サイバー・フィジカルシステム 融合に必要な要素は何か?移動不要化に必要な技術は?

この記事で分かること

  • 融合に必要な要素:移動不要化、グリーンな移動、両者のベストミックスによってサイバー・フィジカルシステムの実現が検討されています。
  • 移動不要化に必要な技術:情報通信基盤やインタフェース、センシング、データ処理、ロボティクスなどの技術が必要です。

サイバー・フィジカルシステム

電子情報技術産業協会(JEITA)は「第11版 電子部品技術ロードマップ」を3月末に発刊しました。

 https://newswitch.jp/p/45382

 このロードマップは、日本のエレクトロニクス産業が2050年を見据えてどのような技術的進展や社会的課題に対応していくかを示したものになっています。 

 今回はJEITAが推進する分野の一つであるサイバー技術とフィジカルの融合についての解説となります。

サイバー技術とフィジカルの融合とは何か

 サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合するサイバー・フィジカルシステム(CPS)は、Society 5.0の実現に向けた重要な要素として位置づけられています。

JEITAが提言するサイバー・フィジカルの高度融合のポイント

 JEITAの提言(2022年度)では、サイバー・フィジカルの連携・融合を通じて、以下の3つの主要なアウトカムの実現を目指しています。

  1. 移動不要化(遠隔化/リモート化技術):
    • 遠隔操作、リモートメンテナンス、仮想現実(VR)/拡張現実(AR)などを活用し、物理的な移動の必要性を減らす。
    • これにより、労働力不足の解消、生産性の向上、働き方改革、地方創生、環境負荷の低減などが期待されます。
  2. グリーンな移動:
    • コネクテッドカー、自動運転、MaaS(Mobility as a Service)などを活用し、より効率的で環境負荷の少ない移動手段を実現する。
    • AIによる最適化、エネルギーマネジメント、公共交通機関との連携などが重要となります。
  3. 移動・非移動のベストミックス:
    • 上記2つを組み合わせ、状況やニーズに応じて最適な移動手段と非移動手段を組み合わせることで、より快適で持続可能な社会を目指す。

背景と重要性

 Society 5.0では、IoT(Internet of Things)で収集された膨大なデータをAI(人工知能)などで分析し、その結果をフィジカル空間にフィードバックすることで、経済発展と社会的課題の解決を両立することを目指しています。

 サイバー・フィジカルシステム(CPS)は、このSociety 5.0の中核となる概念であり、JEITAは、CPSの実現と高度化が、日本の産業競争力の強化と持続可能な社会の実現に不可欠であると考えています。

サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合するサイバー・フィジカルシステムは、Society 5.0の中核となる概念で移動不要化、グリーンな移動、両者のベストミックスによって実現が検討されています。

移動不要化に必要な技術は何か

 移動不要化、つまり遠隔化やリモート化を実現するために必要となる技術は多岐にわたります。JEITAの提言も踏まえ、主要なものをいくつかご紹介します。

情報通信基盤

  • 高速・大容量ネットワーク: 5G、Beyond 5G/6Gなどの次世代通信技術は、リアルタイムかつ高精細なデータ伝送を可能にし、遠隔地とのスムーズなコミュニケーションや制御を実現します。
  • 安定したネットワーク環境: 遅延が少なく、信頼性の高いネットワークインフラは、遠隔操作やオンライン会議などを円滑に行うために不可欠です。

インターフェース技術

  • 高精細な映像・音声技術: 臨場感のある映像やクリアな音声は、遠隔でのコミュニケーションや共同作業を円滑にします。高解像度ディスプレイ、高品質なマイク・スピーカーなどが重要です。
  • VR(仮想現実)/AR(拡張現実)/MR(複合現実): 仮想空間での臨場感のある体験や、現実空間に情報を重ね合わせて表示する技術は、遠隔での設計レビュー、トレーニング、メンテナンスなどを高度化します。
  • 触覚・力覚伝送技術: 遠隔地にいながら、あたかもそこにいるかのような触覚や力覚を伝える技術は、遠隔手術や精密な遠隔操作などを可能にする可能性があります。
  • ジェスチャー認識、視線追跡などのヒューマン・マシン・インターフェース(HMI): より直感的で自然な操作を可能にし、遠隔操作の効率性やユーザビリティを高めます。

