Life Changing 人が生命進化を加速する ヘレン・ピルチャー 3分要約

3分要約

人が生命進化を加速させるとはどういうことか

 テクノロジー進化で生物の整理や行動を変化させ、進化に影響を与えてきた。意図したものやそうでないものまで広範囲な生物へと影響が広がっている。

人の影響にはどんな種類があるのか

  • 家畜化:れっきとした遺伝子操作。人間と共同生活しやすい個体同士がえらばれ徐々に穏やかな気質や、警戒心のなさが受け継がれる。動物と暮らしていった結果であり、初めから家畜化しようとしたわけではない
  • 選択交配:好ましい性質を持つ個体を掛け合わせ、望む形質を強く遺伝させることを目的としている。望む性質以外の形質が強まることや遺伝的多様性の現象などのデメリットがある。
  • 遺伝子編集:遺伝子組み換えなどより素早い改変を可能にする。特にクリスパーは精度が高く、従来の品種改良だけでなく、遺伝子ドライブなど応用範囲は限りなく広い

環境を変えたことによる進化への影響とは

 地球の変化は自然によって起き、それに適応することで進化が起きてきたが、人類の影響が大きくなることで自然環境を変え、進化に影響を与えている。

  • 温室抗ガス排出による温暖化
  • 家畜生産による生物多様性の減少
  • 人が移動させたことによる交雑

 進化のスピードは想像以上に早く、人間の作り出した環境に適応した進化は数年から数世代で起こることもある。

生物進化への介入をどう考えるべきか

 種分化など進化への影響を予測することは難しく、予期せぬ事態になることもあるがすでに多様性の減少した生態系には保護以上の介入が必要。

 人間の手で個体数を増加させた例はいくつもあり、人間の手を離れて再野生化した例もある。遺伝子ドライブのような影響力の大きいものは少しづつ進める必要はあるが、環境を守り抜くという意思があれば生命を良い方向に持っていくてだすけができるはず。

人類は生物の進化に大きな影響を与えてきた

 アフリカで誕生した人はやがて、地球を支配する巨大勢力へとのし上がった。その途中でテクノロジーを発明し、生物の生理や行動を変化させ、彼らを進化の旅路から脱線させるようになった。

 人類は、品種改良や去勢、遺伝子操作など多くの生物進化に介入してきたが、これらの意図した介入のみならず、環境を変化させ、生物圏を劇的に改変させ、意図しないはるかに広範囲な生物へと影響は広がっている。

 人の影響は地球全体に及ぶに至った結果としてどんな進化的反動があったか、そしてその結果失われた生物多様性をどのように回復していくかについて書かれている。

家畜化もれっきとした遺伝子操作

 遺伝子組み換えと効くと多くの人は遺伝学のツールでDNAに手を加えられた動植物を思い浮かべるが、家畜もれっきとした遺伝子操作の産物。

 犬は最初の家畜動物であり、全ての犬はオオカミを人と関わることで生まれたオオカミの子孫。犬とオオカミのDNAは95.5%が同じだが、人間と生活するようになり残り0.5%に変化が起き、大きく特徴に変化が起きた。

 オオカミとヒトは同じ土地に暮らしていたが、長い間互いに警戒し、距離を取って暮らしてきたが、ある時、ヒトが子オオカミを拾い育てるようになったと思われる。連れてこれるオオカミは捕まえやすく、穏やかだったはずで、時がたつにつれ、穏やかな気質が受け継がれ、家畜化が進んだ。

 ヒトに近づき安い個体が、人間の残飯を食べているうちに健康状態がよく、よく繁殖でき警戒心の低さが受け継がれたという説もあるがどちらにせよに、徐々ヒトとオオカミは関係性を深めていいった。

 このような関係は多くの動物でみられ、世代を重ねるにつれ従順な、個体の割合が増えると、毛色や解剖学的、生理的特徴に変化が生じる。身体的な変化だけでなく、脳内の神経細胞の変化による行動の変化も多く見られる。ヒトは家畜化をしようと思って家畜化したのではなく、ヒトと動物の関係が密接になった副作用に過ぎなかった。

