ダイキンのデータセンター向け冷却事業拡大 拡大する理由は?ダイキンの冷却事業の特徴は?

この記事で分かること

  • データセンター向け冷却事業とは:サーバーやネットワーク機器から発生する大量の熱を効率的に取り除き、機器の安定稼働と性能維持に必要な温度環境を提供するためのシステム(空調・液冷など)やサービス全体です。
  • 拡大の理由: AI普及によるサーバーの発熱量急増と、データセンターの省エネ化・効率改善への強い要求に対応するためです。
  • ダイキンの特徴:大規模な空調(冷凍機)技術と、買収で強化した液冷(コールドプレート等)技術を組み合わせたハイブリッドな総合ソリューションです。高い省エネ性能と、フッ素材料とのシナジーも強みです。

ダイキンのデータセンター向け冷却事業拡大

 ダイキン工業は27日に北米のデータセンター向け冷却事業の売上高を2030年度に足元の約3倍となる3000億円以上にするという方針を示しました。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF271B50X21C25A1000000/

 これは、人工知能(AI)の普及などにより、北米で特にデータセンターの需要が急増していることに対応するための、同社の成長戦略の柱の一つと位置づけられています。

データセンター向け冷却事業とは何か

 データセンター向け冷却事業とは、データセンター内で稼働するサーバーやネットワーク機器が発生させる大量の熱を効率的に除去し、機器を安定稼働させるための適切な温度環境を提供するシステムやサービス全体を指します。

 近年、特にAIの普及に伴い、GPU(画像処理装置)など高い処理能力を持つ機器の発熱量が急増しており、冷却はデータセンター運営において最も重要で、かつエネルギー消費が非常に大きい課題となっています。


冷却が必要な理由と事業の重要性

  1. 機器の安定稼働と性能維持:
    • 電子機器は熱に弱く、高温になると故障の原因になったり、処理能力が低下したりします。冷却システムは、機器をメーカーが推奨する動作温度(一般的に18℃〜27℃程度)に保つために不可欠です。
  2. エネルギー効率の改善 (PUEの改善):
    • データセンター全体の消費電力のうち、冷却に費やされる電力は非常に大きな割合を占めます。この事業は、高効率な冷却技術を提供することで、データセンターの電力利用効率(PUE:Power Usage Effectiveness)を改善し、運用コストと環境負荷の削減に貢献します。

主な冷却方式の種類

 データセンター向け冷却事業が提供するソリューションには、主に以下の種類があり、発熱量やコスト、効率性に応じて使い分けられます。

方式概要特徴とトレンド
1. 空冷式冷却ファンや空調ユニット(CRAC/CRAH)で冷たい空気を送り込み、サーバーの熱を奪う方式。従来主流。設備投資が比較的少ないが、高発熱サーバーの冷却には限界がある。
2. 水冷・液冷式冷却水や冷媒をサーバーラックや発熱部(チップなど)の近くに循環させて熱を奪う方式。高効率。水が空気よりも熱伝導率が高いことを利用する。近年、高発熱AIサーバーの冷却で主流化。
2-1. コールドプレート冷却発熱部に直接冷却板(コールドプレート)を取り付け、冷却液を流す方式(ダイレクトリキッドクーリング: DLC)。サーバーの熱源に直接アプローチするため、特に高発熱のGPU冷却に効果的。
2-2. リアドア冷却サーバーラックの背面に熱交換器(冷却ドア)を設置し、排熱された空気を冷水で冷却する方式。既存の空冷システムと併用しやすい。
3. 液浸冷却式サーバーを、電気を通さない特殊な冷却液(絶縁液)に丸ごと浸して直接冷却する方式。最高の冷却効率。ファンが不要で静音・防塵性も高い。ただし、専用機器が必要でコストが高い。

 ダイキン工業は、空冷・水冷の大型空調機器の強みに加え、買収した企業を通じて液冷(コールドプレート、液浸含む)の分野も強化し、幅広いニーズに対応するハイブリッドなトータルソリューションを提供しようとしています。

