ASMの2025年第2四半期の受注額低迷 ASMはどんな装置を扱っているのか?低迷の理由は?

この記事で分かること

  • ASMの扱っている装置:半導体製造の前工程で使われる成膜装置を手掛け、特にALD(原子層堆積)装置に強みを持っています。
  • 低迷の理由:ASMの不振は、先進ロジック・ファウンドリ分野の受注減、顧客の投資計画遅延、メモリ市場の低迷が主因となっています。一部の大手顧客の設備投資抑制や、地政学的要因も影響しています。
  • 先進ロジック・ファウンドリ分野の受注減の理由:IntelやSamsungなど主要顧客の投資抑制や戦略転換が主因です。AIシフトに伴う既存ラインの調整や、市場の周期的な調整、地政学的な影響も影響しています。

ASMの2025年第2四半期の受注額低迷

 7月23日の発表によると、ASMの2025年第2四半期(4~6月)の受注額が市場予想を下回りました。

 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-07-23/SZTNUYGPL3ZQ00

 ASMの主要技術の強みや長期的な成長分野への注力は変わっていませんが、半導体市場の周期的な変動や一部の顧客の投資抑制による一時的な需要減少とみられています。

ASMはどんな装置を扱っているのか

  ASM International(以下、ASM)は、主に半導体製造プロセスの前工程で使用される、成膜装置(薄膜形成装置)に特化したメーカーです。特に以下の技術に強みを持っています。

1. ALD(原子層堆積)装置

 ASMの最も主要で、かつ競争優位性の高い製品がALD(Atomic Layer Deposition:原子層堆積)装置です。ALDは、原子レベルで薄い膜を形成する技術で、以下の特徴があります。

  • 極めて薄い膜の形成: 原子を一層ずつ堆積させるため、ナノメートルオーダーの極薄膜を高精度で形成できます。
  • 高い膜質と均一性: 成膜プロセスを精密に制御できるため、欠陥が少なく、均一な膜を形成できます。
  • 優れた段差被覆性: 複雑な形状や高いアスペクト比の構造に対しても、均一に膜を被覆することができます。

 ALD技術は、以下の用途で特に重要視されています。

  • 高誘電率(High-k)ゲート絶縁膜: トランジスタのゲート絶縁膜として、より高い誘電率を持つ材料を原子レベルで制御して堆積することで、デバイスの性能向上と電力効率改善に貢献します。
  • 次世代半導体(2nm、1.4nmなど): より微細なプロセスノードでは、ALDが不可欠な技術となっています。特に、新しいトランジスタ構造であるGAA(Gate-All-Around)FETの形成において、ALDは重要な役割を果たします。
  • 先進パッケージング: チップレットなどの先進パッケージング技術でも、ALDによる精密な成膜が必要とされます。

 代表的なALD装置としては、「Synergis ALD」「Pulsar XP」「EmerALD XP」などがあります。

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2. PECVD(プラズマCVD)装置

 ALD以外にも、ASMはPECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition:プラズマ強化化学気相成長)装置も提供しています。PECVDは、プラズマを利用して低温で薄膜を形成する技術で、様々な絶縁膜や導電膜の形成に用いられます。

  • 代表的なPECVD装置としては、「Dragon XP8」などがあります。

3. 熱処理装置(縦型拡散/CVD装置)

 半導体製造プロセスにおいて、膜形成だけでなく、熱処理も重要な工程です。ASMは、ウェーハの熱処理を行う縦型拡散/CVD装置も手掛けています。

  • 代表的な装置としては、「A412 PLUS」(300mmウェーハ対応)や「A400」(200mm以下ウェーハ対応)などがあります。

ASMは主に半導体製造の前工程で使われる成膜装置を手掛け、特にALD(原子層堆積)装置に強みを持っています。原子レベルで精密な薄膜を形成し、高誘電率ゲート絶縁膜や次世代半導体(GAA等)に不可欠な技術を提供。PECVD装置や熱処理装置も扱います。

なぜ不振なのか

 ASM Internationalの不振の主な理由は、2025年第2四半期(4~6月)の新規受注額が市場予想を下回ったことにあります。具体的には以下の要因が挙げられます。

