圧力センサーとは何か?ピエゾ抵抗効果とは何か?ウエハの直接接合が必要な理由は何か?

この記事で分かること

  • 圧力センサーとは:微小電気機械システム(MEMS)技術で作られた小型センサーです。シリコン基板上のダイヤフラムの変形を、ピエゾ抵抗効果や静電容量の変化として検出し、圧力を電気信号に変換します。
  • ピエゾ抵抗効果とは:半導体や金属に機械的な歪み(応力)を加えた際、その電気抵抗値が変化する現象です。特にシリコンなどの半導体で変化が大きく、圧力センサーや歪みセンサーに応用されます。
  • 直接接合が必要な理由:絶対圧センサーの高気密な真空基準室を高精度に形成するためです。これにより、長期的な安定性と小型化、ウェハレベルパッケージングによる低コスト化を実現します。

圧力センサー

 チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。

 前回は加速度センサーに関する記事でしたが、今回はMEMSデバイスの圧力センサーに関する記事となります。

圧力センサーとは何か

 MEMSデバイスの圧力センサーは、MEMS(Micro-Electro-Mechanical System:微小電気機械システム)技術を用いて製造された小型の圧力センサーです。

 これは、シリコンなどの半導体材料の上に、圧力によって変形するダイヤフラム(隔膜)などの微細な機械構造と、それを電気信号に変換する回路を一体形成したデバイスです。


仕組みと主な方式

 MEMS圧力センサーは、圧力を受けたダイヤフラムの物理的な変形を検知し、それを電気信号に変換することで圧力を計測します。主な検出原理には以下の2種類があります。

  • ピエゾ抵抗方式
    • ダイヤフラムの上にピエゾ抵抗(歪みゲージ)を形成します。
    • 圧力が加わりダイヤフラムが変形すると、ピエゾ抵抗に応力(歪み)が発生し、その電気抵抗値が変化する現象(ピエゾ抵抗効果)を利用します。
    • 通常、4つのピエゾ抵抗をホイートストーンブリッジ回路として接続し、抵抗変化を電圧の変化として検出します。
    • 特徴: 比較的大きな出力電圧が得られ、高精度な測定が可能です。
  • 静電容量方式
    • ダイヤフラムと固定電極を対向させ、コンデンサを形成します。
    • 圧力が加わりダイヤフラムが変形すると、電極間の距離が変化し、それに伴って静電容量(キャパシタンス)が変化する現象を利用します。
    • 特徴: 低ノイズ、低消費電流である点が優れています。

特徴

  • 小型・軽量: MEMS技術により、センサー素子を半導体ICと同様にウェハ上で多数形成し、極めて小さく薄いチップに集積化できます。
  • 高精度: 微細な構造により、わずかな圧力変化でも高い分解能で検出できます。
  • 量産性・低コスト: 半導体製造プロセスを利用するため、大量生産に適しており、低コスト化が可能です。
  • 低消費電力: 特に静電容量方式は、低消費電流での動作が可能です。

応用例

 小型・高精度・低消費電力という特徴から、幅広い分野で利用されています。

  • 民生機器:
    • スマートフォン・ウェアラブル端末: 気圧計(高度計)として、屋内ナビゲーションや運動量の計測に。
    • 家庭用血圧計: 血圧の測定に。
  • 自動車:
    • タイヤ空気圧監視システム (TPMS): タイヤの空気圧を監視。
    • エンジン制御: 吸気圧や排気圧の測定に。
  • 産業・医療:
    • 工業用圧力測定: 装置や配管内の圧力監視に。
    • 医療機器: 人工呼吸器やカテーテル先端での生体圧測定(例:血管内圧)に。
  • 気象・環境:
    • 気象観測や高度測定に。

MEMS圧力センサーは、微小電気機械システム(MEMS)技術で作られた小型センサーです。シリコン基板上のダイヤフラムの変形を、ピエゾ抵抗効果静電容量の変化として検出し、圧力を電気信号に変換します。

ピエゾ抵抗効果とは何か

 ピエゾ抵抗効果(Piezoresistance Effect)とは、半導体や金属などの物質に機械的な歪み(応力)を加えたときに、その電気抵抗が変化する現象のことです。

「ピエゾ(piezo)」はギリシャ語で「押す」「圧力を加える」という意味に由来します。


ピエゾ抵抗効果の原理

 この効果は、主に以下の理由で発生します。

1. 物質の形状変化による影響(金属、半導体共通)

 力を加えることで、物質の長さ L断面積 S がわずかに変化します。電気抵抗 Rは、抵抗率 ρを用いて R = ρ× (L/S)と表されるため、形状の変化によって抵抗値が変化します。

2. 導電率の変化による影響(特に半導体)

 これが(ピエゾ抵抗効果の主要な要因であり、特に半導体で顕著に現れます。

  • 半導体に歪みが加わると、結晶格子が変形します。
  • この結晶格子の変化が、半導体のバンドギャップ構造に影響を与えます。
  • その結果、電流を流すキャリア(電子や正孔)の移動度や濃度が敏感に変化し、抵抗率 ρ が大きく変わります。

 半導体(特にシリコンやゲルマニウム)は、金属に比べてこの抵抗率の変化が非常に大きいため、高感度なセンサーに利用されています。


圧電効果との違い

 似た名前の現象に圧電効果(Piezoelectric Effect)がありますが、ピエゾ抵抗効果とは異なります。

特徴ピエゾ抵抗効果圧電効果
現象歪み(応力)によって電気抵抗が変化する。歪み(応力)によって電位(電圧)が発生する。
物質半導体(シリコンなど)、金属水晶、特定のセラミックス(PZTなど)
用途圧力センサー、歪みセンサー(ストレインゲージ)発振子、スピーカー、着火装置、超音波センサー

