この記事で分かること
- 通期業績予想前期比2.0%増の理由:生成AI向けのHBM(広帯域メモリ)需要が好調で、高付加価値な切断・研削装置の出荷が利益を牽引しています。一方で、EV向けパワー半導体の需要停滞や研究開発費の増加、為替の不透明感を織り込み、堅実な増益幅としています。
- 消耗品の種類:ダイヤモンド粒子を練り込んだ「精密加工ツール」です。ウェーハをチップ状に切り出す極薄のダイシングブレード、裏面を薄く削るグラインディングホイール、表面を鏡面状に磨くポリッシングホイールがあります。
ディスコの通期業績予想 前期比2.0%増
半導体製造装置大手のディスコは2026年3月期の通期業績予想を発表し、これまで未定としていた通期の見通しを連結純利益が前期比2.0%増の1,264億円としました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB211QM0R20C26A1000000/
生成AI向けを中心に、半導体を切り出す「ダイサ」や削る「グラインダ」の需要が高水準を維持しています。また、顧客の稼働率に連動する消耗品(精密加工ツール)の出荷も堅調です。が背景にあります。
ディスコのグランダーの記事やダイシングソーに関する記事はこちら。
連結純利益が前期比2.0%増と見込んだ理由は何か
2026年3月期の通期純利益が前期比2.0%増(1,264億円)という見通しになった主な理由は、「生成AI関連の強力な需要」と「保守的な(慎重な)市場見通し」のバランスにあります。
大きく分けて以下の3つの要因が挙げられます。
1. 生成AI(HBM)向けの需要継続
現在、半導体業界で最も伸びている生成AI向けの高付加価値製品(HBM:広帯域メモリなど)の製造工程において、ディスコの「ダイサ(切断装置)」や「グラインダ(研削装置)」が不可欠となっています。
- 高精度加工の必要性: AI用チップは積層構造が複雑なため、より高度な加工技術が求められ、単価の高い最新鋭装置の出荷が利益を支えています。
- 消耗品の安定収益: 装置の導入が進むことで、交換部品である「精密加工ツール(ブレード等)」の売上も積み上がっており、これが利益の下支えとなっています。
2. 汎用市場(スマホ・PC)の回復の遅れ
一方で、増益幅が「2%」と控えめなのは、AI以外の市場がまだ完全復活とは言えないためです。
- スマホ・PC・車載向け: これら汎用的な半導体向けの需要は、底を打った感はあるものの、AI向けほどの爆発的な勢いはありません。
- SiCパワー半導体: 一時期好調だった電気自動車(EV)向けのSiC(炭化ケイ素)関連も、市場の減速により調整局面が続いています。
3. コスト増加と為替の前提
利益成長を抑える要因(コスト増)も計算に入れられています。
- 人件費と研究開発費: 次世代技術の開発や優秀な人材確保のため、販管費(固定費)が増加傾向にあります。
- 為替予約の影響: 1ドル=154円という想定レートは足元の実勢に近いですが、前期のような極端な円安による利益押し上げ効果を、今後はそれほど大きく見積もっていない可能性があります。
ディスコは伝統的に「非常に堅実な(低めの)予想」を出す傾向があります。第3四半期(4〜12月)までで既に純利益は前年同期比8.7%増となっており、通期で2%増という目標は、「不透明な世界経済を考慮しつつも、確実に達成できるライン」として設定されたものと考えられます。
この「2%増」という控えめな数字を市場が「上振れ余地あり」と見るか、「成長鈍化」と見るかが今後の株価の分かれ目になりそうです。

