この記事で分かること
- 購買担当者景気指数(PMI)とは:企業の購買担当者へのアンケート結果を指数化した経済指標です。50を境に、上回れば景気拡大、下回れば景気後退を示します。
- 景気後退の要因:不動産市場の低迷、雇用不安による内需の停滞、世界経済の減速による外需の減少、人口減少といった複合的な構造的問題があります。
- なぜ外需が減少しているのか:欧米の金融引き締めによる世界経済の減速と需要の冷え込みが大きな要因です。また、米中貿易摩擦などの地政学的な対立や、コロナ禍で積み上がった在庫の調整も、中国からの輸出を減少させている一因となっています。
中国PMI、5カ月連続で50を下回る
中国国家統計局が発表した8月の製造業購買担当者景気指数(PMI)が5カ月連続で50を下回っています
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/DEGN7ZKXJ5LL5H24Q5OAHZKQH4-2025-08-31/
PMIは50を境に、それを上回ると景気拡大、下回ると景気縮小を示します。5カ月連続で50を下回るということは、製造業部門の活動が継続的に停滞していることを意味しています。
製造業購買担当者景気(PMI)とは何か
製造業購買担当者景気指数(PMI)とは、企業の購買担当者に、新規受注、生産量、雇用状況などの項目についてアンケート調査を行い、その結果を指数化した経済指標です。この指数は、景気の動向を迅速に反映するため、先行指標として広く注目されています。
指数の意味
PMIは50を景気の拡大・縮小の境目としています。
- 50を上回る: 景気が拡大していることを示します。
- 50を下回る: 景気が縮小していることを示します。
- 50の場合: 景気に変化がないことを示します。
購買担当者は、今後の景気動向や需要を見通しながら仕入れを決定するため、その回答は企業の活動や将来の景気を予測する上で非常に重要です。
なぜ重要なのか
PMIが注目される主な理由は以下の2点です。
- 速報性: 毎月、月初の早い段階で公表されることが多く、他の公的な経済統計よりもいち早く景気の現状や先行きを知ることができます。
- 先行性: 企業の購買活動は生産や雇用の先行指標となるため、PMIは経済全体の動向を予測する上で役立ちます。
このため、PMIは株式市場や為替市場など、金融市場に大きな影響を与える重要な指標とされています。

購買担当者景気指数(PMI)とは、企業の購買担当者へのアンケート結果を指数化した経済指標です。50を境に、上回れば景気拡大、下回れば景気後退を示します。速報性が高く、景気の先行指標として重要視されています。
景気減速の背景は
中国の景気減速の背景には、いくつかの複合的な要因があります。
1. 不動産市場の低迷
かつてGDPの約4分の1を占めていた不動産業界が深刻な不況に陥っています。大手デベロッパーの債務問題や販売不振が続き、住宅価格が下落しています。
これにより、家計の資産が目減りする「逆資産効果」が生じ、消費マインドが冷え込んでいます。また、地方政府の主な財源であった土地売却収入も激減し、財政が悪化しています。
2. 内需の停滞
不動産市場の低迷や雇用への不安から、消費者の購買意欲が低下しています。
特に、若年層の失業率が高止まりしていることも消費を抑制する大きな要因となっています。さらに、厳格な「ゼロコロナ政策」の長期化も、人々の消費行動を萎縮させ、経済の活力を奪いました。
3. 外需の減速
世界経済の減速や米中貿易摩擦などの地政学的なリスクが影響し、輸出が鈍化しています。これにより、輸出に依存している製造業の生産活動が停滞し、PMIの低下にもつながっています。
4. 構造的な問題
人口減少や高齢化といった長期的な問題も、中国経済の成長にブレーキをかけています。労働力人口の減少は生産性を低下させ、経済全体の活力を削いでいます。
これらの要因が複合的に絡み合い、中国経済の景気減速を引き起こしています。

