この記事で分かること
- 窒化アルミニウムを使うメリット:従来のGaNを上回る「高い耐圧性」と、金属並みの「優れた放熱性」を兼ね備えています。これにより、大電力を扱っても壊れにくく、熱による劣化も抑えられるため、デバイスの劇的な小型化と高出力化が可能になります。
- 窒化アルミニウム基板の上に高品質な結晶を重ねることが難しい理由:原子間の距離(格子定数)の差による結晶の歪みと欠陥(ひび割れ)が生じやすい点です。また、成長に極端な高温を要するため不純物が混ざりやすく、表面の酸化膜が結晶の整列を妨げることも大きな障壁です。
- 旭化成と名古屋大学の対策:今回の開発では、AlN基板の上に極めて薄いGaN層をこの「コヒーレント成長」によって形成しました。これにより、本来なら相性の悪い両者を、欠陥のない最高品質な状態で組み合わせることに成功しています。
旭化成と名古屋大学の窒化アルミニウムの半導体への利用
旭化成と名古屋大学(天野浩教授らの研究グループ)は、「窒化アルミニウム(AlN)」という次世代材料を用いた半導体開発において、世界をリードする成果を相次いで発表しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC228JI0S5A221C2000000/
特に2025年12月に発表された「次世代高周波トランジスタ(HEMT)」の実証は、ポスト5G(6G)や次世代レーダー技術を大きく進化させるものとして注目されています。
1. 開発の核心:窒化アルミニウム(AlN)の活用
現在、高性能なパワー半導体や高周波デバイスには「窒化ガリウム(GaN)」が使われていますが、旭化成と名大のチームは、さらにその先を行く「ウルトラワイドバンドギャップ(UWBG)半導体」である窒化アルミニウム(AlN)に注力しています。
- 耐圧性能: 従来のGaNデバイスと比較して2倍以上の破壊電圧(壊れにくさ)を実現。
- 低抵抗・高出力: 電気抵抗を抑えつつ、高い周波数で大電力を扱うことが可能です。
2. 2025年12月の最新成果:世界初、AlN基板上のHEMT実証
これまで、AlN基板の上に高品質な結晶を重ねてトランジスタを作ることは極めて困難でした。しかし、両者は以下の技術を組み合わせることで、高性能なHEMT(高電子移動度トランジスタ)の動作を実証しました。
- 高品質なAlN基板: 旭化成の子会社であるCrystal IS社が持つ世界最高水準のAlN単結晶基板を使用。
- コヒーレント成長: 基板と膜の結晶の並びを完全に一致させる技術(MOVPE法)により、欠陥を劇的に減らしました。
- 電流コラプスの抑制: 半導体の弱点であった「動作中に電流が流れにくくなる現象(電流コラプス)」を解消し、安定した動作を可能にしました。
3. 期待される応用分野
この技術が実用化されると、私たちの生活は以下のように変わると期待されています。
| 分野 | 期待される変化 |
| 通信 (6G) | 通信基地局の小型化・省電力化。より高速で遅延のない通信の実現。 |
| 防衛・気象 | 次世代フェーズドアレイレーダーの高性能化(より遠く、正確に探知)。 |
| 電力変換 | 電気自動車(EV)や産業機器のインバーターの劇的な小型化。 |
今後の展望
旭化成と名古屋大学は、この技術の量産化に向けたプロセス開発を加速させています。すでに4インチ(約10cm)の大型AlN基板の活用も視野に入っており、2020年代後半から30年代にかけての社会実装を目指しています。

