味の素の電気調味料の開発 電気調味料とは何か?どのような効果があるのか?

この記事で分かること

  • 電気調味料とは:食品そのものに味の成分を加えるのではなく、電気の力を借りて「人が味を感じる仕組み」に直接働きかけるものです。電流が舌の味覚を司る神経や細胞に間接的に作用することで、味覚を変化させています。
  • 電気調味料の効果:減塩食はしばしば味が薄く感じられがちですが、電気調味料を使うことで、塩味を強く感じさせ、満足度を高めることができます。

味の素の電気調味料の開発

 味の素は新たな技術である「電気調味料」の開発に挑戦しています。

 https://story.ajinomoto.co.jp/report/146.html

 「電気調味料」は、微弱な電気刺激を体に与えることで、食品の塩味やうま味、酸味などを増強させるという画期的な技術です。特に減塩への期待がされている技術です。

電気調味料とは何か

 「電気調味料」とは、微弱な電気刺激を人に与えることで、食品の味覚(特に塩味、うま味、酸味など)を増強させる技術のことです。

 通常の「調味料」が食品に直接加えられ、その成分で味を変化させるのに対し、「電気調味料」は人間の味覚に直接働きかけることで、食品の味の感じ方を変えるという点が大きく異なります。

仕組み

  • 電気味覚の利用: 人間の舌は電気刺激に対しても反応し、特定の味(金属味、酸味、塩味など)を感じることが知られています。この現象を「電気味覚」と呼びます。電気調味料は、この電気味覚の原理を応用しています。
  • 微弱な電流: ごく微量の電流を下顎や首などに流すことで、味覚を司る神経や細胞に影響を与え、食品の味の感じ方を変化させます。
  • 刺激の調整: 電流の強さや波形を調整することで、増強される味の種類や強度をコントロールします。

主な特徴と効果

  • 減塩食の改善: 最も期待されているのが、塩分摂取量を減らしたい人々の食生活を豊かにすることです。減塩食はしばしば味が薄く感じられがちですが、電気調味料を使うことで、塩味を強く感じさせ、満足度を高めることができます。
  • 様々な味覚の増強: 塩味だけでなく、うま味や酸味なども増強されることが報告されており、風味全体の変化にも影響を与えることが実証されています。
  • ウェアラブルデバイス化: 味の素が開発しているのは、下顎前部と首の後ろに電極を搭載するウェアラブルデバイスです。これにより、食事中、常に味の増強効果が得られることが期待されます。
  • 固形物にも対応: 従来の箸やスプーン型の電気味覚デバイスでは難しかった、固形物の味覚増強にも対応できる可能性があります。
  • 持続的な効果: デバイスを装着している間は、咀嚼中や嚥下時も含めて持続的に味を増強できます。

 この技術は、味の素だけでなく、キリンホールディングスなどが「エレキソルト」という名称で、箸やスプーン型のデバイスを開発・販売しており、注目を集めています。

電気調味料は、食べ物自体に手を加えるのではなく、「食べる人」の味覚に電気的にアプローチすることで、おいしさの感じ方を変化させる、新しい概念の「調味料」といえます。

どうやって電気刺激を与えるのか

 舌への電気刺激の発生方法は、大きく分けて2つのアプローチがあります。

1. 食器型デバイスによる直接的な刺激

 初期の研究や一部の製品で採用されている方法です。

  • 仕組み:
    • フォーク、スプーン、コップなどの食器に電極を内蔵します。
    • これらの食器が食品を介して舌に触れることで、微弱な電流が流れる回路が形成されます。
    • 例えば、フォークの場合、フォークの金属部分が舌に触れ、もう一方の電極が手や腕に触れることで、人体を介して回路が完成し、舌に電気刺激が与えられます。
  • 特徴:
    • 直接舌に触れるため、比較的ピンポイントで味覚を刺激できます。
    • ただし、食器が舌から離れると効果が途切れるという制約があります。固形物を食べる際に、常に食器が舌に触れているわけではないため、持続的な効果を得るのが難しい場合があります。
    • キリンホールディングスの「エレキソルト」がこの方式の代表例です。

2. ウェアラブルデバイスによる経皮電気刺激(味の素の「電気調味料」)

 味の素が開発を進めている「電気調味料」で採用されている、より新しいアプローチです。

  • 仕組み:
    • デバイスを装着することで、下顎前部と首の後ろなど、舌に近い皮膚に電極を配置します。
    • この電極から、非常に微弱な電流が皮膚を介して体内に流れます。
    • 電流が舌の味覚を司る神経や細胞に間接的に作用することで、味覚が変化します。
  • 特徴:
    • 持続的な効果: デバイスを装着している間は、食べ物を口に含む前から、咀嚼中、嚥下時まで、常に味覚を刺激し続けることができます。これにより、より自然な形で味の変化を感じられます。
    • 固形物への対応: 食器が舌に触れていなくても効果が得られるため、汁物だけでなく固形物の減塩食にも対応できます。
    • 非侵襲性: 皮膚からの刺激であり、舌に直接電極を接触させるわけではないため、より快適に使用できる可能性があります。

