この記事で分かること
- スラグとは:金属を製錬する際に発生する、目的成分以外の溶融物(鉱滓)です。製鉄過程で生じる高炉スラグや製鋼スラグが代表的です。
- スラグの破壊工程:溶融スラグを徐冷で固化させ、その大きな塊をブルドーザーなどの重機で破砕し、選別する流れでした。
- 自動化の手法:高温下での重機操作は危険と隣り合わせで、作業員に大きな負担がかかっていました。ブルドーザーにGNSSやIMUなどのセンサーを搭載し、高精度な位置と姿勢を推定し、オペレーターが指示した範囲内で、ブルドーザーが最適な経路を自動で算出し、自律的に走行・破砕しています。
JFE物流のスラグ破壊自動化
JFE物流は、JFE瀬戸内物流、そして株式会社DeepXと共同で、JFEスチール西日本製鉄所(倉敷地区)において、ブルドーザーによるスラグ破砕作業の自動化の実証を開始しました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/de22188b8c0ed0fd6d97d1246892bda82c8f33ad
作業員に大きな負担となっていた、高温下での重機操作を自動化することで負担軽減が可能になるものと思われます。
スラグとは何か
「スラグ」とは、主に鉱石から金属を製錬する過程で生じる、目的成分以外の溶融物(副産物)を指します。日本語では「鉱滓(こうさい)」や「のろ」とも呼ばれます。
製鉄プロセスを例に挙げると、鉄鉱石を高温で溶か し、鉄を取り出す際に、鉄以外の不純物(シリカ、アルミナなど)が、溶融を助けるために加えられる石灰石などの溶剤と結合して、液体として分離します。この液体が冷却されて固まったものがスラグです。
スラグは、その起源によって大きく二つの種類に分けられます。
- 金属製造工程起源スラグ:
- 鉄鋼スラグ: 鉄鋼製品の製造過程で生まれるスラグで、最も一般的です。
- 高炉スラグ: 銑鉄を製造する高炉で発生します。鉄鉱石中の鉄以外の成分と、コークスの灰分、石灰石などが溶け合ったものです。冷却方法によって、徐々に冷やした「徐冷スラグ」と、水で急冷した「水砕スラグ」があります。
- 製鋼スラグ: 銑鉄から鋼を精錬する過程で発生します。転炉で生成される「転炉系スラグ」と、電気炉で生成される「電気炉系スラグ」があります。
- 非鉄金属スラグ: 銅、ニッケル、亜鉛などの非鉄金属を製錬する際に発生するスラグです。
- 鉄鋼スラグ: 鉄鋼製品の製造過程で生まれるスラグで、最も一般的です。
- 廃棄物加熱溶融起源スラグ:
- ごみや焼却灰などを高温で溶融処理した際に生成されるものです。これは厳密には金属製錬の副産物ではありませんが、近年ではスラグと呼ばれることがあります。
スラグの用途
かつては不要物として扱われることもありましたが、現在ではその特性を活かして多岐にわたる用途で有効活用されており、資源循環型社会において重要な役割を担っています。
主な用途としては以下のものがあります。
- 建設資材:
- 路盤材: 道路の下地材として広く利用されます。
- コンクリート用骨材: コンクリートの材料(砂利や砂の代替)として使用されます。特に水硬性を持つ高炉スラグは、セメントの原料としても利用されます。
- 地盤改良材: 軟弱地盤の改良に用いられます。
- レンガ: スラグを原料としたレンガ(鉱滓煉瓦)も古くから存在します。
- 土壌改良材・肥料:
- 微量の鉄分や植物に必要な栄養分を含むため、土壌改良や肥料としても使われます。
- 環境対策:
- 磯焼け対策として、海に投入され藻場再生に貢献する研究や実用化が進められています。
- セメント原料: 高炉水砕スラグはセメントの原料の一部として使用され、高炉セメントの製造に貢献します。
このように、スラグは単なる廃棄物ではなく、様々な産業で有効活用される貴重な資源となっています。JFE物流の取り組みも、このスラグを安全かつ効率的に処理・再利用するための重要な一環と言えるでしょう。

