この記事で分かること
- メタクリル酸メチルとは:有機化合物の一種で、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)の原料や塗
- メタクリル酸メチル樹脂とは:「アクリル樹脂」や「有機ガラス」とも呼ばれ、非常に透明性が高く、ガラスに匹敵する透明度を持っています。
- なぜ撤退するのか:中国内での国内での需要増加、官民による化学産業での自給率向上などを背景に、中国での製造が増加し、需給バランスが崩れ、価格が下落下落したことが背景にあります。
旭化成、メタクリル酸メチル製造から撤退
旭化成は、メタクリル酸メチル(MMA)モノマー事業から撤退することを発表しました。
https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2025/nr7mrv0000000xmi-att/ze250527_3.pdf
中国の石油化学製品の大規模な生産能力増強により、需給バランスが崩れたことや原料価格の高騰が背景にあるとしています。
メタクリル酸メチルとは何か
メタクリル酸メチル(Methyl Methacrylate, 略称:MMA)は、有機化合物の一種で、メタクリル酸のメチルエステルです。無色透明の液体で、特異な刺激臭または果実臭を持っています。
特徴
- 無色透明の液体: 目に見える色素がなく、透明な性質を持っています。
- 刺激臭: 強い匂いがあり、人によっては刺激的に感じることがあります。
- 引火性: 熱や火花、炎で容易に発火する引火性の高い液体です。
- 重合性: 熱や光、特定の物質との接触により、分子が結合して高分子化合物(ポリマー)に変化する性質(重合)を持っています。この重合反応によって、プラスチックの一種であるメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)が作られます。
主な用途
MMAは主に以下の用途で使用されます。
メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)の原料
- PMMAは「アクリル樹脂」や「有機ガラス」とも呼ばれ、非常に透明性が高く、ガラスに匹敵する透明度を持っています。
- 耐候性、耐衝撃性にも優れているため、窓ガラス代替材、自動車のテールランプ、照明器具、液晶ディスプレイの導光板・拡散板、水槽、サインボード、人工大理石などに広く利用されています。
- 近年では、光学関連製品向けに、透明ABS樹脂やMS樹脂などの原料としても使用されます。
塗料
- 塗料の原料として、その耐久性や光沢性が活かされます。
接着剤
強力な接着力を持ち、さまざまな素材の接着剤として使われます。
樹脂改質剤
- 他のプラスチックの性能(透明性、耐熱性など)を向上させるための改質剤として使用されます。例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)の耐衝撃性を向上させるMBS樹脂の原料や、PMMAの耐熱性を向上させるSMM樹脂の原料となります。
その他
- 紙コーティング剤、繊維加工樹脂、歯科材料(レジン)、潤滑油添加剤、コンクリート混和剤など、幅広い分野で利用されています。
このように、MMAは私たちの身の回りの様々な製品に使われている、非常に重要な基礎化学品の一つです。

メタクリル酸メチルは、有機化合物の一種で、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)の原料や塗料、接着剤などに利用されています。
どのように製造されるのか
メタクリル酸メチル(MMA)の製造には、いくつかの異なるプロセスが存在しますが、主な工業的製法として以下のものが挙げられます。
1. アセトンシアンヒドリン(ACH)法
最も古くから確立され、広く採用されてきた製法の一つです。
- 原料: アセトンとシアン化水素(青酸)
- プロセス:
- アセトンシアンヒドリンの合成: アセトンとシアン化水素を反応させ、アセトンシアンヒドリン(ACH)を生成します。
- 硫酸による加水分解・エステル化: ACHを硫酸の存在下で加水分解し、メタクリルアミド硫酸塩を生成します。その後、メタノールを加えてエステル化と脱アンモニア反応を進め、MMAを製造します。
- 副産物: このプロセスでは、硫酸アンモニウムが大量に副生するという課題があります。
