ブロッサムエナジーの黒鉛蓄熱電池　黒鉛蓄熱電池とは何か？なぜ熱の貯蔵性に優れるのか？

この記事で分かること

ブロッサムエナジーの黒鉛蓄熱電池

　BlossomEnergy（ブロッサムエナジー）は、脱炭素化を目指す革新的な黒鉛蓄熱電池「Blossom Energy G-TES」を開発しました。この技術は、特に熱を大量に消費する産業や施設において、再生可能エネルギーの効率的な利用とコスト削減、そして脱炭素化を促進するものです。

黒鉛蓄熱電池とは何か

　黒鉛蓄熱電池とは、黒鉛（グラファイト）を蓄熱材として利用し、熱エネルギーを貯蔵・供給するシステムです。特に、電気エネルギーを直接蓄える一般的な蓄電池（リチウムイオン電池など）とは異なり、熱エネルギーの形で蓄える点が大きな特徴です。

仕組み

基本的な仕組みは以下の通りです。

1. 充電（蓄熱）:
   • 再生可能エネルギー（太陽光発電や風力発電など）の余剰電力や、夜間などの安価な電力を用いて、黒鉛を内蔵した蓄熱ユニットを加熱します。
   • 黒鉛は熱伝導率が高く、また高温に耐える性質があるため、効率的に熱を蓄えることができます。加熱温度は非常に高く、例えばBlossomEnergyの「G-TES」では約1500度まで加熱できるとされています。
2. 放電（熱供給）:
   • 熱が必要な時に、蓄えられた熱を取り出します。BlossomEnergyのシステムでは、高温の黒鉛ブロックの内部に窒素ガスを通すことで、窒素ガスが加熱されます。
   • この加熱された窒素ガスをスチームボイラーなどに通すことで、蒸気を生成し、工場や温浴施設、農業施設などの熱需要に供給します。冷えた窒素ガスは再び黒鉛ブロックに戻され、循環して加熱されるサイクルを繰り返します。

特徴とメリット

　黒鉛蓄熱電池には、以下のような特徴とメリットがあります。

• 高効率な熱貯蔵: 黒鉛は高い温度まで加熱できるため、より多くの熱エネルギーを効率的に蓄えることができます。
• 脱炭素化への貢献: 再生可能エネルギーを熱として利用することで、化石燃料由来の熱源を代替し、CO2排出量の大幅な削減に貢献します。
• エネルギーコスト削減: 余剰電力や安価な電力を活用することで、熱源にかかる費用を削減できます。
• 安定した熱供給: 再生可能エネルギーの出力変動に関わらず、蓄えられた熱を必要な時に安定して供給できます。
• 安全性: 水や可燃性物質を使用しないため、比較的安全性が高いとされています。
• 多様な用途への適用: 温水、温風、蒸気など、様々な形で熱を取り出せるため、工業用プロセス、ビル空調、農業、温浴施設など、幅広い分野での活用が期待されます。

課題（一般的な蓄電池に共通する課題も含む）

　一方で、以下のような課題も考えられます。

• 初期導入コスト: 高度な技術を要するため、導入にはそれなりの初期費用がかかる可能性があります。
• システムの複雑性: 熱と電気の変換や、高温での熱管理が必要となるため、システムの設計や運用には専門的な知識が必要です。
• 材料の環境負荷: 黒鉛の生産・加工には、現状ではCO2排出を伴う場合があり、サプライチェーン全体での環境負荷低減が課題となることも指摘されています。

　黒鉛蓄熱電池は、特に「熱の脱炭素化」という視点から、今後のエネルギーシステムにおいて重要な役割を果たすことが期待されている技術です。

黒鉛蓄熱電池は、再生可能エネルギーの余剰電力を使い、黒鉛を高熱で加熱して熱エネルギーとして蓄えるシステムです。必要な時に熱を取り出し、工場や施設へ蒸気などを供給することで、脱炭素化とコスト削減に貢献します。

