大陽日酸の高効率冷凍技術開発 どんな冷凍技術なのか?アンモニアが使用される理由は?

この記事で分かること

  • どのような冷凍技術の開発を行うのか:カスケード冷凍サイクルとよばれるアンモニアと二酸化炭素(CO2)を組み合わせた冷凍システムです。従来よりも大幅な省エネルギーと温室効果ガスの排出削減を目指しています。
  • アンモニアが使用される理由:分子間に強い水素結合が存在するため、液体から気体になるには、この結合を断ち切るために多くのエネルギーが必要です。そのため、少ない量でも効率的に熱を吸収できます。
  • カスケード化するメリット:異なる冷媒を組み合わせることで、極低温での高効率な運転を実現できる点です。これにより、単一冷媒では達成が難しい温度帯でも高い性能を発揮し、省エネと環境負荷低減を両立できます。

大陽日酸の高効率冷凍技術開発

 大陽日酸の「高効率冷凍技術」が、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「省エネルギー技術開発事業」に採択されました。

 https://www.tn-sanso.co.jp/jp/news/detail.html?itemid=930&dispmid=952

 この技術は、アンモニアと二酸化炭素(CO2)を組み合わせた冷凍システムを用いて、従来のフロン系冷媒を使用するシステムよりも大幅な省エネルギーと温室効果ガスの排出削減を目指しています。

アンモニアと二酸化炭素(CO2)を組み合わせた冷凍システムとは

 アンモニアと二酸化炭素(CO2)を組み合わせた冷凍システムは、「カスケード冷凍サイクル」または「二次冷媒システム」と呼ばれる方式です。このシステムは、熱力学的な効率に優れるアンモニアと、環境負荷が低いCO2の特性を組み合わせることで、従来のフロン系冷媒に代わる高性能な冷凍技術として注目されています。


仕組み

 このシステムは、主に2つの独立した冷凍サイクルで構成されています。

  1. アンモニアの一次冷凍サイクル:
    • 冷凍機の心臓部にあたるコンプレッサーや凝縮器に、アンモニアを充填します。
    • アンモニアは熱効率が非常に高い冷媒で、少ないエネルギーで効率よく熱を吸収し、低い温度を作り出すことができます。
    • このアンモニアサイクルで、CO2を冷やすための低温を作り出します。
  2. CO2の二次冷凍サイクル:
    • アンモニアサイクルによって冷却されたCO2を、熱を運ぶ媒体(二次冷媒)として利用します。
    • CO2は、冷却対象(冷凍庫内など)に送り込まれ、熱を吸収して蒸発し、再びアンモニアサイクルで冷却されます。
    • CO2は毒性や可燃性がなく、万が一漏洩しても人体や食品への影響が少ないため、冷却対象のすぐ近くに配置できます。

メリットとデメリット

 このシステムには、以下のような利点と課題があります。

メリット

  • 高い冷凍効率と省エネ: アンモニアの優れた熱効率とCO2の高い熱伝導率を組み合わせることで、フロン系冷媒システムよりも大幅な省エネルギーが期待できます。
  • 環境への配慮: アンモニアとCO2はいずれも「自然冷媒」と呼ばれ、オゾン層破壊係数がゼロで、地球温暖化係数も極めて低いため、環境負荷を大幅に削減できます。
  • 高い安全性: 毒性のあるアンモニアは、コンプレッサーなどの機械室に限定して封入されます。冷却対象の近くを循環するのは安全なCO2であるため、万が一の漏洩リスクが低減されます。
  • メンテナンス性の向上: CO2サイクルは油を必要としないため、油の混入による熱交換器の性能低下を防ぐことができます。

デメリット

  • 初期コスト: 2つのサイクルを組み合わせるため、単一のサイクルシステムに比べて機器構成が複雑になり、初期導入コストが高くなる傾向があります。
  • 高圧運用: CO2は冷媒として高圧で運用されるため、専用の機器や配管が必要になります。

アンモニアと二酸化炭素(CO2)を組み合わせた冷凍システムは、「カスケード冷凍サイクル」と呼ばれる技術です。熱効率の高いアンモニアで安全性の高いCO2を冷却し、CO2が冷凍対象の熱を運ぶことで、高効率と環境配慮を両立させます。これにより、フロン系冷媒を使わずに省エネを実現します。

カスケードにするメリットはなにか

 カスケード方式の最大のメリットは、異なる冷媒を組み合わせることで、単一の冷媒では難しい極めて低い温度帯での高効率な冷凍を実現できる点です。

利点

  • 高効率: 各冷媒が最も得意な温度帯で働くため、システム全体の効率が向上します。例えば、アンモニアは熱効率が高く、CO2は低温での特性に優れています。
  • 安全性: 毒性や可燃性のある冷媒(アンモニアなど)を、人のいる空間から隔離された機械室に限定して充填できます。冷凍対象の近くには、安全性の高い冷媒(CO2など)を循環させることができ、万が一漏洩してもリスクを低減できます。
  • 環境性能: オゾン層破壊や地球温暖化への影響が小さい自然冷媒(アンモニア、CO2など)を使用できるため、環境負荷を大幅に削減できます。
  • 省エネルギー: 熱効率の向上により、フロン系冷媒のシステムに比べて消費電力を大幅に削減できます。

