新規磁性ウレタン樹脂の開発 どんな特性を持っているのか?なぜノイズ低減や安定性を増加させることができるのか?

この記事で分かること

・磁性ウレタン樹脂の特徴:磁性ウレタン樹脂は、ノイズを抑えるために磁性材料(フェライトなど)を混ぜ込んでいる

・なぜ、ノイズを抑えることができるのか:磁性材料を混ぜ込むと、ノイズのエネルギーを吸収・拡散・減衰させることで、ノイズを低減できる

・シロキサンフリーの利点:接点障害の要因となるシロキサンがないことで、より安定性が増加

磁性ウレタン樹脂『キラオーパス』の開発

 三洋化成工業株式会社と戸田工業株式会社は、電子機器の熱対策および電磁ノイズ(EMI)対策に適した2液硬化型の磁性ウレタン樹脂『キラオーパス』を共同開発しました。

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 この新素材は、電子機器の小型化や薄型化、ノイズ低減、安定動作、通信品質の向上に寄与することが期待されています。

ウレタン樹脂とは何か

 ウレタン樹脂(ポリウレタン樹脂、Polyurethane, PU)はイソシアネート(-NCO)とポリオール(-OH)が化学反応してできる高分子材料です。弾力性や耐久性、耐薬品性に優れ、さまざまな用途で使われています。


ウレタン樹脂の特徴

柔軟性と弾力性:硬いものから柔らかいものまで調整可能
耐摩耗性・耐衝撃性:傷つきにくく、長持ちする
耐薬品性:酸やアルカリに比較的強い
接着性:金属やプラスチックにも密着しやすい
発泡性:柔らかいフォーム(スポンジ)にも、硬質フォーム(断熱材)にもできる


ウレタン樹脂の種類と用途

種類特徴用途
熱可塑性ウレタン(TPU)加熱すると柔らかくなり、冷やすと固まるスマホケース、靴底、医療チューブなど
熱硬化性ウレタン一度硬化すると加熱しても溶けない工業用コーティング、接着剤など
軟質ウレタンフォーム柔らかく、クッション性があるソファ、マットレス、自動車シート
硬質ウレタンフォーム軽量で断熱性が高い断熱材、建築用パネル、冷蔵庫内壁

ウレタン樹脂と今回の磁性ウレタン樹脂の違い

 通常のウレタン樹脂は電気を通さない絶縁性を持っていますが、今回の三洋化成と戸田工業の磁性ウレタン樹脂は、ノイズを抑えるために磁性材料(フェライトなど)を混ぜ込んでいる点が特徴です。

ウレタン樹脂はさまざまな用途に合わせて改良され、電子機器から建築材料まで幅広く使われています。

電磁ノイズとは何か

 電磁ノイズ(EMI:Electromagnetic Interference)とは、電気・電子機器が発する不要な電磁波や電流によって、他の電子機器の動作に悪影響を与える現象のことです。

電磁ノイズの主な発生源

  1. 電子機器(パソコン、スマートフォン、家電製品など)
  2. 電源ライン(電力線やアダプター)
  3. モーターやスイッチ(工場の機械、電動工具など)
  4. 無線通信機器(Wi-Fi、Bluetooth、ラジオなど)

電磁ノイズの種類

  • 伝導ノイズ:配線や電源ラインを通じて伝わるノイズ
  • 放射ノイズ:空間に放出される電磁波によるノイズ

電磁ノイズの影響

  • 通信機器の誤動作やデータ通信のエラー
  • テレビやラジオの音声・映像の乱れ
  • センサーや制御装置の誤動作

 これを防ぐために、シールド材料(電磁波を遮蔽する素材)やノイズフィルター、アース(接地)などの対策が取られます。

電磁ノイズとは電気・電子機器が発する不要な電磁波や電流によって、他の電子機器の動作に悪影響を与える現象のことで、様々な方法で対策が取られています。

なぜ磁性材料を混ぜ込むとノイズが減るのか?

 電子機器から発生する電磁ノイズ(EMI)は、高周波の電磁波(電場と磁場)として伝播します。
磁性材料を混ぜ込むと、この
ノイズのエネルギーを吸収・拡散・減衰させる
ことで、ノイズを低減できます。


磁性材料がノイズを減らすメカニズム

1. 渦電流(エディ・カレント)によるエネルギー吸収

  • 磁性材料に高周波の電磁波が当たると、渦電流(誘導電流)が発生します。
  • この渦電流が電磁波のエネルギーを熱に変換して消費するため、ノイズが弱まります。
  • 特に、**導電性を持つ磁性材料(フェライトなど)**がこの効果を発揮します。