なぜ黒鉛は熱の貯蔵性に優れるのか

　黒鉛が熱の貯蔵性に優れる主な理由は、以下の複数の特性にあります。

高い耐熱性（非常に高い融点/昇華点）

• 黒鉛の昇華温度は、非酸化雰囲気中で約3550℃と非常に高いです。これは一般的な金属（鉄の融点約1540℃など）と比較しても際立っており、高温での安定性が非常に優れていることを意味します。このため、黒鉛は高温で大量の熱を蓄えることができ、しかもその構造を維持することができます。

比較的高い比熱容量

• 比熱容量とは、物質1kgの温度を1℃上昇させるのに必要な熱量のことです。黒鉛の比熱は、水ほどではないものの、他の一般的な金属（鉄や銅、アルミニウムなど）と比較して同等かやや大きい値を示します。これにより、単位質量あたりの熱を比較的多く蓄えることが可能です。

優れた熱伝導率（特に面方向）

• 黒鉛は層状構造を持っており、その層内（面方向）では炭素原子が強い共有結合で結合しているため、非常に高い熱伝導率を持ちます。これにより、熱を効率的に黒鉛全体に素早く伝え、均一に加熱・蓄熱することができます。また、熱を効率よく取り出す際にも、この高い熱伝導率が役立ちます。

熱安定性と化学的安定性

• 黒鉛は炭素の共有結合性の結晶構造を持つため、非常に安定しています。高温下でも構造が破壊されにくく、また酸やアルカリといった化学薬品に対しても高い耐性を示します。これにより、長期にわたって安定した蓄熱性能を維持できます。

これらの特性の組み合わせにより、黒鉛は高温で大量の熱を安全かつ効率的に蓄え、必要な時に取り出すことができる、優れた蓄熱材となるのです。

黒鉛は非常に高い耐熱性（昇華点約3550℃）を持ち、高温で大量の熱を蓄えられます。また、比較的高い比熱容量と優れた熱伝導率で効率的に蓄熱・放熱できるため、熱の貯蔵性に優れます。

どんな場面での用途があるか

　黒鉛蓄熱電池は、再生可能エネルギーの有効活用と熱の脱炭素化を目的としているため、特に熱を大量に消費する様々な産業や施設での導入が期待されています。具体的な用途としては以下のような場面が挙げられます。

• 製造業の乾燥炉:
  • 製品の乾燥工程では高温の熱が必要となるため、従来のガスや重油ボイラーの代替として、CO2排出量削減に大きく貢献します。
• 食品加工業:
  • 食品の殺菌、乾燥、調理など、熱を利用する多くの工程で導入可能です。衛生面や安定した熱供給が求められる分野に適しています。
• 農林水産業（特に陸上養殖施設）:
  • 陸上養殖では水温管理に大量の熱エネルギーが必要となります。黒鉛蓄熱電池は、安定した水温を保ちながら、エネルギーコストを削減し、脱炭素化に貢献できます。
• 温浴施設・宿泊施設:
  • 大規模な給湯や暖房に多くの熱を消費するため、省エネとCO2排出量削減に直結します。
• 商業施設・ビルの給湯・暖房:
  • ビル全体の給湯や冷暖房システムの一部として導入することで、エネルギー効率を高め、ランニングコストを削減できます。
• 地域冷暖房システム:
  • 地域全体に熱供給を行うシステムにおいて、再生可能エネルギー由来の熱源として活用することで、地域の脱炭素化を推進します。

これらの用途では、再生可能エネルギーの発電量が変動しても、黒鉛蓄熱電池が熱を安定的に供給できる点が大きなメリットとなります。特に、電気では賄いきれない大規模な熱需要や、高温での熱供給が必要な場合に、その真価を発揮すると期待されています。

黒鉛蓄熱電池は、再生可能エネルギー由来の熱を必要とする多様な場面で活用されます。特に、工場での乾燥炉、食品加工、陸上養殖、温浴施設、ビルや商業施設の給湯・暖房など、熱需要が大きい分野での脱炭素化とコスト削減に貢献します。