この本や記事で分かること
・半導体の製造における露光工程とは何か:半導体状の微細な回路を形成技術の一つ
・露光工程に求められるもの:微細化、高い精度、適切なコスト
・露光機メーカーの現状:最先端半導体に必要なEUV露光装置においては、ASMLが圧倒的
ニコンの半導体向け露光機の状況
ニコンが2028年に向け、新しい半導体向け露光機の市場導入を目指すことがニュースになっています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/84ec47d969155b7dc5f1e5ff1cc5698d069bab08
半導体露光装置市場において、オランダのASML社が圧倒的なシェアを占めています。特に、最先端のEUV(極端紫外線)露光装置においては、ASMLが唯一の供給元であり、市場シェアの100%を占めています。
このような状況で、ニコンは、スペース効率や生産性といった性能面での改善だけでなく、ASMLの装置を使う顧客が持つフォトマスクを利用できるなど、互換性を追求し、置き換えを狙っています。
半導体の製造における露光現像工程とは何か
半導体の露光現像工程は、フォトリソグラフィ(光リソグラフィ)の一部であり、微細な回路パターンをシリコンウェハー上に形成するための重要なプロセスです。以下のステップで構成されます。
① レジスト塗布(Spin Coating)
ウェハー上にフォトレジスト(感光性樹脂)を均一に塗布します。
レジストの種類には以下の2つがあります。
- ポジ型レジスト:露光部分が溶解しやすくなる。
- ネガ型レジスト:露光部分が硬化して残る。
② ソフトベーク(Soft Bake)
塗布後、レジストの溶媒を蒸発させるために加熱(80~120℃程度)します。
これにより、レジストの密着性が向上し、露光時のパターン精度が向上します。
③ 露光(Exposure)
露光機を用いて、マスク(フォトマスク)に描かれた回路パターンをレジスト上に転写します。
露光方式には以下の種類があります。
- EUV(極端紫外線露光)(波長13.5nm、最先端)
- ArFエキシマレーザー(193nm)(液浸露光など)
- KrFエキシマレーザー(248nm)
- i線(365nm)(成熟技術、比較的大きなパターン向け
④ PEB(Post-Exposure Bake)
露光後にウェハーを加熱し、化学反応を進めてコントラストを強調します。
特にArF液浸やEUVでは、レジストの感度や解像度を向上させるために重要です。
⑤ 現像(Development)
現像液(アルカリ性の水溶液など)を用いて、露光後の不要な部分のレジストを除去します。
- ポジ型レジスト:露光された部分が除去される。
- ネガ型レジスト:露光されなかった部分が除去される。
⑥ ハードベーク(Hard Bake)
現像後のレジストパターンを安定化させるため、高温で加熱処理を行います(約120~200℃)。
耐熱性を向上させ、エッチング工程に備えます。
この後、エッチング工程で不要な部分の基板を削り、回路を形成していきます。
露光技術の進化により、微細加工の限界を突破する技術(EUVやナノインプリント)が開発されています。

半導体の露光現像工程は、フォトリソグラフィ(光リソグラフィ)の一部であり、微細な回路パターンをシリコンウェハー上に形成するための重要なプロセスです。
微細化を進めるために重要なことは何か
半導体の製造において、微細な回路を形成することは性能の向上のために欠かすことができないため、微細な回路を形成するリソグラフィの解像限界の向上に大きな注目が集まっています。リソグラフィの解像限界はアッベの式を用いて次のように表されます。
解像限界解像限界=(k1⋅λ)/NA
- λ(波長):短いほど小さいパターンを形成できる
- NA(開口数):大きいほど解像度が向上
- k1kプロセス係数):技術改良により低減可能
波長を短くすることで分解能が向上し、より微細なパターンを形成できます。そのため、波長の短い露光方式を使用するほど、微細な配線を形成することが可能です。

波長の短縮、開口数の増加が微細化のために重要です。
EUV(Extreme Ultraviolet:(極端紫外線露光)はどのような技術か
EUV露光技術は、半導体の微細化において非常に重要な技術です。特に5nm以下のプロセスノードでの製造に使用されています。
1. 波長が極めて短い
- 波長:13.5nm
EUV露光は、従来のArFエキシマレーザー(193nm)よりもはるかに短い13.5nmの波長を使用します。これにより、非常に微細なパターンを露光することが可能になります。短い波長は、解像度の向上に直接つながり、次世代の半導体プロセスに対応できます。
2. 反射型光学系
- 反射型レンズを使用
EUV露光技術は、光の波長が非常に短いため、透過型レンズではなく反射型光学系を使用します。これは、光が透過するには波長が短すぎるため、金属ミラーを使って反射させる方式です。これにより、光学系の精度が要求され、鏡面の品質や制御が非常に重要になります。
3. 高いコストと複雑さ
- 高コストの設備
EUV露光装置は非常に高価で複雑な設備であり、商業化されているEUV装置の価格は数十億円に達します。これには、高精度な光学系や高出力のレーザー、真空環境を維持するための設備などが含まれます。 - レーザーによるEUV発生
EUV光源は、高強度のレーザーを使ってプラズマを生成し、そのプラズマからEUV光を発生させます。このプロセスは非常に技術的に難しく、特に高出力のEUV光を安定して生成する技術が求められます。
4. 高い解像度と微細化
- 微細化の限界突破
EUV露光技術の最大の強みは、次世代の半導体製造における微細化を可能にする点です。EUVは10nm以下のプロセスノードで使用され、より高密度な回路を形成できます。これにより、集積回路(IC)をさらに小型化し、高性能化することが可能となります。
5. 高NA(Numerical Aperture)技術
- NAの向上
EUV露光技術では、NAを向上させる技術も進化しており、より高精度な微細化が実現されています。NA(開口数)を高めることで、より小さい回路パターンを形成できます。 - EUVのNAは0.33~0.5程度で、これはArF露光(NA ≈ 0.93)と比べて低いですが、波長の短さと相まって、十分な解像度を提供します。
6. 光源の制限
高強度のEUV光源が必要
EUV露光においては、高強度で安定したEUV光源が必要です。EUV光源の発生は非常に高エネルギーを要し、これを安定的に供給する技術は非常に難しいです。通常、二重レーザー照射方式やスキャニング技術を用いて光源を生成します。

EUV露光技術は、半導体の微細化において非常に重要な技術であり、最先端半導体に欠かすことができません。
開口数とは何か
露光技術においては、「波長が短いほど微細化できる」という面がありますが、それだけでは、今後の微細化NAやプロセス技術の改良がセットで必要です。
開口数(NA) とは、レンズや光学系が光をどれだけ集められるかを示す指標 です。リソグラフィでは、解像度や露光性能を決める重要なパラメータになります。
1.開口数(NA)の式
開口数は、以下の式で定義されます。NA=n⋅sin(θ)NA = n \cdot \sin(\theta)NA=n⋅sin(θ)
- nnn :媒質(空気や水など)の屈折率
- θ\thetaθ :レンズが光を集める最大角度(入射角)
2.NAが大きいと何が変わるのか?
解像度が向上する(より細かいパターンが描ける)
光の集光能力が高まる(光量が増えて露光時間が短くなる)
3.NAを大きくする方法
- 集光角(θ)を広げる
- より広い角度から光を取り込むことでNAを高める
- 媒質の屈折率(n)を上げる
- 液浸技術を使うと、空気よりも高い屈折率の媒質(例:水, 高屈折率液体)を利用できる

波長を短くするだけでなく、NAを大きくすることも微細化には重要となります。
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