この記事で分かること
- 行う研究内容:最先端のIT・ロボット技術を導入したスマートラボで、マルチモダリティを用いた次世代医薬品の創出などを目指します。特に、革新的な疾患ターゲットや技術プラットフォームを活用し、画期的なサイエンスを育成します。
- マルチモダリティ用いた次世代医薬品とは:低分子や抗体だけでなく、ADC(抗体薬物複合体)、核酸医薬、細胞・遺伝子治療など、複数の新しい技術(モダリティ)を組み合わせ、従来の薬では難しかった疾患を標的とする医薬品です。
第一三共のサンディエゴの研究イノベーション拠点
第一三共は、米国カリフォルニア州サンディエゴに研究イノベーション拠点である「Daiichi Sankyo Research Institute San Diego」を設立しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC028AB0S5A001C2000000/
これは、同社がグローバルな創薬研究体制を強化し、新薬創出の基盤となる最先端のサイエンスを継続的に見出すことを目的とした取り組みの一環です。
どんな研究を行うのか
第一三共がカリフォルニア州サンディエゴに設立した研究イノベーション拠点「Daiichi Sankyo Research Institute San Diego」では、主に次世代医薬品の創出に向けた研究活動を行うとされています。
この拠点の役割は、世界各地のライフサイエンスエコシステムに研究者を配置し、最先端のサイエンスを継続的に見出し、新薬創出の基盤を築くことです。
主な研究の方向性
- 先進的な技術プラットフォームと疾患ターゲットの活用:
- 同社のプレスリリース等によると、サンディエゴの拠点は、当社の研究者の高い専門性を活用し、先進的な技術プラットフォームと革新的な疾患ターゲットを通じて、画期的なサイエンスを育成する強固な研究イノベーションネットワークの一部として機能します。
- 創薬研究の効率化:
- 以前には、サンディエゴにITやロボット技術といった最先端技術を導入したスマートリサーチラボを設立し、研究の再現性・生産性の向上を目指しているという情報もあります。
- 次世代医薬品の創出:
- 海外の研究拠点全体としては、ADC(抗体薬物複合体)をはじめとするマルチモダリティ(低分子化合物、抗体、ADC、バイスペシフィック抗体、mRNAなど多様な技術)を用いた次世代医薬品の創出を目指す研究開発戦略を支えるものと考えられます。
サンディエゴは、バイオテクノロジーの集積地であるため、特にオープンイノベーションを通じて、新しい創薬のシーズや技術を取り込む役割も担うと期待されます。

第一三共のサンディエゴ拠点は、最先端のIT・ロボット技術を導入したスマートラボで、マルチモダリティを用いた次世代医薬品の創出などを目指します。特に、革新的な疾患ターゲットや技術プラットフォームを活用し、画期的なサイエンスを育成します。
サンディエゴを選んだ理由は
第一三共がカリフォルニア州サンディエゴを研究イノベーション拠点の設立地に選んだ主な理由は、以下に示すように世界有数のライフサイエンス・エコシステムの中心地の一つであるためです。
1. 最先端のサイエンスの継続的な発掘
サンディエゴは、著名な研究機関、大学(UCSDなど)、バイオテクノロジー企業、スタートアップなどが集積するグローバルな創薬のハブです。この環境に拠点を置くことで、新薬創出の基盤となる最先端の科学的知見や技術を継続的に見つけ出し、研究に活かすことができます。
2. 研究連携の一層の強化
現地のライフサイエンスエコシステムに研究者を配置し、外部との研究連携(オープンイノベーション)を一層強化することを目指しています。これにより、同社の研究ネットワークを拡大し、革新的なアイデアや技術を迅速に取り込むことが可能になります。
3. グローバルな創薬研究ネットワークの構築
サンディエゴ拠点は、すでに開設しているボストンエリア(米国)やミュンヘン(欧州)の拠点と連携し、グローバルな研究イノベーションネットワークの一部として機能します。これは、地域ごとの強みを活かし、世界規模で効率的かつ質の高い創薬研究体制を構築する戦略の一環です。