選択交配は不確か性、遺伝的多様性の減少などを引き起こしてきた

 牛も家畜化された動物だが、犬同様初めから家畜化をしようと思って生まれたわけではない。それでも徐々に、メンデルの遺伝則や遺伝子の発見で特定の特徴がどのように遺伝するかを理解し、精度の高い選択交配を行うようになっていった。

 性格や寿命、乳生産量など複雑な形質は特定の遺伝子のみで決まるわけではないため、明確に定義できないが、DNAのコードが一文字だけ変化した状態(SNP)が与える影響についてはある程度予測できるようになっている。

 選択交配の精度が増すことで、望む形質を強く遺伝させることができるようにはなったが、長期的に望む形質以外にどのような変化があるかはわからず、コントロールできない。

 選択交配は不確か性だけでない問題を家畜動物に引き起こしている。ブルドックは頭が大きすぎて自然分娩できなくなっており、鶏は肉量が増えたが、あることができないほど巨大化している。選択交配によって自力では生きられない動物や、その特徴で苦痛を強いられる動物が誕生している。

 選択交配や人工授精を繰り返すと遺伝的多様性は失われ、遺伝病のリスクや不妊、感染症と戦う力の減少なども懸念点となる。

遺伝子編集は選択交配に比べ素早い改編が可能になる

 家畜化と選択交配に続く、遺伝子組み換えも人が進化過程に影響を及ぼす要因となる。生物のゲノムを再設計することで多くの効果を持つ生物の検討がなされている。

 初期には放射線によって、DNAに変異を与え有用な作物を創り出す検討も行われたが、狙った形質を高めることは予測不能であった。徐々に精度を高め、肉量の多いサーモン、ネオンカラーを放つ熱帯魚など様々な遺伝子組み換え生物が生み出されたがそれでも精度はそれほど高くなかった。

 クリスパーは細菌がウイルスにウイルスDNAを切り込んで身を守っていることから生まれた技術で、これまでの技術よりも正確かつ簡単に遺伝子の編集が可能になる。

 クリスパーによってこれまで以上の機能を持つ生物を生み出すことも可能になっている。薬剤成分を含む卵を産む鶏、クモの糸を作り出すヤギや細菌など様々。

 選択交配に比べ早く、自然では起こりえない改変が可能となり、その応用範囲は限りなく広いものになる。

クローン技術も元の生物と同じ遺伝子を持つが、完全に同じ特徴をもつわけではない

 クローン技術は細胞核を徐核された卵細胞に移植することで、元の細胞核と同じDNAを持つ生物を生み出す技術であり、羊のドリーが初めてのクローン生物として生まれて以来、実験動物の産出などに利用されている。

 ポロ等で優秀な成績を収めた個体や食肉量の多い牛から採取された細胞からクローンを作ることも行われている。

 クローンは卵細胞にあるミトコンドリアDNAを受け継ぐため、厳密に全く同じDNAではなく、細胞分裂時のコピーミスも一定ではないため、元の個体と全く同じDNAにはならない。また遺伝子の配列は変わらなくても、活性を変化させるエピジェネティクスは環境に要因も受けることもあり、DNAが同じでも違う振る舞いをする個体となることもある。

有害生物の駆除にも遺伝子編集は利用される

 人が有害生物を多少なりとも抑制できるようになってきた。その手法は始めは化学的駆除剤だったが、今では遺伝子編集が利用されている。

 家畜に悪影響を与えるラセンウジバエの根絶では放射線でDNAを改変し、精子異常を起こした個体を散布することで雌の不妊を起こし個体群を崩壊させることができた。

 放射線ではなく遺伝子編集を用いた検討も行われ、感染症を媒介する蚊を不妊にする実験も行われ大きな成果を挙げている。遺伝子ドライブとよばれるこれらの方法は他にも雄しか生まれないようにしたり、感染症の病原体に感染しないようにするなどの手法がある。

