ダイキン工業のMOFによる使用済み冷媒の再生 MOFとは何か?どのように冷媒の再生を行うのか?

この記事で分かること

  • MOFとは:金属有機構造体(Metal-Organic Framework)の略で、金属イオンと有機分子が規則正しく結合してできる、ジャングルジム状の多孔性結晶材料です。内部に微細で均一な穴が無数にあり、ガス分離・貯蔵や触媒など、様々な機能を発現する新素材として注目されています。
  • 冷媒の再生方法:MOFを用い、ナノサイズの孔で冷媒分子を選択的に吸着・分離し、高純度で再生します。これにより、従来の分離が困難だった混合冷媒のリサイクルを可能にしました。

ダイキン工業のMOFによる使用済み冷媒の再生

 ダイキン工業はノーベル賞受賞でも話題となったMOF(金属有機構造体:Metal Organic Framework)技術使用済み冷媒の再生を目的とした実用化を検討しています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF099WV0Z01C25A0000000/

 この技術を欧州での冷媒再生プロセスに導入することで、環境に配慮したビジネスモデルを強化し、カーボンニュートラル社会の実現を加速させることを目指しています。

MOFとは何か

 MOFは「金属有機構造体(Metal-Organic Framework)」の略で、人工的に合成された多孔性の結晶性材料(たくさんの規則的な穴を持つ固体材料)です。別名としてPCP(多孔性配位高分子:Porous Coordination Polymer)とも呼ばれます。

構造と特徴

 MOFは、まるで分子レベルのジャングルジムのような、規則的で無限に続くネットワーク構造をしています。

  1. 構成要素:
    • 金属イオン(ノード): 構造の「結び目」や「ジョイント」の役割を果たします。(例: 亜鉛、銅、アルミニウムなどのイオン)
    • 有機配位子(リンカー): 金属イオンを橋渡しする「棒」の役割を果たす有機分子です。
  2. 多孔性と高表面積:
    • 金属イオンと有機配位子が配位結合で規則正しく結びつくことで、内部に均一で微細なサイズの穴(細孔)が無数に形成されます。
    • この穴のおかげで、非常に大きな比表面積(1グラムあたりの表面積)を持ちます。これは活性炭やゼオライトといった従来の多孔性材料を大きく上回るレベルです。
  3. デザインの自由度:
    • 使用する金属イオンや有機配位子の種類、組み合わせを調整することで、細孔の大きさ内部の化学的性質を目的の用途に合わせて自由に設計(デザイン)できるのが最大の特徴です。

主な機能と応用分野

 MOFは、その高い多孔性とデザイン性から、様々な分野での応用が期待されています。

  • 吸着・貯蔵:
    • 微細な穴に特定のガスや分子を高密度で吸着・閉じ込めることができ、水素やメタンなどの燃料ガスの貯蔵・輸送の効率化や安全性の向上に役立ちます。
  • 分離・精製:
    • 細孔のサイズや性質を利用して、混合ガスや混合溶液から特定の分子だけを選択的に分離できます。ダイキンが冷媒再生に応用しているのがこの機能です。
    • 二酸化炭素 () の回収やバイオガスの精製など、環境技術への貢献が期待されています。
  • 触媒:
    • MOFの構造内に触媒活性を持つ金属イオンなどを組み込むことで、吸着した分子に化学反応を促し、不要なガスを有用な物質に変換するなどの応用が可能です。
  • その他:
    • センサー医療材料(ドラッグデリバリー)電池材料など、幅広い分野で研究開発が進められています。

MOF金属有機構造体(Metal-Organic Framework)の略で、金属イオンと有機分子が規則正しく結合してできる、ジャングルジム状の多孔性結晶材料です。内部に微細で均一な穴が無数にあり、ガス分離・貯蔵触媒など、様々な機能を発現する新素材として注目されています。

どのように使用済み冷媒の再生を行うのか

 ダイキンが採用しているMOF(金属有機構造体)による冷媒再生は、MOFの分子ふるい機能を利用します。

使用済み冷媒再生の仕組み

 MOFは、特定の冷媒分子のサイズや化学的な親和性に合わせてナノサイズの孔を設計できます。

  1. 選択的吸着:使用済みの混合冷媒をMOFに接触させると、MOFの孔のサイズや内部の性質が適合する特定の冷媒分子(または分離したい不純物)だけが選択的に吸着されます。
  2. 分離・回収:吸着した冷媒(または不純物)を、温度や圧力を変えるなどしてMOFから脱着(分離)させます。

