モデルナのmRNA原薬製造拠点の整備計画中止 mRNAワクチンとは何か?なぜ中止するのか?

この記事で分かること

  • mRNAワクチンとは:ウイルスの一部を作る「設計図(mRNA)」を体内に投与し、自身の細胞にそのタンパク質を作らせることで免疫をつけます。ウイルスそのものは使わず、速やかな開発が可能です。
  • 中止の理由:、新型コロナウイルスワクチンの需要が大幅に減少したためです。これにより、新たな大規模投資の必要性が低くなり、経営判断として見送られました。

モデルナのmRNA原薬製造拠点の整備計画中止

 モデルナは、日本におけるmRNA原薬製造拠点の整備計画を中止することを決定しました。

 https://www.modernatx.com/ja-JP/press-release/2025/20250718

 この決定は、昨今の事業環境を踏まえ、慎重に検討を重ねた結果とされています。具体的には、新型コロナウイルスワクチンの需要の変化や、それに伴う製造体制の見直しなどが背景にあると考えられます。

mRNAワクチンとは何か

 mRNAワクチンは、従来のワクチンとは異なる新しいタイプのワクチンです。

mRNAワクチンの仕組み

  1. 設計図の注射: mRNAワクチンは、ウイルスの一部(例えば新型コロナウイルスの表面にある「スパイクタンパク質」)を作るための遺伝情報(設計図)が書かれた「メッセンジャーRNA(mRNA)」を体内に注射します。mRNAは非常に壊れやすいため、脂質の膜(脂質ナノ粒子)に包まれて保護されています。
  2. 細胞でのタンパク質生成: 注射されたmRNAは、私たちの細胞の中に取り込まれます。すると、細胞の「リボソーム」というタンパク質を作る工場が、mRNAの設計図を読み取り、ウイルスのタンパク質の一部を作り出します。
  3. 免疫応答の誘導: 細胞が作り出したウイルスのタンパク質は、細胞の外に提示されます。私たちの免疫システムは、このウイルスのタンパク質を「異物」と認識し、それに対する「抗体」を作り始めます。また、ウイルスに感染した細胞を攻撃する「T細胞」なども活性化されます。
  4. 免疫記憶の形成: 抗体やT細胞が作られることで、体はウイルスに対する免疫を獲得します。この免疫記憶が形成されると、次に実際にウイルスに感染した際に、速やかに抗体などを生産してウイルスを攻撃し、重症化を防ぐことができます。
  5. mRNAの分解: 注射されたmRNAは、数分から数日で自然に分解され、体内に残ることはありません。また、人間の遺伝子情報(DNA)に組み込まれることもありません。

mRNAワクチンの特徴・利点

  • 迅速な開発: ウイルスそのものを使用しないため、設計図であるmRNAを迅速に作製・変更でき、新しい変異株などにも比較的早く対応できる可能性があります。
  • 高い有効性: 短期間で高い免疫応答を誘導し、発症や重症化の予防に効果を発揮することが示されています。
  • 安全性: ウイルスそのものを使用しないため、ワクチンによって病気になる心配はありません。また、mRNAはすぐに分解されるため、体内に残留するリスクも低いとされています。

mRNAワクチンの主な用途

 現在、mRNAワクチンが広く使われているのは新型コロナウイルス感染症のワクチンですが、将来的にはがん治療や他の感染症(インフルエンザなど)のワクチン開発にも応用が期待されています。

副作用について

 他のワクチンと同様に、接種部位の痛み、倦怠感、頭痛、発熱などの一般的な副反応が見られることがあります。まれに、アナフィラキシー(重いアレルギー反応)や心筋炎・心膜炎といった重篤な副反応も報告されていますが、いずれも非常に稀であり、医療機関での適切な対応によってほとんどの場合は回復します。

mRNAワクチンは、ウイルスの一部を作る「設計図(mRNA)」を体内に投与し、自身の細胞にそのタンパク質を作らせることで免疫をつけます。ウイルスそのものは使わず、速やかな開発が可能です。

