この記事で分かること
- 受け入れが遅れている理由:言語や子供の教育などの生活環境や研究費の少なさなどの研究環境、給与の低さなどが要因となって研究者の受け入れが進んでいません。
- アメリカから研究者の流出が続く理由:研究資金への懸念や 政治的状況と移民政策の不安から一部の研究者が海外に活躍の場を求めています。
海外からの研究者受け入れの遅れ
日本の大学が米国の研究者を招致する環境整備に遅れがあるとニュースになっています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG28A590Y5A520C2000000/
アメリカから研究者の流出が進むなかで、各国が欧州や中国は積極的にトップ級研究者の招致を進めていますが、日本ではあまり誘致が進んでいません。
どのような部分に遅れがあるのか
日本の大学が米国の研究者を招致する環境整備に遅れは特に科学技術分野における競争力低下への懸念と密接に関連しています。
日本の大学が外国人研究者、特に米国のような先進国からの優秀な研究者を招致する上で、以下のような課題が指摘されています。
生活環境の不備
- 言語の壁: 日本語でのコミュニケーションが困難な場合が多く、特に学内運営業務への参画や日本人学生との交流に支障が出ることがあります。
- 子息の教育: 外国人子弟向けの教育環境が不足している点が、家族を伴う研究者にとって大きな障壁となります。
- 住居・医療: 適切な住居の確保や、英語での医療サポートの不足なども生活の不安要素となっています。
- 配偶者の就労: 配偶者が日本で仕事を見つけるのが難しいという点も、研究者の日本滞在を躊躇させる要因です。
研究環境の課題
- 研究費の不足と不安定性: 潤沢な研究費が確保しにくい、あるいは研究資金の獲得が不安定であるという指摘があります。
- キャリアパスの不明確さ: 日本での研究キャリアの長期的な見通しが立ちにくい、特に正規教員への道が狭いと感じる外国人研究者が多いようです。
- 日本語能力の要求: 研究そのものには日本語能力が不要でも、国内の研究員職や企業での就職には高い日本語能力が求められる場合があり、キャリアアップの障害となることがあります。
- 事務手続きの煩雑さ: 留学生や研究者の受け入れに関する事務手続きが複雑で、教員の負担となっているという声もあります。
情報発信の不足
- 日本の大学や研究機関が、海外に向けて研究ポストや教育・研究環境に関する情報を十分に発信できていないという課題があります。来日している高度人材の情報が十分に流通していないため、研究交流の機会も限定的になりがちです。
給与・処遇の競争力不足
- 世界的な人材獲得競争が進む中で、日本の労働市場(環境)の魅力が他国に比べて低いと評価されることがあります。これは、給与水準や研究環境における処遇が、米国などのトップレベルの研究機関と比較して見劣りするという現状を示唆しています。

言語や子供の教育などの生活環境や研究費の少なさなどの研究環境、給与の低さなどが要因となって研究者の受け入れが進んでいません。
どのような対策が取られているのか
日本政府(文部科学省、経済産業省など)は、これらの課題を認識し、外国人研究者の招致・定着を促進するための様々な施策を打ち出しています。
外国人研究者招へい事業
日本学術振興会が、中堅から教授級の優秀な外国人研究者を招へいし、共同研究や意見交換の機会を提供するプログラムを実施しています。
高度外国人材に対する優遇措置
「高度専門職」などの在留資格や、ポイント制による永住権取得の優遇措置など、優秀な外国人材の受け入れを促進する制度があります。
生活環境の整備支援
複数研究機関が連携して、外国人研究者の生活環境(配偶者の仕事斡旋、医療サポート、子女の教育など)を一元的に支援する事業も検討されています。
研究者育成・キャリア形成支援
若手研究者への研究費支援、国際的なスキル習得支援、企業でのインターンシップ機会の提供など、キャリアアップを支援する取り組みも進められています。
大学の国際化推進
大学の国際化を促進するためのインセンティブ付与、国際的な交渉を担う専門職員の育成・確保なども図られています。