データセンター向け冷却事業とは、サーバーやネットワーク機器から発生する大量の熱を効率的に取り除き、機器の安定稼働と性能維持に必要な温度環境を提供するためのシステム(空調・液冷など)やサービス全体です。

どれくらいの拡大なのか、拡大の理由は何か


1. 拡大の規模:約3倍の「3,000億円以上」へ

 ダイキン工業は、北米のデータセンター向け冷却事業の売上高を、2030年度3,000億円以上にすることを目指しています。

  • 目標額: 3,000億円以上(2030年度)
  • 拡大率: 足元の約3倍

 これは、同社が北米市場におけるこの分野で現在第3位(シェア約12%)というポジションをさらに強化し、市場の急成長を最大限に取り込むことを示しています。


2. 拡大の理由:AIの普及と省エネ要求の急増

 拡大の背景には、主に以下の2つの大きなトレンドがあります。

(1) AI・クラウド技術の普及による発熱量の急増
  • AI関連の需要爆発: ChatGPTのような生成AIや、クラウドコンピューティングの利用が急速に拡大しています。
  • 高発熱化: これらを支えるデータセンターでは、特に高い処理能力を持つGPU(画像処理装置)や最新のCPUが使用されます。これらの機器は、従来のサーバーの数倍から数十倍という大量の熱を発生させます。
  • 冷却の限界: 従来の「空調で部屋全体を冷やす」空冷式では、この高密度な熱を効率的に除去することが難しくなっており、液冷式(水冷、液浸など)といったより効率的な冷却システムへの移行が必須となっています。
(2) 環境規制と運用コスト削減への要求
  • PUE改善の必要性: データセンターの運営コストのうち、冷却にかかるエネルギー費用は約30〜40%を占めるとされ、その削減は喫緊の課題です。
  • 脱炭素社会への貢献: 環境問題への意識の高まりや、各国政府によるエネルギー効率に関する規制強化(例:EPAによるエネルギー効率の高い慣行の推進)により、高効率で省エネ性能が高い冷却ソリューションへの需要が飛躍的に高まっています。

 ダイキンは、長年の空調技術と、戦略的な買収(例:液冷技術を持つチルダイン社など)によって獲得した高効率な液冷技術を組み合わせることで、この巨大な需要を取り込もうとしています。

拡大規模: 2030年度に足元の約3倍となる3,000億円以上の売上高を目指します。

拡大の理由: AI普及によるサーバーの発熱量急増と、データセンターの省エネ化・効率改善(PUE改善)への強い要求に対応するためです。

ダイキンのデータセンター向け冷却事業の特徴は何か

 ダイキン工業のデータセンター向け冷却事業は、従来の強みである空調技術と、近年M&A(合併・買収)で強化した最先端の液冷技術を組み合わせた総合的なソリューションに大きな特徴があります。

主要な特徴と強みは以下の通りです。


1. ハイブリッドな冷却ソリューションの提供能力

  • 空冷・水冷の総合力:
    • 長年培ってきた大規模な冷凍機(チラー)や空調ユニットの技術を基盤としています。これは、データセンター全体を冷やすための基本的なインフラとして重要です。
  • 液冷技術の強化:
    • 米国の液冷企業であるChilldyne(チルダイン)社などの買収により、AIチップなどの高発熱部品を直接冷やすダイレクト・トゥ・チップ冷却(コールドプレート冷却)の技術を一気に強化しました。
    • 特に、チルダイン社の技術は負圧式で、液漏れリスクが低く、安全性が高いという特徴があります。

 これにより、ダイキンは「部屋を冷やす」から「発熱源を直接冷やす」まで、幅広いニーズに対応できる体制を整えています。

2. 高いエネルギー効率と省エネへの貢献

  • PUE/WUE改善:
    • ダイキンの高効率な冷却システムは、データセンターの電力利用効率(PUE)や水利用効率(WUE)の改善に大きく貢献します。
    • AIを活用した制御システム「iDCM (Intelligent Data Center Manager)」などにより、最大20台の機器を効率的に制御し、エネルギー消費を削減します。
  • 環境規制への対応:
    • 低GWP(地球温暖化係数)冷媒やリサイクルガスを採用するなど、F-GasやMEESといった厳しい環境規制への適合も見据えています。