旭化成と名古屋大学は、次世代素材窒化アルミニウム(AlN)を用いた高性能トランジスタを開発しました。従来の窒化ガリウム(GaN)を凌ぐ耐圧性と安定性を実現し、6G通信や次世代レーダーの飛躍的な小型・省電力化を可能にする技術として期待されています。
窒化アルミニウムを使うメリットは何か
窒化アルミニウム(AlN)を使用する主なメリットは、現在の主流である窒化ガリウム(GaN)をも超える「極めて高い物理性能」にあります。大きく分けて以下の3つの強みがあります。
1. 圧倒的な「耐圧性」(壊れにくさ)
AlNは「ウルトラワイドバンドギャップ」と呼ばれる特性を持ち、電気が漏れ出したり絶縁が破壊されたりするのを防ぐ力が非常に強いです。
- メリット: GaNの約2倍、シリコン(Si)の約20倍という高い電圧に耐えられます。これにより、より高い電圧をかけられるため、デバイスの小型化と大出力化を同時に実現できます。
2. 優れた「放熱性」(熱を逃がす力)
半導体は動かすと熱を持ち、それが性能低下の原因になりますが、AlNは熱を逃がす能力(熱伝導率)が非常に高い素材です。
- メリット: 冷却装置を簡素化できるため、システム全体を軽量・コンパクトにできます。特に宇宙空間や航空機、EV(電気自動車)など、厳しい温度環境での使用に適しています。
3. 「高周波」への対応力(6G通信の鍵)
AlNは、非常に速いスピードで電気信号を切り替える(スイッチング)ことができます。
- メリット: 5Gの次となる6G通信で使われる「テラヘルツ波」などの超高周波帯でも、エネルギーロスを抑えて効率よく通信できます。
「より大きな電気を、より高い周波量で、熱に負けずに扱える」のがAlNのすごさです。旭化成と名大のチームは、この扱いにくい素材を高品質な「基板」として制御することに成功したため、世界から注目されています。

窒化アルミニウム(AlN)は、従来のGaNを上回る「高い耐圧性」と、金属並みの「優れた放熱性」を兼ね備えています。これにより、大電力を扱っても壊れにくく、熱による劣化も抑えられるため、デバイスの劇的な小型化と高出力化が可能になります。
AlN基板の上に高品質な結晶を重ねることが難しい理由
AlN(窒化アルミニウム)基板の上に高品質な結晶を重ねるのが難しい理由は、主に「素材の気難しさ(物理的・化学的性質)」と「精密なコントロールの難しさ」にあります。具体的には、以下の3つの大きな壁が存在します。
1. 「格子定数」のズレによる歪み
AlN基板の上に、トランジスタの通り道となるGaN(窒化ガリウム)などの層を重ねようとすると、原子同士の並ぶ間隔(格子定数)が微妙に異なります。
- 問題: 下地のAlNに合わせて上の層が無理に並ぼうとするため、結晶に強い歪み(ひずみ)が生じます。
- 結果: ある程度の厚みを超えると、その歪みに耐えきれず結晶が壊れ、「転位」と呼ばれる線状の欠陥(ひび割れのようなもの)が無数に発生してしまいます。
2. 極端な高温が必要な製造環境
AlNは融点(溶ける温度)が非常に高く、化学的に非常に安定しているため、結晶を成長させるには2000℃を超えるような超高温環境が必要です。
- 問題: これほどの高温では、装置の材料から不純物が溶け出したり、温度を均一に保つことが極めて困難になります。
- 結果: 結晶の中に不純物が混ざったり、場所によって成長の仕方にムラができたりして、品質が安定しません。
3. 基板表面の「酸化膜」
AlNは空気に触れると、表面に極めて薄くて強固な「酸化アルミニウム(サファイアに近い成分)」の膜を形成します。
- 問題: この酸化膜がわずかでも残っていると、その上に重ねる結晶の並びがバラバラになってしまいます。
- 結果: 結晶の向きが揃わず(多結晶化)、電気をスムーズに流すトランジスタとしての性能を発揮できなくなります。
旭化成と名古屋大学は、これらの課題を「独自の結晶成長技術(コヒーレント成長)」で解決しました。歪みをうまく逃がしながら、原子を一段ずつ完璧に並べることで、欠陥のない高品質な層を作ることに成功しています。

