この記事で分かること
- 買収の理由:主に高度な技術やニッチな製品を海外企業が迅速に獲得し、グローバルな販売力や資金力と組み合わせて競争力を強化するためです。
- 芝浦電子とは:サーミスタ(温度センサー)を中核とする電子部品の専業メーカーです。家電、自動車、産業機器向けに高信頼性のセンサーを開発・製造し、このニッチ分野で高い技術力と実績を持ちます。
- 買収されやすい企業:自動車や通信向けの高度なセンサーや部品といったニッチな優良技術を持つ中堅・中小企業です。これらは後継者不足やグローバル資金力不足の課題を抱えていることが多いです。
日本の電子部品企業の海外企業による買収
日本の電子部品企業の海外企業による買収は、技術力や製品の獲得、海外販路の拡大などを目的として活発に行われています。

近年は、ヤゲオ(台湾)による芝浦電子の買収のように、台湾企業による日本の電子部品メーカーへの関心が高まっている傾向が見られます。
なぜ買収されるのか
日本の電子部品企業が海外企業に買収される主な理由は、売り手側(日本企業)の事業上の課題解決や成長戦略と、買い手側(海外企業)の戦略的な目的が合致するからです。
売り手(日本企業)側の主な理由
買収される日本企業側は、主に以下の目的を達成するために、海外企業への事業売却や資本提携を選びます。
1. グローバルな販路・顧客基盤の獲得
自社製品の技術力は高くても、海外市場での販売網や営業力が不足している場合、グローバル展開に強い海外企業と組むことで、製品を世界に広げることができます。
2. 資金・経営リソースの確保
- 巨額の設備投資が必要な半導体や電子部品の製造ラインを維持・拡大するための資金を、海外の体力のある企業やファンドから調達します。
- 特に大企業の場合、収益性の低い事業を切り離し、その資金を主力の事業に集中させる「事業再編」の一環として売却することがあります。
3. 事業承継・後継者問題の解決
中小・中堅の電子部品メーカーでは、後継者が見つからないケースが増えており、海外企業への売却が事業と従業員の雇用を維持するための最善の策となることがあります。
買い手(海外企業)側の主な理由
海外企業が日本の電子部品企業を買収する最大の動機は、日本企業が持つ「特定の強み」を手に入れ、自社のグローバルな競争力を高めることです。
1. 特定技術・ノウハウの獲得
日本の電子部品メーカーは、センサー、精密加工、高付加価値な素材など、特定のニッチ分野で世界トップクラスの「チョークポイント技術」を持っています。これを買収により迅速に取り込み、自社製品の高性能化や新製品開発に活かします。
2. サプライチェーンの強化と垂直統合
- 特定の重要部品の安定供給を確保するため、その部品を製造する日本企業を買収することで、サプライチェーンの安定化を図ります。
- 技術を取り込むことで、製品のモジュール化(複数の部品を組み合わせた高機能部品)を推進し、顧客(自動車メーカーやスマホメーカーなど)への提案力を強化します。
3. アジア市場などへの展開加速
アジア圏の企業(特に台湾企業など)は、日本の企業が持つ高品質なブランドイメージや技術を獲得することで、欧米市場や高付加価値市場への参入を容易にしようとします。
逆に、日本企業が持つ顧客(日本の大手メーカーなど)との取引関係をそのまま引き継ぐことも目的の一つです。
日本企業の「特定の高度な技術」を、海外企業の「資金力・グローバルな販路・効率的な経営ノウハウ」と組み合わせることで、相乗効果(シナジー)を生み出し、競争の激しいグローバル市場で生き残ろうとする戦略的な動きです。