応用例

 ピエゾ抵抗効果は、機械的な力や圧力を高感度で電気信号に変換できるため、各種センサーの原理として広く利用されています。

  • 圧力センサー(MEMS圧力センサー): シリコン製のダイヤフラムにピエゾ抵抗を形成し、圧力によるダイヤフラムの変形(歪み)を抵抗変化として検出します。
  • 歪みセンサー(ストレインゲージ): 物体のわずかな変形や歪みを測定するために用いられます。
  • 加速度センサー、ロードセル(荷重計) など

 高感度な半導体ピエゾ抵抗を利用することで、小型で精度の高いセンサーが実現されています。

エゾ抵抗効果は、半導体や金属機械的な歪み(応力)を加えた際、その電気抵抗値が変化する現象です。特にシリコンなどの半導体で変化が大きく、圧力センサー歪みセンサーに応用されます。

ダイヤフラムとは何か

 「ダイヤフラム(Diaphragm)」は、元々「横隔膜」を意味する言葉ですが、工学分野では、圧力や力に応じて変形する弾性のある薄膜(隔膜)を指します。

 これは、気密性や液密性を保ちながら、片側の圧力変化や動きをもう一方に伝えたり、電気信号に変換したりする役割を持つ重要な部品です。


工学的な特徴と機能

 ダイヤフラムは、その材料や形状によって様々な機能を発揮します。

1. 圧力・変位の検出・変換

  • 圧力センサー: MEMS圧力センサーのように、ダイヤフラムが圧力を受けて変形し、その変位を電気信号(抵抗や静電容量の変化)に変換して測定します。
  • 圧力計、流量計: 圧力や流量の変化によってダイヤフラムが膨らんだり凹んだりし、その動きを指針などに伝えて計測します。

2. シールと駆動

  • ポンプ(ダイヤフラムポンプ): ダイヤフラムをモーターや空気圧で往復運動させ、ポンプ室の容積を周期的に変化させることで、液体や気体を吸入・吐出させます。この際、軸シール(グランドパッキン)が不要なため、液漏れのリスクが低いのが特徴です。
  • バルブ(ダイヤフラムバルブ): 駆動部からダイヤフラムを押し付けて流体の通路を閉じたり開いたりして、流量を制御します。
  • アクチュエータ: 圧力の変化を機械的な動きに変換する部品として使用されます。

3. 材料

 ダイヤフラムの用途によって、以下のような材料が使われます。

  • 金属: 高精度なセンサーや高圧環境での使用(例:ステンレス、ベリリウム銅)。
  • ゴム・合成樹脂: ポンプ、バルブ、アクチュエータなどで、柔軟性、耐薬品性、耐久性が求められる場合(例:クロロプレンゴム、PTFE)。
  • シリコン: MEMSデバイスの圧力センサーやマイクロフォンなどで、微細加工と高感度検出が必要な場合。

ダイヤフラムは、圧力や力に応じて変形する弾性のある薄い膜(隔膜)です。気密性を保ちながら、その変位を検出・利用し、圧力センサーポンプ、バルブなどの駆動・計測部品として使われます。

圧力センサーにウエハの直接接合が必要な理由は何か

 圧力センサーにおいてウェハの直接接合(Wafer Direct Bonding)が必要とされる主な理由は、高性能化、小型化、高信頼性の実現、そしてウェハレベルパッケージングによる低コスト化・量産性向上にあります。

特にMEMS圧力センサーでは、この技術が不可欠です。


1. 検出性能と信頼性の向上

1-1. 内部基準空間の形成(絶対圧センサー)

 絶対圧センサーは、外界の圧力と比較するための真空または特定の圧力が封入された密閉空間(キャビティ)を必要とします。

  • ウェハ直接接合は、このキャビティを高気密、かつ高精度に形成する最も優れた方法です。
  • 常温接合フュージョン接合といった直接接合技術は、接着剤や中間層を使わないため、アウトガス(封止材から発生するガス)によるキャビティ内の圧力変化や汚染を防ぎ、長期的な安定性と高信頼性を確保できます。

1-2. 熱歪みと熱応力の低減

 従来の接合方法(例:ガラスフリット接合、陽極接合など)は高温で行われることが多く、以下の問題がありました。

  • 熱歪み・熱応力: シリコン(センサー部)と封止材(ガラスなど)の熱膨張率の差により、冷却時に内部に応力が発生し、ダイヤフラムの特性が変化したり、接合が剥離したりするリスクがあります。
  • 直接接合、特に常温接合室温で高い接合強度が得られるため、この熱歪みが原理的に発生せず、センサーの初期特性が保たれ、長期信頼性が向上します

2. 小型化とウェハレベルパッケージング

2-1. 高い集積度と小型化

 直接接合は、接着層の厚みが極めて薄く、微細な接続ピッチで接合が可能です。

  • これにより、センサー素子とパッケージをウェハの段階で一体化ウェハレベルパッケージング/WLP)できるため、センサーの最終製品サイズがチップサイズとなり、超小型化が実現します。

2-2. 製造コストの削減と量産性

 これにより、従来のワイヤーボンディングや個別パッケージングに必要な組み立て工程が大幅に短縮され製造の効率化(高い生産性)と低コスト化が可能となります。

 ウェハレベルパッケージングは、個々のチップを切り出す前に、ウェハの状態で全てのパッケージング工程(封止、配線など)を完了させます。

ウェハの直接接合は、絶対圧センサー高気密な真空基準室高精度に形成するためです。これにより、長期的な安定性小型化ウェハレベルパッケージングによる低コスト化を実現します。

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