この記事で分かること
- ゼノマックスとは:東洋紡が開発した高機能ポリイミドフィルムです。従来のフィルムの柔軟性に加え、ガラス並みの低い熱膨張係数と高耐熱性を両立し、高温でも変形しにくい特性が強みです。
- 熱膨張係数が低い理由:分子構造の設計と分子鎖の配列を緻密に制御することで、熱膨張係数を低く抑え、高温でも変形しないフィルムになっています。
- 宇宙分野での用途:フレキシブルな太陽電池や電子機器の基板として利用され、優れた耐熱性と寸法安定性から人工衛星や探査機の軽量化と信頼性向上に貢献します。
東洋紡のゼノマックスの宇宙分野での採用
東洋紡の高機能フィルム「ゼノマックス」は、宇宙分野での採用が期待されている、優れた高耐熱性と寸法安定性を持つポリイミドフィルムです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF162CE0W5A610C2000000/
ゼノマックスは開発から18年という長い期間を経て、宇宙分野での利用の可能性が高まっています。
ゼノマックスの特徴は何か
東洋紡の高機能フィルム「ゼノマックス」は、従来のポリイミドフィルムが持つ特性に加え、無機材料に匹敵する優れた特性を両立させた点が最大の特徴です。具体的には以下の点が挙げられます。
- 優れた寸法安定性: ガラスやシリコンウェハと同等の極めて低い熱膨張係数(CTE)を持ちます。これにより、温度が変化しても反りや変形がほとんど起こりません。
- 高耐熱性: 500℃の高温でも特性を維持し、反りや変形がありません。
- 高い表面平滑性: ガラスと同等の非常に滑らかな表面を持っています。
- 軽量・薄型・柔軟性: フィルムであるため、プラスチックフィルムが持つ「薄い」「軽い」「曲がる」「割れない」といった特徴も兼ね備えています。
これらの特性から、ゼノマックスは以下のような用途での応用が期待されています。
- 宇宙分野: 過酷な温度変化に晒される人工衛星や探査機の電子機器の基板。
- フレキシブルディスプレイ: 有機ELやマイクロLEDなどの次世代ディスプレイの基板。
- 電子回路基板: 高温での加工が必要な薄膜トランジスタ(TFT)の回路基板。
- センサー: 高温環境に耐えるフレキシブルなセンサー。

ゼノマックスは、東洋紡が開発した高機能ポリイミドフィルムです。従来のフィルムの柔軟性に加え、ガラス並みの低い熱膨張係数と高耐熱性を両立し、高温でも変形しにくい特性が強みです。
優れた寸法安定性や耐熱性を持つ理由は何か
ゼノマックスの優れた寸法安定性や耐熱性は、東洋紡が長年培ってきた高耐熱ポリマーの合成技術と独自のフィルム製膜技術の組み合わせによって実現されています。
1. 高耐熱性
ゼノマックスのベースとなるポリイミドは、もともと分子構造にイミド結合という非常に強固で安定した構造を持っており、これが高い耐熱性の根源となります。東洋紡は、このポリイミドの分子設計を独自に工夫することで、従来のポリイミドを上回る耐熱性を実現しています。
2. 優れた寸法安定性
一般的に、プラスチックフィルムは熱を加えると膨張・収縮し、反りや変形が起こります。しかし、ゼノマックスは独自の技術により、熱膨張係数 (CTE)を極めて低い値に抑えることに成功しました。
その値は、ガラスやシリコンウェハと同等であり、温度が変化してもほとんど寸法が変わりません。これは、高耐熱ポリマーをフィルム化する際のプロセスにおいて、分子鎖の配列を緻密に制御することで実現されたと考えられます。これにより、高温での加工が必要な電子部品の基板として、非常に高い信頼性を提供できます。
分子設計はどのように工夫することで耐熱性が向上したのか
東洋紡のゼノマックスは、従来のポリイミドフィルムとは異なる独自の高耐熱ポリマーを分子レベルで設計・合成することで、耐熱性を向上させています。
一般的なポリイミドが持つ強固な構造に加え、ゼノマックスでは熱膨張の原因となる分子の熱運動を抑制するために、分子鎖の骨格を剛直に設計し、かつフィルムを形成する際の分子鎖の配列を緻密に制御する技術を駆使しています。
これにより、高温下でも分子がほとんど動かず、ガラスと同等の極めて低い熱膨張係数を実現し、優れた耐熱性と寸法安定性を両立しています。