2. 磁気損失(ヒステリシス損)によるノイズ吸収

  • 磁性体に高周波磁場が加わると、内部の磁化(スピンの向き)が変化します。
  • この磁化の変化により、エネルギーが消費され、ノイズが低減されます。
  • 高周波ノイズを効果的に減衰させるフェライトコア(フェライトビーズやシートなど)がこの原理を利用しています。

3. 透磁率によるノイズの拡散・シールド効果

  • 磁性材料は透磁率(磁場を通しやすい性質)が高いため、磁場を特定の方向に誘導できます。
  • これにより、ノイズの拡散を制御し、電子部品に不要な影響を与えないようにできる

磁性材料入りウレタン樹脂のメリット

シート型よりも自由な形状に加工可能(狭い隙間に充填できる)
電子部品を封止しつつノイズ対策ができる
シロキサンフリーで接点障害を防ぐ

磁性材料を混ぜ込むと、ノイズのエネルギーを吸収・拡散・減衰させることで、ノイズを低減できます。

他に開発された素材の特徴は何か

 接点障害のリスクとなるシロキサン成分を含まないため、各種電気電子部品への封止や注型に適している点も新素材の特徴です。

 シロキサンは、Si(シリコン)とO(酸素)の結合を基本骨格とする化合物で、シリコーン樹脂やシリコーンオイルに多く含まれています。
柔軟性や耐熱性、撥水性に優れ、コーティング材、潤滑剤、絶縁材料など幅広い用途で利用されています。

シロキサンの役割

  • 潤滑性:摩擦を減らし、可動部品のスムーズな動作を助ける
  • 耐熱性:高温環境下でも安定して使用できる
  • 撥水・防水性:湿気や水分から電子機器を保護
  • 電気絶縁性:電子部品の短絡を防ぐ

なぜシロキサンが接点障害のリスクになるのか?

 電子機器の中でシロキサンが揮発・拡散し、接点部に付着すると以下の問題が発生します。

  1. 低分子シロキサンの揮発
    • シリコーン系材料に含まれる低分子シロキサンは、揮発しやすいため、空気中に拡散する。
    • 電子機器の内部で再凝縮し、電気接点やリレー、スイッチに付着する可能性がある。
  2. シロキサンの分解によるシリカ生成
    • 接点部で電気的なスパーク(アーク放電)が発生すると、シロキサンが酸化され、**シリカ(SiO₂)**という絶縁性の高い微粒子が生成される。
    • これが接点部分に堆積すると、導通不良を引き起こし、**接点障害(接触抵抗の増加、スイッチやリレーの誤作動)**につながる。
  3. 金属表面の汚染
    • シロキサンが金属接点表面に吸着すると、酸化膜や汚れと相まって接触抵抗が増加し、信号の伝達不良が起こる。

シロキサンを含まない材料のメリット

  • 電子機器の信頼性向上(接触不良のリスクを低減)
  • 長期的な安定動作(シロキサンによる汚染がない)
  • 高精度な電子部品への適用が可能(微細な電極や接点にも安心して使用できる)

新素材であるウレタン樹脂は、シロキサンを含まず、電気絶縁性を持つため、接点障害を防ぎながら電磁ノイズ対策もできる点が大きな特長です。

ペースト状である利点は何か

 新素材は、硬化前はペースト状で流動性に優れ、従来のシート状ノイズ低減材では対応が難しかった微細な隙間にも容易に充填できる点も特徴です。

 ペースト状になることで、以下のような利点があります。

充填性を向上させるため

 ウレタン樹脂を液体にすると流動性が高すぎて垂れやすくなり、隙間への充填が困難になり、固体にすると成形しにくく、細かい部分への適用が難しくなってしまいます。
 ペースト状なら流動性と粘度のバランスが取れており、狭い隙間にも適切に入り込み、塗布や注入がしやすくなります。

材料の均一な分散を維持するため

 電磁ノイズ対策のために添加される磁性粉末(フェライトなど)を均一に分散させる必要があり、ペースト状にすることで、粉末が沈殿しにくくなり、ノイズ低減効果を均一に発揮できます。

塗布・加工のしやすさを向上させるため

 スクリーン印刷やディスペンサー(塗布装置)を使って狙った位置に正確に適用できます。液体状だと広がりすぎたり、流れ出したりするが、ペースト状なら形状を保ったまま硬化することが可能です。

硬化反応を安定させるため

 硬化型のウレタン樹脂は、2液(主剤と硬化剤)を混合して化学反応を起こすことで硬化し、ペースト状なら混ぜた後も成形しやすく、硬化反応を適切に制御できます。

ペースト状になることで、材料の適用性を高め、成形しやすくすることが可能です。

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