本の概要
MMT(現代貨幣理論)は新しい経済理論であり、主流派と呼ばれる現在の経済学と考え方に大きな違いがある。
特に大きな違いは財政赤字を悪とせず、自国通貨の発行が可能な国家であれば、国債の暴落、通貨の暴落それに伴うインフレが起きることはないと主張。
日本の近年の状況は、財政赤字が数十年拡大しているにもかかわらず、円の暴落は起きていない。インフレに至っては、いまだにデフレが続いている状況で主流派では説明状況が説明できない。
日本に必要な対策は消費税などの減税や財政出動による財政赤字の容認。金利政策だけでは実経済改善するのは難しい。
この本で知りたかったこと
- MMT(現代貨幣理論)ってニュースでは聞くけどどんなものなのか
- 財政赤字は貨幣価値の低下=インフレにつながると言われるが、日本でデフレが続いている理由は?
- 従来の経済理論とMMTの違いはなにか?
はじめに
MMTはアメリカを中心に発展した比較的新しい経済理論であり、主要な経済論に基づいた常識をひっくり返し、日本経済の処方箋になる可能性がある。
貨幣について根本的に追求し、広い視野を持つことで新しい理論となっている。
序章 MMTはなぜ注目されているのか
MMTは29歳でアメリカ史上最年少女性下院議員となった、アレクサンドリアが信奉していることで話題となる。
MMTは主流の経済理論派から強く否定されている。日本でも日銀総裁、総理からも否定されている。
MMTは国の借金は怖くないと主張。特に財政赤字が大きいにもかかわらず、国債の金利が上がらない日本の例からも注目されている。
第1章 貨幣の本質
主流派では貨幣は物々交換が不便であったため交換媒体となったとする商品貨幣論を起源とするとしている。
一方MMTでは信用取引=ツケ、債務証書を支払い手段として利用した、信用貨幣論としている。信用貨幣論のように貨幣の素材的な価値と無関係に支払い手段に利用されていることを表券主義と呼ぶ。
一般的に信用貨幣論のほうが実際の物事をうまく説明可能。
表券主義で人々が国定貨幣を決算手段として利用するのは、国家自らが国民からの支払い=税金を受け取ることを約束するため。つまり税が貨幣を動かすと考える。
2章 預金のメカニズム
預金ついての考え方も主流派とMMTでは異なっている。
- Aが自身の10万円を銀行Xに預ける
- Xは預金引き出しに備え、1万円を手元に残し、残り9万円をBに貸し出す。
- Bが店Cでモノを9万円で購入する。Cは9万円を銀行Yに預ける
- Yも手元に9000円を残し、残り84000円を貸し出しに回す。
このような手順の場合、
- 主流派:銀行の貸出がマネーストックを生み出す(=貨幣創造)。
- 民間銀行に通貨が供給されると貸し出しが行われ、貨幣が生まれるとする。
- MMT:Bが引き出した際に債務証書=預金を創造。
- Aの預金があるから、Bに貸し出すわけではない。
銀行関係者も、後者の理論を支持している。銀行=仲介者ではなく、創造者として認識している。
3章 主権通貨国における政府の機能
自国通貨建ての主権通貨であれば、支払い能力に限界はない。負債を納税で受け取ることで回収できるため。
過剰な支出はインフレを招くため、税金を課し、通貨に対する需要を増やすことでインフレをコントロールする。
税が通貨を動かす以上、政府の支出に財源として税が必要なのではない。政府が先に支出しなければ、家計が通貨を持つことは出来ない。
中央政府は赤字支出時に外部からの資金調達をするわけではない。そのため財政赤字であっても国債の発行が困難になることはない。
誰かの黒字=誰かの赤字であり、全員が黒字となることはない。国内では民間よりも政府が、国際的には支出能力をもつ基軸通貨発行国が赤字を果たすほうが、持続性が高い。
2部 MMTの政策論
4章 MMTの租税政策論
MMTは租税の目的について、通貨の需要を創出する以外に
- 通貨の購買力の安定化(インフレの抑制)
- 再分配
- 悪い行動の抑制(たばこ、環境税)
- 公的プログラムのコストの受益者への振り分け
としている。
また、悪い税として
- 社会保険:雇用を抑制する。人→ロボットの切り替え加速
- 消費税:購買力を下げる。逆進性が高い
- 法人税:低賃金化、製品の高価格化を招く
を上げている。
5章 機能的財政論
国家にとって貨幣制度は実物資源を政府部門に動員し、公共目的を達成すること。
MMTでは公共目的を完全雇用と物価安定を提唱している。
完全雇用を目指すことで産業上の利益拡大と社会安定を成し遂げる。
従来の経済理論では市場メカニズムに任せることで、最適化していくとされているが、実際には取引コストが0でないため、政府の介入なしに最適化はされない。
金利が低すぎるとインフレを誘発すると考えた際には、国債を売却し、金利を上げ 過剰な投資を抑えることでインフレを抑制する。
6章 就業プログラム
政府が直接雇用を提供する仕組みが就業プログラム。その意義は
- 事実上の最低賃金となり、民間の労働条件を改善する。(いつでも就職出来れば労働条件の改善が進む。
- プログラムによる賃金の支払いは、不況時に増え、拡大時に減るため経済の安定化が可能(好況時は民間への就職が増える)
- 労働者からの過度の賃金要求があっても新たな労働者を派遣できるため、賃金の高止まりを防ぐ=インフレを防ぎ、物価の安定化。
実際には必要な仕事と就業希望者のニーズが合わない可能性はある。
セーフティーネットは所得と就業機会の両方を保証すべきとしているため、ベーシックインカムには反対の立場
最低賃金の引き上げも雇用意欲低下につなげるため、否定的
第3部 MMTから見た日本経済
7章 日本は財政危機なのか
財政赤字や債務増加が金利上昇、財政破たんにつながらないことは日本が実証している。
1999年以降政府の純債務は上昇しているが、金利の上昇もインフレも起きていない。=自国建てで国債借り入れしていればこれらは起こりえない。
8章 日本経済にはなにが必要なのか
MMTの主張では緊縮財政をやめ、支出拡大、減税を行うべきとしている。
企業は将来の需要を見込み投資を行うことで、経済を主導すべき。本来企業全体の収支は赤字で推移することが正常。日本では投資意欲の低下で黒字化してしまっている。
デフレは需要減少のため、企業は生産能力とコストを下げる必要がある。⇒人員削減⇒購買力低下⇒さらなるデフレ
企業は将来の需要を見込んで投資を行うため、金利の上下が投資に与える影響は小さい=金融政策での民間投資の喚起は難しい
日本では財政支出の減少がGDPの停滞を招いている。国際的には財政支出の伸び=経済成長率となっている。
消費増税も総需要の抑制とデフレの大きな原因となっている。
完全雇用と物価安定の観点から、家計や企業の負担を増やすか減らすかを決定するだけ
9章 民主主義はインフレを制御できるのか
MMTへの批判の一つにハイパーインフレが起こり、増税や歳出削減では対応できないとするものがある。
しかし歴史上ハイパーインフレは戦争、食料生産の崩壊によるもので、自国建ての通貨発行権を持つ国で起きた例はなく、起こりえない。
おわりに MMTをどのように生かすべきか
MMTはトンデモ理論ではなく、現実を非常にうまく説明できる。
とくに日本の近年の状況(金融政策を積極的に行っても増税、緊縮財政のためデフレが脱却できていない。その点からもMMTの助言特に積極財政、減税などに踏み込むべきでは。
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