旭化成のヘキサメチレンジアミン生産を終了 ヘキサメチレンジアミンとは何か?生産終了の理由は?

この記事で分かること

  • ヘキサメチレンジアミンとは:6個の炭素鎖の両端にアミノ基を持つ白色固体で、アジピン酸と反応させて、自動車部品などに使われる高強度・高耐熱性のナイロンを生み出します。
  • 生産終了の理由:原料などのコストの継続的な上昇と、川下製品の低迷による稼働率の低下です。これにより国際的な競争力が大きく低下し、事業継続が困難と判断されました。
  • 製造方法:アジポニトリル(ADN)という中間体を、高温高圧下で触媒の存在下、水素を用いて還元(水素化)することで工業的に大量生産されます。

旭化成のヘキサメチレンジアミン生産を終了

 旭化成はヘキサメチレンジアミン(HMD)の生産を終了することを決定しました。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC052FR0V01C25A2000000/

 これは、ナイロン樹脂(ポリアミド66)の主要な原料となる化学品製造事業からの撤退であり、先に発表されたアクリロニトリル(AN)事業などの撤退に続く、事業ポートフォリオ最適化の一環です。

ヘキサメチレンジアミンとは何か

 ヘキサメチレンジアミン(Hexamethylenediamine, 略称:HMDA)は、主に高機能ナイロン樹脂の製造に不可欠な、非常に重要な化学原料です。

 これはジアミンという有機化合物の一種で、ポリアミド(ナイロン)やポリウレタンなどの合成に使用されます。


ヘキサメチレンジアミンの特徴

項目詳細
化学式C6H16N2
構造6個の炭素原子が連なったアルカン鎖(ヘキシル基)の両端に、アミノ基(NH2)が結合した構造。H2N-(CH2)6-NH2
分類脂肪族ジアミン
性状常温では吸湿性のある白色固体(ペレットまたは薄片状)。水に溶けやすい。
化学的性質アミノ基を持つため、水溶液は強塩基性を示します。酸と激しく反応し、多くの金属に対して腐食性があります。

主な用途

ヘキサメチレンジアミンの用途は多岐にわたりますが、最も代表的なものはナイロン66(ポリアミド66)の原料としての使用です。

1. ナイロン66(ポリアミド66)の原料

ヘキサメチレンジアミンは、アジピン酸(ジカルボン酸)と反応させることで、高機能ナイロン樹脂であるナイロン66(PA66)を合成します。

  • ナイロン66: 耐熱性、強度、剛性に優れており、自動車のエンジンルーム部品、電子部品、工業用繊維(タイヤコードなど)に広く使用されます。

2. ポリウレタン原料

ヘキサメチレンジアミンは、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)という化合物を合成するための原料にもなります。

  • HDI・HDI誘導品: 塗料(特に高性能なポリウレタン塗料)、接着剤、コーティング剤の原料として使われます。

3. その他

  • 腐食防止剤
  • 硬化剤
  • 化学中間体

 旭化成が生産撤退を決めたのは、このヘキサメチレンジアミンの製造ですが、川下製品であるナイロン66樹脂の事業(「LEONA™」など)は継続し、今後はHMDを外部調達に切り替えていく方針です。

ヘキサメチレンジアミン(HMD)は、ナイロン66(ポリアミド66)樹脂の合成に不可欠な脂肪族ジアミンです。6個の炭素鎖の両端にアミノ基を持つ白色固体で、アジピン酸と反応させて、自動車部品などに使われる高強度・高耐熱性のナイロンを生み出します。塗料原料の合成にも使われる重要な化学中間体です。

撤退の理由は何か

 旭化成がヘキサメチレンジアミン(HMD)製造から撤退する主な理由は、以下に示すように厳しい経済環境の長期化と、それによる国際競争力の低下です。

1. コスト上昇と競争力の低下

  • 原料・用役(エネルギー)コストの継続的な上昇: HMDの製造にかかる原料や電力・燃料などのコストが上昇し続けました。
  • 国際競争力の低下: 上記のコスト増に対し、海外の競合他社と比較してコスト競争力を維持できなくなり、収益性が悪化しました。

2. 需給環境の悪化

  • 川下製品の低迷: HMDを原料とするポリアミド66(ナイロン66)などの川下製品の需給バランスが緩み、市場価格が低迷しました。
  • 稼働率の低下: 市場の低迷により工場の稼働率が低い水準で推移し、固定費負担が増大しました。

3. 事業構造の判断

  • 構造的・不可逆的: これらの厳しい状況が一時的なものではなく、産業構造の変化による構造的なものであり、自社の努力だけでは改善が難しいと判断しました。

 旭化成は、これらの競争力の低い基礎化学品事業から撤退し、ポリアミド66樹脂事業自体は、外部調達に切り替えることで継続し、資源を成長が見込まれる高機能素材分野に集中する方針です。

主要な理由は、原料などのコストの継続的な上昇と、川下製品の低迷による稼働率の低下です。これにより国際的な競争力が大きく低下し、事業継続が困難な構造的な問題と判断されました。

ヘキサメチレンジアミンはどのように製造されるのか

 ヘキサメチレンジアミン(HMD)は、主にアジポニトリル(Adiponitrile, ADN)という中間体を触媒を用いて水素化することによって工業的に大量生産されます。

これはナイロン66の原料を製造するためのバリューチェーンの要となる工程です。


 HMDの製造プロセスは、その前駆体であるアジポニトリル(ADN)を合成する方法によっていくつかのバリエーションがありますが、最終的にHMDを得るステップは共通しています。

1. 前駆体:アジポニトリル(ADN)の製造

HMDの出発原料となるアジポニトリル(NC-(CH2)4-CN)は、主に以下のいずれかの方法で作られます。

  • ブタジエン法(デュポン法):ブタジエンとシアン化水素(HCN)を反応させてADNを得る方法です。この方法が工業的には広く用いられています。
  • アジピン酸法:アジピン酸をアンモニアと反応させてアジポアミドを経由し、これを脱水することでADNを得る方法です。この方法は伝統的ですが、コストや環境負荷の面からブタジエン法に置き換わってきています。

2. HMDの合成:アジポニトリルの水素化(還元)

製造されたアジポニトリル(ADN)は、以下の反応によってヘキサメチレンジアミン(HMD)に変換されます。

  • 反応: ADNに水素(H2)を加え、触媒の存在下で反応させます。これは触媒的水素化(還元)反応と呼ばれます。NC-(CH2)4-CN+ 4H2→ H2N-(CH2)6-NH2
  • 触媒: 主にラネーニッケルラネーコバルトなどの金属触媒が使用されます。
  • 反応条件: 反応の副生成物を抑制し、HMDの高い収率を得るために、通常は高温高圧の条件(例:高温・高圧のアンモニア水溶液中)で行われます。

旭化成のケース

 旭化成は、かつてシクロヘキサンを出発原料とし、アジピン酸を経由してアジポニトリルを製造し、そこからHMDを合成する一貫生産体制を延岡工場で確立していました。

 今回撤退するのは、このHMD製造(アジポニトリルの水素化以降)を含む、競争力の低下した事業分野です。

ヘキサメチレンジアミン(HMD)は、アジポニトリル(ADN)という中間体を、高温高圧下で触媒(ラネーニッケルなど)の存在下、水素を用いて還元(水素化)することで工業的に大量生産されます。

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