この方式は、特に冷凍倉庫や食品工場など、-40℃以下の極低温を必要とする産業分野で広く利用されています。

カスケード冷凍サイクルの主なメリットは、異なる冷媒を組み合わせることで、極低温での高効率な運転を実現できる点です。これにより、単一冷媒では達成が難しい温度帯でも高い性能を発揮し、省エネと環境負荷低減を両立できます。

アンモニアはなぜ、熱効率が高いのか

 アンモニアは、以下の物理的・熱力学的特性から、非常に熱効率の高い冷媒として優れています。

1. 単位質量あたりの大きな潜熱

 アンモニアは、蒸発潜熱(液体が気体に変わる際に吸収する熱量)が非常に大きいです。これは、少量のアンモニアで大量の熱を吸収できることを意味します。

 このため、冷凍サイクルを効率的に回すことができ、同じ冷却能力を得るのに必要な冷媒の循環量が少なくて済み、結果として冷凍機の消費電力を抑えられます。

2. 優れた熱伝達特性

 アンモニアは、熱交換器内での熱伝達率(熱の伝わりやすさ)がフロン系冷媒と比較して優れています。これにより、熱交換器の小型化が可能となり、システム全体の効率が向上します。


 これらの特性により、アンモニアはフロン系冷媒と比較して、同じ冷却能力を発揮するのに必要なエネルギーが少なく、冷凍システムの成績係数(COP)が高くなります。そのため、特に産業用の大型冷凍・冷蔵設備において、その高い熱効率と省エネ性が大きなメリットとなります。

アンモニアが熱効率の高い冷媒である理由は、単位質量あたりの蒸発潜熱が非常に大きいためです。これにより、少量の冷媒で多くの熱を吸収でき、熱伝達性にも優れているため、冷凍機全体の効率が向上し、省エネルギーにつながります。

アンモニアの蒸発潜熱が高い理由は

 アンモニアの蒸発潜熱が高いのは、分子間に強い水素結合が存在するからです。

水素結合とは

 水素結合は、水素原子(H)が、電気陰性度が非常に高い窒素(N)、酸素(O)、フッ素(F)といった原子と結合している場合に発生する、比較的強い分子間力です。

 アンモニア分子(NH3​)は、窒素原子に3つの水素原子が結合した構造を持ち、窒素原子には非共有電子対があります。この非共有電子対が、隣接する別のアンモニア分子の水素原子と引き合い、水素結合を形成します。


なぜ潜熱が高いのか

 液体が気体に変わる(蒸発する)ためには、分子間の引力を断ち切るためにエネルギーが必要です。アンモニアは分子量が小さいにもかかわらず、この水素結合という強力な分子間力が働くため、他の一般的な分子量を持つ物質よりも多くのエネルギーを必要とします。

 このエネルギーの量が蒸発潜熱であり、アンモニアはこの値が非常に高いため、効率よく熱を吸収できる冷媒として優れています。同じ分子量を持つメタン(CH4​)などは、水素結合を形成しないため、蒸発潜熱はアンモニアよりもはるかに低くなります。

アンモニアの蒸発潜熱が高い理由は、分子間に強い水素結合が存在するからです。液体から気体になるには、この結合を断ち切るために多くのエネルギーが必要となるため、少ない量でも効率的に熱を吸収できます。

アンモニアを冷媒とする課題は

 アンモニアを冷媒として使用する際の主な課題は、その毒性と可燃性です。高い熱効率や環境性能といった多くの利点がある一方で、これらの危険性から取り扱いに厳重な注意が必要です。

1. 毒性

 アンモニアは、高濃度で吸入すると人体に有害です。強い刺激臭があり、粘膜を刺激するため、目や呼吸器に炎症を引き起こす可能性があります。

 特に、密閉された空間で漏洩が発生した場合、致命的なリスクにつながることもあります。このため、アンモニア冷媒を使用する設備は、厳格な安全基準や法規制(高圧ガス保安法など)が適用され、漏洩検知器や換気設備などの安全装置が必須となります。

2. 可燃性・爆発性

 アンモニアは、一定の濃度(空気中15〜28%)で火気と接触すると可燃性を示し、爆発する危険性があります。そのため、配管や機器の設置場所は火気から隔離する必要があり、万が一の事故を防ぐための厳重な管理が求められます。

 これらの課題を克服するため、多くの産業用冷凍システムでは、アンモニアを直接冷却対象に送るのではなく、アンモニアで別の安全な媒体(CO2やブラインなど)を冷やす「間接冷却方式(カスケード方式)」が採用されています。これにより、アンモニアを安全な機械室に限定し、冷却対象の空間にはより安全な媒体を循環させることができます。

アンモニア冷媒の主な課題は、その毒性と可燃性です。高濃度で吸入すると人体に有害であり、一定濃度で火気に触れると爆発の危険性があるため、厳重な安全管理と法規制が求められます。

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