ゼノマックスは、東洋紡独自の高耐熱ポリマー合成技術とフィルム製膜技術の組み合わせにより、優れた特性を実現しています。特に、分子構造の設計と分子鎖の配列を緻密に制御することで、熱膨張係数を低く抑え、高温でも変形しないフィルムを開発しました。
宇宙分野でのゼノマックスの用途は
ゼノマックスの優れた耐熱性と寸法安定性は、過酷な宇宙環境に耐えうる電子部品の基板材料として、多岐にわたる用途が期待されています。
1. フレキシブル電子回路基板
宇宙機や人工衛星は、軽量化と省スペース化が非常に重要です。ゼノマックスは薄く、軽く、柔軟な特性を持つため、曲げられる電子基板として利用することで、従来の硬いガラス基板やセラミックス基板では難しかった機器の形状に合わせた設計が可能になります。
2. 宇宙用太陽電池
人工衛星や宇宙探査機にとって、太陽電池は重要な電力源です。ゼノマックスは、高温・低温の激しい温度変化に晒される宇宙空間でも変形しにくいため、薄型で軽量なフレキシブル太陽電池の基板としての応用が期待されています。
3. 高性能センサー
宇宙空間では、様々な物理現象を観測するためのセンサーが不可欠です。ゼノマックスは、その高い耐熱性と寸法安定性から、極端な温度変化にさらされても性能を維持できる高性能センサーの基板として利用される可能性があります。
ゼノマックスのこれらの特徴は、宇宙開発における機器の信頼性向上と軽量化に大きく貢献すると期待されています。

ゼノマックスは、高温・低温の激しい温度変化に晒される宇宙空間で、フレキシブルな太陽電池や電子機器の基板として利用されます。その優れた耐熱性と寸法安定性が、人工衛星や探査機の軽量化と信頼性向上に貢献します。
高い表面平滑性を持つ理由とそのメリットは何か
ゼノマックスの高い表面平滑性は、独自のフィルム製膜技術によって実現されています。
理由
従来のポリイミドフィルムは、製膜プロセスで溶媒が乾燥する際に表面に凹凸が生じることがありました。
しかし、ゼノマックスは、東洋紡が長年培ってきた精密な製膜技術を用いることで、このプロセスを制御し、ナノメートル単位の平滑性(表面粗さ:Ra ≈ 0.5 nm)を実現しています。これは、ディスプレイ用ガラス基板と同等のレベルです。
メリット
高い表面平滑性は、主に精密な電子部品の製造プロセスにおいて大きなメリットをもたらします。
- 回路形成の歩留まり向上: ディスプレイや半導体回路を形成する際、基板の表面にわずかでも凹凸があると、パターンが途切れたりショートしたりする原因となります。ゼノマックスの平滑な表面は、この問題を解消し、回路形成の歩留まりを大幅に向上させます。
- 高性能化への貢献: 回路の微細化が進む中で、基板の表面平滑性はより重要になります。ゼノマックスは、有機ELやマイクロLEDなどの次世代ディスプレイ、あるいは高精細なセンサーの製造において、その性能を最大限に引き出すことができます。
つまり、ゼノマックスの高い表面平滑性は、単に見た目が美しいだけでなく、製造プロセスの効率と最終製品の性能を決定づける重要な要素なのです。

高い表面平滑性は、東洋紡独自の精密なフィルム製膜技術により実現されます。これにより、回路を形成する際の歩留まりが向上し、次世代ディスプレイや半導体などの性能を最大限に引き出すことができます。
採用まで時間がかかっている理由は何か
ゼノマックスのような最先端の新素材が宇宙分野で採用されるには、非常に厳格な認定プロセスと長期にわたる評価期間が必要となるため、時間がかかっています。
1. 非常に高い信頼性要件
宇宙空間は、極度の真空、太陽光や宇宙放射線、そして-200℃から150℃以上に及ぶ激しい温度変化など、非常に過酷な環境です。このため、宇宙機に使用される部品や材料には、地上では考えられないほどの高い信頼性と耐久性が求められます。
2. 長期間にわたる評価・試験
新素材がこの要求を満たしていることを証明するためには、実際の宇宙環境を模擬した地上試験や、時には国際宇宙ステーション(ISS)での曝露試験など、多岐にわたる厳格な試験と評価が必要です。これには数年から、場合によっては10年以上の長い時間がかかります。
3. 製造プロセスの確立と量産化
素材自体の性能が優れているだけでなく、それを実際の部品として製造するためのプロセス(例:フレキシブル基板の製造プロセス)を確立し、量産体制を整えることも重要です。これは、新素材と既存の製造技術とのすり合わせが必要となり、ここでも多くの時間とコストがかかります。
これらの理由から、ゼノマックスのような革新的な素材であっても、宇宙分野での本格的な採用までには慎重なプロセスと長い時間が必要となるのです。
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