生成AI向けのHBM(広帯域メモリ)需要が好調で、高付加価値な切断・研削装置の出荷が利益を牽引しています。一方で、EV向けパワー半導体の需要停滞や研究開発費の増加、為替の不透明感を織り込み、堅実な増益幅としています。
交換部品にはどんなものがあるのか
ディスコの収益の柱となっている交換部品(消耗品)は、主に「精密加工ツール」と呼ばれるダイヤモンド砥石です。半導体を「切る・削る・磨く」という工程ごとに、主に以下の3種類があります。
1. ダイシングブレード(切るための刃)
半導体ウェーハを四角いチップ状に切り出すための、極薄の円盤状の刃です。
- 特徴: 厚さはわずか数ミクロン(1ミリの1000分の数倍)からあり、人工ダイヤモンドの粒子が練り込まれています。
- 交換の理由: 高速回転で硬い半導体を切るため、使っていくうちに少しずつ摩耗し、切れ味が落ちるとチップの欠け(チッピング)の原因になるため定期的な交換が必要です。
2. グラインディングホイール(削るための砥石)
ウェーハの裏面を削って薄くするためのドーナツ型の砥石です。
- 特徴: 最近のスマホやAI用チップ(HBMなど)は、チップを何枚も重ねるために極限まで薄く削る必要があり、このホイールの重要性が高まっています。
- 交換の理由: 削る面積が広いため摩耗が早く、加工精度を維持するために頻繁に交換されます。
3. ポリッシングホイール(磨くための砥石)
削った後のウェーハ表面を鏡のようにピカピカに仕上げるためのツールです。
- 特徴: 削る際の細かな傷を取り除き、チップの強度を高める役割があります。
なぜこれが投資家から注目されるのか
装置(マシン)は一度売れると次の買い替えまで時間がかかりますが、これらの消耗品は「半導体が作られ続ける限り売れ続ける」からです。
- ストック型ビジネス: 装置の販売台数が増えるほど、稼働する装置が増え、消耗品の需要も積み上がります。
- 利益率が高い: 装置よりも利益率が高い傾向にあり、ディスコの安定した高収益を支える「稼ぎ頭」となっています。
「装置が売れる=将来の消耗品売上も約束される」という構造になっているのが、ディスコの強みです。

主にダイヤモンド粒子を練り込んだ「精密加工ツール」です。ウェーハをチップ状に切り出す極薄のダイシングブレード、裏面を薄く削るグラインディングホイール、表面を鏡面状に磨くポリッシングホイールがあります。
ダイサやグラインダの競合にはどんな企業があるのか
ディスコの主軸製品であるダイサ(切断装置)やグラインダ(研削装置)の市場において、最大の競合は東京精密(ACCRETECH)です。
この2社で世界シェアの大部分を占めていますが、技術や領域によって他にもいくつかのプレイヤーが存在します。
1. 最大のライバル:東京精密
ディスコにとって国内・海外ともに最大の競合です。
- ダイサ: ディスコが世界シェア約7〜8割と圧倒的ですが、東京精密も残りのシェアの多くを占める2位(約1割強)に位置しています。
- グラインダ: こちらでもディスコと激しく競っており、測定技術を活かした高精度な加工を強みとしています。
2. 特定技術・領域での競合
加工方法(レーザー、プラズマなど)や用途によっては、以下の企業も競合となります。
- プラズマダイシング(次世代技術):
- パナソニック コネクト: ガスでエッチングして切り分ける「プラズマダイシング」に強みを持ちます。
- KLA(米): 旧SPTSを買収し、プラズマ技術で先行しています。
- 研削・研磨(グラインダ・ポリッシャ):
- 岡本工作機械製作所: 工作機械で培った研削技術を持ち、半導体向けも展開しています。
- 荏原製作所: 主に「CMP(化学機械研磨)」という別の工程で強いですが、研磨領域で重なる部分があります。
- レーザーダイシング:
- 浜松ホトニクス: ステルスダイシング(内部にレーザーを当てる技術)の特許を多く持ち、ディスコとも協力・競合の関係にあります。
ディスコの圧倒的優位性
競合は存在するものの、ディスコには他社が追随しにくい「三位一体」の強みがあります。
- 装置(ハード): ダイサ・グラインダ自体の性能。
- ツール(消耗品): 自社で開発・製造するダイヤモンドブレード。
- ノウハウ(加工技術): 顧客の素材に合わせた最適な削り方のレシピ。
この3つをセットで提供できるため、特に最先端のAI半導体(HBMなど)の現場ではディスコが実質的な独占状態(デファクトスタンダード)となっています。

最大の競合は東京精密(ACCRETECH)です。ダイサ・グラインダ市場をディスコと二分する国内ライバルで、特に計測技術を強みとしています。

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