この記事で分かること
- 免除措置とは:米国の半導体輸出規制は、中国企業への先端半導体および製造装置の供給を制限してきましたが、台湾や韓国の企業が中国国内に持つ工場に対しては、米国製の機器を特別な許可なしに設置できる「包括的免除措置」が適用されていましたが、この免除処置を撤回するとしています。
- アドバンテストの装置:アドバンテストは、半導体の性能や品質を検査する「半導体試験装置(テスター)」の世界的大手です。スマートフォンやAI向けなど、あらゆる種類の半導体が設計通り機能するかを高速・高精度にテストするシステムや、半導体を自動で仕分けるハンドラなどを製造しています。
- テスターの仕組み:半導体に電気信号を与え、その応答信号を高速・高精度で測定。設計上の期待値と比較することで、半導体が正常に機能するか、また求められる性能を満たすかを判定し、良品・不良品を識別します。
- アドバンテストへの影響:半導体メーカーからの設備投資の動向に大きく影響を受けます。今回の規制強化により、中国での半導体生産の制約が強まることで、半導体テスターの需要にも影響が出る可能性があります。
アドバンテストの株価下落
米商務省当局者が台湾と韓国の半導体大手に対し、これらのメーカーが中国で米国の技術にアクセスするのに利用してきた免除措置を取り消す意向を伝えたと報じられています。
この影響もあり、週末の米国市場ではNVIDIAやTSMCといった半導体関連株が軟調に推移し、その流れが週明けの東京市場にも波及しました。アドバンテストは半導体テスターの大手であり、半導体製造装置関連銘柄として、こうした米中の半導体摩擦の影響を受けやすい立場にあります。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL2314F0T20C25A6000000/
アメリカの規制の内容は何か
米国が中国に対する半導体関連の規制を強化する動きは、多岐にわたりますが、今回の報道で特に焦点となっているのは、台湾と韓国の半導体大手に対する「包括的免除措置」の撤回です。
- 「包括的免除措置」の撤回
- これまで、米国の半導体輸出規制は、中国企業への先端半導体および製造装置の供給を制限してきましたが、韓国のサムスン電子やSKハイニックス、台湾のTSMCといった企業が中国国内に持つ工場に対しては、米国製の機器を特別な許可なしに設置できる「包括的免除措置」が適用されていました。
- 今回の報道によると、米商務省当局者は、この免除措置を取り消す意向をこれらの半導体大手に伝えたとされています。これにより、これらの企業が中国工場で米国製の技術や装置にアクセスすることが事実上困難になる可能性があります。
- 先端半導体および製造装置の輸出制限
- 2022年10月に導入された規制では、中国がAIなどに用いる先端半導体を国内で大量に生産する能力を阻止するため、特定の高性能半導体(AI用メモリなど)や最先端の半導体製造装置の中国への輸出が事実上禁止されています。
- これには、米国以外の国から中国に輸出される製品でも、一定程度の米国産品が含まれている場合に米政府の許可を求める「外国直接製品規則(FDPR)」が適用されます。
- 2024年12月には、さらに高帯域幅メモリ(HBM)や半導体製造装置の輸出規制対象拡大、中国企業140社の「エンティティー・リスト」への追加など、規制が強化されています。
- エンティティー・リストの活用
- 米政府の許可がなければ米国製品・技術を輸出できない「エンティティー・リスト」に中国企業を追加することで、中国のAI開発や半導体エコシステム開発を遅延・阻害する狙いがあります。
「包括的免除措置」撤回がもたらす影響
この免除措置の撤回は、特に以下の点に影響を及ぼすと考えられます。
- 台湾・韓国企業の中国工場での生産活動への影響: サムスン電子やSKハイニックス、TSMCといった企業は、中国国内に大規模な半導体製造拠点を有しており、米国製製造装置なしでは最先端の半導体生産が困難になります。これにより、これらの企業の中国での事業戦略の見直しや、生産能力への影響が懸念されます。
- 半導体サプライチェーンの再編加速: 米国政府は、同盟国との連携を強化し、中国を半導体サプライチェーンから排除する動きを加速させています。今回の措置は、その一環と見られ、グローバルな半導体サプライチェーンの再編がさらに進む可能性があります。
- アドバンテストへの影響: アドバンテストのような半導体製造装置メーカーは、半導体メーカーからの設備投資の動向に大きく影響を受けます。今回の規制強化により、中国での半導体生産の制約が強まることで、半導体テスターの需要にも影響が出る可能性があります。
米国政府は、中国の軍事力強化につながる先端技術の流出を阻止するという安全保障上の懸念から、これらの規制を導入・強化しています。

