抵抗な緩衝層を直撃する
高周波の電気信号は、導線(銅)の中心ではなく「外側の表面」に集中して流れる性質(表皮効果)があります。
- ガラスと銅の密着性を高めるために、一般的にチタン(Ti)やクロム(Cr)などの金属膜が緩衝層(密着層)として数ナノ〜数十ナノメートル挟まれます。
- これらの金属は、銅に比べて電気抵抗が数倍〜十数倍も高いため、表面を流れる高周波信号がこの高抵抗エリアを通ることになり、「導体損失(電気抵抗によるロス)」が急増します。
2. ガラスの「低誘電特性」が樹脂に邪魔される
応力をより柔軟に吸収するために、有機樹脂(ポリイミドなど)の薄膜を緩衝層として敷くアプローチもあります。
- この場合、ガラスのせっかくのメリットである「誘電正接($\tan \delta$)の低さ(電気を吸い取らない性質)」が、樹脂の層によって相殺されてしまいます。
- 結果として、信号のエネルギーが樹脂層に吸収されて熱に変わる「誘電損失」が発生し、伝送効率が落ちてしまいます。
対策方法
このトレードオフ(割れ防止と低損失の両立)を解決するため、SKCやインテル、日本の素材メーカーなどは以下のような超微細コントロールを行っています。
- ナノレベルへの極薄化:緩衝層の厚みを、密着性を保てる限界(例: 5〜10ナノメートル以下)まで極限まで薄くし、信号への影響を実質ゼロに近づける。
- 新材料(合金・自己組織化単分子膜)の採用:チタンに代わる低抵抗な新しい合金シード層の採用や、厚みがほぼゼロ(分子1個分)の特殊な化学結合剤(シランカップリング剤など)を用いて、電気的ロスを徹底的に排除する。
緩衝層は「割れ」を防ぐクッションになりますが、高周波信号がそこを通るため伝送損失を増やす原因になります。 そのため、各社は緩衝層を「分子・ナノレベルまで極薄化」して影響を抑える技術を競っています。

高周波の信号は配線の表面を流れる性質があるため、ガラスと銅の間に抵抗の大きな金属(チタン等)や誘電損失のある樹脂を挟むと、電気のロス(伝送損失)が増加してしまうジレンマがあります。
どのようにガラスの熱膨張率を少し高めるのか
ガラスの熱膨張率(CTE)をコントロールして少し高める(3 ppm/℃から8〜9 ppm/℃程度にする)には、ガラスの骨組みとなる化学組成のブレンドをナノレベルで調整します。
具体的には、以下のメカニズムで行われています。
1. ガッチリした「網目構造」をあえて緩める
純粋なガラス(石英ガラス)は、二酸化ケイ素(SiO2)の原子同士が強固なジャングルジムのような「網目構造」を作っています。結合が強すぎるため、熱をかけても原子がほとんど振動せず、熱膨張率は極めて低くなります(約0.5 ppm/℃)。
そこで、ガラスメーカーはここに「網目修飾剤(ネットワークモディファイア)」と呼ばれる特定の金属酸化物を意図的に混ぜ合わせます。
- 結びつきを切断する:混ぜられた成分は、二酸化ケイ素の強い結合を部分的にプチプチと切断し、構造の中に適度な「隙間」や「ルーズさ」を作ります。
- 熱で動きやすくする:構造が緩むと、温度が上がったときに原子が大きく揺れ動く(熱振動)ことができるようになり、結果としてガラス全体の熱膨張率が上がります。
2. 熱膨張率を高める具体的な成分
通常の窓ガラスなどでは、熱膨張率を高めるためにナトリウム(Na)やカリウム(K$といった「アルカリ金属」を混ぜます。しかし、半導体パッケージではこれらが絶対に許されません。
ナトリウムなどのイオンはガラスの中を自由に動き回る性質(マイグレーション)があり、半導体チップに触れると回路をショートさせ、不良品にしてしまいます。
そのため、半導体用ガラス基板(AGCやコーニング製など)では、回路を汚染しにくい「アルカリ土類金属酸化物」だけを厳選してブレンドします。
- 酸化カルシウム(CaO)
- 酸化ストロンチウム(SrO)
- 酸化バリウム(BaO)
これらの配合比率を「多すぎず、少なすぎず」絶妙に増やすことで、半導体チップへの汚染を防ぐクリーンさを保ったまま、銅の熱膨張率(約16.5 ppm/℃)に一歩近づけたガラスを作り出しています。
3. なぜ「少しだけ」高めるのか?
完全に銅と同じ(16.5 ppm/℃)まで高めないのは、今度は上に載せる半導体チップ(シリコン:約3 ppm/℃)との間で激しいズレ(反り)が起きてしまうからです。
ガラス基板メーカーは、チップ(3 ppm)と銅(16.5 ppm)のちょうど中間である「8〜9 ppm/℃」付近を狙って組成を設計しています。これにより、上(チップ)と下(銅配線)の両方から引っ張られるストレスを最もバランスよく分散させています。

無アルカリの金属酸化物(酸化カルシウムや酸化バリウム等)をガラスの主成分に絶妙な比率で配合します。これによりガラスの強固な網目構造があえて適度に緩められ、熱で原子が振動しやすくなり熱膨張率が上がります。

コメント