センシング・データ処理技術

  • 高性能センサー: 環境、物体、人の状態などを正確かつリアルタイムに検知するセンサー技術は、遠隔監視や遠隔操作の基礎となります。
  • エッジコンピューティング: センサーで収集されたデータを現場に近い場所で処理することで、リアルタイム性を高め、ネットワークの負荷を軽減します。
  • AI(人工知能)/機械学習: 収集された大量のデータを分析し、状況を理解したり、将来を予測したりすることで、より高度な遠隔制御や自動化を実現します。

制御・ロボティクス技術

  • 高精度な遠隔制御技術: ネットワークを介して、遠隔にある機器やロボットを遅延なく、正確に操作する技術は、遠隔作業や自動化に不可欠です。
  • 自律移動ロボット(AMR)/無人搬送車(AGV): 物流倉庫や工場などで、人手を介さずに自律的に移動し、作業を行うロボットは、移動の必要性を減らします。
  • アバターロボット: 遠隔地にいる人が、ロボットを通じてその場にいるかのように活動できる技術は、コミュニケーションやサービス提供の新しい形を生み出します。

セキュリティ技術

  • 高度なサイバーセキュリティ対策: 遠隔操作やデータ通信においては、不正アクセスや情報漏洩を防ぐための強固なセキュリティ対策が不可欠です。

その他

  • デジタルツイン: 現実世界の物理的なシステムやプロセスをサイバー空間に再現する技術は、遠隔でのシミュレーション、分析、最適化を可能にします。
  • メタバース: 仮想空間上でのコミュニケーションやコラボレーションは、物理的な移動を伴わない新しい働き方や交流の場を提供します。

 これらの技術は単独で存在するのではなく、相互に連携し、高度に統合されることで、より効果的な移動不要化が実現できます。

移動不要化には、情報通信基盤やインタフェース、センシング、データ処理、ロボティクスなどの技術が必要です。また、これらの技術は単独で存在するのではなく、相互に連携し、高度に統合されることで、より効果的となります。

触覚・力覚伝送技術とは何か

 触覚・力覚伝送技術とは、人が物体に触れた際に感じる感触(触覚)や、物体を押したり引いたりする際に感じる力(力覚)を、遠隔地にいる別の人間やロボットに伝送し、再現する技術のことです。

 あたかも遠隔地にいる人が、実際に物に触ったり、力を加えたりしているかのような感覚を体験できます。

具体例

  1. センシング: マスター側(操作する側)のデバイスが、人の手の動きや、物体との接触、加えている力などをセンサーで計測します。
  2. データ化・伝送: 計測された触覚や力覚の情報は、電気信号などのデジタルデータに変換され、ネットワークを通じてスレーブ側(再現する側)のデバイスに伝送されます。
  3. アクチュエーション: スレーブ側のデバイスは、受け取ったデータに基づいて、モーターやアクチュエータなどの機構を制御し、触覚や力覚を再現します。これには、振動、圧力、抵抗などを生み出す様々な方法が用いられます。
  4. フィードバック: 双方向通信が可能なシステムでは、スレーブ側で感じた力や感触がマスター側にフィードバックされることで、よりリアルタイムでインタラクティブな操作が可能になります。

応用例

  • 遠隔医療: 医師が遠隔地にいる患者を触診したり、手術支援ロボットを操作する際に、患部の感触や手術器具の操作感をリアルに伝える。
  • 遠隔操作: 危険な場所や人が立ち入れない場所にあるロボットを、あたかも自分の手足のように操作し、作業を行う。
  • 技能伝承: 熟練者の微妙な手の動きや感覚を記録・伝送し、初心者がそれを体験することで、効率的な技術習得を支援する。
  • バーチャルリアリティ(VR)/拡張現実(AR): 仮想空間や現実空間に重ね合わせたデジタルオブジェクトに対して、触れたり、力を加えたりする感覚を与えることで、より没入感のある体験を実現する。
  • エンターテインメント: ゲームコントローラーやデバイスを通じて、ゲーム内のオブジェクトの質感や衝撃などをリアルに感じさせる。
  • Eコマース: オンラインショッピングで、商品の質感や手触りをある程度体験できるようにする。

