静電気対策フィルム どのような利用法があるか?なぜ静電気を防止できるのか?

この記事で分かること

  • どのような利用法があるか:、電子部品の誤動作や破壊、粉塵の吸着、印刷不良、爆発事故など、様々なトラブルの原因となる静電気を防ぐために利用されています。
  • なぜ静電気を防止できるのか:帯電防止剤や導電性材料の配合によって、フィルムの表層やフィルム自体の導電性が上がり、帯電しにくくなることで静電気を防止しています。

静電気対策フィルム

 富士キメラ総研によると、機能性フィルム市場は堅調な成長を見せる予想とされています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00746076

 2023年の市場規模は約282億4,000万米ドルで、2030年には476億4,000万米ドルに達すると見込まれており、年平均成長率(CAGR)は7.75%とする予想もあります。

 今回は機能性フィルムの中でも「導電性」を持つフィルム、特に静電気対策についてのフィルムの解説となります。

導電性フィルムとは何か

 導電性フィルムは、電気を通す性質を持つ薄いフィルムで、その特性を活かして様々な用途で利用されています。主な用途としては、以下のようなものが挙げられます。

1. タッチパネル
  • スマートフォン、タブレット、カーナビゲーションシステムなどのタッチスクリーンディスプレイのセンサーとして使用され、指やペンの接触位置を検知します。
  • 抵抗膜方式や静電容量方式など、様々な方式のタッチパネルに利用されています。
2. フレキシブルディスプレイ
  • 柔軟性と透明性を活かし、折りたたみ式スマートフォンやウェアラブルデバイスなどのフレキシブルなディスプレイの電極材料として使用されます。
3. 太陽電池
  • 太陽光パネルにおいて、発電した電気を集電・伝導する役割で使用されます。軽量かつ柔軟性があるため、曲面や可撓性基板への適用も可能です。
4. 静電気対策
  • 電子部品の梱包材や製造工程において、静電気による製品の破損や誤動作を防ぐために使用されます。
  • 粉体などを扱う環境では、爆発防止の用途にも用いられます。
5. 電磁波シールド
  • 電子機器から発生する電磁波ノイズを遮蔽し、他の機器への影響を防ぎます。
6. 透明ヒーター
  • 透明性を活かし、自動車のフロントガラスやメガネ、ゴーグルなどの曇り止めヒーターとして応用されています。
7. センサー
  • 透明電極として、水位センサーやバイオセンサーなど、様々なセンサーに利用されています。
8. その他
  • プリンターの印字用フィルムの帯電防止
  • クリーンルームのパーテーション表面材
  • 透明アンテナ

導電性フィルムは、電気を通す性質を持つ薄いフィルムで、タッチパネルやディスプレイなど多様な用途で使用されています。

静電気対策のフィルムとは何か

 静電気対策フィルムは、静電気の発生や蓄積を抑える機能を持つフィルムです。

 静電気は、電子部品の誤動作や破壊、粉塵の吸着、印刷不良、爆発事故など、様々なトラブルの原因となります。

 そのため、電子部品の製造現場やクリーンルーム、粉体を扱う工場など、静電気を嫌う環境では静電気対策フィルムが広く利用されています。

静電気対策フィルムが静電気を抑える仕組み

  1. 帯電防止剤の添加: フィルムの原料となる樹脂に、帯電防止剤(界面活性剤など)を練り込みます。帯電防止剤は、フィルム表面に徐々に染み出し(ブリードアウト)、空気中の水分を吸着して水分の薄い膜を形成します。                                 この水分の膜が電気をわずかに通しやすくすることで、静電気を逃がし、帯電を防ぎます。このタイプのフィルムは、比較的安価に製造できますが、効果が湿度に左右されたり、経年劣化によって帯電防止効果が低下したりする場合があります。
  2. 導電性材料の配合: フィルムの原料に、カーボンブラックや金属粉末などの導電性材料を配合します。これにより、フィルム自体が電気を通しやすくなり、発生した静電気を速やかに逃がすことができます。                                       このタイプのフィルムは、安定した帯電防止効果がありますが、透明性が低い場合や、コストが高い場合があります。

静電気対策フィルムの種類と用途

 静電気対策フィルムには、様々な種類があり、用途に応じて使い分けられます。

  • 帯電防止フィルム: 比較的表面抵抗値が高く(10の9乗~12乗Ω程度)、静電気の帯電を抑制する効果があります。電子部品の包装、クリーンルーム内の資材包装などに使用されます。
  • 導電性フィルム: 表面抵抗値が低く(10の4乗Ω以下)、静電気を速やかに逃がす効果があります。爆発性のある粉体を取り扱う現場や、静電気に非常に弱い電子部品の包装などに使用されます。
  • 永久帯電防止フィルム: 特殊な樹脂や添加剤を使用することで、帯電防止効果が長期間持続するフィルムです。湿度依存性が低く、安定した効果が期待できます。
  • 透明帯電防止フィルム: 透明性を保ちながら帯電防止効果を持たせたフィルムです。タッチパネルの保護フィルムや、ディスプレイの表面保護などに使用されます。