3. フッ素材料事業とのシナジー

  • ダイキンは化学メーカーとしての側面も持ち、フッ素技術を冷却分野に応用しています。
    • 液浸冷却用フッ素系液体「DAISAVE」: サーバーを丸ごと浸す液浸冷却に用いる、熱的・化学的安定性に優れた液体を提供できます。
    • フッ素樹脂: コールドプレート冷却用のチューブや、バスバー(給電装置)の絶縁コーティングなどにもフッ素材料を活用し、安全性や性能向上に貢献しています。

4. ライフサイクルを通じた一貫サポート

 製品の供給から、導入後のメンテナンス、部品供給、長期的な運用サポートまでを自社で一貫して提供できる体制が整っています。これは、データセンターのような24時間365日の安定稼働が求められる施設にとって、大きな信頼性と強みとなります。

ダイキンの特徴は、大規模な空調(冷凍機)技術と、買収で強化した液冷(コールドプレート等)技術を組み合わせたハイブリッドな総合ソリューションです。高い省エネ性能と、フッ素材料とのシナジーも強みです。

競合にはどんな企業があるのか

 ダイキン工業のデータセンター向け冷却事業における主要な競合企業は、提供するソリューションの種類(空冷 vs. 液冷)や地域によって異なりますが、グローバル市場、特に北米市場で存在感を持つ企業には以下のような企業があります。

1. 総合的なインフラ・空調ソリューションの競合

 これらは、ダイキンと同様にデータセンター全体に必要な空調・電源設備などを幅広く提供しています。

  • Vertiv Group Corp.(ヴァーティブ)
    • データセンター向けのインフラソリューション(電源、冷却、監視)のトップ企業のひとつです。空冷、水冷ともに強いプレゼンスを持ち、ダイキンの主要な競合と見られます。
  • Schneider Electric SE(シュナイダーエレクトリック)
    • 電力管理や自動化技術に強く、データセンター向けにも総合的なソリューション(ラック、電源、冷却)を提供しています。
  • Johnson Controls International PLC(ジョンソンコントロールズ)
    • ビルディングテクノロジーやHVAC(冷暖房空調)に強く、大型チラー(冷凍機)や制御システムで競合します。
  • Stulz GmbH(シュトゥルツ)
    • データセンター向けの精密空調(CRAC/CRAH)の専門企業として知られています。

2. 液冷・先進冷却技術に特化した競合

 AIサーバーの高発熱化に伴い、特にダイキンが強化している液冷分野で競合する専門企業です。

  • Asetek A/S(エーステック)
    • 高性能コンピューティング向けの液冷ソリューションのリーディングカンパニーの一つで、ダイレクト・トゥ・チップ冷却(コールドプレート冷却)などで競争しています。
  • CoolIT Systems Inc.(クールITシステムズ)
    • HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)やデータセンター向けの液冷技術を提供しています。
  • Submer Technologies & Submer Inc.(サブマー)
    • サーバーを液体に完全に浸す「液浸冷却」技術の専門企業として注目されています。
  • Alfa Laval Corporate AB(アルファ・ラバル)
    • 熱交換器や流体処理の技術に強みがあり、液冷システムの重要なコンポーネントで競合します。

3. 日本国内の主要競合

 国内企業では、空調技術を持つ企業や、冷却部品、総合建設業などが競合となり得ます。

  • 三菱電機株式会社
  • 日立製作所
  • 富士通株式会社
  • ニデック株式会社(旧:日本電産)(サーバー用水冷モジュールなど部品レベルで競争)

 ダイキンは、特に北米市場でVertivやSchneider Electric、Johnson Controlsといった巨大企業と、Asetekなどの液冷専業企業の両方と競争していくことになります。

 この競合環境の中で、ダイキンは「空調の総合力」と「液冷技術」のハイブリッド戦略で差別化を図ろうとしています。

競合には、総合インフラ大手のVertivSchneider ElectricJohnson Controlsがあります。また、ダイキンが強化中の液冷分野では、AsetekCoolIT Systemsなどの専門企業と競争しています。

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