2. C4法(イソブチレン直酸法、直メタ法など)
イソブチレン(またはtert-ブチルアルコール、TBA)を原料とするプロセスです。
- 原料: イソブチレン(またはTBA)
- プロセス:
- 二段階酸化: イソブチレン(またはTBA)を二段階で酸化し、メタクリル酸(MAA)を製造します。
- エステル化: 製造されたメタクリル酸をメタノールと反応させてエステル化し、MMAを得ます。
- 特徴: 比較的安定した原料供給と、ACH法に比べて副産物の処理が容易である点がメリットとされます。
3. エチレン法(C2法)
エチレンを出発原料とする比較的新しいプロセスです。
- 原料: エチレン、メタノール、一酸化炭素、ホルムアルデヒドなど
- プロセス: エチレンにメタノールと一酸化炭素を付加させてプロピオン酸メチルとし、さらにホルムアルデヒドと脱水縮合させてMMAを得る方法など、いくつかのバリエーションがあります。
- 特徴: 汎用的な原料を使用できるため、プラントの立地や規模の制限が少ないというメリットがあります。三菱ケミカルの「Alpha法」やEvonikの「LiMA法」などがこのカテゴリに属します。
その他の製造技術
近年では、環境負荷低減や持続可能性の観点から、以下のような新規製造技術の開発も進められています。
- ケミカルリサイクル: 使用済みのアクリル樹脂(PMMA)を分解して、元のモノマーであるMMAを回収し、再利用する技術。
- 植物由来原料の適用: 既存のMMAモノマー製造プロセスに植物由来の原料を適用する技術。
- 発酵法: 植物由来原料から発酵によって直接MMAモノマーを製造する技術。
これらの製造プロセスは、原料の入手性、コスト、環境への影響、技術の成熟度など、様々な要因に基づいて選択され、各メーカーによって最適な方法が採用されています。

メタクリル酸メチルはアセトンを原料としたアセトンシアンヒドリン法、イソブチレンを原料としたC4法、エチレンを原料としたエチレン法などの方法で製造されています。
透明ABS樹脂、MS樹脂とは何か
「透明ABS樹脂」と「MS樹脂」は、どちらも一般的なプラスチックの特性を改良し、透明性を付与した樹脂です。それぞれの特徴と用途を説明します。
1. 透明ABS樹脂(MABS樹脂)
一般的にABS樹脂(Acrylonitrile Butadiene Styrene copolymer)は、アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)の3つのモノマーを重合させたもので、耐衝撃性、加工性、表面の光沢性に優れています。しかし、通常は乳白色や半透明で、完全に透明ではありません。
「透明ABS樹脂」は、このABS樹脂の組成を調整したり、特定の改質剤を配合したりすることで、透明性を付与したものです。特に、ブタジエンの含有量を調整したり、透明なメタクリル酸メチル(MMA)を共重合させたMABS樹脂(Methyl Methacrylate-Acrylonitrile Butadiene Styrene copolymer)が一般的です。
特徴
- 透明性: 完全なガラスのような透明度ではないものの、通常のABS樹脂よりもはるかに高い透明性を持ちます。
- 耐衝撃性: ABS樹脂の最大の強みである耐衝撃性をある程度維持しています。PMMA(アクリル樹脂)より高い耐衝撃性を持つことが多く、ガラスやPMMAでは割れやすい用途に適しています。
- 加工性: 良好な成形加工性を持っています。
- 剛性: 比較的高い剛性を持っています。
- 耐薬品性: 特定の薬品に対して耐性があります(ただし、有機溶剤には弱い場合があります)。
- 比重が低い: ポリカーボネート(PC)などと比較して比重が低く、軽量化に貢献します。
用途
- 家電部品: ゲーム機のハウジング、AV機器部品など、高いデザイン性と耐久性が求められる部分。
- 化粧品容器: 透明性を活かした高級感のある容器。
- 医療機器: 透明性と耐衝撃性が要求される部品。
- 日用品: 透明コップ、文具、おもちゃなど。
- 自動車部品: 内装部品など。
2. MS樹脂(メチルメタクリレート・スチレン共重合樹脂)
MS樹脂は、メタクリル酸メチル(MMA)とスチレンの共重合樹脂です。PMMA(アクリル樹脂)とPS(ポリスチレン)の中間的な特性を持つように設計されています。
特徴
- 透明性: PMMAに近い高い透明性を持っています。
- 吸湿性の低さ: PMMAと比較して吸湿性が低いため、寸法安定性に優れています。これは、湿度の変化による変形が少ないことを意味します。
- 成形性: PSに近い良好な成形性を持っています。
- 耐アルコール性: PSやPMMAと比較して、耐アルコール性に優れています。
- 表面硬度・耐候性: PMMAと同等の高い表面硬度と耐候性を持っています。
- 比重が低い: 軽量性に優れています。
用途
- 光学部品: レンズ、導光板、照明カバーなど、透明性と高い光学特性が求められる用途。
- 食品容器: 酸性食品、油性食品、アルコール性食品の容器など、耐薬品性や透明性が求められるもの。
- 雑貨: コップ、ディスプレイ、文具など。
- 家電部品: 液晶ディスプレイ用シート・板、OA部品など。
- 建築材料: カーポートルーフ、サイネージなど。

透明ABS樹脂はABS樹脂の特性を活かしたまま、透明性を付与した樹脂、MS樹脂はアクリルの透明性とポリスチレンの成形成形を併せ持った樹脂のことです。
中国での製造が増えている理由はなにか
中国がメタクリル酸メチル(MMA)の製造能力を大幅に増強している背景には、複数の要因が絡み合っています。
1. 国内需要の急速な拡大
中国経済の成長に伴い、MMAを原料とするアクリル樹脂(PMMA)やその他の誘導体に対する国内需要が爆発的に増加しています。
- 自動車産業の発展: 自動車のヘッドライトカバー、テールランプ、内装部品などにPMMAが多用されており、自動車生産台数の増加がMMA需要を牽引しています。特に、電気自動車(EV)の普及も新たな需要を生み出しています。
- 建設・建築分野の活況: 窓ガラス代替材、建築用パネル、内装材、塗料、接着剤など、建設・建築分野でのMMA関連製品の需要が堅調です。都市化の進展や住宅建設の増加がこれに寄与しています。
- 電子機器・ディスプレイ産業の成長: 液晶ディスプレイの導光板や拡散板、スマートフォンやタブレット端末のカバー材など、電子機器分野での需要も拡大しています。
- 日用品・雑貨の消費増加: 各種容器、文具、玩具など、幅広い日用品でMMAが使用されており、中間所得層の拡大が消費を押し上げています。
2. 化学産業の自給率向上と垂直統合戦略
中国政府は、基幹化学品の国内自給率向上を重要な戦略と位置付けています。かつては輸入に大きく依存していたMMAも、国内での生産能力を増強することで、サプライチェーンの安定化とコスト競争力の確保を目指しています。
- 「石化一体化」戦略: 石油精製と石油化学プラントを一体化させ、原油から最終製品まで一貫して生産する「石化一体化」プロジェクトを推進しています。これにより、原料調達から製品製造までのコストを最適化し、国際競争力を高めようとしています。
- 新規プロセスの導入: アセトンシアンヒドリン(ACH)法に加えて、C4法やエチレン法といった比較的新しい効率的なMMA製造プロセスの導入を進めており、これも生産能力の向上に寄与しています。
3. コスト競争力と輸出志向
中国国内での大規模な生産設備投資は、生産コストの低減につながり、国際市場での競争力を高めています。
- 規模の経済: 大規模なプラントを建設することで、単位当たりの生産コストを下げることが可能です。
- 原料コストの優位性: 国内で石化原料の供給が増えることで、相対的に原料コストを抑えられる場合があります。
- 輸出拡大: 国内需要の成長と並行して、アジア太平洋地域を中心にMMAおよびその誘導品の輸出を拡大しようとしています。
4. 政府の支援と投資奨励
中国政府は、戦略的な産業分野への投資を奨励しており、石油化学産業もその対象となっています。
- 政策支援: 産業政策や補助金などを通じて、国内企業の生産能力増強や技術開発を後押ししています。
これらの要因が複合的に作用し、中国におけるMMAの製造能力が急速に拡大していると考えられます。
その結果、国際的なMMA市場における需給バランスに大きな影響を与え、旭化成のような他国のメーカーが事業撤退を検討する状況を生み出しています。

国内での需要増加、官民による化学産業での自給率向上などを背景に、中国での製造が増加しています。
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