先進ロジック/ファウンドリ分野での受注減

  特に最先端のロジック半導体や、それらを製造するファウンドリ企業からの受注が減少しました。これは、一部の大手半導体メーカーが現在の市場状況や、AI分野への投資シフトに伴う既存ラインの調整などにより、設備投資を一時的に抑制しているためと考えられます。ASMは、この四半期ごとの受注の変動は「lumpy nature(ばらつき)」によるものと説明しています。

顧客の投資計画のタイミング

 新規の製造施設の建設や、既存施設の拡張計画が顧客側の都合で遅延したり、発注のタイミングがずれたりしていることが影響しています。

メモリ市場の弱さ

D-RAMやNAND型フラッシュメモリといったメモリ半導体市場の回復が予想よりも緩やかであることも、関連装置の受注に影響を与えています。

前年同期との比較

前年同期の受注が非常に好調だったことの反動という側面もあります。半導体製造装置の受注は周期的な変動が大きいため、前年の強い数字と比較すると、一時的に低迷しているように見えることがあります。

一部の主要顧客の不振

  米国のIntelや韓国のSamsung Electronicsといった主要な半導体メーカーが、AI分野での競争や、事業再編、コスト削減などにより設備投資に慎重になっていることが、ASMの受注にも影響を及ぼしています。特にSamsungは直近の四半期で減益となりました。

地政学的な要因

  米国による対中輸出規制などの地政学的な問題も、ASMの中国市場での売上高に影響を与え続けています。ASMは、2025年の中国での売上高比率が20%程度に減少すると予測しています。

 ただし、注意すべき点として、ASMの売上高自体は前四半期比で微減ながらも、前年同期比では増加しており、粗利益率も高い水準を維持しています。また、ASMは依然としてALD技術のリーダーであり、GAA技術や先進パッケージングといった長期的な成長分野での強みは変わっていません。

 そのため、現在の不振は一時的なものであり、半導体市場全体の回復とともに受注も改善に向かうという見方が一般的です。

ASMの不振は、先進ロジック・ファウンドリ分野の受注減、顧客の投資計画遅延、メモリ市場の低迷が主因となっています。一部の大手顧客の設備投資抑制や、地政学的要因も影響しています。前年同期比の反動も背景にあります。

先進ロジック・ファウンドリ分野の受注減の理由は

 先進ロジック・ファウンドリ分野の受注減の主な理由は、複数の要因が絡み合っています。

一部の主要顧客の投資抑制と戦略転換

  • IntelやSamsungのファウンドリ事業の苦戦: かつて業界をリードしていたIntelやSamsungといった企業は、最先端プロセスの歩留まりの低さや巨額な開発・設備投資により、ファウンドリ事業が赤字に陥っていると報じられています。特にSamsungは、顧客需要の低迷や生産効率向上のため、ファウンドリ部門への設備投資を大幅に削減する計画を発表しています。これにより、既存ラインの稼働率が低下したり、新規投資が抑制されたりしています。
  • AI分野へのシフトと既存事業の調整: AI半導体需要は急速に伸びている一方で、従来のPCやスマートフォン向けの半導体需要は鈍化している部分があります。一部の半導体メーカーは、AI半導体への投資を優先する中で、既存の先進ロジックラインへの投資を一時的に見送ったり、最適化を進めたりしている可能性があります。

市場の周期的な調整と投資の「lumpy nature」

  • 半導体製造装置の受注は、市場の景気サイクルや顧客の投資タイミングによって大きく変動する特性(lumpy nature)があります。前年やその前の期間に非常に大規模な投資が行われた反動として、一時的に受注が落ち着くことがあります。特に先進ロジック分野では、一度に非常に高額な装置が導入されるため、その影響が顕著に出やすいです。

地政学的な影響の継続

  • 米国による対中輸出規制は、中国の半導体メーカーが先進プロセス装置を入手しにくくしており、これが全体の受注量に影響を与えている可能性があります。ASMも中国市場での売上減少を予測しています。

 これらの要因が重なり、先進ロジック・ファウンドリ分野、特にASMが強みを持つ最先端プロセスに関連する装置の受注に一時的な低迷が見られていると考えられます。ただし、AI需要の拡大や長期的な半導体市場の成長予測から、この分野への投資は中長期的には再び活発化すると見られています。

先進ロジック・ファウンドリ分野の受注減は、IntelやSamsungなど主要顧客の投資抑制や戦略転換が主因です。AIシフトに伴う既存ラインの調整や、市場の周期的な調整、地政学的な影響も影響しています。

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