この記事で分かること
- 製造する医薬品:医療用漢方製剤全般のエキス顆粒と最終製品を製造します。風邪薬の葛根湯からアレルギー性鼻炎の小青竜湯、疲労回復の補中益気湯など、ツムラが提供する多様な漢方薬の生産能力を増強し、安定供給を図るものです。
- 漢方薬の需要増加の背景:「未病」への意識向上や西洋薬の副作用回避ニーズが高まっています。また、科学的エビデンスの蓄積で医師の理解が進み、女性特有の悩みや自然志向も需要増加を後押ししています。
ツムラの新工場建設
ツムラが茨城工場に415億円を投じて建設する新棟がニュースになっています。
https://www.tsumura.co.jp/news/newsrelease/item/20250715.pdf
これは、主に医療用漢方製剤の需要拡大に対応し、生産能力の増強と安定供給の確保を実現するための重要な投資です。新棟建設により、ツムラは高まる漢方薬の需要に対応し、高品質な漢方製剤の安定供給体制を一層強化していく方針です。
どんな漢方薬を製造するのか
ツムラの茨城工場は、主に医療用漢方製剤を製造しています。具体的にどのような漢方薬が製造されるかについては、個別の新棟で特定の製品に特化するというよりも、ツムラが手掛ける広範囲の医療用漢方製剤全般の生産能力を増強し、需要に対応するためのものと考えられます。
ツムラの医療用漢方製剤は非常に多岐にわたっており、代表的なものとしては以下のような漢方薬が挙げられます。
- ツムラ葛根湯(かっこんとう):風邪の初期症状、肩こりなど
- ツムラ小青竜湯(しょうせいりゅうとう):アレルギー性鼻炎、気管支喘息など
- ツムラ五苓散(ごれいさん):二日酔い、むくみ、下痢など
- ツムラ八味地黄丸(はちみじおうがん):頻尿、排尿困難、むくみ、しびれなど
- ツムラ大柴胡湯(だいさいことう):便秘、肥満症、胆石症など
- ツムラ半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう):胃腸炎、口内炎、神経症など
- ツムラ黄連解毒湯(おうれんげどくとう):口内炎、湿疹、不眠症など
- ツムラ補中益気湯(ほちゅうえっきとう):疲労倦怠、食欲不振、術後の体力低下など
これらの漢方薬は、エキス顆粒として製造され、最終的に分包品として提供されます。茨城工場の新棟は、これらのエキス顆粒の製造から最終製品の包装までを一貫して行う能力を強化することで、安定供給と生産効率の向上を目指しています。
したがって、茨城工場の新棟で特定の漢方薬のみを製造するのではなく、ツムラが現在医療機関に提供している幅広い漢方製剤全般の生産量を増やすための基盤が強化されると理解するのが適切です。

ツムラの茨城工場では、医療用漢方製剤全般のエキス顆粒と最終製品を製造します。風邪薬の葛根湯からアレルギー性鼻炎の小青竜湯、疲労回復の補中益気湯など、ツムラが提供する多様な漢方薬の生産能力を増強し、安定供給を図るのが目的です。
漢方薬と通常の医薬品の違いは何か
漢方薬と通常の医薬品(西洋薬)は、その成り立ち、作用機序、治療の考え方において大きな違いがあります。
1. 成り立ちと成分
- 漢方薬: 自然界にある植物、動物、鉱物などの生薬を数種類組み合わせて作られます。一つの生薬にも数千種類の物質が含まれており、それらが複合的に作用することで効果を発揮します。
- 西洋薬: 科学的に合成された化合物や、単一の有効成分を精製して作られます。基本的に「純粋な単一の物質」で構成されます。
2. 作用機序と治療の考え方
- 漢方薬:
- 全体性(ホリスティック): 病気の症状だけでなく、個人の体質、体力の程度、生活習慣など、心身全体のバランスを重視し、身体が本来持っている自然治癒力を高めるように作用します。
- 多角的アプローチ: 複数の有効成分が相互に作用し、局所から全身まで広く働きかけます。
- 「未病」への対応: 病気になる手前の「なんとなく不調」や、検査では異常が見られないが自覚症状がある状態(未病)にも対応できます。
- 体質改善: 慢性的な不調に対して、体質そのものを改善していくことを目指します。
- 西洋薬:
- 標的指向性(ピンポイント): 特定の細胞や臓器、あるいは病気の原因となる特定の物質に直接働きかけ、症状を緩和・改善します。
- 対症療法: 病名や症状に対して、ピンポイントで対処することを目的とします。
- 原因除去: 細菌感染など、病気の原因が明確な場合に原因を取り除く治療に適しています。
3. 副作用
- 漢方薬: 一般的に西洋薬に比べて副作用が少ないとされていますが、全くないわけではありません。体質に合わない場合や過剰摂取で副作用が出ることもあります。
- 西洋薬: 比較的、効き目が強い分、副作用も明確に出ることがあります。
西洋薬は「病気の原因や症状をピンポイントで治す」ことに優れており、特に急性疾患や原因が明確な病気に強いです。一方、漢方薬は「体全体のバランスを整え、自然治癒力を高めることで、体質改善や慢性的な不調、未病の改善を図る」ことに長けています。
近年では、それぞれの利点を生かして、漢方薬と西洋薬を併用する「統合医療」も進められています。

