AMD、中国向けAI半導体輸出再開と売上高15%を米政府に納付 どんな製品を輸出するのか?政府への納付の背景は?

この記事で分かること

  • 再開する製品:AI開発向け高性能チップ「Instinct MI308」です。これは米国の規制基準に合わせて性能を制限したAIアクセラレーターで、輸出ライセンス取得の条件として売上高の15%を米政府に納付します。
  • 売り上げの一部を納付する背景:米国の国家安全保障上の懸念を緩和しつつ、中国への高性能AIチップの輸出ライセンスを得るための異例の条件です。売上の一部を徴収し、輸出抑制効果を狙っています。
  • 調整された性能:主にAI演算能力とチップ間のデータ転送速度(相互接続帯域幅)です。米国の輸出規制基準値を下回るように意図的に制限され、大規模なAI学習用途を困難にしています。

AMD、中国向けAI半導体輸出と売上高15%を米政府に納付

 AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)は、中国向けAI半導体(特にMI308チップ)の輸出を再開する条件として、その売上高の15%を米政府に納付する用意があることを発表しています。

 https://jp.reuters.com/markets/global-markets/3FUH4FKFSJNGVD4ONUKQL2IMFA-2025-12-05/

 これは、米中間のハイテク覇権争いが激化する中で生まれた、国家安全保障と企業の市場アクセスを巡る極めて異例な「取引型」の政策と言えます。

どんな製品を中国に輸出するのか

 AMDが中国に輸出する予定の主要な製品は、AIアクセラレーター(人工知能半導体)です。具体的には、Instinct MI308 チップです。


対象製品の概要

製品名Instinct MI308
カテゴリAIアクセラレーター / AIチップ
用途データセンター、高性能コンピューティング(HPC)におけるAIモデルの学習(トレーニング)と推論(インファレンス)
特徴米国の輸出管理規制(EAC)に適合するように、性能を調整(意図的に制限)されたバージョンです。これは、米国政府が定める高性能チップの輸出規制ラインを下回るように設計されています。
規制との関係このMI308の輸出ライセンスを取得するために、売上高の15%を米政府に納付するという異例の条件に合意しました。

比較対象(NVIDIA)

 同様に、競合他社のNVIDIAも、性能を調整した中国市場向けAIチップであるH20の輸出再開にあたり、同じく売上高の15%納付という条件を受け入れています。

 この状況は、米中間の技術覇権争いの中で、米国の企業が巨大な中国市場へのアクセスを維持するために、米政府の安全保障上の要求に応える形で生まれた特殊な「取引」の結果です。

AMDが中国へ輸出するのは、AI開発向け高性能チップ「Instinct MI308」です。これは米国の規制基準に合わせて性能を制限したAIアクセラレーターで、輸出ライセンス取得の条件として売上高の15%を米政府に納付します。

追加の税金を米政府に納付する背景は

 追加の税金(正確には「収益の15%納付」という条件)を米政府に納付する主な理由は、国家安全保障と輸出規制のバランスをとるためです。

 これは、米国政府が高性能AI半導体の中国への流出を規制しつつ、米国の半導体企業(AMDやNVIDIAなど)に対して巨大な中国市場でのビジネスを限定的に再開させるための異例の「取引」の一環です。


納付の主な目的

1. 輸出ライセンス取得の条件

 この15%の納付は、AMDが性能を調整したAIチップ(MI308)を中国に輸出するために必要なライセンス(許可)を得るための条件として課されました。米政府は、このチップが中国の軍事・AI開発に利用されるリスクを軽減するために、この金銭的な条件を設定しました。

2. 収益シェアを通じた規制の強化
  • 「輸出通行税」としての機能: この15%は「手数料」や「ライセンス料」と説明されていますが、実質的には輸出税のような効果を持ちます。これは、中国での販売利益の一部を強制的に米政府が回収することで、企業の利益を減少させ、結果的に中国への輸出を抑制する効果を狙っていると見られています。
  • 統治手法の転換: 単なる輸出規制(禁止)ではなく、費用を払えば輸出を許可するという、「ルールで縛る」から「お金で通す」への新しい統治手法の適用と解釈されています。
3. 米政府の財源確保

 この措置により、米政府はAIチップの対中輸出から数十億ドル規模の収益を得る見込みです。米政府は、この収益を輸出管理のための監視費用などに充当できる可能性があります。

