栗田工業によるPFAS不使用部材の開発 どのような素材が代替として考えられるのか?エンプラとは何か?

この記事で分かること

  • 代替素材:エンジニアリングプラスチック(エンプラ)が一部の部品などのPFAS代替として期待されています。
  • エンプラとは:高い強度・耐熱性・耐薬品性などを持つ、高性能なプラスチックのことであり、特に、PEEKやPPSなどがPFAS代替として有望視されています。

栗田工業によるPFAS不使用部材の開発

 栗田工業株式会社(クリタ)は、PFAS(有機フッ素化合物)を使用しない水処理装置部材の開発を本格化しています。

​ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000040.000132866.html

 PFASは耐熱性や撥水性に優れる一方で、環境中で分解されにくく、健康や環境への影響が懸念されています。​欧米ではPFASの規制が進み、日本でも2026年度からPFOAおよびPFOSに対する水道水質基準の導入と定期検査の義務化が予定されています。​

 同社はPFASを含まないエンジニアリングプラスチックを利用したダイヤフラムなど様々な部材でのPFASフリー化を目指し、実用化に向けた取り組みを進めていく方針です。

エンジニアプラスチックとは何か

 エンジニアリングプラスチック(エンプラ)は、高い強度・耐熱性・耐薬品性などを持ち、構造部材や産業用途で使われる高性能なプラスチックのことです。

 日常的なプラスチック(ポリエチレンやポリプロピレンなど)と比べて、過酷な環境でも使えるのが特徴です。


■ 主な特徴

  • 高強度・高剛性:金属の代替になることもある
  • 耐熱性:100℃以上でも変形しにくい(中には200℃以上のものも)
  • 耐摩耗性:擦れても削れにくい
  • 耐薬品性:酸やアルカリ、有機溶剤に強い
  • 寸法安定性:熱や湿度変化に強く、変形しにくい

■ 主な種類と用途例

種類特徴主な用途
ポリアミド(PA、ナイロン)摩耗に強い、油に強いギア、ベアリングなど
ポリカーボネート(PC)衝撃に強く透明性もある照明カバー、レンズ、家電
ポリアセタール(POM)機械強度・寸法安定性が高い歯車、コネクタ、バルブ
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)超耐熱(250℃以上)、耐薬品性医療・航空部品、化学装置
PPS(ポリフェニレンサルファイド)耐熱・耐薬品性が優れ、電気絶縁性も自動車部品、電気電子機器

 PFASの代替材料としては、耐薬品性が高いエンプラが特に注目されています。たとえば、PEEKやPPSなどは、PFASを使わずとも十分な性能を発揮できる候補として研究されています。

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)は、高い強度・耐熱性・耐薬品性などを持つ、高性能なプラスチックのことであり、PFASの代替材料としても注目されています。

特に、PEEKやPPSなどは、PFASを使わずとも十分な性能を発揮できる候補として研究されています。

ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)とは何か

 PEEK(Polyetheretherketone/ポリエーテルエーテルケトン)は、エンジニアリングプラスチックの中でもスーパーエンプラに分類される超高性能樹脂です。

 以下のような特性があり、過酷な環境下でも信頼して使える素材として、航空宇宙、半導体、医療分野などで幅広く使われています。


■ 特徴

  • 超耐熱性:連続使用温度は約250℃、短時間なら300℃超でも耐えられる
  • 高強度・高剛性:金属に近い機械的強度
  • 耐薬品性:ほとんどの酸・アルカリ・溶剤に耐える
  • 自己潤滑性:摺動性が高く、摩耗しにくい
  • 難燃性:自己消火性があり、有毒ガスの発生も少ない
  • 耐放射線性:高レベルのガンマ線・電子線にも耐える
  • 生体適合性:医療用インプラントにも使えるほど安全

■ 主な用途

分野用途例
半導体ウエハー搬送部品、洗浄装置部材、絶縁部品
航空宇宙軽量・高強度の構造部品、配管部材
医療人工関節、脊椎インプラント、手術器具
自動車エンジン周りの高温部品、電装系コネクタ
化学プラントバルブ、シール、ポンプの摺動部材など

