CIOの半固体電池 半固体電池とは何か?製造が比較的容易な理由は?

この記事で分かること

  • 半固体電池 とは:液体電解質の一部をゲルやペースト状にした次世代電池です。従来の電池より発火リスクが低く、安全性が向上します。既存設備を活かせるため、全固体電池より量産しやすい特徴もあります。
  • 製造が比較的容易な理由:全固体電池と異なり、高価な専用設備や特殊な工程が不要なため、従来の液体リチウムイオン電池の製造設備やプロセスを大幅に変えずに流用できるためです。
  • 発火リスクが小さい理由:可燃性の液体電解質(電解液)の使用量が大幅に削減されているためです。これにより、熱暴走時の引火リスクや発熱が抑制され、安全性が向上しています。

CIOの半固体電池

 CIOはモバイルバッテリーの製品ラインナップに半固体電池を段階的に移行する計画を発表しています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF261X30W5A121C2000000/

 近年相次ぐモバイルバッテリー関連の事故や、廃棄時の火災リスクの高まりを受け、安全性の向上を最優先としています。

 半固体電池は、一般的な液系のリチウムイオン電池に比べて可燃性要素を抑えやすい構造のため、より高い安全水準を目指して採用を推進しています。

半固体電池とは何か

 半固体電池(Semi-Solid State Battery)は、現在主流のリチウムイオン電池と次世代の本命とされる全固体電池の間に位置する、新しいタイプの二次電池です。

 最大の特徴は、電極と電極の間にある電解質にあります。

1. 構造的な特徴

  • 電解質が「半固体」の状態:従来のリチウムイオン電池が液体の電解質(電解液)を使用するのに対し、半固体電池はその電解質の一部または全体をゲル状ペースト状、または粘土状(クレイ状)といった半固体状態にしたものです。
    • 全固体電池は電解質を完全に固体にします。
  • 液体の含有量が少ない:一般的に、電池重量に占める電解液の含有量が10%未満のものを半固体電池と呼ぶことがあります。
  • 分類(タイプ):明確な定義はありませんが、電解質の構成によって「ゲルポリマー型」「クレイ型」「液添加型」などに分類されます。

2. メリット(利点)

  • 高い安全性:従来の液系電解質に比べて可燃性要素が少ないため、発火リスク熱暴走が低減され、安全性が向上します。釘刺し試験などにも強いとされます。
  • 長寿命:電解液の蒸発が抑えられ、従来の電池に比べてサイクル寿命が長くなる傾向があります(約2,000〜3,000サイクル以上)。
  • 高いエネルギー密度:従来の液系リチウムイオン電池(最大300 Wh/kg程度)を上回る350〜400 Wh/kg程度のエネルギー密度が期待されています。
  • 耐寒・耐暑性能:使用可能な温度範囲が広く、寒冷地や高温環境での性能劣化が少ないとされています。
  • 生産の容易さ:全固体電池と比べて、既存のリチウムイオン電池の製造設備を流用できるため、量産化のハードルが低いとされています。

3. 全固体電池との違い

特徴リチウムイオン電池(液系)半固体電池(準固体電池)全固体電池
電解質の状態液体(可燃性有機溶媒)ゲル状・ペースト状(液と固体の混合)完全な固体
安全性発火リスクあり比較的高い(発火リスクを低減)究極の安全性
エネルギー密度限界に近づいている高い(350~400 Wh/kg程度)非常に高い(400 Wh/kg超)
量産性容易比較的容易(既存設備活用)高い技術難易度

 半固体電池は、安全性の向上とエネルギー密度の両立を目指し、EVやモバイルバッテリーなど、幅広い分野での実用化が進められています。


半固体電池は、液体電解質の一部をゲルやペースト状にした次世代電池です。従来の電池より発火リスクが低く、安全性が向上します。既存設備を活かせるため、全固体電池より量産しやすい特徴もあります。

なぜ量産化のハードルが低いのか

 半固体電池の量産化のハードルが低いとされる最大の理由は、既存のリチウムイオン電池(LIB)の製造プロセスや設備を大幅に変更せずに活用できる点にあります。

🏭 量産化のハードルが低い理由

1. 既存の製造ラインの流用が可能

  • プロセスの共通性: 半固体電池は、電解質の一部は固体ですが、基本的な電気化学的な原理や、電極を組み立てるプロセス(電極の塗工、乾燥、プレス、積層など)は、従来の液系リチウムイオン電池と大きく変わりません。
  • 設備投資の抑制: 全固体電池のように、電解質を完全に固体化するために特殊な焼結プロセスや、極度に水分を嫌う硫化物系の固体電解質を扱うための大規模なドライルームといった、高額な専用設備を新たに導入する必要性が低い、または部分的な改修で済む場合が多いです。
    • これにより、初期の設備投資コストを抑えられ、迅速に量産体制に移行できます。

2. 全固体電池の技術的課題を回避できる

 次世代電池の本命とされる全固体電池は、理論上は優れていますが、実用化には非常に高い技術的ハードルがあります。半固体電池は、それらの課題の一部を回避することで、先に市場投入を目指しています。