中国の景気減速の背景には、不動産市場の低迷、雇用不安による内需の停滞、世界経済の減速による外需の減少、人口減少といった複合的な構造的問題があります。
不動産市場の低迷の要因は
中国の不動産市場が低迷している主な要因は、政府の規制強化、デベロッパーの資金繰り悪化、そして住宅需要の減少といった複数の問題が複雑に絡み合っているためです。
1. 政府の規制強化
中国政府は、不動産バブルの過熱を抑制するため、2020年から「三つのレッドライン」と呼ばれる融資規制を導入しました。
これは、不動産開発会社の負債比率に上限を設けるもので、これにより多くのデベロッパーが新たな資金調達を制限され、経営が急速に悪化しました。この政策は、意図せず不動産市場全体の流動性を奪い、深刻な不況を招く引き金となりました。
2. デベロッパーの資金繰り悪化と「未完成住宅」問題
政府の規制により、特に借入に大きく依存していた恒大集団や碧桂園(カントリーガーデン)などの巨大デベロッパーが債務不履行(デフォルト)に陥りました。
中国では、完成前の住宅を販売する「予約販売(プレセール)」が主流だったため、資金難で建設が中断される「未完成住宅」が大量に発生しました。
これにより、住宅購入者はローンの支払いを続ける一方で、家が引き渡されないという事態に直面し、大規模な「住宅ローン支払い拒否」運動に発展しました。これがさらにデベロッパーへの不信感を高め、不動産販売のさらなる落ち込みを招いています。
3. 住宅需要の減少
不動産価格が下落し続ける中、将来の価格上昇を期待して投資目的で住宅を購入する動きが大幅に減少しました。また、景気減速や雇用不安から家計の所得が伸び悩み、住宅購入をためらう人が増えています。さらに、長年にわたる一人っ子政策の影響で、主要な住宅購入層である若年層の人口が減少していることも、中長期的な需要減少の背景にあります。
これらの要因が連鎖し、負のスパイラルを生み出しているため、政府が金融緩和や支援策を打ち出しても、市場の回復はなかなか進んでいません。

中国不動産市場の低迷は、政府による融資規制の強化、デベロッパーの資金繰り悪化、そして建設中断による「未完成住宅」問題が連鎖的に発生したためです。これに加えて、景気減速や人口減少による住宅需要の減少も重なっています。
外需の減速の要因は
外需減速の主な要因は、世界経済の減速とそれに伴う需要の低迷です。特に中国は「世界の工場」として輸出に大きく依存しているため、海外からの注文が減ると、その影響を直接受けます。
世界経済の減速
欧米諸国では、インフレ抑制のための金融引き締め策が長期化しています。具体的には、政策金利の引き上げによって住宅ローンや企業の借入コストが増加し、消費や投資が抑制されています。
これにより、米国や欧州の需要が冷え込み、中国製品の輸入が減少しています。
地政学的リスク
米中貿易摩擦などの地政学的な対立も、輸出にマイナスの影響を与えています。関税の上乗せやサプライチェーンの見直しが進み、中国からの輸入を減らす動きが加速しています。
また、一部の国は中国への経済的依存を減らすため、生産拠点を東南アジアなどに移す「中国+1」といった戦略を進めています。
在庫調整
パンデミック後の需要の急増に対応するため、多くの企業が部品や製品の在庫を積み増しましたが、需要の減速に伴い、今度は在庫を削減する動きが強まっています。
この世界的な在庫調整の局面では、新たな発注が抑えられるため、中国の製造業にとっては大きな逆風となっています。

外需減速の要因は、欧米の金融引き締めによる世界経済の減速と需要の冷え込みです。また、米中貿易摩擦などの地政学的な対立や、コロナ禍で積み上がった在庫の調整も、中国からの輸出を減少させている一因となっています。
中国政府の対策は
中国政府は景気減速に対応するため、主に金融緩和と財政出動を組み合わせた対策を講じています。
1. 金融政策による景気刺激
中国の中央銀行である中国人民銀行は、預金準備率や政策金利の引き下げを繰り返し実施しています。
- 預金準備率の引き下げ: 金融機関が中央銀行に預ける資金の比率を下げることで、市場に流通する資金の量を増やし、企業や家計への融資を促しています。
- 政策金利の引き下げ: 住宅ローンや企業向け貸出金利の引き下げを通じて、資金調達コストを減らし、投資や消費を後押ししようとしています。
2. 財政政策による景気刺激
政府は財政面からも景気の下支えを試みています。
- 国債の増発: 公共事業や被災地の再建などに充てるための国債を追加発行し、財政出動を強化しています。
- 不動産市場への支援: 地方政府が売れ残った住宅を買い取り、低所得者向けの住宅として活用する政策を導入しました。これにより、不動産会社の資金繰りを支援し、市場の安定を図っています。
3. その他の対策
若年層の失業率が高止まりしている問題に対しては、職業訓練の支援や、企業が若者を雇用する際の補助金を支給するなど、雇用安定化に向けた政策も進めています。
これらの政策は景気回復への期待を高めていますが、不動産市場の根深い問題や内需の低迷が続く中、その効果については依然として評価が分かれています。

中国政府は景気減速に対し、預金準備率や政策金利の引き下げといった金融緩和策を講じています。また、国債増発による財政出動や、不動産市場の支援策も実施し、消費と投資を促すことで景気回復を目指しています。
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