触覚・力覚伝送技術の課題

  • リアルタイム性: 遅延が大きいと、操作感が不自然になったり、危険を伴う可能性があるため、高速で安定した通信が不可欠です。
  • 再現性の難しさ: 人間の触覚・力覚は非常に繊細で複雑なため、その全てを忠実に再現することは技術的に困難です。
  • デバイスの小型化・軽量化: 特にウェアラブルデバイスなどへの応用においては、小型で軽量なデバイスの開発が求められます。
  • コスト: 高度な触覚・力覚伝送システムは、一般的に高価になる傾向があります。
  • 標準化: 異なるシステム間での互換性やデータ形式の標準化が進んでいません。

触覚・力覚伝送技術とは、人が物体に触れた際に感じる感触(触覚)や、物体を押したり引いたりする際に感じる力(力覚)を、遠隔地にいる別の人間やロボットに伝送し、再現する技術のことです。

エッジコンピューティングとは何か

 エッジコンピューティングとは、データが発生する場所(ネットワークの「端」、つまりエッジ)に近い場所でデータ処理を行うコンピューティングモデルのことです。

従来のクラウドコンピューティングでは、センサーやデバイスから収集されたデータは一旦クラウド上のデータセンターに送られ、そこで処理・分析されていました。しかし、エッジコンピューティングでは、この処理の一部または全部を、データ発生源に近いデバイスやローカルサーバーで行います。

主な目的とメリット

  • 低遅延: データをクラウドに送る時間と、処理結果が返ってくるまでの時間を短縮できます。リアルタイム性が求められるアプリケーション(自動運転、産業用ロボット制御、遠隔医療など)にとって非常に重要です。
  • ネットワーク負荷の軽減: 処理済みのデータや必要な情報だけをクラウドに送るため、ネットワークのトラフィックを大幅に削減できます。特に、大量のデータを生成するIoTデバイスが増加する中で、ネットワークの輻輳を防ぎ、通信コストを抑える効果があります。
  • リアルタイムな意思決定: センサーデータなどをエッジ側で迅速に分析し、即座にアクションを起こすことができます。異常検知、故障予測、自動制御などをより迅速に行えます。
  • セキュリティとプライバシーの向上: 機密性の高いデータをクラウドに送信する前にローカルで処理することで、セキュリティリスクを低減できます。また、不要な個人情報のクラウドへの送信を避けることで、プライバシー保護にもつながります。
  • 可用性の向上: ネットワーク接続が不安定な環境でも、エッジデバイス単独で一定の処理を継続できるため、システムの信頼性や可用性が向上します。

エッジコンピューティングの構成要素

  • エッジデバイス: センサー、アクチュエータ、カメラ、PLC(プログラマブルロジックコントローラー)、スマートフォンなど、データを収集・生成するデバイス。
  • エッジサーバー/ゲートウェイ: エッジデバイスから収集されたデータを集約し、初期処理やフィルタリング、分析などを行うサーバーやゲートウェイ機器。
  • エッジプラットフォーム: エッジデバイスやエッジサーバーを管理・運用するためのソフトウェアプラットフォーム。
  • クラウド: エッジで処理しきれない高度な分析や、長期的なデータ保存、グローバルな連携などに利用されます。エッジと連携して全体システムを構成します。

エッジコンピューティングの活用例

  • 産業IoT (IIoT): 工場の設備監視、予知保全、品質管理、ロボット制御など。
  • 自動運転: センサーからのリアルタイムな情報を処理し、瞬時に判断・制御を行う。
  • スマートシティ: 交通管理、エネルギー管理、公共安全など、都市全体の効率化と安全性向上。
  • ヘルスケア: ウェアラブルデバイスからの生体データモニタリング、遠隔医療など。
  • リテール: 店舗内の顧客行動分析、在庫管理、デジタルサイネージの最適化など。

 エッジコンピューティングは、IoTデバイスの普及やリアルタイム処理のニーズの高まりとともに、ますます重要性を増しているコンピューティングパラダイムです。

エッジコンピューティングとは、データが発生する場所(=エッジ)に近い場所でデータ処理を行うコンピューティングモデルで、IoTデバイスの普及やリアルタイム処理のニーズの高まりとともに、ますます重要性を増しています。

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