この記事で分かること
- 高温での処理方法:仮結合したウエハを電気炉やRTP装置に入れ、窒素などの不活性ガス雰囲気中で200℃〜1000℃に加熱します。
- 高温で強い結合ができる理由:高温の熱エネルギーが、仮結合の水酸基間の脱水反応を促し、エネルギー的に最も安定で強いシリコン-酸素-シリコンの共有結合を形成するための活性化エネルギーを与えるからです。
- 低温の工程が必要な理由:いきなり高温で処理すると、熱膨張率の違いによる熱応力でウエハが破損する恐れがあります。また、急激に揮発した吸着ガスが逃げ場を失い、接合界面にボイド(気泡)が発生し、接合不良となるのを防ぐためです。
高温での熱処理接合
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回はウエハの直接接合におけるドライ洗浄方法に関する記事でしたが、今回は高温での熱処理での接合に関する記事となります。
ウエハの直接接合とは何か
接着剤や中間層を使わず、2枚のウエハ表面同士を原子間力などで密着させ、熱処理により共有結合で強固に接合する技術です。SOI基板やMEMS製造などに使われます。
清浄化とプラズマ活性化で表面を整え、室温で仮結合します。その後、高温で熱処理(アニール)し、水素結合から共有結合へと変化させることで、強固な接合を完成させます。
高温での熱処理はどのように行うのか
ウエハの直接接合における高温での熱処理(アニール)は、主に接合したウエハのスタックを電気炉または急速熱処理(RTP/RTA)装置に入れ、特定の温度プロファイルに従って行うことで、仮結合を永続的な共有結合に変化させます。
熱処理(アニール)のプロセス
1. 目的
高温熱処理の主要な目的は、室温で形成された水素結合をより強固な共有結合(シリコン-酸素-シリコン)に変化させることです。この過程で脱水反応が起こり、水分子 が接合界面から排出されます。
2. 温度と雰囲気
- 温度範囲:
- 結合を完全に強固にするためには、通常 200℃から 1000℃ 程度の温度が用いられます。
- SOI(Silicon On Insulator)基板の製造など、最終的なデバイスの信頼性を高める場合は、1000℃ 以上の高温で長時間処理されることもあります。
- 雰囲気:
- ウエハの酸化や汚染を防ぐため、窒素 やアルゴン などの不活性ガス雰囲気中で行われるのが一般的です。
3. 装置の種類
- 電気炉(ファーネス):
- 最も一般的な方法で、ウエハを多数同時に処理できるバッチ式です。
- ゆっくりとウエハ全体を均一に加熱し、長時間(数時間)かけてアニールします。これにより、接合界面全体で均一に共有結合を形成し、結合強度を最大化します。
- 急速熱処理(RTP: Rapid Thermal Processing / RTA: Rapid Thermal Annealing):
- ランプ加熱などを利用し、ウエハを数秒から数分という非常に短い時間で目的温度まで昇温・降温させる方法です。
- 熱バジェット(ウエハが受ける熱の総量)を低く抑えられるため、既に積層されたデバイス構造など、長時間高温にさらしたくない場合に適しています。
4. 処理のポイント
- 昇温速度の制御: 急激な温度変化は、ウエハ間に熱応力を発生させ、接合界面にボイド(気泡)やクラック(ひび割れ)を生じさせる原因となります。そのため、特に仮結合の状態では、ゆっくりと慎重に昇温することが重要です。
- 脱ガス処理: 低温(200℃〜300℃)で水分子が生成され始めます。この水分子を界面から効果的に排出させないと、ボイドの原因となるため、この温度域での処理時間を調整することもあります。
この高温熱処理によって、ウエハの直接接合は単なる密着ではなく、母材と同等以上の機械的な強度と永続性を持つことになります。