漢方薬は生薬の組み合わせで体全体のバランスを整え、自然治癒力を高めます。一方、通常の医薬品(西洋薬)は単一成分で特定の病気や症状にピンポイントで作用します。漢方薬は体質改善や未病に、西洋薬は急性疾患や原因明確な症状に強いという違いがあります。
漢方薬の需要が増加している理由は何か
漢方薬の需要が増加している背景には、いくつかの要因が複合的に絡み合っています。
主な理由を以下に挙げます。
- 高齢化社会の進展:
- 高齢者は複数の疾患を抱える「多病」の傾向があり、西洋薬の併用による副作用や薬物相互作用のリスクが高まります。
- 漢方薬は、体全体のバランスを整え、複数の症状に同時にアプローチできるため、高齢者のQOL(生活の質)向上に寄与すると期待されています。
- 特定の症状だけでなく、漠然とした不調(冷え性、倦怠感、耳鳴りなど)にも対応しやすい点が評価されています。
- 「未病」への関心の高まり:
- 検査では異常がないものの、なんとなく体調が悪い、病気の一歩手前といった「未病」の状態に対する意識が高まっています。
- 漢方薬は、病気になる前の段階で体質を改善し、自然治癒力を高めることを得意とするため、予防医療やセルフメディケーションの観点から注目されています。
- 西洋薬の限界と副作用回避のニーズ:
- 西洋薬で効果が見られなかった症状や、副作用が懸念される場合に、漢方薬が選択肢として検討されるケースが増えています。
- 特に、がん治療における副作用の軽減や、アレルギー性疾患、慢性的な痛みなど、西洋薬だけでは対応しきれない症状への補完的治療として期待されています。
- エビデンスの蓄積と医療現場での普及:
- 近年、漢方薬の有効性や作用機序に関する科学的な研究が進み、エビデンスが蓄積されつつあります。
- これにより、医師の漢方薬への理解が進み、日常的な診療で漢方薬を処方する医師が増加しています。
- 多くの大学病院や医療機関で漢方専門外来が開設され、保険適用される漢方薬の種類も増えています。
- 女性特有の悩みに対応:
- 月経不順、PMS(月経前症候群)、更年期障害など、女性特有の症状に対する漢方薬の有効性が広く認識されています。
- 「フェムケア」「フェムテック」といった女性の健康に関する意識の高まりも、漢方薬の需要を後押ししています。
- 自然志向・健康志向の高まり:
- 合成医薬品への抵抗感から、天然由来の生薬を原料とする漢方薬への関心が高まっています。
- 健康意識の高い人々を中心に、体への負担が少ないと考えられている漢方薬を選ぶ傾向が見られます。
これらの要因が複合的に作用し、医療現場においても一般の人々の間でも、漢方薬の需要が増加していると考えられます。

高齢化で複数の不調を抱える人が増え、「未病」への意識向上や西洋薬の副作用回避ニーズが高まっています。また、科学的エビデンスの蓄積で医師の理解が進み、女性特有の悩みや自然志向も需要増加を後押ししています。
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