サンディエゴは世界有数のライフサイエンス・エコシステムであり、大学やバイオ企業が集積しています。この地で最先端の科学的知見を獲得し、オープンイノベーションを通じて研究連携を強化するためです。
マルチモダリティを用いた次世代医薬品とはなにか
マルチモダリティを用いた次世代医薬品とは、従来の低分子医薬品や抗体医薬品といった単一の手段(モダリティ)だけでなく、複数の新しい治療手段や物質特性を組み合わせて創出される医薬品群のことです。
「モダリティ(Modality)」は創薬の分野では「薬になる分子の種類」や「治療手段」を指します。
マルチモダリティ創薬の概要
マルチモダリティ創薬は、特定の疾患やターゲットに対して、最も効果的かつ安全な治療アプローチを実現するために、多種多様なモダリティ(技術)を柔軟に使い分ける、あるいは組み合わせて利用する考え方です。
1. 多様なモダリティ(治療手段)
従来のモダリティに加えて、以下のような新しい技術を活用します。
- ADC(抗体薬物複合体): 抗体と強力な薬物を連結させ、薬物を標的細胞(がん細胞など)に特異的に送り届ける技術。
- 核酸医薬: DNAやRNAといった核酸を利用し、遺伝子の働きを制御することで病気を治療する医薬品。
- 遺伝子治療: 欠損または異常な遺伝子を修復・置換・導入することで病気を治療する。
- 細胞治療: 免疫細胞などを体外で加工・増殖させ、体内に戻して治療する(例: CAR-T細胞療法)。
- バイスペシフィック抗体: 二つの異なる抗原(ターゲット)に同時に結合できる抗体。
- ペプチド/中分子医薬: 低分子と抗体の中間的な特性を持つ医薬品。
2. 次世代医薬品としての特徴
次 世代医薬品は、これらの多様なモダリティを活用することで、以下のような点で従来の医薬品では難しかった課題を克服することを目指しています。
- 標的特異性の向上: 薬を病気の細胞だけに届け、副作用を軽減する。
- 難治性疾患への対応: 従来、創薬が困難だった標的(Undruggable Target)にもアプローチする。
- 治療効果の最大化: 異なるメカニズムを持つモダリティを組み合わせ、相乗効果を狙う。
第一三共がサンディエゴで強化している創薬研究も、このマルチモダリティ体制を基盤として、革新的な医薬品の継続的な創出を目指すものです。

低分子や抗体だけでなく、ADC(抗体薬物複合体)、核酸医薬、細胞・遺伝子治療など、複数の新しい技術(モダリティ)を組み合わせ、従来の薬では難しかった疾患を標的とする医薬品です。
抗体薬物複合体とは何か
抗体薬物複合体(Antibody-Drug Conjugate: ADC)は、「抗体」と「強力な薬物(細胞毒性薬)」を「リンカー(結合剤)」で結合させた、新しいタイプのがん治療薬です。
ADCは、標的(ターゲット)を狙い撃ちすることで、従来の化学療法(抗がん剤)の課題であった全身性の副作用を軽減しつつ、高い抗腫瘍効果を発揮することを目指した薬剤です。
構造(3つの主要な構成要素)
- 抗体(Antibody):
- がん細胞の表面に特異的に多く発現している特定の分子(抗原、例: HER2、Trop-2など)を認識し、結合する役割を持ちます。
- カーナビのように、薬物を正確にがん細胞まで運びます。
- 細胞毒性薬(Drug / Payload):
- がん細胞を直接破壊する強力な抗がん剤(低分子薬)です。
- 武器のように、細胞死(アポトーシス)を誘導します。
- リンカー(Conjugate / Linker):
- 抗体と薬物を繋ぎ留める鎖の役割を果たします。
- 血中では安定し、がん細胞内に入ってから特定の酵素や環境によって分解され、薬物を放出するように設計されています。
作用の仕組み(「トロイの木馬」戦略)
- 標的認識: 抗体部分ががん細胞の表面にある標的分子に結合します。
- 細胞内への取り込み: 結合後、ADC全体がエンドサイトーシスによりがん細胞内に取り込まれます。
- 薬物放出: 細胞内(リソソームなど)でリンカーが分解され、細胞毒性薬が遊離(放出)されます。
- がん細胞の破壊: 放出された薬物ががん細胞のDNAや細胞分裂に作用し、がん細胞を特異的に殺傷します。
この仕組みにより、薬物が標的細胞以外に届くことを防ぎ、高い治療選択性を実現します。第一三共は、このADC技術において世界をリードする企業の一つとして知られています。

抗体(カーナビ)と強力な薬物(武器)をリンカーで結合した薬剤です。抗体ががん細胞の特定の分子を認識し、薬物を細胞内へ運び込んで放出することで、副作用を抑えつつがんを狙い撃ちします。
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