日本の電子部品企業が買収されるのは、主に高度な技術やニッチな製品を海外企業が迅速に獲得し、グローバルな販売力や資金力と組み合わせて競争力を強化するためです。売り手側は後継者問題や巨額投資の必要性を解決できます。
芝浦電子はどんな企業か
株式会社芝浦電子は、サーミスタ(温度センサー)の専業メーカーであり、この分野で高い技術力と実績を持つ企業です。東証スタンダード市場に上場しています。
1. 主な事業内容
芝浦電子グループは、サーミスタ技術を中核とした以下の製品の開発、製造、販売を一貫して手掛けています。
- サーミスタ素子(NTCサーミスタ): 温度変化に応じて電気抵抗値が敏感に変化する半導体(電子部品)。
- 各種センサー: サーミスタを応用した温度センサー、湿度センサー、風速センサーなど。
- 計測制御機器: 温度計、温度調節器など。
特に、ガラス封止型のサーミスタに強みを持ち、高い信頼性と安定性、長寿命を実現しています。
2. 製品の用途
同社のサーミスタ製品は、非常に幅広い分野で「温度検知・制御」の役割を担い、人々の生活や産業を支えています。
分野 | 主な用途の例 |
自動車 | エンジン水温・油温検知、バッテリー(EV・HEV)の温度管理、エアコン制御など |
家電 | エアコン、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、給湯器、温水洗浄トイレなどの温度制御・加熱調理検知 |
産業機器 | 医療機器(血液分析装置など)、OA機器(コピー機・複合機)、産業用ロボットなど |
環境・エネルギー | 風力発電、エコ給湯システムなどでの温度計測・制御 |
3. 企業としての特徴
- サーミスタ専業メーカーとしての長い歴史とノウハウ。
- 開発から量産までを自社で一貫して行う体制。
- 特定の製品分野(例:NTCサーミスタ)で世界トップクラスのシェアを維持しているとされます。
4. 海外企業による買収の経緯
近年、台湾の電子部品大手であるヤゲオ(Yageo)から株式公開買付け(TOB)の提案を受け、買収の是非を巡る動向が注目されました。
これは、ヤゲオが芝浦電子の持つ高度な温度センサー技術(特にサーミスタ)を獲得し、自社のグローバルなセンサー事業を強化する戦略によるものです。日本のミネベアミツミが対抗TOBを実施し、一時的に買収合戦となりましたが、最終的にヤゲオが買収を成立させる見通しとなっています。

芝浦電子は、サーミスタ(温度センサー)を中核とする電子部品の専業メーカーです。家電、自動車、産業機器向けに高信頼性のセンサーを開発・製造し、このニッチ分野で高い技術力と実績を持ちます。
他に買収が噂される電子部品企業はあるのか
現在のところ、芝浦電子のように具体的なTOB(株式公開買付け)が進行中、または直近で報道された大型の日本の電子部品企業は他にありませんが、M&A市場の動向から、今後も買収の標的になりやすい、あるいは業界再編の可能性が指摘される企業の特徴や分野は存在します。
「買収が噂される/標的になりやすい」電子部品企業の特徴は以下の通りです。
1. ニッチトップの技術を持つ中堅・中小企業
芝浦電子の例からもわかるように、海外企業が最も狙っているのは、特定の分野で世界的に高いシェアや独自の特許技術を持つ中堅以下の日本企業です。
- 対象となる技術例: 高性能なセンサー(温度、圧力、磁気など)、特殊な小型部品、精密加工技術、高機能な電子材料など。
2. 後継者問題や事業再編のニーズがある企業
優れた技術や安定した顧客基盤がありながら、事業承継問題や、グローバル競争に必要な巨額の投資資金を自社で賄えない企業は、M&Aによる事業売却を検討する有力候補となります。
3. 車載・通信(5G/6G)・IoT関連の部品メーカー
電気自動車(EV)、自動運転、高速通信(5G/6G)、データセンターなど、成長分野に不可欠な部品を供給している企業は、グローバルな事業拡大を目指す大手メーカーや投資ファンドにとって魅力的な買収対象です。
4. 台湾企業や外資ファンドが関心を示す分野
- 台湾企業: 芝浦電子のヤゲオや、過去のFDK(フェライトコア、二次電池など)へのTOBの動きなど、台湾企業は日本のニッチな高技術部品や電池関連に継続的に関心を示しています。
- 投資ファンド: 経営改革や事業の集中と選択による企業価値向上を目的として、電子部品メーカーへの投資を積極化させるファンドの動きも活発です。
日本の「隠れた優良技術」を持つ小型・中堅の電子部品メーカーは、今後も海外企業によるM&Aのターゲットとなる可能性が高いと言えます。

買収標的になりやすいのは、自動車や通信向けの高度なセンサーや部品といったニッチな優良技術を持つ中堅・中小企業です。これらは後継者不足やグローバル資金力不足の課題を抱えていることが多いです。
コメント