 これまでも人類はたくさんの種を絶滅させてきたが、そのほとんどは意図しない結果だった。ヒトが意図して絶滅を行うことはなかったが、多くの人命を奪ってきた昆虫であれば遺伝子ドライブも一考の価値があるのは間違いない。

人間の活動で本来隔てられていた生物圏が急速に混ぜられている

 人類の活動によって、地理的に隔てれた生物がこれほど急速に混ぜられた時代は地球の歴史上なく、近代以降の鳥類、哺乳類、爬虫類の絶滅の約60%は侵略的な外来種が原因である。罠、銃、毒など外来種の根絶は様々な場所で行われ一定の効果を上げているが遺伝子ドライブも検討されている。

 繁殖のみをできななくするため、動物福祉やコストパフォーマンスに優れる点もあるが、一度広まった遺伝子は元に戻すことはできなずその影響は未知数。

 研究者は生態系への影響以上に議論が行われる前に実行され、色眼鏡が見られ、社会的身体が失墜し停滞を余儀なくされる危険性のほうが大きいと考えている。そのため遺伝子ドライブを広めるにはそのメリット、リスクを透明性を持って公開し、大衆を含めた議論をおこない、小規模から慎重に始める必要がある。

自然以外の力が生物の進化を左右したことは過去の地球ではなかった

 現在の地層年代は地球が最終氷期を抜け出したころから続く完新世だが、人類が地球に与える影響の大きさから人新世だとされる意見もある。

 これまでの地球の変化は自然によるもので、生き物の進化も自然の力によるものだったが、現在はヒトの行動が地球全体に影響を及ぼすようになっている。

 地層の年代決定には岩石の化学組成や化石した生命など、それぞれの特徴がわかるもので行われる。ヒトは世界中に広がる過程で多くの哺乳類を食料とし、絶滅させてきたが、今なお、恐竜が絶滅して以来の大量絶滅を引き起こしている。

 一方で家畜動物の数は大きく増加し、哺乳類の60%、鳥類の70%を占めるまでになっている。鶏は数も多く人間の家畜化で骨格的な特徴や化学組成が変化しており、人新世を定義する化石になるかもしれない。

家畜生産は地球環境にも大きく負荷をかけている

 家畜の繁栄はエサを作り出すための森林伐採、農地の利用、魚の収奪といった面で自然に悪影響をおよぼしている。家畜を放牧に戻し。飼料用に栽培されている穀物を人間の食糧に転換すればあと40億人を養えるほど、家畜の効率はわるい。

 肉、卵、ミルクのための家畜生産は世界の温室効果ガス排出の14.5%を占めており、気候変動を促進してしまう面もある。

 肉を減らし、野菜を増やす、適切な管理をさえた肉を食べることで農場の動物が価値ある生活を送り、野生動物が守られ、私たちと未来の子供たちの両方が質が高く持続可能な食生活を維持できる。

人のもたらす環境変化で種分化は過去にないほど速度を増している

 異なる系統や品種、種に属する個体を交配してできた子は交雑個体とよばれ、自然界でも珍しいものではないが人の影響を大きく受けている。意図的に交雑種を生み出すこともあるが、気候変動などで生物の分布が変わり交雑を導くこともある。

 交雑自体は種に特有なDNAが失われるデメリットがあるが、交雑による有利な特質を獲得する可能性や個体群が小さくなってしまい近親交配に陥っている集団にはDNAを半分ではあるが残す手段になりうるというメリットもある。

 ヒトがもたらした環境変化で交雑による種分化が起きるのは人新世の特徴となっており、生物の進化を加速させている。

進化のスピードが増し、その影響は予期できないものになっている

 ロンドンの地下で100年程度隔離されていた蚊は、その環境の違い方もとの種とは異なる特徴を持つことが発見されている。100世代程度のであっても環境の大きな変化で遺伝的な変化が起き、種分化が起こりうる可能性を示唆している。

 環境変化が淘汰圧を生み出すことで、優位になった個体の遺伝子が次世代に受け継がれやすくなることで進化が起こる。都市は環境変化が極めて大きいため、都市化が進行し、野生動物が都市に進出すれば都市の環境が淘汰圧となり、進化を促すようになっている。