■ PEEKがPFAS代替に適している理由

 PFAS(フッ素樹脂)も耐薬品性・耐熱性が高いですが、環境・健康への影響が問題になっています。PEEKはそれに匹敵する性能を持ちつつ、PFASに頼らず高い機能性を発揮できるため、代替材料として注目されています。

PEEKは耐薬品性、耐熱性に優れる超高性能樹脂です。同じ特徴をもつPFASの代替として期待されています。

ポリフェニレンサルファイド(PPS)

 PPS(Polyphenylene Sulfide/ポリフェニレンサルファイド)は、PEEKより少し性能は劣るものの、コストパフォーマンスに優れたスーパーエンプラです。高温環境や腐食性の高い現場でも使われる、“頼れる中堅”素材です。

■ 特徴

  • 耐熱性:連続使用温度は約200~220℃(グレードにより異なる)
  • 耐薬品性:酸・アルカリ・有機溶剤に広く耐性あり
  • 難燃性:自己消火性、無添加でUL94 V-0を満たす
  • 寸法安定性:熱・湿度変化にも強く、精密部品に向いている
  • 電気絶縁性:高温でも安定して絶縁性を維持
  • 機械加工性:成形がしやすく量産向き

■ 欠点

  • 衝撃強度はやや低い(硬くて脆い傾向)
  • PEEKほどの耐熱・耐摩耗性はない
  • 高温での加水分解に注意(湿気と高温で劣化しやすい)

■ 主な用途

分野用途例
自動車ラジエーター部品、電装コネクタ、EGRバルブ
電気・電子コイルボビン、リレー、端子台、絶縁部材
化学機器ポンプ、バルブ、配管の部材
家電ヒーター周辺部品、コーヒーメーカー部品
水処理フィルター部材、センサーケースなど

■ PEEKとの比較

性能PEEKPPS
耐熱性◎(250℃)○(200℃前後)
機械強度
耐薬品性
加工性△(難しい)○(良好)
コスト高い比較的安い

PPSはPEEKには性能でやや劣るものの、低コストや優れた加工性などの利点をもっています。

PFAS代替における課題は何か

 PEEKやPPSをPFAS(有機フッ素化合物)代替材料として使う際には、性能面では非常に有望ですが、実用化に向けては以下のようないくつかの「課題」や「検討事項」があります。

① コストの高さ(特にPEEK)

  • PEEKは非常に高価(kgあたり数万円することも)
  • PFAS樹脂(例:PTFE)に比べてコストが2~5倍になるケースも
  • 大量生産品や使い捨て用途には向かない

② 成形・加工の難しさ

  • PEEKは高温(約350~400℃)での成形が必要 → 専用の射出成形機や金型が必要で、製造ラインの改造が必要になることも
  • PPSは比較的成形しやすいが、脆くて薄肉成形に工夫が必要

③ 化学的特性の違い

  • PFAS(特にPTFE)は“何にもくっつかない”超低摩擦性や撥水性を持つ
  • PEEK・PPSは優れた耐薬品性はあるが、撥水・撥油性はPFASに劣る
  • 特に「表面機能性が求められる用途」では完全な代替が難しい場合がある

④ 長期信頼性の検証

  • PFASは長年の実績があり「経年劣化データ」が豊富
  • PEEKやPPSは優れた性能を持つが、用途によっては「数年単位の耐久試験」が必要 → 規格や承認プロセス(医療・航空・半導体など)も時間がかかる

⑤ 供給体制の確保

  • PEEKは製造できるメーカーが世界でも限られており、供給が不安定になりがち
  • PPSは比較的安定しているが、需要集中による価格変動リスクもある

⑥ サステナビリティ・リサイクル

  • どちらも「高機能樹脂」ゆえに分解やリサイクルが難しい
  • サーキュラーエコノミー対応(再利用・リサイクル設計)の面では、まだ課題あり

PFAS代替という点では、高コストや供給先の少なさ、長期信頼性が未知数、撥水性や撥油性はPFASに劣るなどの点が課題となります。

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