この記事で分かること
抗菌性フィルムとは:抗菌剤の配合や光触媒による活性酸素の発生などで、細菌の増殖を抑制したり、細菌を死滅させる効果が付与されたフィルムのことです。
どのような材料が利用されるのか:金属イオンや有機系抗菌剤、光触媒、抗ウイルス剤などが抗菌フィルムに利用されています。
銀イオンが抗菌、殺菌できる理由:銀イオンは微生物の細胞の機能の阻害や酵素の阻害、DNAの複製や転写の阻害や活性酸素の発生による微生物の細胞膜の破壊によって殺菌、抗菌を行います
抗菌性フィルム
富士キメラ総研によると、機能性フィルム市場は堅調な成長を見せる予想とされています。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00746076
2023年の市場規模は約282億4,000万米ドルで、2030年には476億4,000万米ドルに達すると見込まれており、年平均成長率(CAGR)は7.75%とする予想もあります。
今回は機能性フィルムの中でも抗菌性を持つフィルムの解説となります。
抗菌性フィルムとは何か
抗菌性フィルムとは、フィルムの表面に細菌の増殖を抑制したり、細菌を死滅させる効果を持つ加工が施されたフィルムのことです。
具体的には、フィルムの材料そのものに抗菌剤が練り込まれていたり、フィルムの表面に抗菌成分を含むコーティングが施されていたりします。
その仕組みとしては、主に以下のものが挙げられます。
- 抗菌剤の溶出: フィルム表面から徐々に抗菌成分が溶け出し、周囲の細菌の活動を阻害します。銀イオンや銅イオンなどが用いられることが多いです。
- 接触作用: 細菌がフィルム表面に接触することで、フィルムに固定された抗菌成分が細菌の細胞膜を破壊したり、内部の酵素の働きを阻害したりします。
- 光触媒効果: フィルムに酸化チタンなどの光触媒が用いられている場合、光が当たることで活性酸素が発生し、細菌を分解します。
抗菌性フィルムは、私たちの身の回りの様々な場所で、衛生環境を保ち、感染症のリスクを低減するために活用されています。

抗菌性フィルムとは抗菌剤の配合や光触媒による活性酸素の発生などで、細菌の増殖を抑制したり、細菌を死滅させる効果が付与されたフィルムのことです。
どのような物質が抗菌作用を示すのか
抗菌性フィルムに用いられ、抗菌作用を示す主な物質としては、以下のものが挙げられます。
1. 金属イオン系抗菌剤
- 銀イオン (Ag+): 広範囲の細菌、真菌、ウイルスに対して効果を発揮します。微生物の細胞膜を破壊したり、酵素の働きを阻害したり、DNAの複製を阻害するなどのメカニズムが知られています。比較的低濃度でも効果があり、安全性も高いとされています。
- 銅イオン (Cu2+): 銀イオンと同様に、広範囲の微生物に対して抗菌・抗ウイルス効果があります。銅イオンが微生物の細胞内に取り込まれ、酵素やタンパク質に結合して機能を阻害したり、触媒として活性酸素を生成し微生物の有機物を分解したりする mechanism が考えられています。
- 亜鉛イオン (Zn2+): 細菌や真菌に対して抗菌効果を示します。
- その他: 微量の金属イオンが抗菌作用を示す現象は「微量金属作用」と呼ばれ、水銀、コバルト、ニッケルなども抗菌作用を持つことが知られています。ただし、安全性や環境への影響から、抗菌性フィルムへの利用は限定的です。
2. 有機系抗菌剤
- 第四級アンモニウム塩: 陽イオン性の界面活性剤で、細菌の細胞膜に吸着し、破壊することで抗菌作用を発揮します。比較的即効性がありますが、無機系抗菌剤に比べて熱や水による分解が生じやすい場合があります。
- ピリジン系、イミダゾール系、ヨード系化合物: これらは特定の微生物に対して効果を示す有機系抗菌剤です。金属加工油や乳化液の防腐目的などで使用されることがあります。
- 天然系抗菌剤: 植物などから抽出された成分で、抗菌作用を示すものがあります。例えば、ワサビやカラシに含まれるアリルイソチオシアネートは、食品の鮮度保持フィルムなどに利用されています。キトサンも天然由来の高分子で抗菌性を持つことが知られています。
3. 光触媒
- 酸化チタン (TiO2): 光(主に紫外線)が当たると触媒として働き、活性酸素を生成します。この活性酸素が細菌の細胞膜を破壊したり、有機物を分解したりすることで抗菌効果を発揮します。持続的な効果が期待できます。
4. 抗ウイルス剤
- 特定のウイルスに対して効果を発揮する化合物が、抗菌剤と組み合わせてフィルムに配合されることがあります。

