君のクイズ 小川哲 感想と少しの考察

本の概要

 生放送のTV番組に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手である本庄絆が、問題を読む前に正解したことで、決勝戦で負けてしまいます。

 ヤラセを疑う三島でしたが、ひょっとしたら本庄が問題を予想できた理屈、理由があるのではと考え、当日のクイズを思い返したり本庄の関係者に会い、その謎を解こうとしていきます。

 決勝戦のクイズを思い返すなかで自分の人生を振り返る三島は徐々にクイズに隠された謎に近づいていきます。

 本屋大賞にもノミネートされている作品です。

 クイズの奥深さと三島の真相に迫る考えが面白い小説でした。

なぜ、本庄は正解できたのか

 以下ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

 三島は、本庄がなぜ正解できたかを探るために、当日の映像を見返すこと、本庄について様々な情報を集めるうちに、徐々に真相に迫っていきます。

 当日のクイズの内容が三島、本庄いずれかの過去にかかわっていたことに気づきます。テレビの生放送でクイズをやる際に製作者が最も恐れたのは、どちらも答えられないような問題が続いていしまい、白けてしまうことです。

 それを避けるために、製作者はどちらかが確実に答えられるように問題を設定していました。テレビに慣れていた本庄はこのことに気づいていていました。問題の傾向を見極め、問題文を読むときの出題者の口の形から問題の最初の文字を判断し、正解したのでした。

 テレビに慣れていた本庄vs慣れていない三島の対比は当日の対決の際の描写でも繰り返し描かれていましたが、勝敗を分けたのもテレビに慣れているかどうかでした。

わずかな違和感

 すべての真相を知った三島は本庄にコンタクトを取り、真相を確かめに行きます。

 本庄は実際に自分たちに関連する問題が出ると予測していたことを認めています。

 なぜ自分たちの問題が出るのかと考えたのか、さらになぜ問題を特定できたのかはいまいち疑問が残ります。本庄はもし不正解でも問題文が読まれない状態で回答するだけで、大きな話題となるため、不正解でも問題ないと考えてとはいえそれでもやはり不自然な面が目立ちます。

 本庄はテレビではなく、ユーチューブなどの自身でのメディアを立ち上げるためにとにかく話題性を集めることが重要だったと発言しています。

 本庄に会いに行くシーンでなんとなく肩透かしを覚えた人も多いのではないでしょうか。

 本庄の目的が話題になりたいというのも最後の結末として少し物足りなさを感じました。

本当にヤラセはなかったのか?

 この結末で私が考えたのは、本当はヤラセがあったのでは?ということでした。

 本庄は当然認めませんが、状況的にはヤラセがなかったとは言えず、製作者側の混乱からもうかがえます。

 製作者側はヤラセを本当にやっておらず、混乱しているのかもしれませんが、ヤラセをしていたものの、なぜ本庄が明かにヤラセが疑われる状況で正解してしまったのか理解できておらず、混乱していると捉えることほうが自然な気もします。

 本庄の立場に立ってみれば、ヤラセと疑われようが、すでにネット上に信者が大勢いて自分のコンテンツを発信するうえでは問題ないと考えこのような正解の仕方を選んだのかもしれませんが、本庄が急に強力なクイズプレーヤーとなったことも含め違和感が強いのは確かです。

 また、三島に自分のユーチューブに出演を依頼しているシーンも、三島がヤラセでないという結論にたどり着き、公にしてくれれば本庄にとって大きなプラスとなると考えたのではと思いました。

人生はクイズか?

 ただ、本作は三島の視点以外から物語が進行することもなく、本当にヤラセがあったのかはわかりません。

 三島はストーリーの最後に頭の中でのクイズとはなにかという問いに、人生と確信しています。

 しかし、三島はクイズが人生のようなものというよりも、人生がクイズでは?と考えてきた節があります。

 すべてのことはクイズであり、言語化でき、何か問題があっても、必ず一つの正解できるというように考えているのかなと感じました。

 クイズを通じて自分や本庄の人生に触れることで、人生は必ずしも一つの正解があるわけではないし、正解がないものがあることを知ったのかもしれません。

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