仮結合したウエハを電気炉やRTP装置に入れ、窒素などの不活性ガス雰囲気中で200℃〜1000℃に加熱します。これにより、脱水反応を起こし、水素結合を強固な共有結合へと変化させます。
なぜ高温で強固な共有結合となるのか
高温で強固な共有結合が形成されるのは、熱エネルギーが化学反応(脱水反応)を促進し、初期の弱い結合をより安定した状態へ遷移させるからです。
共有結合形成のメカニズム
ウエハの直接接合では、仮結合時に水酸基間の水素結合(比較的弱い電気的な結合)によってウエハが密着しています。この状態から高温で熱処理(アニール)を行うと、以下の現象が起こります。
1. 脱水反応の促進
高温の熱エネルギーにより、接合界面の隣り合う水酸基(Si-OHとHO-Si)が化学反応(脱水縮合)を起こします。この反応により、水分子 が生成・放出され、同時にシリコン原子と酸素原子が直接結合します。
Si-OH + HO-Si → Si-O-Si + H2O
2. 共有結合への転換
生成されたSi-O-Si 結合は、ウエハの主成分である酸化シリコン (SiO2) と同じ、非常に強固な共有結合です。高温はこの結合が形成されるために必要な活性化エネルギーを与えます。
3. 安定化(エネルギーの低下)
共有結合は、水素結合やファンデルワールス力といった初期の結合よりもエネルギー的に非常に安定した状態です。
化学システムは常にエネルギー的に安定な状態へ向かおうとするため、高温で十分なエネルギーを与えられれば、ウエハは最も安定した共有結合の状態に移行します。この共有結合は、ウエハの母材と同等かそれ以上の機械的強度と永続性をもたらします。
高温は脱水反応の障壁を乗り越えるために必要であり、この反応を通じて最も安定で強い共有結合が形成されるのです。

高温の熱エネルギーが、仮結合の水酸基間の脱水反応を促し、エネルギー的に最も安定で強いシリコン-酸素-シリコンの共有結合を形成するための活性化エネルギーを与えるからです。
いきなり高温で処理しない理由は何か
ウエハの直接接合において、初期の段階でいきなり高温で処理をしない主な理由は、熱応力によるウエハの破損や接合不良(ボイドの発生)を防ぐためです。
1. 熱応力による破損(クラック・剥離)
- 熱膨張率の違い: ウエハは完全に均一な単一素材ではなく、わずかな不純物分布や、異種材料を接合している場合があります。これらの材料は熱膨張率がわずかに異なります。
- 応力の発生: 仮結合されたウエハを急激に高温にさらすと、この熱膨張率の差によりウエハ間で大きな熱応力(ストレス)が発生します。この応力がウエハの破損(クラック)や、仮結合界面の剥離を引き起こす可能性があります。
2. ボイド(気泡)の発生
- 吸着ガスの排出: ウエハの表面には、洗浄・活性化の過程で生成された水分子 や、空気中のガス成分がわずかに吸着しています。
- 閉じ込め: これらを急激に高温に加熱すると、吸着ガスが急激に膨張・揮発しますが、接合が不完全な初期の段階では、ガスが界面から十分に排出されず、接合界面にボイド(気泡や未接合領域)として閉じ込められてしまいます。
- 歩留まりの低下: このボイドは接合強度を低下させ、デバイスの歩留まりや信頼性を著しく損ないます。
正しい熱処理の進め方
このため、直接接合では、まず室温で水素結合による安定した仮結合を形成し、その後にゆっくりと時間をかけて昇温し、吸着ガスを徐々に排出しながら、弱い水素結合を段階的に強固な共有結合に転換させていきます。
低温から緩やかに加熱することで、熱応力を分散させ、ガスが拡散・排出する時間を与えつつ、最終的に強固な接合を実現します。

いきなり高温で処理すると、熱膨張率の違いによる熱応力でウエハが破損する恐れがあります。また、急激に揮発した吸着ガスが逃げ場を失い、接合界面にボイド(気泡)が発生し、接合不良となるのを防ぐためです。

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