PFASを効果的に除去する浄水フィルターの開発 PFASとは何か?どのように除去するのか?

この記事で分かること

・PFASとは何か:PFAS(パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質)は、炭素とフッ素の強い結合を持つ人工化学物質の総称で、様々な製品に利用されている

・なぜ、PFASが問題視されているのか:極めて安定でありながら、一部のPFASで発がん性内分泌かく乱のリスクが指摘されているため

PFAS除去性に優れたフィルター

 米国の研究者が、有害なPFASを効果的に除去し、環境に戻さない再利用可能な浄水フィルターの開発に成功しましたことがニュースになっています。

科学 / Science
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 ノースカロライナ大学シャーロット校の化学教授、ジョーダン・ポーラー氏は、天然のゼオライトを用いたイオン交換方式のフィルターを考案しました。このフィルターは、PFASを効果的に吸着し、特殊な液体で再生することで、性能の劣化なく何度も使用可能です。

PFASとはなにか

 PFAS(パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質)は、炭素とフッ素の強い結合を持つ人工化学物質の総称で、「永遠の化学物質(Forever Chemicals)」とも呼ばれています。これは、環境中で分解されにくく、長期間にわたって残留するためです。

 PFASは耐熱性・耐薬品性・防水性・低摩擦性・電気絶縁性など、多くの優れた特性を持ち、調理器具、衣類、医療機器、半導体、消火剤など幅広い分野で活用されてきましたが、現在その残留性と健康被害に懸念が広がっています。

PFASの特徴

  • 耐熱性・耐水性・耐油性が高い
    → フッ素化合物の特性を活かし、様々な製品に使用されている。
  • 非常に安定しており、自然界で分解されにくい
    → 環境や生物の体内に蓄積しやすい。
  • 毒性が懸念される
    → 一部のPFASは発がん性内分泌かく乱のリスクが指摘されている。

PFASが使われる製品

  • フライパンのテフロン加工(ノンスティック加工)
  • 防水・防汚加工の衣類(ゴアテックスなど)
  • 食品包装(ピザの箱、ポップコーンの袋)
  • 消火剤(泡消火剤)
  • 半導体・電子機器

PFASの問題点

  • 人体や環境に蓄積:血液や母乳からも検出されることがある。
  • 健康リスク:肝臓障害、免疫系の低下、発がんリスク、発達障害の可能性。
  • 水質汚染:工場や軍事施設周辺の地下水・河川で汚染が確認されている。

PFASの規制

日本:環境省が水質基準を設定し、一部のPFASの規制を強化中。

アメリカ:EPA(環境保護庁)が一部のPFASの飲料水基準を強化。

EU:2023年にPFASの大幅な使用制限を提案。

PFAS(パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質)は、炭素とフッ素の強い結合を持つ人工化学物質の総称で、様々な製品に利用されています。

PFASの問題点が明らかになる中で、除去技術や代替技術の開発が進められており、特に水質浄化技術の進展が注目されています。

なぜPFASは安定なのか

 PFAS(パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質)が極めて安定なのは、炭素-フッ素(C-F)結合が非常に強いからです。

1. 炭素-フッ素結合(C-F結合)の強さ

  • C-F結合は、最も強い単結合の一つで、結合エネルギーは約 485 kJ/mol です。
  • フッ素は電気陰性度(電子を引きつける力)が非常に高く、炭素との間に強い共有結合を形成するため、化学反応で分解されにくい。

2. 疎水性・疎油性

  • PFASの分子構造は、フッ素で覆われた炭素鎖(フルオロカーボン)でできており、水や油を弾く性質を持つ。
  • そのため、微生物や酵素による分解も起こりにくい。

3. 分解されにくい構造

  • PFASの中でも特に**完全フッ素化されたパーフルオロアルキル基(CnF2n+1)**を持つものは、酸化や加水分解を受けにくい。
  • 通常の有機物は酸素や微生物で分解されるが、PFASはこれらの影響をほとんど受けない。

4. 高い熱安定性

  • フッ素は原子半径が小さく、炭素をしっかり囲むため、PFASは高温でも安定。
  • 一部のPFASは 400℃以上 でも分解されないため、耐熱性の高い材料として利用される(例:テフロン)。

5. 化学薬品にも強い

そのため、通常の処理では分解が困難で、環境中に長期間残る(「永遠の化学物質」)。

フッ素原子が分子表面を覆うことで、酸・塩基・有機溶媒などの攻撃を受けにくい。

PFASは炭素-フッ素結合の強さから非常に安定性が高く、分解されずに自然界に残ってしまいます。

フィルターで回収したあとPFASはどう処理されるのか

 フィルターで回収したPFASは、そのままでは環境中に再放出される可能性があるため、高温焼却や分解技術を用いて処理されます。現在、主に以下の方法が検討・実用化されています。

1. 高温焼却(熱分解)

  • 処理温度:1,000〜1,200℃以上
  • PFASの炭素-フッ素結合(C-F結合)は非常に強いため、通常の焼却炉(800℃程度)では分解されず、有害なフッ素化合物が発生する恐れがある。
  • 1,000℃以上の高温で完全燃焼させると、炭酸ガス(CO₂)、水(H₂O)、フッ化水素(HF)などに分解される。
  • HFはそのまま排出すると有害なので、石灰(Ca(OH)₂)と反応させてフッ化カルシウム(CaF₂)に変換し、無害化する。

2. 超臨界水酸化(SCWO:Supercritical Water Oxidation)

