この記事で分かること
- これまで出生率が高かった理由:育てを社会全体で支えるという理念のもと、税制優遇や充実した育児休暇・保育サービス、児童手当など、包括的かつ手厚い家族支援政策を長期間にわたり実施してきたことが、出生率の維持につながりました。
- 出生率低下の理由:フランスや北欧でも、晩婚化・晩産化や出産適齢期人口の減少が進んでいます。また、若者の将来の経済不安や、キャリアと育児の両立に対する懸念
北欧やフランスの出生率低下
これまで他の先進国と比較し、出生率の高かった北欧やフランスでも、近年、出生率が低下傾向にあります。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA197G60Z10C25A8000000/
これは、晩婚化・晩産化や、女性の社会進出によるキャリア形成への意識の高まり、そしてそれに伴う仕事と育児の両立の困難さなど、多様な要因が複合的に絡み合っているためです。
先進国で晩婚化・晩産化が進む理由は
先進国で晩婚化・晩産化が進む主な理由は、経済的要因と社会的要因の複雑な絡み合いにあります。
経済的要因
- 教育期間の長期化とキャリア形成: 多くの先進国では高等教育への進学率が上昇し、卒業後もキャリアを築くために時間を要するようになりました。これにより、経済的に安定し、結婚や出産に踏み切れる年齢が上がっています。
- 雇用環境の不安定化: 非正規雇用や不安定な職に就く若者が増え、将来への経済的な見通しが立ちにくい状況です。結婚や子育てには多額の費用がかかるため、経済的な不安が結婚や出産をためらわせる大きな要因となっています。
- 子育て費用の増大: 子どもの養育費や教育費が増加し、特に都市部では住宅費も高騰しています。これにより、子育てにかかる経済的な負担が重くなり、子どもを持つことへのハードルが高まっています。
社会的要因
- 女性の社会進出とジェンダー役割の変化: 女性の高等教育進学率と労働力率が向上し、キャリアを重視する女性が増えました。しかし、仕事と育児を両立させるための社会的な支援や男性の育児参加が不十分な場合、女性が出産をためらうことにつながります。
- 価値観の多様化: 従来の「結婚して子どもを持つ」という画一的な人生観から、個人の自由や多様な生き方を尊重する価値観が広がっています。独身生活の自由さや気楽さを重視する人が増え、結婚や出産が人生の必須事項ではなくなってきています。
- 避妊技術の普及: 近代的な避妊技術の普及により、妊娠や出産のタイミングをコントロールしやすくなりました。これにより、計画的に出産を遅らせることが可能になっています。

教育期間の長期化や非正規雇用の増加などによる経済的な不安定さと、女性の社会進出や個人の生き方を重視する価値観の多様化が主な理由です。これにより、結婚や子育ての準備に時間がかかり、結婚・出産の年齢が上がっています。
北欧・フランスが出生率をある程度維持していた理由は
北欧・フランスが他の先進国と比べて出生率をある程度維持できたのは、家族・育児支援を国の最重要政策の一つとして、長期間にわたり包括的かつ手厚く実施してきたからです。
フランス: 手厚い税制と保育制度
フランスは、育児を社会全体で支えるという考え方に基づき、多岐にわたる支援策を講じています。
- 「N分N乗方式」: 家族の人数が多いほど所得税の負担が軽減される税制で、子どもを持つことの経済的インセンティブを高めます。特に3人目以降の子どもを持つ家庭に手厚いのが特徴です。
- 保育サービスの充実: 妊娠中から利用できる保育所や、多様な種類の保育サービスが整備されています。これにより、女性が仕事と育児を両立しやすくなっています。
- 育児手当と育児休暇: 所得制限のない児童手当や、長期の育児休暇が保障されており、経済的な不安を軽減します。
北欧: ワークライフバランスとジェンダー平等
北欧諸国、特にスウェーデンやフィンランドは、ジェンダー平等とワークライフバランスを重視した政策で出生率を維持してきました。
- 両親で分かち合う育児休暇: スウェーデンでは、父親も育児休暇を一定期間取得することが義務付けられています。これにより、男性の育児参加が促進され、女性の育児負担が軽減されます。
- 包括的な子育て支援: フィンランドの**「ネウボラ」**は、妊娠期から就学前まで一貫して家族をサポートする相談サービスです。専門家が個々の家庭に寄り添い、育児の不安や悩みに対応します。
- 高い水準の児童手当: 子どもの数や所得に関わらず、手厚い児童手当が支給されます。また、保育料が所得に応じて決められるなど、子育てにかかる経済的負担を社会全体で分かち合う仕組みが確立されています。
これらの国々では、単なる少子化対策としてではなく、人々の生活の質を高めるための「家族政策」として、長期的な視点で支援を継続してきたことが、出生率の維持につながったのです。

北欧やフランスは、子育てを社会全体で支えるという理念のもと、税制優遇や充実した育児休暇・保育サービス、児童手当など、包括的かつ手厚い家族支援政策を長期間にわたり実施してきたことが、出生率の維持につながりました。
北欧・フランスでも低下している理由は
長年にわたる手厚い家族・育児支援政策で出生率を維持してきたフランスや北欧諸国ですが、近年は出生年齢人口の減少と、社会経済的要因の変化により、再び出生率が低下傾向にあります。
出生率低下の主な要因
- 出産年齢の高齢化と第一子出生率の減少: 多くの先進国と同様に、フランスや北欧でも晩婚化・晩産化が進んでいます。特に、第一子を出産する年齢が上昇し、子どもを持たない無子人口が増加しています。
- 若年層の経済的・精神的負担の増大: 手厚い支援制度があっても、不安定な雇用形態の増加や育児にかかる費用の増大に対する若年層の経済的な不安は根強いです。これらの経済的不安が、結婚や出産をためらう大きな要因となっています。
- 価値観の多様化: 従来の「結婚して子どもを持つ」という人生観から、キャリア形成や個人の自由をより重視する価値観への変化が進んでいます。特に、若い世代を中心に「理想とする子どもの数」自体が減少しているという調査結果も出ています。
- 社会経済的格差の拡大: 出生率の低下は、社会経済的地位が低いグループで特に顕著に現れています。これは、教育や雇用の格差が、将来への不安や子育ての負担感を増幅させていることを示唆しています。
- 政策効果の限界と見直し: これまでの政策が一定の効果を上げてきたことは確かですが、社会の変化に対応しきれていない面も指摘されています。例えば、フランスでは、所得保障が不十分な育児休暇制度の利用実績が伸び悩んでいることが課題とされており、制度の見直しが進められています。
長年にわたる手厚い支援政策は、出生率の急激な低下を防ぐ「セーフティネット」として機能してきたと言えます。しかし、社会構造や人々の価値観が変化する中で、従来の政策だけでは出生率の低下に歯止めをかけることが難しくなっているのが現状です。
これらの国々は、新たな課題に対応するため、不妊治療の支援強化や、育児休暇制度の改革など、さらなる政策の見直しを図っています。

フランスや北欧でも、晩婚化・晩産化や出産適齢期人口の減少が進んでいます。また、若者の将来の経済不安や、キャリアと育児の両立に対する懸念、そして多様な価値観の広がりが、出生率の低下に拍車をかけています。
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