JFEスチールの電磁鋼板の製造能力増強 電磁鋼板とは何か?なぜ需要が増加しているのか?

この記事で分かること

  • 電磁鋼板とは:発電機、変圧器、モーターなどに使われる特殊な鉄鋼材料です。電気を効率よく利用するため、エネルギー損失を減らし、磁気を強く通すように作られています。
  • 需要増加の理由:モーターの高性能化・高効率化に不可欠な素材であり、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の普及が主な背景です。
  • 電気抵抗が高いと、エネルギー損失が減少する理由:電気抵抗が高いと、この渦電流が流れにくくなるため、発生する熱(損失)を抑制できるからです。

JFEスチールの電磁鋼板の製造能力増強

 JFEスチールは、インドのJSWスチールとの合弁事業を通じて、電磁鋼板の製造能力増強を進めています。

 https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=1&ng=DGXZQOUC0468R0U5A800C2000000&scode=5401&ba=1

 同社は、インドにおける電磁鋼板の一貫生産体制を構築し、成長するインド市場の需要を取り込んでいく方針です。

電磁鋼板とは何か

 電磁鋼板(でんじこうはん)とは、鉄が持つ磁石につく性質(磁性)を最大限に活かした特殊な鋼板です。発電機、変圧器、モーターなどの電気機器の「鉄心」として欠かせない素材であり、電気エネルギーと磁気エネルギーを効率よく変換するために用いられます。

電磁鋼板の主な特徴

 電磁鋼板には、主に以下の2つの磁気特性が求められます。

  1. 鉄損(てっそん)が小さい
    • 電気エネルギーから磁気エネルギーに変換される際に発生するエネルギー損失を「鉄損」と呼びます。
    • 電磁鋼板は、この鉄損を極力小さくするように作られています。これにより、電気機器のエネルギー効率が向上し、省エネルギー化に貢献します。
  2. 磁束密度(じそくみつど)が高い
    • 磁束密度とは、磁気の通しやすさを表す指標です。
    • 磁束密度が高いほど、小さな電流で強い磁力を生み出すことができ、電気機器のハイパワー化や小型化につながります。

電磁鋼板の種類と用途

 電磁鋼板は、その特性によって主に以下の2種類に分けられ、用途に応じて使い分けられています。

  • 方向性電磁鋼板
    • 特定の方向(圧延方向)にのみ、非常に優れた磁気特性を持つ鋼板です。
    • この特性を活かし、主に**変圧器(トランス)**に使用されます。変圧器は、電圧を変換するために、一定の方向に磁気を流す仕組みのため、方向性電磁鋼板が適しています。
  • 無方向性電磁鋼板
    • どの方向にも均一に優れた磁気特性を持つ鋼板です。
    • 主にモーターや発電機に使用されます。これらの機器は、回転によって磁気の向きが常に変化するため、どの方向にも均等に磁気が通る無方向性電磁鋼板が適しています。

電磁鋼板は、発電機、変圧器、モーターなどに使われる特殊な鉄鋼材料です。電気を効率よく利用するため、エネルギー損失を減らし、磁気を強く通すように作られています。これにより、電気機器の省エネ化や小型化に貢献しています。

電磁鋼板はどんな化合物なのか

 電磁鋼板は、鉄(Fe)を主成分とする合金であり、特定の化合物を指すわけではありません。しかし、その優れた磁気特性は、鉄に特定の元素を添加することで生み出されます。

主要な合金元素は以下の通りです。

  • ケイ素(シリコン:Si): 最も重要な合金元素です。鉄にケイ素を添加すると、電気抵抗が高まり、エネルギー損失である「鉄損」が減少します。また、磁気の通りやすさも向上します。一般的な組成はFe-Si系で、約3%のケイ素を含有するものが多く使用されます。
  • アルミニウム(Al): ケイ素と同様に電気抵抗を高め、鉄損を低減する効果があります。また、加工性を改善する役割も担います。
  • マンガン(Mn): 鋼板の強度や硬度を向上させるために添加されます。

 これらの合金元素の組み合わせや添加量を精密に調整することで、用途に応じた電磁鋼板の特性を作り出しています。

 また、電磁鋼板の表面には、電気的な絶縁性を確保するために、酸化マグネシウムなどを主成分とする薄い絶縁被膜が施されることも大きな特徴です。これは、鋼板同士が接触して電流が流れるのを防ぎ、鉄損の増加を抑制するために不可欠なものです。

電磁鋼板は、鉄を主成分とし、ケイ素(Si)などを少量加えた合金です。ケイ素を添加することで、電気抵抗を高めてエネルギー損失を抑え、磁気特性を向上させています。特定の化合物ではなく、精密な組成の合金です。