  • 処理条件:温度 374℃以上、圧力 22.1 MPa以上(超臨界水環境)
  • 超臨界水(気体と液体の中間状態の水)中で酸素や酸化剤を加えると、PFASを短時間で分解できる。
  • 高温焼却に比べて二酸化炭素や有害ガスの発生が少なく、環境負荷が低い
  • ただし、装置の運転コストが高いため、大規模な処理施設向け。

3. 電気化学分解(Electrochemical Oxidation)

  • 処理方法:電極を用いてPFASを分解
  • アノード(陽極)でPFASのC-F結合を切断し、フッ化物イオン(F⁻)に変換
  • 分解されたフッ化物は、安全な形(例:フッ化カルシウム CaF₂)で沈殿させる。
  • 低温・低エネルギーで処理可能だが、大量のPFAS処理には時間がかかるのが課題。

4. 触媒還元・バイオレメディエーション(生物分解)

  • 触媒を用いた還元反応により、PFASを分解する方法が研究されている。
  • 一部の微生物や酵素を利用して分解する技術(バイオレメディエーション)も研究段階だが、C-F結合の強さのために分解速度が遅いという課題がある。

5. 埋設処理(最終手段)

しかし、長期的に地下水汚染のリスクがあるため、焼却や分解技術の普及が求められている。

現状では、分解が困難なPFAS廃棄物は遮水性の高い特別な埋立地に埋設する場合もある。

PFASを安全に処理するには、高温焼却(1,000℃以上)、超臨界水酸化、電気化学分解が主な手法となります。

今回の発明はどのようにしてPFASを除去しているのか

 今回の発明は、より高い吸着力を持つ再利用可能なフィルターを開発した点がポイントです。

従来のPFAS除去フィルターとの違い

  1. 吸着力が向上
    • 既存の活性炭やイオン交換樹脂に比べ、より多くのPFASを効率的に捕捉できる。
    • 吸着のメカニズムとして、天然ゼオライトを活用し、PFASの固定化を強化している。
  2. 再利用が可能
    • 吸着後のPFASを特殊な液体(例:溶媒や再生剤)でフィルターから取り出し、フィルターを繰り返し使用できる。
    • 従来のフィルターは一定量のPFASを吸着すると使えなくなるが、新技術では廃棄を減らせる
  3. 環境への二次汚染を防止
    • PFASをフィルターで捕捉しても、処理を誤ると環境に再放出される可能性があった。
    • 今回の技術では、回収したPFASを安全に分解・処理することを想定。

この発明により、従来のPFAS浄化技術よりも持続可能かつ高効率な処理が期待されます。

今回の発明は、天然ゼオライトを活用し、より高い吸着力を持つ再利用可能なフィルターを開発したものです。

ゼオライトとは何か

 今回のフィルターに使用されているゼオライトはアルミノケイ酸塩(Al₂O₃・SiO₂)を主成分とする多孔質鉱物で、ナノサイズの細孔を持つため、優れた吸着性能やイオン交換能力を発揮します。天然・人工の両方が存在し、化学・環境・農業・医療など多岐にわたる分野で利用されています。

ゼオライトの基本構造

  • 主成分:ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)
  • 基本構造:SiO₄とAlO₄の四面体が結合した三次元網目構造
  • ナノサイズの細孔が無数にあり、これが「分子のふるい(Molecular Sieve)」として機能する。

ゼオライトの主な特性

1. 高い吸着能力
  • ゼオライトの細孔は特定の分子を取り込むのに適したサイズを持っており、水分やガス、汚染物質を吸着できる。
  • 用途:水処理、脱臭剤、湿気吸収剤、触媒担体。
2. イオン交換能
  • ゼオライト内部のアルミニウム原子(Al³⁺)の影響で、負の電荷を持つため、ナトリウム(Na⁺)、カリウム(K⁺)、カルシウム(Ca²⁺)などの陽イオンと交換できる。
  • 用途:水の軟化剤(洗剤)、放射性セシウム・ストロンチウムの除去、水質浄化。
3. 触媒機能
  • ゼオライトの細孔が反応物を適切に選別し、効率的な化学反応を促進。
  • 用途:石油精製(クラッキング触媒)、排ガス浄化(NOx除去)、有機合成。
4. 耐熱性・化学的安定性
  • 高温・強酸・強アルカリ環境下でも安定して使用可能。

ゼオライトの主な種類と用途

1. 天然ゼオライト
  • 代表例:クリノプチロライト、モルデナイト、アナターゼなど。
  • 用途:水質浄化、土壌改良、消臭・脱臭、飼料添加物(家畜の健康管理)。
2. 人工ゼオライト
  • 合成技術によって細孔サイズを制御可能で、産業用途に特化したものが多い。
  • 代表例
    • A型ゼオライト(LTA):水の軟化、洗剤添加剤。
    • Y型ゼオライト(FAU):石油精製(クラッキング触媒)。
    • ZSM-5型ゼオライト:排ガス浄化、化学触媒。

PFAS除去への応用

 ゼオライトは、その高い吸着力とイオン交換能力を活かして、PFAS(有機フッ素化合物)を効率的に除去するためのフィルター材料として期待されています。特に、ゼオライトの細孔サイズや表面改質を調整することで、PFASの吸着効率を向上させる研究が進んでいます。

ゼオライトは、優れた吸着力・イオン交換能・触媒機能を持つ多孔質鉱物であり、環境保全や産業用途で幅広く活用されています。特に、水質浄化やガス吸着、化学触媒としての重要性が高く、今後も新しい応用技術の開発が期待されています。

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