半導体後工程の2.5次元実装 2.5次元実装とは何か?なぜ3次元実装よりも製造難易度が低いのか?

この記事で分かること

  • 2.5次元実装とは;複数のチップレットをインターポーザと呼ばれる中間基板上に水平に並列配置し、高密度配線で接続して高性能なひとつのパッケージに統合する技術です。
  • インターポーザーとは:複数の半導体チップ(チップレット)を接続するための中間基板です。これを用いることで、チップ間の配線距離を短縮し、高密度な接続と高速データ伝送を可能にします。
  • 3次元実装よりも製造難易度が低い理由:チップを横に並べるため、垂直積層(3D)に必須の極薄化や高アスペクト比のTSV加工が不要となり、熱管理も容易になるからです。

半導体後工程の2.5次元実装

 チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。

 複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。

 前回はチップの3次元実装の一種であるTSVの問題点に関する記事でしたが、今回は2.5次元実装に関する記事となります。

2.5次元実装とは何か

 半導体後工程における2.5次元実装とは複数の半導体チップ(ダイ)を中間基板(インターポーザ)の上に横に並べて配置し、微細な配線で相互に接続する技術です。

 この技術は、従来の2次元実装(チップを基板上に1つだけ配置、または横に間隔を空けて配置)と、チップを直接縦に積み重ねる3次元実装の中間に位置づけられます。


2.5次元実装の概要

2 .5次元実装の主な特徴は以下の通りです。

項目説明
構造インターポーザと呼ばれる微細な配線が形成された中間基板を使用し、その上に複数の半導体チップ(CPU、メモリなど)を並列に実装します。
接続チップ間の信号は、インターポーザ上の微細な配線TSV(Through Silicon Via、シリコン貫通ビア)を介して高速にやり取りされます。
メリット高速なデータ転送が可能で、異なる種類のチップを柔軟に組み合わせられる(チップレット化)ため、製造の柔軟性が増します。また、3次元実装に比べて構造がシンプルで製造難易度が低いとされます。
用途主にHPC(高性能コンピューティング)AIプロセッササーバーなど、高性能が求められる分野で採用が拡大しています。

2.5次元実装と3次元実装の違い

 2.5次元実装と3次元実装は、どちらもチップを立体的に統合する技術ですが、チップの配置方法に大きな違いがあります。

実装技術チップの配置方法特徴
2.5次元実装インターポーザの上に横に並べる製造難易度が比較的低く、高速通信が可能。
3次元実装チップを直接縦に積み重ねる(積層)より高密度な集積が可能だが、製造が複雑で放熱などの課題もある。

2.5D実装とは、複数のチップレットインターポーザと呼ばれる中間基板上に水平に並列配置し、高密度配線で接続して高性能なひとつのパッケージに統合する技術です。

インターポーザとは何か

 インターポーザ(Interposer)とは、複数の半導体チップ(ダイ)や電子部品を、より高密度かつ高速に接続するために使われる「中間基板」のことです。

 チップレットや2.5次元実装といった先進的な後工程技術において、チップ間の電気信号の中継役となる非常に重要な部品です。


インターポーザの主な役割

 インターポーザは、複数の機能を持つチップを統合し、一つの高性能なパッケージとして機能させるために以下の重要な役割を果たします。

  1. 高密度配線による高速信号伝達(中継)
    • 半導体チップの微細な端子(マイクロバンプなど)と、パッケージのメイン基板の粗い配線との「ピッチ変換(中継)」を行います。
    • チップレット同士を超近接で接続し、配線距離を極限まで短縮することで、信号遅延や電気損失を最小限に抑え、広帯域な高速データ転送を可能にします。
  2. 立体的な接続の実現
    • 基板の表面と裏面(あるいは上下のチップ)を貫通する貫通電極(Through-Via)を持ちます。
    • シリコンを使う場合はTSV(Through-Silicon Via:シリコン貫通ビア)、ガラスを使う場合はTGV(Through-Glass Via:ガラス貫通電極)と呼ばれ、これによりチップを縦方向にも効率的に接続できます。
  3. 熱管理(放熱)
    • 特にシリコンインターポーザは熱伝導性が高いため、動作時に発生するチップの熱を効率的に分散・放熱し、デバイスの安定動作と長寿命化に貢献します。

2.5次元実装における位置づけ

2.5次元実装では、インターポーザはプラットフォームとして機能します。

  • 配置方法: CPUやGPUなどのロジックチップと、HBM(高帯域メモリ)などのメモリチップを、インターポーザの上に横に並べて配置します。
  • 機能: インターポーザ上の微細な配線が、これらのチップ間の膨大な数のデータ通信経路を担い、あたかも一つのチップのように協調して動作することを可能にします。

インターポーザの主な種類

 インターポーザは、求められる性能やコストに応じて、主に以下の材料で製造されます。

種類主な材料特徴主な用途
シリコンインターポーザシリコン(Si)最も高密度な配線が可能で、放熱性、電気特性に優れる。(製造コスト高)AIアクセラレータ、HPC、高性能GPU
ガラスインターポーザガラス大面積化が容易で、低コスト化・高周波特性に優れる。次世代パッケージング技術
有機インターポーザ有機樹脂(RDLインターポーザ)製造コストが比較的低い。柔軟性や大面積製造が可能。スマートフォン、モバイルデバイス