電磁鋼板の需要増加の背景はなにか

 電磁鋼板の需要が増加している背景には、主に以下の3つの要因があります。

1. 自動車の電動化(EV、HVの普及)

 電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の普及が最も大きな要因です。これらの自動車は、動力源として高性能なモーターを搭載しており、そのモーターの効率を左右するのが電磁鋼板です。

  • 省エネルギー化: バッテリーの航続距離を延ばすため、モーターのエネルギー効率を高めることが不可欠です。電磁鋼板は鉄損を抑えることで、電力の無駄を最小限に抑え、エネルギー効率の向上に貢献します。
  • ハイパワー化・小型軽量化: 高い磁束密度を持つ電磁鋼板は、モーターの小型化・軽量化と高出力を両立させることができます。これにより、限られたスペースに高効率のモーターを搭載することが可能になります。
  • 高機能な製品へのシフト: EVの高性能化に伴い、より低鉄損で高い磁束密度を持つ「高級無方向性電磁鋼板」の需要が特に高まっています。

2. 電力インフラの増強

 世界的な脱炭素化の流れの中で、再生可能エネルギー(太陽光、風力など)の導入が加速しています。

  • 変圧器の需要増: 発電された電力を送電・配電するためには、変圧器が不可欠です。方向性電磁鋼板は、この変圧器の鉄心として使用されるため、電力インフラの増強に伴い需要が拡大しています。
  • 高効率化規制: 各国の政府が、電力機器の高効率化に関する規制を強化しており、より高性能な電磁鋼板の使用が求められています。これにより、低損失の高級電磁鋼板へのシフトが進んでいます。

3. 世界的な省エネルギー意識の高まり

 環境負荷低減への意識が高まる中で、あらゆる電気機器の省エネルギー化が求められています。

  • 家電製品: エアコンや冷蔵庫、洗濯機などの家電製品にもモーターが使用されており、電磁鋼板の性能向上が製品全体の省エネ性能を左右します。
  • 産業機器: 工場などで使用される産業用ロボットや機械のモーターにも、高効率化と小型化のニーズから電磁鋼板が広く採用されています。

これらの要因が複合的に作用し、電磁鋼板の市場は今後も継続的な成長が見込まれています。

電磁鋼板の需要増加は、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の普及が主な背景です。モーターの高性能化・高効率化に不可欠な素材であり、電力インフラの増強や家電の省エネ化といった世界的な脱炭素化の流れも追い風となっています。

なぜ電気抵抗が高くなるとエネルギー損失が減少するのか

 電磁鋼板において、電気抵抗が高くなるとエネルギー損失が減る理由は、「渦電流損」を抑制できるからです。

鉄損の種類

 電磁鋼板で発生するエネルギー損失(鉄損)には、主に以下の2つがあります。

  1. ヒステリシス損: 磁気の向きが変化する際に、磁石の性質を持つ小さな領域(磁区)が向きを変えるときの摩擦によって生じる損失です。
  2. 渦電流損: 磁束が変化する際に、電磁誘導によって鉄心内部に発生する渦状の電流(渦電流)によって生じる損失です。この渦電流が抵抗のある鉄心内部を流れると、熱が発生します。この熱がエネルギー損失となります。

電気抵抗と渦電流損の関係

 電磁鋼板の主なエネルギー損失である渦電流損は、以下の式で表されます。

Pe​=K⋅(Bm​⋅f⋅t)2/ρ

 ここで、

  • Pe​:渦電流損
  • K:定数
  • Bm​:最大磁束密度
  • f:周波数
  • t:板厚
  • ρ:電気抵抗率(物質の電気抵抗の大きさ)

この式からわかるように、電気抵抗率 ρ が大きくなると、渦電流損 Pe​ は減少します。

 渦電流は、電磁鋼板を交流磁界で磁化する際に、鉄心内部に流れる「無駄な電流」です。この電流は、鉄心自体の電気抵抗によって熱エネルギーに変換されます(ジュール熱)。

 電磁鋼板にケイ素(Si)を添加して電気抵抗を高くすると、この渦電流が流れにくくなり、結果として発生するジュール熱(エネルギー損失)を大幅に減らすことができます。

 つまり、電気抵抗が高い方が、渦電流という「抵抗のあるところに流れて熱になってしまう無駄な電流」を抑えることができ、エネルギー損失を減らせるのです。

電磁鋼板では、磁気の変化で生じる「渦電流」が熱となりエネルギー損失を起こします。電気抵抗が高いと、この渦電流が流れにくくなるため、発生する熱(損失)を抑制できるからです。

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