 この取り決めは、憲法で禁止されている輸出税に該当する可能性が指摘されており、前例のない措置として米国内で大きな議論を呼んでいます。

米国の国家安全保障上の懸念を緩和しつつ、中国への高性能AIチップの輸出ライセンスを得るための異例の条件です。売上の一部を徴収し、輸出抑制効果を狙っています。

Instinct MI308で調整されてる性能とは

 AMDのInstinct MI308で調整されている性能は、主に演算能力(処理速度)とデータ転送速度です。

 これは、米国の輸出管理規制、特に高性能AIチップの対中輸出を制限する規則を意図的に下回るように設定されています。

調整の具体的な内容

 MI308は、AMDの高性能チップMI300Xをベースに、中国市場向けに性能を落としたバージョンです。性能制限の鍵となるのは、主に以下の2点です。

  1. 演算性能(TFLOPS/PFLOPS):
    • AIモデルのトレーニングや大規模な計算に使われる浮動小数点演算能力(特にFP64やFP16など)が、規制基準値を超えないように制限されています。
  2. 相互接続速度(インターコネクト帯域幅):
    • 複数のチップやシステム間でデータを高速にやり取りするための帯域幅(例えば、AMDのInfinity FabricやNVIDIAのNVLinkに相当する技術)が制限されます。
    • この制限により、中国企業が数千個のチップを繋げた巨大なAIスーパーコンピューターを構築することが難しくなります。

制限の目的

 この性能調整の目的は、米国政府が定める「軍事的に高度なAI開発に転用される恐れがある」水準以下のチップのみを輸出可能とすることにあります。

  • 輸出許可ラインのクリア: 制限されたMI308は、規制のしきい値を下回ることで、米国政府から輸出ライセンスを取得できます。
  • 「つなぎ止め」戦略: ワシントンの一部では、完全に輸出を禁止するのではなく、性能を落としたチップを供給し続けることで、中国のAIエコシステムを米国の技術スタック(ソフトウェアやプラットフォーム)に依存させ続けるという戦略的な意図もあると指摘されています。

 この措置により、MI308は推論(既に学習済みのAIを使うこと)には適していますが、最先端の大規模AIモデルのトレーニング(学習)には不十分な性能に抑えられています。

調整された性能は、主にAI演算能力チップ間のデータ転送速度(相互接続帯域幅)です。米国の輸出規制基準値を下回るように意図的に制限され、大規模なAI学習用途を困難にしています。

浮動小数点演算能力とは何か

 浮動小数点演算能力とは、コンピューターが小数点を含む数値(浮動小数点数)の計算を1秒間に何回実行できるかを示す指標です。

 この能力は、特にAI(人工知能)科学技術計算大規模なシミュレーションといった、大量かつ高精度な計算が求められる分野で、コンピューター(特にGPUやAIチップ)の処理性能を測る最も重要な指標となります。


指標と仕組み

1. 単位は「FLOPS(フロップス)」

 浮動小数点演算能力は、FLOPS (Floating-point Operations Per Second) という単位で表されます。

  • 1 FLOPS:1秒間に1回の浮動小数点演算を実行できる能力。

 演算能力の規模に応じて、以下の単位が使われます。

  • GFLOPS (ギガフロップス): 109 回/秒
  • TFLOPS (テラフロップス): 1012 回/秒
  • PFLOPS (ペタフロップス):1015 回/秒(スーパーコンピュータ「富岳」などで使われる単位)

2. 「浮動小数点」とは

 コンピューターが小数を表現する方法の一つです。例えば、123,450,000という大きな数や、0.0000000123という小さな数を、仮数部指数部に分けて表現します。

  • 例: 1.2345 × 108

 この形式で計算を行うことで、非常に広範囲の数値を効率的に、かつ比較的高い精度で扱うことができます。

3. AIとの関連性

 AIの学習(トレーニング)では、ニューラルネットワークの数百万、数十億の重み(パラメータ)を更新するために、大量の行列計算ベクトル計算を行います。これらの計算のほとんどが浮動小数点演算であり、FLOPSが高いほど、AIモデルの学習が速く、大規模なモデルを扱えることになります。

  • AMDのMI308の性能を調整する際、このFLOPS値が米国の輸出規制のしきい値を下回るように抑えられました。

コンピューターが小数点を含む数値の計算を1秒間に何回実行できるかを示す能力です。FLOPSで表され、AIや科学技術計算の処理速度を決める重要な指標です。

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