この記事で分かること
- MOFで二酸化炭素の回収ができる理由:MOF超多孔質構造による非常に大きな表面積と、細孔の設計により二酸化炭素と選択的に相互作用する高い親和性を持つためです。これにより、排ガス中の他の成分よりも二酸化炭素を効率よく吸着できます。
- どのような装置なのか:MOFを吸着材に使用した固体吸着式の二酸化炭素回収装置です。水蒸気があっても二酸化炭素を選択的に吸着できるため、従来の方式に比べて除湿工程が不要となり、省エネルギーで運用できるのが特徴です。
- 回収した二酸化炭素の用途:主にカーボンリサイクルに回されます。これは、合成燃料や化学品の原料として再利用したり、地中深くに貯留するCCS(二酸化炭素回収・貯留)に活用したりすることを目指しています。
長瀬産業とアトミスによるMOFによる二酸化炭素回収装置
長瀬産業は、京都大学発のスタートアップ企業である株式会社アトミスと資本業務提携を結び、MOF(Metal Organic Frameworks、金属有機構造体)を活用した排ガス中の二酸化炭素(CO2)回収装置の実証に取り組んでいます。
https://www.atomis.co.jp/news/2922/
この提携は、CO2分離回収技術を地球温暖化対策の切り札として位置づけ、国際的な環境技術市場での競争力向上を目指す重要なステップとなっています。
MOFで二酸化炭素を回収出来る理由はなにか
MOF(Metal-Organic Frameworks、金属有機構造体)で二酸化炭素(CO2)を回収できる主な理由は、その特異な構造と化学的性質にあります。
CO2回収を可能にするMOFの特長
MOFは、金属イオン(あるいは金属クラスター)と有機配位子が規則正しく結合してできる多孔質材料です。この構造が、CO2の回収に極めて有利に働きます。
1. 非常に大きな表面積と多孔性
MOFの構造は、内部に微細で均一なサイズの細孔(すきま)を無数に持っています。
- 高い表面積: 1グラムあたり数千平方メートルにも達する巨大な内部表面積を持つものがあり、これはスポンジのようにCO2分子を吸着するための「接地面」が非常に多いことを意味します。
- 分子ふるい効果: 細孔のサイズを設計によって自在に制御できるため、特定の分子(この場合はCO2)だけを取り込み、それより大きな分子や、CO2とは異なるサイズの分子(窒素など)を排除する分子ふるいのような機能を発揮します。
2. CO2に対する高い選択性
MOFを構成する有機配位子や金属イオンを工夫することで、CO2分子と選択的に相互作用するように設計できます。
- 化学的親和性: MOFの細孔の内壁に、CO2分子と弱い化学結合(または物理吸着)を作りやすい官能基(アミノ基など)を導入することが可能です。CO2分子はわずかに分極しているため、これらの官能基との間に選択的な相互作用が働き、排ガス中の他の成分(窒素や酸素)よりも優先的に吸着されます。
3. 低いエネルギーでの再生(吸着・脱着の容易さ)
CO2を吸着した後、回収装置を再利用するためには、吸着したCO2を効率よく取り出す(脱着する)必要があります。
- 可逆的な吸着: MOFとCO2の間の相互作用は比較的弱く、温度や圧力を少し変えるだけでCO2を容易に放出できます。これにより、従来の溶媒を用いたCO2回収法に比べて、脱着に必要なエネルギー(再生エネルギー)を大幅に削減できる可能性があります。
これらの特長、特に高表面積、高いCO2選択性、および低エネルギーでの再生能力が、MOFが次世代のCO2回収技術として注目される主要な理由です。

