本のあらすじ
些細な暴力沙汰で捕まったスズキタゴサクを名乗る中年男。
彼は取り調べの中で爆弾事件を予言し、それを的中させてしまったことで、警察は次に爆発事件をスズキタゴサクからひきださなくてはならなくなっていきます。
予言はあくまでも霊感と言い張るスズキタゴサクに対し、警察側は様々な人間が彼を揺さぶり情報を得ようとしますが、のらりくらりとやりすごされてしまいます。
スズキタゴサクはクイズという形で爆弾事件のヒントを出すなど、警察側との心理的駆け引きが魅力の作品になっています。
このミステリーがすごい! 2023年版とミステリが読みたい! 2023年版で2冠を達成し、本屋大賞にもノミネートされています。
感想ー良質なミステリーと心理対決が面白い
刑事ものですが、取り調べの中で物語が進行していく部分が特徴的な作品です。
とぼけた態度で警察側は煙に巻きつつ微妙にヒントを出す、スズキタゴサクとそれを追い込む警察側との心理対決が魅力的な作品でした。
ポイントはなぜ、スズキタゴサクはこんなくどいやり方をしているのか、初めの事件では、秋葉原のビルの爆破は正確に予測したのに、山手線というメインの爆破事件はあいまいなヒントになったのかでした。
刑事である類家がこの点を指摘し、スズキタゴサクを追い込んでいくシーンが特に面白かったです。
無敵の人
ミステリーとして非常に面白いとともにスズキタゴサクのようないわゆる無敵の人の持つ怖さを感じる作品でした。
スズキタゴサクは自己顕示欲とともに世界が自分に興味がないことから、世界が自分に欲望や興味を向けることーそれが怒りや破壊を望むことであってもー自体が目標になっていました。
近年無敵の人による犯罪が話題になることも多いですが、自分が世界から興味を集めるために事件をおこし、それをSNSなどで簡単に拡散できるようになったことはこのような事件を増やすのではと考えさせられるものでした。
命の選別
作中では、ホームレスと子供たち、身近な人と関係のない人などどちらの命や安全を優先すべきか、 またその選択で悩むシーンが印象的でした。
スズキタゴサクは人がむき出しの欲望を出すことを目的としており、命の選別という形で多くの登場人物たちに選択を迫っています。
爆弾はこのような無意識的な判断を行ってしまう人たちの心に中にあるものという意味もあるのかなと感じました。
ミステリーとして面白く、考えさせられる部分もある作品でした。
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