スラグは、金属を製錬する際に発生する、目的成分以外の溶融物(鉱滓)です。製鉄過程で生じる高炉スラグや製鋼スラグが代表的です。かつては廃棄物でしたが、現在は路盤材やコンクリート骨材など、建設資材を中心に幅広く再利用される貴重な資源となっています。
従来のスラグの処理方法は
従来のスラグ処理方法は、主にその冷却方法と最終的な利用形態によって分類されます。JFE物流が自動化しようとしているのは、特に高温の製鋼スラグの処理に関わる部分です。
1. 冷却・固化
製鉄所から排出されるスラグは、溶けた状態(約1,500℃~1,600℃)であるため、まず冷却・固化させる必要があります。
- 徐冷(空冷): 最も一般的な方法です。溶融スラグを専用のピットや敷地内に広げ、時間をかけて自然に冷却・固化させる方法です。冷却に時間がかかり、固まったスラグは大きな塊になるため、後で破砕する必要があります。JFE物流が自動化を目指しているのは、まさにこの破砕作業です。
- 水砕(急冷): 溶融スラグに大量の水をかけて急速に冷却する方法です。これにより、スラグはガラス質で砂状の粒(水砕スラグ)になります。急冷するため、非常に細かい粒状になり、破砕作業は不要です。主に高炉スラグに用いられ、水硬性を持つためセメントの原料など高付加価値な用途に利用されます。
2. 破砕・選別
徐冷されたスラグは、非常に硬い大きな塊になるため、利用するためには細かく砕く必要があります。
- 重機による破砕: ブルドーザーや油圧ショベルなどの重機に、スラグを砕くための特殊なアタッチメント(リッパーやブレーカー)を取り付けて破砕します。JFE物流が自動化しようとしているのはこの作業です。高温のスラグを扱うため、オペレーターにとっては危険が伴い、体力的な負担も大きい作業でした。
- プラントによる破砕・選別: 破砕されたスラグは、粒度別に分類するために専用の破砕・選別プラントに通されます。ここで、磁選機などを使ってスラグ中に含まれる鉄分(還元された鉄)を回収することもあります。
3. 再利用
破砕・選別されたスラグは、その粒度や種類に応じた用途に転用されます。
- 建設資材:
- 路盤材: 道路の基盤材料として最も広く使われます。
- コンクリート骨材: コンクリートの砂や砂利の代替として利用されます。
- 地盤改良材: 軟弱地盤の安定化に役立ちます。
- セメント原料: 特に高炉水砕スラグは、セメントクリンカーの代替としてセメント製造に用いられます。
- 土壌改良材・肥料: 微量成分やアルカリ性を示す特性を活かして、農地や森林の土壌改良に利用されます。
- その他: 一部は人工骨材や、海中での藻場造成など、様々な環境資材としても研究・実用化されています。
このように、従来のスラグ処理は、高温での作業、重機操作による危険、そしてその後の利用に向けた効率的な破砕・選別が重要な課題でした。
JFE物流の取り組みは、特にその中でも最も危険が伴うとされるブルドーザーによる破砕作業を自動化することで、安全性と効率性を大幅に向上させることを目指しています。

従来のスラグ処理は、溶融スラグを徐冷で固化させ、その大きな塊をブルドーザーなどの重機で破砕し、選別する流れでした。特に高温下での重機操作は危険と隣り合わせで、作業員に大きな負担がかかっていました。
どのように自動化するのか
JFE物流がJFEスチール西日本製鉄所(倉敷地区)で進めているスラグ破砕作業の自動化は、ブルドーザーに高度なセンサーと制御システムを搭載することで実現されます。これは、オペレーターが危険な高温環境に立ち入ることなく、安全かつ効率的に作業を進めることを可能にします。
自動化の主要な要素
- 高精度な位置・姿勢推定システム
- GNSS(衛星測位システム): ブルドーザーの正確な位置を特定します。複数の衛星からの信号を受信することで、高い測位精度を確保します。
- IMU(慣性計測装置): ブルドーザーの傾き、角速度、加速度といった姿勢情報をリアルタイムで計測します。
- 傾斜計: 車体の傾きを詳細に把握し、作業中の安定性を確保します。
- これらのセンサー情報を統合することで、ブルドーザー本体だけでなく、スラグを破砕するリッパー(爪)の先端位置や姿勢も高精度に推定します。これにより、自動での精密な破砕動作が可能になります。
- 最適な作業経路の自動算出
- オペレーターは、離れた場所からPCなどで破砕したいスラグの範囲を指示します。
- ブルドーザーに搭載されたシステムは、その指示された範囲内で、最も効率的かつ安全にスラグを破砕するための移動経路を自動で計算します。スラグの形状や分布、地面の状況などを考慮し、最適なルートを生成します。
- 自動走行・自動制御システム
- 算出された経路に基づき、ブルドーザーは自動で走行します。
- スラグの硬さや地形の変化に応じて、リッパーの下げ具合や走行速度を自動で調整しながら、効果的にスラグを破砕します。
- このシステムは、刻々と変化する現場の状況に柔軟に対応できるよう設計されており、安定した破砕品質を維持します。
自動化によるメリット
この自動化により、以下のような大きなメリットが期待されています。
- 安全性の向上: オペレーターが直接高温のスラグに近づく必要がなくなるため、火傷や火災のリスクを大幅に低減できます。
- 作業負担の軽減: 過酷な環境での重機操作から解放され、オペレーターの身体的・精神的負担が軽減されます。
- 作業効率の向上: 人為的なミスが減り、最適な経路で効率的に作業が進められるため、全体の処理時間が短縮される可能性があります。
- 人手不足への対応: 熟練の重機オペレーターの確保が困難になる中、自動化は労働力不足への有効な対策となります。
この技術は、スラグ処理における危険な作業をロボット技術で代替し、より安全で持続可能な生産体制を構築するための重要な一歩と言えるでしょう。

ブルドーザーにGNSSやIMUなどのセンサーを搭載し、高精度な位置と姿勢を推定します。これにより、オペレーターが指示した範囲内で、ブルドーザーが最適な経路を自動で算出し、自律的に走行・破砕します。危険な高温作業から人を解放し、安全と効率を両立します。
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