金属イオンや有機系抗菌剤、光触媒、抗ウイルス剤などが抗菌フィルムに利用されています。
銀イオンが殺菌、抗菌できる理由
銀イオンが殺菌・抗菌できる主な理由は、以下の複合的なメカニズムによるものと考えられています。
1. 微生物の細胞膜への作用
- 吸着と構造破壊: 銀イオンは、細菌や真菌などの微生物の細胞膜に存在する負電荷を帯びた部分に静電気的に引き寄せられ、吸着します。
- 吸着した銀イオンは、細胞膜のタンパク質や脂質と結合し、細胞膜の構造を不安定化させ、透過性を変化させます。これにより、細胞内の物質が漏れ出たり、外部からの物質の侵入が妨げられたりして、細胞の正常な機能を阻害します。
2. 細胞内への侵入と機能阻害
- 酵素の活性阻害: 銀イオンは、細胞内に侵入すると、代謝やエネルギー生産に必要な様々な酵素の活性部位にある硫黄原子(-SH基)などの官能基と結合します。これにより、酵素の立体構造が変化し、本来の触媒機能を失い、微生物の生命維持活動を停止させます。
- DNAへの影響: 銀イオンは、微生物のDNAとも結合することが示唆されています。DNAの複製や転写を阻害することで、微生物の増殖を抑制すると考えられています。
3. 活性酸素の生成:
- 銀イオンが触媒として働き、水中の溶存酸素を活性酸素に変換する可能性が指摘されています。この活性酸素は、強力な酸化力により微生物の細胞膜や内部構造を破壊すると考えられています。
銀イオンの特長
- 広範囲の微生物に有効: 細菌、真菌、ウイルスなど、様々な種類の微生物に対して効果を発揮します。
- 低濃度で効果を発揮: 比較的低い濃度でも殺菌・抗菌効果を示すため、人体への影響も比較的少ないとされています。
- 耐性菌ができにくい: 他の抗菌剤と比較して、銀イオンに対する耐性菌が出現しにくいとされています。
- 持続性: 銀イオンは比較的安定しており、効果が持続しやすいという特徴があります。
これらの理由により、銀イオンは様々な分野で殺菌・抗菌剤として利用されています。抗菌性フィルムにおいても、銀イオンを配

銀イオンは微生物の細胞の機能の阻害や酵素の阻害、DNAの複製や転写の阻害や活性酸素の発生による微生物の細胞膜の破壊によって殺菌、抗菌を行います
人体やはどの表面の常在菌に悪影響がないのはなぜか
銀イオンが人に触れても一般的に害が少ないと考えられている理由、そして肌の微生物叢(常在菌)に悪影響を与えにくいとされる背景には、いくつかの要因が挙げられます。
人が触っても害が少ない理由
- 低濃度での使用: 抗菌性フィルムなどに使用される銀イオンの濃度は、一般的に人体に影響が出にくい低い濃度に調整されています。
- 不活性化の可能性: 皮膚表面には様々な物質が存在し、銀イオンがこれらの物質と反応して不活性化する可能性があります。例えば、汗に含まれる塩化物イオンと結合すると、水に溶けにくい塩化銀となり、吸収されにくくなります。
- 経口摂取時の安全性: 誤って銀イオンを微量に摂取した場合でも、胃酸中の塩化物イオンと反応して塩化銀となり、体内に吸収されにくく、便として排出されると考えられています。
- 金属アレルギーのリスクが低い: 銀は比較的金属アレルギーを起こしにくい金属とされています。ただし、銀アレルギーを持つ方は注意が必要です。
- 歴史的な使用: 銀は古くから食器や医療器具などに使用されており、長年の使用経験から比較的安全な物質であることが示唆されています。日本の厚生労働省も、銀を既存添加物として認めています。
肌の微生物叢に悪影響が少ないと考えられる理由
- 選択的な抗菌性: 銀イオンは広範囲の微生物に対して効果を発揮しますが、その作用機序は微生物の種類によって感受性が異なる場合があります。皮膚常在菌は、一般的に病原性の高い細菌と比較して、銀イオンに対する耐性を持つ可能性が考えられています。
- 局所的な作用: 抗菌性フィルムは、銀イオンをフィルム表面に徐々に放出する形で作用することが多いため、皮膚全体や皮膚の深部にまで高濃度の銀イオンが作用しにくいと考えられます。
- 皮膚のバリア機能: 健康な皮膚は、外部からの物質の侵入を防ぐバリア機能を持っています。このバリア機能が、銀イオンが皮膚の深部まで浸透し、常在菌に影響を与えるのを防ぐ可能性があります。
- 銀イオンの不活性化: 皮膚表面の様々な物質が銀イオンを不活性化することで、常在菌への影響が緩和される可能性があります。

一般的に抗菌性フィルムに使用される程度の低濃度の銀イオンであれば、人が触れても害は少なく、健康な肌の微生物叢に大きな悪影響を与える可能性は低いと考えられています。
コメント