主な用途

  • 電子部品・精密機器の包装、搬送、保管
  • クリーンルーム内の資材、設備
  • 粉体、化学薬品などの包装
  • 医療機器、医薬品の包装
  • 自動車部品
  • 印刷物の静電気対策
  • 爆発防止対策

静電気対策フィルムは、帯電防止剤導電性材料の配合によって様々な産業分野で静電気によるトラブルを防ぎ、製品の品質や安全性を確保するために重要な役割を果たしています。

帯電防止剤とは何か

 帯電防止剤は、静電気の発生や蓄積を抑えるための様々な物質の総称です。プラスチックフィルムをはじめとする様々な製品に添加または塗布され、静電気によるトラブルを防ぐ役割を果たします。

 帯電防止剤は、その仕組みや成分によって大きくいくつかの種類に分類できます。主なものとしては以下の通りです。

1. 界面活性剤系帯電防止剤(イオン伝導タイプ)

  • 仕組み: 界面活性剤の親水基が空気中の水分を吸着し、フィルム表面に薄い水の膜を形成します。この水分中で界面活性剤の一部がイオン化し、イオンが電気を運びやすい状態を作り出すことで、静電気を逃がします(イオン伝導)。
  • 種類:
    • アニオン系: マイナスの電荷を持ち、耐熱性に優れますが、帯電防止効果は比較的弱めです。
    • カチオン系: プラスの電荷を持ち、高い帯電防止効果がありますが、高分子を変色させる可能性があります。
    • 両性: 酸性・アルカリ性によってアニオンまたはカチオンの性質を示し、帯電防止効果は中間程度です。
    • 非イオン系: 電荷を持たず、高分子への溶解性が高く、練り込み用途に多く用いられ、効果が持続しやすい傾向があります。
  • 特徴: 効果発現が比較的早く、コスト効率が良いですが、効果が湿度に左右されたり、経年劣化したりする場合があります(特に塗布型)。練り込み型でも、帯電防止剤が徐々に表面に染み出す(ブリードアウト)ことで効果を発揮するため、効果発現に時間がかかることがあります。

2. 導電性付与型帯電防止剤(電子伝導タイプ)

  • 仕組み: カーボンブラック、金属粉末、導電性ポリマーなどの導電性材料をフィルムに配合または塗布することで、フィルム自体に電気を通す性質を与えます。これにより、発生した静電気を速やかに逃がします(電子伝導)。
  • 種類:
    • カーボン系: 安定した導電性を付与できますが、透明性が損なわれる場合があります。
    • 金属系: 高い導電性を付与できますが、コストが高い場合があります。
    • 導電性ポリマー系: 透明性や柔軟性を維持しやすいものもあります。
  • 特徴: 湿度に依存せず、安定した帯電防止効果を発揮しますが、透明性やコスト面で課題がある場合があります。

3. 高分子型帯電防止剤

  • 仕組み: 分子内にイオン伝導性部位を持つポリマーを添加することで、フィルム内部でイオンが移動しやすくなり、帯電を抑制します。
  • 特徴: 比較的効果が持続しやすく、温度による影響を受けにくいものがあります。

帯電防止剤は、静電気の発生や蓄積を抑えるための様々な物質の総称で、製品の品質向上、作業効率の改善、安全性の確保など、様々な目的で重要な役割を果たしています。

なぜ、静電気で爆発事故が起きるのか

 静電気による爆発事故は、以下の3つの要素が揃った場合に発生します。

  1. 可燃性物質: 空気中に可燃性のガス、蒸気、または粉じんが存在していること。
  2. 静電気の発生と蓄積: 物質の接触、摩擦、剥離などによって静電気が発生し、それが帯電体に蓄積されること。特に、電気を通しにくい絶縁体や乾燥した環境では静電気が蓄積しやすいです。
  3. 静電気放電による火花: 蓄積された静電気が、ある程度のエネルギーを持って放電する際に火花を発生させること。

 この火花が、空気中に存在する可燃性物質の最小着火エネルギーを超えると、引火・爆発が発生します。

具体例

  • ガソリンスタンド: ガソリンは非常に引火しやすい物質であり、給油中にガソリン蒸気が空気中に漂います。給油ノズルや給油を受けるタンク、あるいは作業者の衣服などに帯電した静電気が放電すると、ガソリン蒸気に引火し、火災や爆発につながる可能性があります。そのため、給油前には静電気除去シートに触れるなどの対策が必要です。
  • 粉じん爆発: 小麦粉、アルミニウム粉末、石炭粉など、細かい粉末が空気中に浮遊している状態で静電気放電が起こると、粉じん爆発が発生する可能性があります。工場などで集じん機が適切に接地されていない場合などに起こりやすい事故です。
  • 化学プラント: 可燃性の溶剤やガスを取り扱うプラントでは、配管内を流れる液体や、作業者の動きによって静電気が発生・蓄積することがあります。適切な接地やボンディング(導体同士を電気的に接続すること)が行われていないと、静電気放電による爆発の危険性があります。

静電気の放電エネルギーは、多くの可燃性ガスや蒸気の最小着火エネルギーよりも大きい場合があり、引火の要因となり、事故につながります。

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