米国は、中国の軍事力強化を防ぐため、先端半導体や製造装置の中国への輸出を厳しく規制しています。特に、これまで適用されていた台湾・韓国の半導体企業の中国工場への「包括的免除措置」を撤回し、米国製技術へのアクセスを制限する方針です。
アドバンテストはどんな装置を製造しているのか
アドバンテストは、主に半導体試験装置(テスター)を製造・販売している世界的なリーディングカンパニーです。半導体が設計通りに機能するか、また求められる性能や品質、信頼性を満たしているかを、高精度かつ効率的にテストするための装置を提供しています。
具体的な製品カテゴリと代表的な装置は以下の通りです。
- SoC(System on Chip)テスト・システム
- スマートフォン、パソコン、ゲーム機、自動車、AI/HPC(高性能コンピューティング)などに使われる複雑なロジックIC(SoC)の機能を総合的にテストするシステムです。
- 代表的な製品として「V93000シリーズ(特にV93000 EXA Scale)」があります。これは、GPUなど生成AIに必要な高性能半導体のテストにも圧倒的なシェアを持っています。
- メモリ・テスト・システム
- DRAMやNANDフラッシュメモリなど、データを記録・保持する半導体(メモリ)のテストに特化したシステムです。
- 代表的な製品として「T5800シリーズ」があり、高速DRAMや次世代メモリ(GDDR7, LPDDR6, DDR6など)のテストに対応しています。
- テスト・ハンドラ
- パッケージされた半導体を自動的に試験装置に搬送し、テスト結果に基づいて良品と不良品を分類する装置です。テスターと連携して、試験工程の自動化と効率化を図ります。
- SEM(走査型電子顕微鏡)メトロロジー/レビュー装置
- 半導体製造工程で使われるフォトマスクやウェーハ上の微細な回路パターンの寸法を高精度に測定したり、欠陥をレビューしたりする装置です。
- システム・レベル・テスト・システム
- 半導体が実際の使用環境(システムや最終製品に組み込まれた状態)で適切に動作するかを検証するテストシステムです。個別のデバイステストでは捉えきれない問題を検出することで、品質と効率の向上に貢献します。
その他、テストシステムと半導体を接続する「デバイス・インタフェース」や、半導体製造工程からデータを収集・解析する「データ・インフラストラクチャー(Advantest Cloud Solutionsなど)」なども提供しています。
アドバンテストは、半導体メーカーが開発から量産、歩留まり向上まで、半導体のライフサイクル全体で必要とするテストソリューションを幅広く提供しており、デジタル社会の発展に不可欠な半導体の品質と信頼性を支える重要な役割を担っています。

アドバンテストは、半導体の性能や品質を検査する「半導体試験装置(テスター)」の世界的大手です。スマートフォンやAI向けなど、あらゆる種類の半導体が設計通り機能するかを高速・高精度にテストするシステムや、半導体を自動で仕分けるハンドラなどを製造しています。
どのように検査を行うのか
アドバンテストが製造する半導体試験装置(テスター)は、半導体が設計通りに機能し、期待される性能や品質を満たしているかを、電気信号を用いて検査します。その検査方法は、大きく分けて以下のステップで行われます。
- 半導体(デバイス)の接続:
- 検査対象の半導体チップ(まだウェーハ状態のもの、またはパッケージングされたもの)をテスターに接続します。
- ウェーハ状態の場合は、「ウェーハプローバ」と呼ばれる装置がウェーハをステージに運び、テスターからの信号を伝える「プローブカード」と呼ばれる針状の電極が、チップの各電極に正確に接触するように位置決めします。
- パッケージングされた半導体の場合は、「テスト・ハンドラ」が半導体を自動でテスターに搬送し、適切なソケットに挿入して電気的に接続します。テストハンドラは、テスト中の温度管理(高温・低温)も行います。
- 電気信号の入力(刺激):
- テスターは、検査プログラムに基づいて、半導体の各機能(論理回路、メモリ、アナログ回路など)をテストするために、様々な電気信号(電圧、電流、クロック信号、データパターンなど)を半導体に供給します。
- これは、半導体が実際に製品に組み込まれた際に受けるであろう電気的動作をシミュレーションするものです。
- 出力信号の測定:
- 半導体は、入力された電気信号に対して、プログラムされた通りに反応し、特定の出力信号を発生させます。
- テスターは、この出力信号を非常に高い精度と速度で測定・収集します。
- 良否判定(比較と分析):
- 測定された出力信号は、あらかじめ設定された「期待値」(設計上の正しい応答)と比較されます。
- 出力信号が期待値と完全に一致するか、あるいは許容範囲内に収まっているかを瞬時に判定します。
- もし、出力信号が期待値と異なる、信号が出力されない、あるいはタイミングがずれているなどの異常があれば、その半導体は不良品と判定されます。
- さらに、単なる良否判定だけでなく、半導体の特性(消費電力、動作速度、アナログ特性など)を詳細に測定・分析し、その性能ランク付けや歩留まり改善のためのデータ収集も行われます。
- 不良品の識別と分類:
- 不良と判定されたチップには、インクでマーキングされるか、またはその位置情報が記録され、後続の工程で不良品として排除されます。テスト・ハンドラは、良品と不良品を自動で分別します。
これらの検査は、半導体の開発段階(設計評価)、量産開始前の試作段階(初期不良スクリーニング)、そして大量生産時の品質保証(最終検査)など、半導体製造プロセスの様々な段階で行われます。
特に、高性能化・多機能化が進む現代の半導体では、極めて複雑で多岐にわたるテスト項目を、非常に高速かつ多数のチップに対して同時に行う能力が求められます。アドバンテストのテスターは、これらの要求に応える最先端の技術を提供しています。

アドバンテストの検査装置は、半導体に電気信号を与え、その応答信号を高速・高精度で測定。設計上の期待値と比較することで、半導体が正常に機能するか、また求められる性能を満たすかを判定し、良品・不良品を識別します。
アドバンテストのシェアはどれくらいか
アドバンテストは半導体テスター市場において、世界トップクラスの圧倒的なシェアを誇っています。特に、SoC(System on Chip)テスターとメモリテスターの両方で過半数のシェアを持ち、業界のリーディングカンパニーとしての地位を確立しています。
具体的な数字としては、複数の情報源から2022年や2023年の市場シェアについて言及されており、
- 2022年には市場全体の約57%を占めたというデータがあります。
- 2023年には58%に達したというアドバンテスト自身からの情報もあります。
競合としては米国のテラダインが挙げられ、この2社で半導体テスター市場の約8割を寡占している状態です。アドバンテストは特に近年、SoCテスターの市場シェアを拡大しており、生成AIなどに不可欠なGPUなどの高性能半導体のテストでも圧倒的なシェアを持っているとされています。
このように、アドバンテストは半導体テスター分野において、非常に強力な市場支配力を持っています。
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