MOFで二酸化炭素を回収できるのは、超多孔質構造による非常に大きな表面積と、細孔の設計により二酸化炭素と選択的に相互作用する高い親和性を持つためです。これにより、排ガス中の他の成分よりも二酸化炭素を効率よく吸着できます。
どのような装置なのか
長瀬産業と京大発スタートアップのアトミスが開発を進めているCO2回収装置は、MOF(金属有機構造体)を吸着材として利用した固体吸着法に基づく装置です。
従来のCO2回収技術と比較して、特に省エネルギー化とコスト削減を目指した設計が特徴です。
装置の主な仕組みと特徴
1. MOF吸着材の利用
- 吸着材: アトミスが開発するPCP/MOF(多孔性配位高分子)を吸着材として用います。
- 二酸化炭素選択吸着: MOFは、排ガスに含まれる様々なガス分子の中から、二酸化炭素を選択的かつ高効率に吸着する能力を持っています。
2. プロセス効率化と省エネルギー性
- 除湿工程の省略: 従来の吸着材(ゼオライトなど)を使用する際、排ガス中の水蒸気が二酸化炭素の吸着を妨げるため、事前に大掛かりな除湿工程が必要でした。この装置で使用されるMOFは、水蒸気を含む状態でも二酸化炭素を選択的に吸着できる特性を持つため、除湿工程が不要となり、大幅な省エネルギー化とコスト削減に繋がります。
- 容易な脱着: MOFは、温度や圧力をわずかに変えるだけで、吸着した二酸化炭素を容易に放出(脱着)できます。このため、吸着材の再生(リサイクル)に必要なエネルギーも低く抑えられると期待されています。
3. 装置の構成
装置の具体的な形式は実証段階ですが、MOFを充填した吸着塔を用いて、排ガスを流して二酸化炭素を吸着させ、その後、温度や圧力を変化させて高濃度の二酸化炭素を回収する、吸着/脱着のサイクルを繰り返すものになると考えられます。
この技術は、工場や発電所の排ガス由来の二酸化炭素を資源として循環させる(カーボンリサイクル)ことを目指し、産業界の脱炭素化に貢献する「切り札」として期待されています。

長瀬産業とアトミスの装置は、MOFを吸着材に使用した固体吸着式の二酸化炭素回収装置です。水蒸気があっても二酸化炭素を選択的に吸着できるため、従来の方式に比べて除湿工程が不要となり、省エネルギーで運用できるのが特徴です。
回収した二酸化炭素はどうするのか
長瀬産業とアトミスがMOFを用いて回収する二酸化炭素は、主にカーボンリサイクルに利用されることが想定されています。
回収された二酸化炭素の具体的な活用方法は、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:$\text{CO}_2$回収・利用・貯留)の取り組みに基づき、多岐にわたります。
1. カーボンリサイクル(利用)
長瀬産業とアトミスは、回収した二酸化炭素を資源として循環させる「カーボンリサイクル」の実現を目指しています。
回収された高濃度の二酸化炭素は、以下のような製品やエネルギーの原料として活用されます。
- 燃料:
- 合成燃料(e-fuel): 水素と反応させて、ガソリンやジェット燃料の代替となる合成炭化水素を製造します。
- メタネーション: 水素と反応させてメタンを製造し、都市ガスなどに利用します。
- 化学品:
- プラスチック・樹脂: ポリカーボネートなどの原料として利用します。
- ウレタン原料: 二酸化炭素をポリウレタンの原料に変換します。
- メタノール: 基本的な化学品の原料であるメタノールを製造します。
- 鉱物・コンクリート:
- コンクリート製品:二酸化炭素を固定化し、強度を高める新しいコンクリート製品の製造に利用します。
2. 貯留(Storage)
回収した二酸化炭素を地下深くに貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)も、主要な選択肢の一つです。
- 地中貯留:
- 石油・天然ガスの採掘が終了した油田・ガス田、あるいは帯水層などの地中深くに圧入し、長期間安定的に貯留します。これは、大気中への放出を回避するための直接的な手法です。
長瀬産業のMOF回収装置は、高効率かつ低コストで二酸化炭素を分離回収することで、このCCUSバリューチェーンの最初のステップを担うことを目標としています。

回収した二酸化炭素は、主にカーボンリサイクルに回されます。これは、合成燃料や化学品の原料として再利用したり、地中深くに貯留するCCS(二酸化炭素回収・貯留)に活用したりすることを目指しています。

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