課題全固体電池(完全固体)半固体電池(ゲル・ペースト)
電極/電解質の接触固体同士の界面で電気抵抗が生じやすく、密着が困難(界面抵抗が大きい)。ゲルやペースト状の電解質が液体の性質も持ち合わせるため、電極との密着性を確保しやすく、抵抗を低く抑えやすい。
製造コスト固体電解質の製造自体が高コスト。また、特殊な雰囲気制御(ドライルーム)が必要。既存の電解質製造プロセスを活かせる部分があり、コストを抑えやすい。
耐久性充放電の繰り返しによる電極の膨張・収縮に対し、固体の電解質が追従できず、性能劣化(寿命)につながりやすい。ゲル状電解質が変形に追従しやすいため、耐久性(サイクル寿命)を確保しやすい。

 半固体電池は「安全性の向上」と「エネルギー密度の向上」という次世代電池の大きなメリットを享受しつつ、「製造プロセスの革新」という最もコストがかかる部分で現行技術を流用することで、量産化のバランスを取っているのです。

従来の液体リチウムイオン電池の製造設備やプロセスを大幅に変えずに流用できるためです。全固体電池と異なり、高価な専用設備や特殊な工程が不要なため、迅速かつ低コストで生産に移行できます。

発火リスクが小さい理由は

 半固体電池の発火リスクが小さい理由は、従来の液体電解質(電解液)の量が大幅に削減されている点に集約されます。

発火リスクが低い主な理由

1. 可燃性液体の減少

  • 従来の電池の発火原因: 従来のリチウムイオン電池(LIB)は、リチウムイオンの輸送に可燃性の有機溶媒を主成分とする液体電解液を使用しています。
    • 外部からの強い衝撃や、内部短絡(ショート)などで電池が急激に発熱(熱暴走)すると、この液体電解液が気化し、引火して激しく燃焼したり、爆発したりするリスクがあります。
  • 半固体化による変化: 半固体電池は、この液体電解質の一部をゲル状やペースト状半固体電解質に置き換えています。これにより、電池内部の可燃性液体の含有量が大幅に減少します。
    • 燃える物質そのものが少なくなるため、熱暴走や外部からの損傷があった際も、発火・発煙のリスクを大きく抑制できます。

2. 熱安定性の向上と液漏れ防止

  • 熱安定性: 半固体電解質は、液体の電解液に比べて熱安定性に優れています。急激な温度上昇が起こりにくく、熱暴走の連鎖反応を抑制する効果があります。
  • 液漏れリスクの低減: 液体ではないため、外部からの物理的な損傷(釘刺しなど)を受けた際も、電解質が漏れ出しにくい構造になっています。電解液の漏れやそれに伴う内部短絡を防ぐことで、発火の引き金となる要因を減らします。

 これらの特性により、半固体電池は「釘刺し試験」などの過酷な安全試験においても、従来の電池と比較して発火・発煙しない高い安全性が示されています。


従来の電池と比べ、可燃性の液体電解質(電解液)の使用量が大幅に削減されているためです。これにより、熱暴走時の引火リスクや発熱が抑制され、安全性が向上しています。

半固体電池の有力メーカーはどこか

 半固体電池(準固体電池)の開発や製品化は、特にEV(電気自動車)分野とモバイル・ポータブル電源分野で進められており、有力な企業やブランドが国内外に存在します。

半固体電池は、既存のリチウムイオン電池のサプライヤーや、新興のバッテリーメーカーが手がけているケースが多いです。

1. EV・大規模バッテリー分野(セル開発メーカー)

 高いエネルギー密度と安全性が求められるEV分野では、半固体電池(準全固体電池)を開発する企業が注目されています。

  • WeLion (ウェライオン・衛藍新能源):
    • 中国の有力な新興バッテリーメーカーで、NIO(ニオ)などのEVメーカーに半固体電池セルを供給しています。
    • NIOが採用している150kWhの交換式バッテリーパックにはWeLion製のセルが搭載されており、高いエネルギー密度(約360 Wh/kg)を実現しています。
  • Samsung SDI (サムスンSDI):
    • 全固体電池と並行して、ゲル状の電解質を用いた「準固体電池」の研究開発も進めています。
  • 日本企業の一部(技術開発):
    • 日本国内では全固体電池の開発に注力している企業が多いですが、GSアライアンス株式会社などのように、「準全固体型リチウムイオン電池」の開発・供給を行う企業も見られます。

2. モバイル・ポータブル電源分野(製品ブランド)

 安全性と長寿命化のニーズが高いモバイルバッテリーやポータブル電源でも、半固体電池の採用が加速しています。これらの製品は、外部のセルメーカーから供給を受けたセルを搭載しています。

  • CIO (シーアイオー):
    • 質問の背景にある通り、モバイルバッテリーの既存ラインナップを段階的に半固体電池へ移行する計画を発表しており、安全性向上を強く打ち出しています。
  • マクセル(maxell):
    • 半固体電池を採用したモバイルバッテリー製品を市場に投入しています。
  • cheero (チーロ):
    • CIOと同様に、半固体電池(準固体電池)を採用したモバイルバッテリーを投入し、安全性をアピールしています。
  • DABBSSON (ダブソン):
    • 半固体リン酸鉄リチウムバッテリー(LiFePO4をベースとした半固体技術)を採用したポータブル電源を開発・販売しています。

 半固体電池の採用は、特にモバイルバッテリーの安全性向上という点で急速なトレンドとなっており、今後も採用ブランドが増えると予想されます。


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