主な理由は、原子間の距離(格子定数)の差による結晶の歪みと欠陥(ひび割れ)が生じやすい点です。また、成長に極端な高温を要するため不純物が混ざりやすく、表面の酸化膜が結晶の整列を妨げることも大きな障壁です。
コヒーレント成長とは何か
コヒーレント成長とは下地の結晶に合わせて、上の層が無理やり背伸びや屈伸をして、隙間なくピッタリ重なる成長のことです。
半導体の世界では、異なる材料(例えばAlNとGaN)を重ねる際、原子同士の間隔(格子定数)が違うため、普通はズレが生じてひび割れ(欠陥)が起きてしまいます。しかし、コヒーレント成長ではこのズレを「層全体の歪み」として吸収し、欠陥を作らずに積み上げます。
主な特徴は以下の通りです。
- 原子レベルの整列: 下地(基板)の原子の並びに、上の層が完全に同期して並びます。
- 欠陥の抑制: 本来なら生じるはずの「転位(ひび割れ)」を発生させないため、非常に高品質な膜になります。
- 臨界膜厚の制限: 「無理やり合わせている」状態なので、あまりに厚く積み上げると歪みエネルギーが限界を超え、結晶が壊れてしまいます(この限界を臨界膜厚と呼びます)。
旭化成・名大の開発での意味
今回の開発では、AlN基板の上に極めて薄いGaN層をこの「コヒーレント成長」によって形成しました。これにより、本来なら相性の悪い両者を、欠陥のない最高品質な状態で組み合わせることに成功し、圧倒的な性能のトランジスタを実現したのです。

コヒーレント成長とは、異なる材料を重ねる際、上の層が下地の結晶構造に合わせて原子レベルで完全に整列して成長することです。
通常、原子の間隔が違う材料を重ねると「ズレ」が生じて欠陥(ひび割れ)が起きますが、コヒーレント成長では上の層が自ら歪むことでズレを吸収し、欠陥のない高品質な膜を形成します。これが高性能な半導体作りの鍵となります
どうやってコヒーレント成長を実現したのか
旭化成と名古屋大学がコヒーレント成長を実現できた理由は、大きく分けて3つの要素の「融合」にあります。
1. 世界最高水準の「土台」:高品質AlN基板
まず、土台となるAlN単結晶基板が極めて高品質であったことが最大の要因です。
- 旭化成の子会社である米Crystal IS社が、不純物や結晶の歪みが極めて少ない、世界トップクラスのAlN基板を供給しました。
- 土台に欠陥があると、その上にどれだけ丁寧に層を重ねてもコヒーレント成長は維持できません。
2. 革新的な「成長条件」の発見
量産化に適したMOVPE法(有機金属気相成長法)を用いながら、窒化ガリウム(GaN)の層を約20nm(ナノメートル)以下という極めて薄い状態で制御する技術を確立しました。
- 厚さのコントロール: 原子数十個分という極薄の層に抑えることで、歪みのエネルギーが限界(臨界膜厚)に達してひび割れるのを防ぎました。
- 温度とガスの最適化: 須田教授や天野教授らの知見により、ガスを流すタイミングや温度を精密に制御し、一段ずつ原子を並べる「革新的結晶成長条件」を見出しました。
3. 三層構造(AlN/GaN/AlN)による安定化
単に重ねるだけでなく、AlN / GaN / AlN というサンドイッチ構造を採用しました。
- 上下をAlNで挟み込むことで、中間のGaN層に理想的な歪みをかけ続け、高品質な電子の通り道(チャネル)を安定して維持することに成功しました。

旭化成の高品質なAlN単結晶基板を土台に、名大のMOVPE法(気相成長法)を用いて、原子レベルで膜厚を制御。ひび割れが起きる直前の20nm以下という極薄の層で成長を止めることで、歪みを維持したまま欠陥のない結晶を実現しました。

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