インターポーザとは、複数の半導体チップ(チップレット)を接続するための中間基板です。これを用いることで、チップ間の配線距離を短縮し、高密度な接続高速データ伝送を可能にします。

なぜ高速通信ができるのか

 2.5次元実装で高速通信が可能になる理由は、主に以下のように「接続距離の劇的な短縮」「通信チャネル数の大幅な増加」の二点に集約されます。

 これは、従来のパッケージ基板(FC-BGAなど)に比べて、インターポーザが桁違いに微細な配線構造を持つことによって実現されます。

1. 信号の伝送距離を極限まで短縮

 インターポーザ上にチップを近接して配置することで、チップ間を接続する配線距離を、従来のパッケージやプリント基板の配線と比べて圧倒的に短くできます。

  • 遅延の最小化: 信号が伝わる距離が短いほど、電気信号の到達時間(遅延)が短縮されます。これにより、動作周波数を上げやすくなり、高速化が実現します。
  • 電気的損失の低減: 配線が短くなることで、信号の減衰(ロス)が減り、電源ノイズなどの影響も抑えられます。これにより、信号の品質(シグナルインテグリティ)が向上し、高速で安定したデータ伝送が可能になります。

2. I/O(入出力)密度と帯域幅の劇的な向上

 2.5次元実装は、インターポーザ上の微細配線と、チップ間のマイクロバンプ接続によって、従来のパッケージングでは実現不可能な数の接続端子(I/O)を確保します。

  • 接続チャネルの増加: インターポーザ上の配線は、通常のパッケージ基板よりも遥かに微細(例:シリコンインターポーザではオーダー)であるため、同じ面積に数千本から数万本という膨大な数のI/Oを配置できます。
  • 帯域幅の拡大: データ転送速度は、主に「1度に送れるデータの幅(チャネル数)」と「データの速さ(周波数)」で決まります。2.5次元実装では、特にチャネル数を飛躍的に増やすことで、トータルのデータ転送能力である帯域幅(バンド幅)を大幅に拡大します。

3. 高性能なインターポーザ材料の使用

 特に高性能用途で使われるシリコンインターポーザは、シリコンウェーハと同じ微細加工技術で作られるため、高周波信号の伝送に適した優れた電気特性を持ちます。また、低誘電率の有機材料を採用することでも、信号損失を低減し、高速伝送を支えています。

2.5次元実装で高速通信が可能なのは、インターポーザ上にチップを近接配置することで、信号の伝送距離を極端に短縮し、配線密度が高いため大容量の通信チャネルを確保できるからです。

2.5次元実装はなぜ難易度が低いのか

 2.5次元実装の製造難易度が、より集積度の高い3次元実装に比べて低いとされる主な理由は、以下のようにその構造のシンプルさと、高度な積層接続の工程を回避できる点にあります。

 特に、チップを「縦に直接積み重ねる」ことによる技術的な課題を大幅に軽減できることが、難易度を下げています。


1. 接続の方向が主に「水平」であるため

 2.5次元実装は、複数のチップをインターポーザ上に横に並列に配置し、インターポーザの微細配線を通じて接続します。

  • これは、チップを直接積み重ねる3次元実装のような垂直方向の高密度接続(ダイ・オン・ダイ)を必要としません。
  • 3次元実装で必須となる、チップを極限まで薄くし、その上に次のチップを高い精度で貼り付ける「ダイ接合」の難しさや、積層時の位置合わせの課題が緩和されます。

2. TSV(貫通電極)の要求仕様が緩和される

 2.5次元実装で使うTSV(インターポーザの表裏をつなぐ貫通電極)は、主にインターポーザとパッケージ基板の接続に使われます。

  • チップを直接何層も積み重ねる3次元実装では、チップ内のTSVは非常にアスペクト比(深さ/直径の比)が高く、かつ多数必要になり、製造(穴あけ、絶縁膜形成、金属埋め込み)の難易度が極めて高くなります。
  • 2.5次元実装の場合、TSVはインターポーザ内の使用に留まるため、3次元実装の「チップ内の垂直接続」ほど極端な微細化や高アスペクト比の難しさが伴いません。

3. 熱管理と電源供給が比較的容易

 複数のチップを縦に積層する3次元実装では、中央に位置するチップの熱が逃げにくく、熱暴走のリスクが高まります。また、電源供給も複雑になります。

  • 2.5次元実装はチップを横に配置するため、各チップがパッケージ表面に近い位置にあり、効率的な放熱が可能です。
  • 熱的な課題が緩和されることは、設計や製造における複雑な熱対策の必要性を減らし、結果的に難易度を下げます。

 これらの理由から、2.5次元実装は、3次元実装に匹敵する高速・広帯域な性能を達成しつつ、製造技術の複雑さや歩留まりの課題を低く抑えることができる、「現実的な高性能化の手段」として広く採用されています。

2.5次元実装の難易度が低いのは、チップを横に並べるため、垂直積層(3D)に必須の極薄化や高アスペクト比のTSV加工が不要となり、熱管理も容易になるからです。

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