この記事で分かること
- 価格下落の理由:アメリカの関税政策の不透明感が継続し、アジア市場での需給が緩和したためです。
- ベンゼンの用途:プラスチック(ポリスチレン、ABS樹脂)、合成ゴム、ナイロン繊維、フェノールなど、幅広い化学製品の基礎原料として利用されています。
ベンゼンの価格下落
ENEOSは、2025年6月のベンゼン契約価格(ACP: Asian Contract Price)を735ドル/MTに決定したと発表しました。
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00751175?gnr_footer=0082069
これは、前月(2025年5月)と比較して5ドル/MTの値下げとなります。今回の価格決定の背景としては、5月のアジアベンゼン需給が、アメリカの関税政策の影響による先行き不透明感から緩和した状態が継続したことが挙げられています。
価格下落の理由はなにはなにか
ENEOSが2025年6月のベンゼン契約価格(ACP)を前月比5ドル/MT値下げして735ドル/MTに決定した主な理由は、アジアのベンゼン需給が緩和した状態が継続していることです。
需給緩和の背景
この需給緩和の背景には、主に以下の要因が挙げられます。
- アメリカの関税政策の影響による先行き不透明感: アメリカの関税政策がベンゼン市場に与える影響について不透明感が漂い、これがアジア市場での需給バランスに緩和をもたらしています。具体的な関税政策の内容やベンゼンへの直接的な影響については、詳細な情報は示されていませんが、貿易に関する不不確実性が買い手の活動を慎重にさせ、供給過多の状況につながっていると考えられます。
- 誘導品の採算性低下: ベンゼンから作られる誘導品の採算性が低下していることも、ベンゼンの需要を押し下げ、需給緩和に寄与しています。
- 中国の需要の低調: アジア市場においては、特に中国の需要が伸び悩んでいることも、需給緩和の一因となっています。
これらの要因が複合的に作用し、ベンゼン市場の需給が緩んだ結果、価格が引き下げられることになりました。

ベンゼン価格が下がった主な理由は、アメリカの関税政策による先行き不透明感が継続し、アジア市場での需給が緩和したためです。誘導品の採算性低下や中国の需要低迷も影響しています。
ベンゼンの用途は何か
ベンゼンは、その独特な環状構造を持つ芳香族炭化水素であり、石油化学製品の基礎原料として非常に幅広い用途に利用されています。
毒性があるため、直接的な使用は限定されており、ほとんどが他の化学物質を製造するための「中間原料」として使われます。
1. プラスチック・合成ゴム原料
- スチレンモノマー(SM):ベンゼンとエチレンから製造され、主にポリスチレン、ABS樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)などの原料となります。
- ポリスチレン:家電製品のキャビネット、断熱材、食品容器、日用品などに使われます。
- ABS樹脂:自動車部品、家電製品、建材などに使われます。
- SBR(合成ゴム):主にタイヤの製造に利用されます。
- フェノール:樹脂や接着剤、染料、農薬、医薬品などの製造に使われます。特に、フェノール樹脂やエポキシ樹脂の原料となります。
- シクロヘキサン:主にナイロン繊維(ナイロン6、ナイロン66)の原料となります。ナイロンは衣料品、カーペット、工業用部品などに幅広く使われています。
- 無水マレイン酸:合成樹脂や樹脂改良剤などに使われます。
2. その他の化学製品原料
- 染料・顔料:様々な色の染料や有機顔料の製造に使われます。
- 合成洗剤:一部の合成洗剤の原料としても使用されます。
- 医薬品:各種医薬品の合成原料となります。
- 農薬:殺虫剤などの農薬の製造に利用されます。
- 爆薬:一部の爆薬の原料にもなります(例:TNT)。
- 潤滑剤、香料、防虫剤など、多岐にわたる化学品の原料として使われます。
3. 溶剤(限定的)
かつては溶剤として広く使われていましたが、ベンゼンには毒性があり発がん性も指摘されているため、現在では労働安全衛生法や特定化学物質障害予防規則(特化則)により、溶剤としての利用は原則禁止されています。
一部の工業プロセスで、特殊な用途で溶剤や抽出剤として限定的に使用されることもありますが、非常に厳しく管理されています。
ベンゼンは私たちの身の回りにある様々な製品の製造に不可欠な基礎化学品であり、現代社会を支える重要な物質の一つと言えます。