「生活環境の整備」や「キャリアパスの明確化」などでの研究者が安心して働ける環境整備を行うための施策を打ち出しています。
アメリカの研究者の海外への移動が増えているのはなぜか
アメリカの研究者が海外に移る数が増えている背景には、以下のようないくつかの複合的な要因があります。
これらは、米国という研究大国が抱える構造的な課題と、国際的な研究環境の変化の両面から捉えることができます。
1. 研究資金への懸念と不安定性
- 予算削減と競争の激化: 近年、特に政府(国立衛生研究所 (NIH) や国立科学財団 (NSF) など)からの研究資金が削減される傾向にあり、研究費の獲得競争が激化しています。これは、長期的な研究プロジェクトの計画を困難にし、研究者にとってキャリアの不安定感をもたらします。
- 資金の獲得難易度: 優秀な研究者であっても、潤沢な研究資金を継続的に確保することが難しくなってきています。これにより、資金が安定している他国に目を向ける研究者が増えています。
2. 学術的キャリアの不安定性
- ポストの競争と不安定性: アメリカの学術界は非常に競争が激しく、博士課程修了後も安定した職を得るまでに長い時間を要することが少なくありません。ポストドクター期間が長期化するケースも多く、生活やキャリアの不安を抱え続けることが、研究者の国外移住を促進する要因となっています。
- テニュアトラックの狭き門: 終身雇用につながるテニュアトラックのポストは非常に少なく、多くの研究者が不安定な状況に置かれています。
3. 政治的状況と移民政策の不安
- 反移民・排外主義的政策: 特にトランプ政権下では、移民に対する規制が厳しくなり、外国人研究者のビザ取得や更新が困難になるケースが増えました。これにより、アメリカでの研究継続を断念し、より移民に寛容な国への移住を検討する外国人科学者が増加しています。これは、アメリカの科学技術の発展に大きく貢献してきた外国人研究者の頭脳流出につながっています。
- 科学研究への軽視: 一部の政治的傾向が、科学研究そのものや、政府による研究支援を軽視する姿勢を示すことがあり、これも研究者の不安を煽る要因となります。
4. 他国の魅力の向上
- 欧州やカナダの台頭: ヨーロッパ諸国(ドイツ、スイスなど)やカナダは、研究環境や資金の安定性、国際的な共同研究の機会が豊富であることから、アメリカからの研究者にとって魅力的な選択肢となっています。これらの国々は、外国人研究者の受け入れに積極的で、生活環境のサポートも充実している場合があります。
- 中国の台頭: 中国は近年、莫大な研究投資を行い、海外からの優秀な研究者を積極的に招致しています。特に中国出身の研究者が米国を離れて本国に戻り、大きな成果を上げるケースも増えています。
- 給与・待遇の競争力: 一部の国では、アメリカと比較して給与水準や研究環境における処遇が、より魅力的であると評価されることがあります。
5. 個人のキャリア志向とライフスタイル
- 多様な研究経験: 世界中の異なる研究環境で経験を積むことで、自身の研究者としての視野を広げ、新たな視点や技術を獲得したいと考える研究者もいます。
- ワークライフバランス: アメリカの厳しい競争環境から離れ、よりワークライフバランスの取れた環境で研究を続けたいと考える研究者もいます。
- 文化・生活環境: 移住先の文化や生活環境に魅力を感じることも、個人の意思決定に影響を与えることがあります。
これらの要因が複合的に作用し、アメリカの科学技術人材の国際的な流動性を高め、一部の研究者が海外に活躍の場を求める「頭脳流出」の動きにつながっていると考えられます。アメリカは引き続き世界有数の研究拠点であるものの、その地位を維持するためには、これらの課題への対応が不可欠となっています。

研究資金への懸念や 政治的状況と移民政策の不安から一部の研究者が海外に活躍の場を求める頭脳流出の動きにつながっていると考えられます。
アメリカと日本の研究者の給与差はどれくらいか
アメリカと日本の研究者の給与差は、職位、所属機関(大学の種類、公立か私立か、企業か)、専門分野、経験、そして研究実績によって大きく異なりますが、一般的にはアメリカの方が高水準である傾向が強く、特にトップレベルの大学や研究所では顕著な差が見られます。
日本の研究者の給与水準(概算)
- 全体平均: 厚生労働省のデータなどによると、日本の研究者の平均年収は約600万円前後とされています。ただし、これは企業の研究者なども含んだ数字です。
- 大学教員の場合:
- 助教: 280万円~400万円程度
- 准教授: 400万円~600万円程度
- 教授: 600万円~1,000万円以上(トップクラスの大学教授では2,000万円を超えるケースも稀にあり)
- ポスドク(博士研究員): 日本学術振興会の特別研究員-PDの場合、年間約400万円程度が一般的です。任期付きの雇用の場合、給与は安定せず、300万円台ということも珍しくありません。
- 国立の研究所(例:理化学研究所): 年俸制で600万円以上が目安となることが多いです。
アメリカの研究者の給与水準(概算)
アメリカの大学教員の給与は、大学のランク(研究大学、リベラルアーツカレッジ、コミュニティカレッジなど)、地域、私立か公立かによって大きな差があります。
- 全体平均(大学教員):
- 教授: 平均14万ドル(約2,200万円、1ドル155円換算の場合)前後。私立博士課程大学ではさらに高い傾向にあります。
- 准教授: 平均9.7万ドル(約1,500万円)前後
- 助教: 平均8.5万ドル(約1,300万円)前後
- トップレベルの大学の教授: ハーバード大学やスタンフォード大学、MITなどの超一流大学の教授の平均年収は、20万ドル(約3,100万円)を超え、中には40万ドル(約6,200万円)を超える場合もあります。
- ポスドク(博士研究員): NIH(国立衛生研究所)の基準では、5.5万ドル~7万ドル(約850万円~1,080万円)程度が目安とされています。日本のポスドクの給与と比較して、明確に高水準です。
- PI(Principal Investigator – 研究室主宰者): ポスドクの3~4倍以上の給与を得ている場合もあります。
日米の給与差のポイント
- 全体的な水準: 全体的に見て、アメリカの研究者、特に大学教員やポスドクの給与水準は、日本よりも高い傾向にあります。
- トップ層の差: アメリカのトップレベルの大学における教授の給与は、日本のトップ層と比較しても格段に高額です。これは、国際的な人材獲得競争において、給与が重要な誘引要素となっていることを示しています。
- ポスドクの処遇: ポスドクの給与差は特に顕著で、アメリカではポスドクでも生活に余裕のある給与を得られることが多いのに対し、日本では厳しい経済状況に置かれるケースが少なくありません。
- 物価との関係: ただし、アメリカは地域によって物価が非常に高いため、額面上の給与が高くても、生活費を考慮すると手取りの実質価値は異なる場合もあります。特にニューヨークやカリフォルニアのような都市部では、給与が高くても生活費がそれを上回ることもあります。
- 安定性とキャリアパス: 日本は安定した雇用が多いという利点がありますが、年功序列の傾向が強いため、若手での大幅な昇給は難しい場合があります。一方、アメリカは給与交渉が一般的であり、個人の実績や評価が給与に直結しやすい傾向があります。しかし、同時にテニュア(終身在職権)の獲得は非常に競争が激しく、不安定なキャリアパスを経験することも少なくありません。

給与面ではアメリカの方が日本を上回るケースが多く、特に優秀な研究者を引きつけるための魅力的な待遇を提供していると言えます
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