ウイルスを用いないのに、副作用がある理由は

 mRNAワクチンがウイルスそのものを用いないのに副作用があるのは、主に以下の理由によります。

  1. 免疫応答の活性化: ワクチンは、私たちの体にウイルスの一部を模倣したタンパク質を作らせ、それに対して免疫システムが反応するように設計されています。この「免疫応答」は、体が病原体と戦うための自然なプロセスであり、炎症を伴います。
    • 一般的な副反応: 免疫システムが活性化される過程で、サイトカイン(免疫細胞が放出する情報伝達物質)が放出され、それが発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛などの全身症状を引き起こします。また、注射部位の痛みや腫れは、免疫細胞がその部位に集まって反応している証拠です。これらは、体が免疫を獲得しているサインでもあります。
    • 重い副反応: ごくまれに、免疫反応が過剰になったり、特定の体質と組み合わさったりすることで、アナフィラキシー(重篤なアレルギー反応)や心筋炎・心膜炎などのより重い副反応が起こることがあります。これらも基本的には免疫システムの反応の範疇で起こるものです。
  2. 脂質ナノ粒子(LNP)による影響: mRNAワクチンでは、壊れやすいmRNAを細胞に届けるために、脂質の膜(脂質ナノ粒子:LNP)に包まれています。このLNP自体が、体内で炎症を誘導する可能性が指摘されています。
  3. スパイクタンパク質による影響: mRNAワクチンによって体内で作られるスパイクタンパク質は、ウイルス感染時にも作られるものと同じです。このスパイクタンパク質自体が、血管に影響を与えたり(血管傷害)、血栓形成を促進したりする可能性が指摘されています。これが、ごく稀に起こる血栓症などの重篤な副反応に関与している可能性が考えられています。

要 ウイルスそのものが入っていなくても、体内に異物(mRNAとそれを包むLNP)が導入され、それによって免疫システムが活動を開始する過程で、様々な生理的反応が起こるため、副作用が発生するのです。

ウイルスは使わないが、体内で作られるウイルスのタンパク質やワクチン成分(脂質ナノ粒子など)が免疫システムを活性化させるためです。この免疫反応が、発熱や倦怠感などの副作用を引き起こします。

mRNA原薬製造拠点の整備計画を中止の理由は

 モデルナが日本でのmRNA原薬製造拠点の整備計画を中止した主な理由は、昨今の事業環境の変化にあります。具体的には、以下の点が挙げられます。

新型コロナウイルスワクチンの需要の大幅な変化

  • パンデミック初期には世界的に新型コロナウイルスワクチンの需要が非常に高く、各国が供給確保に奔走しました。これを受けて、モデルナも大規模な製造体制の構築を進めていました。
  • しかし、パンデミックのフェーズが変化し、ウイルスの弱毒化や集団免疫の形成が進んだことで、ワクチン接種の緊急性や必要性が以前ほどではなくなりました。ブースター接種の需要も落ち着き、結果としてワクチンの世界的な需要が大きく減少しました。
  • これにより、既存の製造能力でも十分に対応可能となり、新たな大規模原薬製造拠点への投資の優先順位が下がったと考えられます。

収益性の悪化とコストの見直し

  • 新型コロナウイルスワクチンの売上高はピーク時と比較して大幅に減少し、モデルナの業績にも影響を与えています。2023年度には収益性が悪化し、赤字に転落しているとの情報もあります。
  • このような状況下で、将来的な需要が見通しにくい大規模な設備投資を行うことは、経営判断として慎重にならざるを得ません。コスト削減や投資効率の最適化を図る中で、計画の見直しが行われたと推測されます。

戦略的な優先順位の見直し

  • モデルナは、新型コロナウイルスワクチンだけでなく、インフルエンザワクチンやがん治療など、mRNA技術の応用範囲を広げる研究開発を進めています。
  • 今後は、原薬製造能力の拡大よりも、研究開発や他のmRNA医薬品の製造体制の強化に重点を置く戦略的な転換があった可能性もあります。実際に、日本ではmRNA医薬品の研究・製造設備の整備は継続する方針を示しています。

 これらの要因により、モデルナは日本におけるmRNA原薬製造拠点の整備計画について、現状の事業環境では進めることが適切ではないと判断したと考えられます。ただし、将来的に事業環境が整えば再検討する可能性も示唆しており、日本市場への関心は維持しているようです。

モデルナが日本でのmRNA原薬製造拠点計画を中止したのは、新型コロナウイルスワクチンの需要が大幅に減少したためです。これにより、新たな大規模投資の必要性が低くなり、経営判断として見送られました。

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