ベンゼンの主な用途は、プラスチック(ポリスチレン、ABS樹脂)、合成ゴム、ナイロン繊維、フェノールなど、幅広い化学製品の基礎原料です。発がん性があるため、溶剤としての直接利用は原則禁止されています。
フェノールやシクロヘキサンはどのように合成されるのか
フェノールやシクロヘキサンは、それぞれベンゼンを主要な原料として、異なる合成経路で工業的に製造されます。
フェノールの合成:クメン法が主流
現在、工業的にフェノールを合成する最も一般的な方法はクメン法(Cumene Process)です。
この方法はベンゼンを原料とし、主に3段階の反応を経てフェノールとアセトンを生成します。
1. クメンの合成
まず、ベンゼンとプロピレン(プロペン)を酸触媒の存在下で反応させ、クメン(イソプロピルベンゼン)を合成します。この反応は、ベンゼン環にプロピレンが付加するアルキル化反応です。
2. クメンヒドロペルオキシドの生成
次に、得られたクメンを空気中の酸素で酸化します。これにより、不安定な中間体であるクメンヒドロペルオキシドが生成されます。
3. フェノールとアセトンの生成
最後に、クメンヒドロペルオキシドを希硫酸などの酸触媒の存在下で分解します。この段階で、分子構造の再 rearrangement(転位)が起こり、目的のフェノールと副生成物としてアセトンが生成されます。
その他の合成法(歴史的・研究段階)
- アルカリ融解法(ベンゼンスルホン酸法):古くから使われていた方法で、ベンゼンをスルホン化してベンゼンスルホン酸とし、これをアルカリで融解してフェノールを得る方法です。
- ダウ法(クロロベンゼン法):ベンゼンを塩素化してクロロベンゼンとし、これを高温高圧下で加水分解してフェノールを得る方法です。
- ベンゼンの直接酸化:クメン法は多段階であり副生成物(アセトン)も多量に発生するため、ベンゼンから一段階で直接フェノールを合成する研究も進められています。例えば、酵素を利用した常温常圧下での合成や、特定の触媒を用いた方法などが開発されています。
シクロヘキサンの合成:ベンゼンの水素化
シクロヘキサンは、主にベンゼンの水素化によって工業的に合成されます。
1. ベンゼンの水素化
ベンゼンに水素(H₂)を付加させることで、ベンゼン環の二重結合が解消され、飽和炭化水素であるシクロヘキサンが生成します。この反応は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)などの金属触媒の存在下、高温高圧の条件下で進行する接触還元反応です。
この反応は、ベンゼン環の芳香族性が失われ、6つの炭素が単結合で環状に結合した構造に変化することを意味します。
その他の合成法(限定的)
- 石油精製からの分離:ナフサの熱分解や、特定の原油成分からも少量ながらシクロヘキサンが分離されることもあります。
- シクロヘキサノールやシクロヘキセンからの水素化:これらの化合物を水素化することでもシクロヘキサンを合成できますが、工業的にはベンゼンからの合成が最も効率的で一般的です。
このように、フェノールとシクロヘキサンは、どちらもベンゼンを原料としながらも、それぞれの目的とする官能基や構造に応じて異なる化学反応プロセスを経て合成されます。

フェノールは、主にベンゼンとプロピレンからクメンを合成し、これを酸化・分解する「クメン法」で製造されます。シクロヘキサンは、ベンゼンに水素を付加させる「ベンゼンの水素化」によって合成されます。
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