この記事で分かること
・どのように異常を検出するのか:AI技術を活用して荷姿の異常を検出する仕組みです。
・FDSLとは:FDSLとは数式ドリブン教師あり学習のことで、、AIの学習データを数式から自動生成する手法であり、データ数が少なくても効率的に学習を行うことが可能です。
・物流の自動化、効率化の重要性:物流では、人手不足、コスト高、需要増加、環境負荷低減、安全性向上などが求められており、自動化、効率化が重要になっています。
FDSLを利用した物流分野における自動化と効率化
産業技術総合研究所(産総研)と株式会社豊田自動織機は、物流分野における自動化と効率化を目指し、共同研究を進めています。特に、トラックからの荷降ろし作業の自動化に向けて、荷姿の異常を検出する技術の開発に取り組んでいます。

これらの技術は、トラックからの荷降ろし作業の自動化を支援し、物流業界の効率化と省人化に大きく貢献することが期待されています。
どのように荷姿の異常を感知するのか
物流現場では、輸送中の揺れなどにより荷物がパレット上でずれたり、他の荷物と干渉したりすることが頻繁に発生します。
これらの異常を検出せずに自動運転フォークリフトで荷降ろしを行うと、荷崩れなどのトラブルが生じる可能性があります。
そこで、産総研と豊田自動織機は、AI技術を活用して荷姿の異常を検出する仕組みを開発し、その実証を行っています。
また、数式から生成したデータセットを用いてAIを事前学習させる「数式ドリブン教師あり学習(FDSL)」という手法を活用しています。
これにより、大量の実画像データを用意することなく、高精度な荷姿領域の検出が可能となりました。さらに、検出した荷姿領域から、ずれや干渉といった異常を検出する技術も開発しています。

AI技術を活用して荷姿の異常を検出する仕組みを開発し、その実証を行っています。AIの学習もFDSLによって、大量の実画像データを用意することなく異常検出が可能になっています。
FDSLとは何か
FDSL(数式ドリブン教師あり学習, Formula-Driven Supervised Learning)は、AIの学習データを数式から自動生成する手法です。
FDSLの特徴
- データ不足の問題を解決
- 通常、AIの教師あり学習には大量の実データが必要ですが、FDSLでは数式でデータを生成するため、実データが少ない状況でも高精度な学習が可能です。
- 柔軟なデータ生成
- 数式を使ってパターンを生成するため、多様なシナリオを作り出せる。
- 例えば、荷物の配置パターンや異常な積み方を数学的に定義し、それをAIに学習させることが可能。
- ラベル付きデータを自動生成
- AIを学習させる際、通常はデータごとに「正しい答え(ラベル)」を人が付ける必要があるが、FDSLでは数式からデータを作るため、ラベルも自動的に付与される。
産総研と豊田自動織機のFDSL活用例
産総研と豊田自動織機は、物流の自動化に向けてFDSLを活用し、荷姿(荷物の積み方)の異常をAIで検出する技術を開発しました。
- 例えば、「荷物がずれている」「他の荷物と干渉している」といった状態を数学モデルでシミュレーションし、それをAIに学習させることで、実際の物流現場での異常検出を可能にしています。
このように、FDSLは少ない実データでも高精度なAIを構築できるため、さまざまな分野で応用が期待されています。

FDSLとは数式ドリブン教師あり学習のことで、AIの学習データを数式から自動生成する手法です。今回の事例では、大量の実画像データを用意することなく、高精度な荷姿領域の検出が可能となりました。
数式からのデータで例外的な事象を学ぶ事は出来るのか
数式から生成されたデータ(FDSLのような手法)では、基本的なパターンや一般的な異常を学習させることが可能ですが、完全に例外的な事象(予測不能なイレギュラーケース)を学ぶのは難しい場合があります。
1. FDSLで学習できる異常パターン
FDSLでは、事前に定義された数学的ルールに基づいてデータを生成します。そのため、以下のような「予測可能な異常」を学習するのには向いています。
- 荷物のズレや傾き:数学的に位置をずらすことで異常パターンを作れる。
- 荷物の衝突や干渉:サイズや位置関係を数式で調整すれば異常ケースを作れる。
つまり、設計段階で想定できる異常は数式から学べるため、多くの実用的な問題に対応可能です。
2. FDSLが苦手な「例外的な事象」
一方で、以下のような「想定外のイレギュラーケース」を学ぶのは難しいです。
- 未経験の異常:例えば、異常なパレットの破損や、想定外の荷崩れパターン。
- 環境要因の影響:湿度や温度変化による荷物の変形など、数式で表現しづらいもの。
- 予測できない外部要因:例えば、フォークリフトのセンサーが誤作動を起こすケースや、人間の介入によるランダムな変化。
これらはFDSLだけでは対応できないため、実データを組み合わせた学習(ハイブリッドアプローチ)が必要になります。
3. 例外的な事象に対応する方法
FDSLの弱点を補うため、以下のような手法と組み合わせるのが一般的です。
実データとの併用
FDSLで基本パターンを学習し、実際の物流現場のデータ(センサーデータやカメラ画像)を追加学習させる。
異常検知AIの導入
通常パターンを学習させたAIに対し、「普段と違う異常」を検知する教師なし学習(異常検知アルゴリズム)を組み合わせる。
リアルタイムフィードバック
物流システムにリアルタイムの監視を導入し、新しい異常パターンを自動で学習させる仕組みを作る。

FDSLは数式で表現可能な異常については有効ですが、完全に予測不能な例外的な事象には対応しづらいです。
そのため、FDSLを実データや異常検知AIと組み合わせることで、より柔軟に対応できるようになります。
なぜ物流の効率化、省人化が重要なのか
物流の効率化や省人化が重要な理由は、以下のような社会的・経済的な背景によるものです。
1. 労働力不足の深刻化
- 少子高齢化により、物流業界ではドライバーや倉庫作業員の人手不足が深刻になっています。
- 特に、2024年問題(労働時間規制強化)により、長時間労働が制限されることで、輸送能力の不足が懸念されています。
- 自動化・省人化が進めば、人手不足を補い、安定した物流を維持できます。
2. 労働コストの増加
- 人件費の上昇により、従来の労働集約型の物流ではコストが増加。
- 自動運転フォークリフト、AIを活用した荷降ろしの自動化などが進めば、コスト削減につながります。
3. EC市場の拡大と物流需要の増大
- インターネット通販の成長により、配送量が増加し、物流負荷が急増。
- 配送のスピードと正確性を維持するためには、効率化・自動化が不可欠。
4. 脱炭素・環境対策
- 効率的な配送ルートの最適化や自動運転の導入により、燃料消費を削減し、CO₂排出量を抑えることが可能。
- 環境負荷の低減も、持続可能な物流には重要な要素。
5. 事故リスクの低減
- 倉庫内のフォークリフト事故や長距離ドライバーの過労運転など、安全面での課題も多い。
- 自動化技術を活用することで、事故を未然に防ぐことができる。

物流の効率化・省人化は、人手不足対策、コスト削減、需要増加対応、環境負荷低減、安全性向上など、さまざまなメリットをもたらします。
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