電気刺激による味覚変化のメカニズム(仮説)

 電気刺激がどのように味覚を変化させるかについては、複数の説が提唱されていますが、主なものとしては以下の点が考えられています。

  • イオン泳動: 塩味の主要な成分であるナトリウムイオン(Na+)などが、電気刺激によって舌の味蕾付近を移動することで、塩味の感じ方が変化するという説が有力です。プラスの電荷を持つNa+が舌の方に引き寄せられると塩味が強まり、遠ざけられると弱まるという現象が観察されています。
  • 味細胞や味神経への直接刺激: 微弱な電流が直接、舌の味細胞や味覚神経を刺激することで、特定の味覚情報が発生したり、既存の味覚情報が増幅されたりするという考え方です。
  • 唾液の電気分解: 電気刺激によって唾液中のイオンが変化し、それが味覚受容体に影響を与える可能性も指摘されています。

電気調味料は、従来の調味料のように食品そのものに味の成分を加えるのではなく、電気の力を借りて「人が味を感じる仕組み」に直接働きかけるものです。

懸念はあるのか

 味の素の「電気調味料」や、キリンの「エレキソルト」に代表される電気味覚技術は、画期的な可能性を秘めている一方で、いくつかの懸念点も挙げられます。

1. 安全性・健康への影響

  • 長期的な影響の不透明さ: 現時点では、微弱な電気刺激が長期的に人体にどのような影響を与えるかについては、まだ十分なデータが蓄積されているとは言えません。特に、味覚や神経系への影響について、継続的な研究と検証が重要です。
  • 特定の疾患を持つ人への影響:
    • 心臓疾患を持つ方、ペースメーカーを使用している方: 電流が心臓の活動に影響を与える可能性があるため、使用は避けるべきとされています。
    • 妊娠中の方: 胎児への影響が不明なため、使用は推奨されません。
    • 歯の治療をしている方、金属アレルギーのある方: 口腔内の金属やアレルギー反応の可能性から、注意が必要です。
    • これらの懸念点については、製品の使用上の注意として明記され、医師への相談が促されています。
  • 刺激の感じ方: 個人差があり、銭湯の電気風呂や低周波治療器に近い感覚を覚える人もいるようです。不快感や違和感を覚える場合もあります。

2. 味覚への影響と感覚の「慣れ」

  • 不自然な味覚: 電気による味覚の増強は、天然の食品から得られる味とは異なる「不自然さ」を感じる可能性も指摘されています。特に、塩味やうま味以外の味覚への影響や、複数の味が同時に刺激されることによる複雑な感覚については、さらなる研究が必要です。
  • 味覚の鈍化: 長期間にわたって電気刺激によって味覚を増強し続けることで、自然な味覚が鈍化する可能性も懸念されます。例えば、電気調味料なしでは薄味に満足できなくなる、といった事態が起こるかもしれません。
  • 適応と効果の減少: 刺激に慣れてしまうことで、当初感じていた効果が薄れてしまう「適応」という現象が起こる可能性も考えられます。

3. 実用性・普及に関する課題

  • デバイスの装着感と利便性: 味の素が開発しているウェアラブルデバイスは、装着することで味覚を増強する形ですが、日常的に装着することへの抵抗感や、食事中の違和感が普及の妨げになる可能性も考えられます。
  • 価格: 技術開発や量産化が進むにつれてコストは下がるでしょうが、導入初期の価格設定が、一般家庭への普及に影響を与える可能性があります。
  • 食事の楽しさの変質: 食事は味覚だけでなく、香り、食感、見た目、そして食事をする場や相手とのコミュニケーションなど、複合的な要素で成り立っています。電気刺激によって味覚が変化する体験が、こうした食事全体の楽しさにどのように影響するかは、個人の感じ方によるでしょう。
  • 対象となる食品の限定: 現時点では、特定の味(塩味、うま味、酸味)の増強に特化しているため、全ての食品に対して万能に効果を発揮するわけではありません。

まとめ

「電気調味料」は、減塩という社会的な課題に対して、非常に有望な解決策となり得る技術です。しかし、新しい技術であるゆえに、安全性に関する長期的な検証、味覚への影響、そしてユーザーエクスペリエンスの向上など、解決すべき懸念点も存在します。これらの課題をクリアし、より多くの人が安心して、そして楽しく利用できる技術として成熟していくことが期待されます。

減塩という社会的な課題に対して、非常に有望な解決策となり得る技術ですが、安全性に関する長期的な検証、味覚への影響、そしてユーザーエクスペリエンスの向上など、解決すべき懸念点も存在します

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