 人間の出す残飯を消化しやすくなる、車にはねられないように飛び立つ時間を早くするため羽を短くするすすの発生に合わせ体色を変えるなど、都市が進化に影響を与えた例は相次いで見つかっている。

 生物が環境に対応することは当然だが、驚くのは進化が起こるスピード。進化には長い時間がかかると見られていたが、わずか数年、数世代でも進化が起こる例は見られている。

 ヒトが環境変化に大きな力持つようになったため、種分化を加速させた結果を予測することは難しく、殺虫剤への耐性獲得した生物の出現など予期せぬことが起こる場合もある。

すでに遺伝子的多様性を失った生態系に復活には人間の介入が必要

 サンゴは海底面積の0.1%に満たないが、洋生物の25%が暮らす地球上で最も生物多様性の高い生態系の一つ。海水汚染と海水温の上昇で多くが死滅に追いやられている。

 数の減少、遺伝的多様性の低下を改善するために、人工授精技術によるサンゴの復活を行う研究や高温耐性を持つサンゴの遺伝させる選択交配、サンゴの細胞内に住み光合成を行う褐虫藻に高温耐性を持たせ、サンゴに戻す取り組みが行われている。

 すでに遺伝的多様性を失いかけたサンゴの復活には生態系の保護だけでは、対応できず人間の介入が必要。人間の介入によって温暖化に対して時間稼ぎをすることができる。

人間の手で個体数を増加させることのできる例はいくつかある

 かつてニュージーランドに数十万羽存在したカカポという鳥はヒトに捕食されたり、ヒトに持ち込まれたネズミなどに卵やヒナを食べられるなどで個体数が激減した。

 カカポは保護され、データを取り、繁殖を助ける活動をしてきた。DNAを知らべなるべく遺伝的に遠い種同士を繁殖させるなどし、徐々に個体数を回復している。

 最終的に人間の手を離れ、野生化できるかは不透明だが、人間の介入によって個体数の増加を行うことのできる可能性を示した例といえる。

キーストーン種を再導入し生態系を復活させる取り組みもある

 人の手ではなく、再野生化によって生態系を復活させる試みも始まっている。生態系に重要な働きをするキーストーン種を導入することで、キーストーン種に居心地の良い生態系を作り出し、結果的に新しい種を惹きつけ、生物多様性が高まっていく。

 生態系を大規模に回復することで自然が自力でやっていけるレベルに持っていき、徐々にヒトの介入を減らしすことで再野生化を成し遂げることができるようになれば大きな恩恵をもたらすことになり、その価値が明らかになりつつある。

積極的な介入で生命を良い方向に変える手助けができるはず

 過去30億年を通じて、地球上の生命はヒト以外の力で形成されてきた。進化はゆっくり遠き、新たな種は数千年の歳月をかけて生まれてきた。

 ヒトの誕生で大型哺乳類の絶滅がもたらされたが、それ以上に家畜化、選択交配はより多くの影響を生物に与えてきた。選択交配によって生み出された生物は自然淘汰とは違い、生存に不利になるような形質でもヒトに優位であれば広がっていく。

 150年ほど前に自然保護思想が生まれ初めて、人類は自分たちよりも他種の生物を優先した。それ以降生物多様性の喪失を食い止める手段はかつてないほどそろっている。状況次第では野生動物の遺伝子に意図的に手を加えることも認められると筆者は考えている。

 野生動物に遺伝子操作を施すアイディアに抵抗がある人は、オオカミから犬を生み出したように何万年も前から野生動物の遺伝子操作を行っていることを考えてみると良い。環境に与える影響が大きくなり地球上全ての生物に意図的でないこともあるが遺伝子操作をおこなっているともいえる。

 もちろん簡単に扱える技術ではないが、唯一の環境を守り抜くというゆるぎない意思を持って取り組めば、生命を良い方向に変えていく手助けができるはず。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました