ASMインターナショナルの受注好調 好調の理由、ALD装置の需要が増加している理由は何か?

この記事で分かること

  • ASMインターナショナルとは:原子レベルで極薄膜を形成するALD(原子層堆積)装置で世界シェア過半を握る独占的リーダーです。最先端チップの微細化に不可欠な技術を持っています。
  • 好調の理由:中国市場での需要が予想以上に急回復したこと、および次世代構造の半導体(GAA)への移行に伴い、強みであるALD装置の受注が加速したことです。AI向け先端チップ製造に不可欠な技術が業績を押し上げました。
  • GAAでのALD装置需要増加の理由:電流の通り道をゲートが全周囲から包み込むため、極めて狭く複雑な隙間に均一な膜を張る必要があります。原子一層ずつ積み上げるALD技術なら、従来の装置では届かない隙間の奥まで精密に成膜できるため、製造に不可欠になっています。

ASMインターナショナルの受注好調

 ASMインターナショナル(ASMI)は2026年1月19日に発表した2025年第4四半期(10〜12月期)の暫定決算にて、受注額が市場予想を大幅に上回ったと発表しています。

 https://jp.reuters.com/markets/world-indices/NFMBF6RZLFONFNRJPBOKSL7FN4-2026-01-19/

 この発表は、半導体業界全体の回復を占う上で非常にポジティブなサプライズとして注目されています。

ASMインターナショナルはどんな企業か

 ASMインターナショナル(以下、ASM)は、オランダに本拠を置く世界的な半導体製造装置メーカーです。原子レベルの極薄膜を作る技術(ALD)で、世界シェアの過半数を握る独占的なリーダーです。

 私たちが使っているスマートフォンや、最新のAIチップ、電気自動車などの性能を影で支えている非常に重要な企業です。


1. ALD(原子層堆積)装置の圧倒的シェア

 ASMの最大の武器は「ALD装置」です。これは、ウェーハの上に原子一層ずつの厚さで材料を積み上げていく技術です。

  • 市場シェア: 単一ウェーハALD装置の分野で、世界シェア55%以上を誇るトップ企業です。
  • なぜ重要か: 半導体が「3ナノ」「2ナノ」と微細化するにつれ、従来の技術では膜が厚すぎて回路が作れなくなっています。原子レベルで制御できるASMの装置は、最先端チップの製造に不可欠です。

2. 「フロントエンド(前工程)」のスペシャリスト

 半導体製造には大きく分けて「前工程(回路形成)」と「後工程(組み立て)」がありますが、ASMは前工程に特化しています。

  • 主力製品: ALD装置のほか、エピタキシャル成長装置(Epi)、化学気相成長装置(CVD)など、膜を形成する「成膜プロセス」に強いラインナップを持っています。
  • 補足: 以前は後工程のASMPT(旧ASMパシフィック)も傘下にありましたが、現在は分離され、前工程のハイテク装置に集中する戦略をとっています。

3. 次世代技術「GAA」の勝ち組

 今、半導体業界は「FinFET」から「GAA(Gate-All-Around)」という新しい構造に移行しています。

  • GAA構造は非常に複雑で、隙間に精密な膜を張る必要があります。
  • この構造への移行により、1チップあたりのALD装置の使用回数(ステップ数)が劇的に増えるため、ASMは「微細化が進めば進むほど儲かる構造」にあります。

4. 日本との深い関わり

 オランダ企業ですが、実は日本とも縁が深いです。

  • 1982年に日本法人(日本エー・エス・エム)を設立。
  • 多摩(東京)に研究開発拠点や製造工場を持っており、日本の高い部品供給網やエンジニアリング力を活かして、世界市場向けの製品を開発・生産しています。

会社概要データ

  • 設立: 1968年
  • 本社: オランダ・アルメレ
  • 主な顧客: インテル、TSMC、サムスン、SKハイニックスなどの世界大手メーカー
  • 競合: アプライド・マテリアルズ(米)、東京エレクトロン(日)、ラムリサーチ(米)

オランダに本拠を置く半導体製造装置大手です。原子レベルで極薄膜を形成するALD(原子層堆積)装置で世界シェア過半を握る独占的リーダーです。最先端チップの微細化に不可欠な技術を持ち、業界を牽引しています。

好調の理由は何か

 ASMインターナショナルの業績が市場の予想を超えて好調だった理由は、主に以下の3つの要因に集約されます。


1. 中国市場からの注文が「予想外に」急回復した

 2025年第3四半期(7〜9月期)には、中国向け注文が一時的に落ち込み、先行きが不安視されていました。しかし、第4四半期に入ると中国の顧客からの受注が急激にリバウンドしました。

 米中貿易摩擦への備えや、中国国内でのレガシー(汎用)から先端寄りまでの自国生産拡大が、強い引き合いに繋がっています。

2. 次世代技術「GAA」への移行が進んでいる

 世界の大手半導体メーカー(TSMCやサムスンなど)が、従来の「FinFET」という構造から「GAA(Gate-All-Around)」という新世代の構造に移行し始めたことが追い風です。

  • ASMの独壇場: GAA構造の製造には、ASMが得意とするALD(原子層堆積)装置がこれまで以上に多く必要になります。
  • 先行投資: 2026年以降の量産開始に向けた設備投資が本格化したことで、同社の装置への注文が加速しました。

3. AI(人工知能)向けチップの需要

 AIブームにより、高性能なロジック半導体だけでなく、HBM(高帯域幅メモリ)などの先端メモリの需要も高まっています。

  • これらのチップを製造する過程でも、より精密な「膜」を作る技術が求められており、ASMの先端装置に対する需要を押し上げました。

 市場関係者は「中国の景気減速や米国の規制で受注は伸び悩む」と慎重に見ていました。しかし、実際には「中国のリバウンド」「次世代AIチップ向け技術への強いニーズ」が重なり、悲観的な予測を大きく上回る結果となりました。

主な理由は、中国市場での需要が予想以上に急回復したこと、および次世代構造の半導体(GAA)への移行に伴い、強みであるALD装置の受注が加速したことです。AI向け先端チップ製造に不可欠な技術が業績を押し上げました。

ALD装置はどのように原子を1つづつ積み上げるのか

 ALD(原子層堆積)装置が原子を1層ずつ積み上げる仕組みは、2種類のガスを交互に流し、「化学吸着」と「自己制限機能」を利用することで実現しています。

 イメージとしては、「スプレーで色を塗る」のではなく、「レゴブロックを1段ずつ完璧にハメていく」ような精密な工程です。


ALDの4つのステップ(1サイクルの流れ)

 例えば、アルミの膜(酸化アルミニウム)を作る場合を例に説明します。

  1. ステップ1:材料A(プリカーサー)の投入最初のガスを流すと、ウェーハの表面にある「結合の手」とガスが結びつきます(化学吸着)。表面がすべて埋まると、それ以上はガスを流しても反応が止まります。これを「自己制限機能」と呼びます。
  2. ステップ2:余分なガスの排気(パージ)表面に吸着しなかった余分なガスを不活性ガスで追い出します。これで表面には「原子1層分」だけが並んだ状態になります。
  3. ステップ3:材料B(反応ガス)の投入2番目のガス(酸素など)を流すと、すでに表面に並んでいる材料Aとだけ反応し、目的の化合物(膜)へと変化します。
  4. ステップ4:再び排気(パージ)反応で出たカスや余分なガスを追い出します。

なぜこれがすごいのか

  • 「回数」で厚さが決まる: この1〜4の工程を「1サイクル」とし、例えば100回繰り返せば、正確に原子100層分の厚さになります。
  • どこでも均一: ガスを流し込む方式のため、複雑な構造の「深い溝」や「裏側」であっても、隙間なくきれいに原子1層を並べることができます。これがGAAのような複雑な立体構造の製造に不可欠な理由です。

2種類の原料ガスを交互に送り込み、基板表面で化学反応を起こさせます。自己制限機能により、表面が原子1層で覆われると反応が止まるため、この工程を繰り返すことで原子1層ずつの厚さを正確に制御し、複雑な立体構造にも均一な膜を形成できます。

なぜGAAでALD装置が必要なのか

 半導体の構造が従来の「FinFET」から次世代の「GAA(Gate-All-Around)」に変わると、構造が圧倒的に複雑で立体的(3次元的)になるためです。

1. 「極めて狭い隙間」を埋める必要がある

 GAA構造では、電流が流れる通路(チャネル)をゲートが「全周囲(All-Around)」で包み込みます。このため、ナノメートル単位の極めて狭い隙間に、均一に絶縁膜などを形成しなければなりません。

  • ALDの強み: 従来の技術(CVDなど)では、狭い隙間の入り口付近に材料が溜まってしまい、奥まで均一に膜が届きません。一方、ALDは「原子一層ずつ」を積み上げるため、どんなに複雑で狭い隙間の奥底でも、均一な厚さで膜を張ることができます。

2. 膜厚の「超精密な制御」が求められる

 GAAでは、デバイスの微細化が究極まで進んでいるため、膜の厚さがわずか原子数個分変わるだけで、半導体の性能や電力効率が大きく損なわれてしまいます。

  • ALDの強み: 原子レベル(0.1ナノメートル単位)で膜厚をコントロールできるのはALDだけであり、GAAの設計通りの性能を引き出すために必須の技術となっています。

3. 使用する「ステップ数(工程数)」の増加

 GAA構造を製造するには、従来のFinFET構造に比べて、ALD技術を必要とする工程(ステップ数)が大幅に増えます。

  • 通路を包み込むゲート部分だけでなく、複数のナノシートを積み重ねる際の間隔保持など、ALDでしか対応できない工程が増えるため、装置の需要が爆発的に高まっています。

 構造が複雑すぎて、原子レベルで制御できるALD技術でないと、もはや回路を正常に作ることができないからというのが、GAAでALD装置が必要とされる理由です。

GAA構造では、電流の通り道をゲートが全周囲から包み込むため、極めて狭く複雑な隙間に均一な膜を張る必要があります。原子一層ずつ積み上げるALD技術なら、従来の装置では届かない隙間の奥まで精密に成膜できるため、製造に不可欠となっています。

ASMのALD装置は中国への輸出禁止になっていないのか

 ASMのALD装置が中国へ輸出禁止になっているかどうかについては、「全面的に禁止」ではなく、「先端向けは禁止、汎用向けは許可制」という複雑な状況にあります。

1. 「最先端」向けは厳しく規制

 米国やオランダ政府の規制により、以下の装置の輸出は事実上制限されています。

  • 先端ロジック(14/16ナノメートル以下)や、先端メモリの製造に使われる最新鋭のALD装置。
  • 特に、先ほど説明したGAA構造(2ナノ世代など)を製造するための最新技術は、中国の先端ファブ(チップ工場)への輸出が厳しく止められています。

2. 「汎用(レガシー)」向けが好調の理由

 一方で、今回のASMの決算が良かったのは、規制対象外の装置が中国で売れ続けているからです。

  • パワー半導体やアナログ半導体など、28ナノメートルより古い世代(レガシープロセス)向けの装置は、依然として中国からの需要が非常に強いです。
  • 中国企業は、先端チップが作れなくても、自動車や家電向けの汎用チップで自給率を上げようとしており、そのための「許可される範囲の装置」を大量に購入しています。

3. オランダ政府の独自規制

 ASMの本拠地であるオランダは、米国の圧力もあり、2023年以降、独自の輸出管理を強化しました。

  • ASMの主力製品である一部のALD装置やエピタキシャル成長装置も、輸出の際にオランダ政府の「個別許可」が必要なリストに含まれています。
  • そのため、ASMは「どの顧客の、どの工場に送るか」を厳格に審査されながらビジネスを続けています。

最先端チップ(GAA等)向け装置は規制対象ですが、それ以外の汎用半導体向け装置は許可を得て輸出が可能です。中国が自国生産拡大のために規制外の装置を大量購入していることが、ASMの好調な受注を支えています。

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