 この方法により、従来の技術では分離が難しかった冷媒の混合物から、高純度の冷媒を効率的に回収・再生することが可能になります。これは、冷媒の廃棄を減らし、資源を循環させる上で非常に重要な技術です。

ダイキンはMOF(金属有機構造体)を用い、ナノサイズの孔で冷媒分子を選択的に吸着・分離し、高純度で再生します。これにより、従来の分離が困難だった混合冷媒のリサイクルを可能にしました。

どんな冷媒分子で使用できるのか

 ダイキンが欧州で実用化を進めているMOF(金属有機構造体)技術は、分離が困難な「混合冷媒」の再生を主要な対象としています。

 この技術が特に有効なのは、エアコンなどで広く使われてきた以下のHFC系冷媒です。

1. 主な対象冷媒

 MOF技術の鍵は、使用済み冷媒に含まれる複数の成分や不純物を、分子レベルで分離できる点にあります。

  • R-410A(HFC-410A)
    • これは、R-32(ジフルオロメタン)とR-125(ペンタフルオロエタン)の2種類の冷媒を混合した「擬似共沸混合冷媒」です。
    • 使用済みR-410Aを従来の蒸留法で再生しようとすると、成分(R-32とR-125)が完全に分離せず、純粋な冷媒として再生するのが非常に困難でした。MOFは、このR-32とR-125の分離を可能にし、それぞれの成分を再利用可能なレベルまで再生します。
  • その他のHFC系冷媒
    • R-410A以外にも、R-407CR-404A/R-507AなどのHFC系混合冷媒や、それらの冷媒に含まれる不純物(空気、油など)の除去にも応用が期待されます。

2. MOFの利点

 MOFは、従来の再生技術(蒸留など)では難しかった、沸点が非常に近い、あるいは分子のサイズや性質が非常に似ている冷媒同士の分離を高精度かつ高効率で行える点に大きな価値があります。

 これにより、高GWP(地球温暖化係数)の冷媒を廃棄せず、高純度の再生品として市場に戻すことが可能になり、欧州の厳しいFガス規制に対応した冷媒の循環(サーキュラーエコノミー)を強化できます。

ダイキンは主にR-410AのようなHFC系混合冷媒の再生にMOF技術を応用しています。R-32R-125など、沸点が近く分離困難な複数の成分を、MOFの分子ふるいで高純度に回収できます。

MOF実用化の問題点は何か

 MOF(金属有機構造体)は革新的な技術ですが、実用化、特に大規模な冷媒再生プロセスへの導入にはいくつかの問題点があります。


1. 製造コストと量産化の課題

 MOF技術の実用化において最も大きな壁とされてきたのが、製造コストの高さ大規模生産(スケールアップ)の難しさです。

  • 高コストな製造プロセス: 従来のMOF合成には高価な有機溶媒が使われることが多く、材料そのもののコストが高くなりがちでした。
  • スケールアップの困難さ: 実験室レベルでは高い性能を発揮しても、生産規模を大きくすると、品質の均一性を保つのが難しくなり、性能が低下する傾向があります。
  • ダイキンの取り組み: ダイキンは京都大学発のベンチャー企業と連携し、固相合成法などの低コストで量産可能な合成技術の開発を進めており、この課題を克服しつつあります。

2. 安定性と耐久性(特に耐水性)

 実用環境で求められるMOFの耐久性を確保することが重要です。

  • 耐水性の欠如: 多くの種類のMOFは、水分や湿気に弱く、水に触れると結晶構造が壊れてしまうという根本的な弱点があります。冷媒回収プロセスにおいては、わずかな水分でも性能が落ちる可能性があるため、水に強いMOFの開発や、厳密な水分管理が必要です。
  • 長期使用の信頼性: 産業プロセスで何年も使用し続けるための化学的・熱的な安定性の検証と確保が求められます。

3. プロセスの新規性と最適化

 MOFを使った冷媒分離プロセス自体が新しい技術であるため、実用化には多くの調整が必要です。

  • プロセス設計の難しさ: MOFを組み込んだ分離装置やシステムの設計、最適な運転条件(温度、圧力など)の設定には、MOFの特性に合わせて一から実験や検証を行う必要があります。
  • 市場の受け入れ: 従来の技術(蒸留など)が主流である市場において、新しい技術の導入コスト信頼性を実証し、広く普及させるための努力が引き続き必要です。

MOFの実用化における主な問題点は、製造コストの高さ大規模生産の難しさです。また、多くのMOFが水分に弱く安定性が低いため、産業利用には耐久性の確保プロセスの最適化が必須です。

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