自動車業界のレアアース安定供給対策での国と協議 レアアースの供給不安の理由や自動車での使用されるレアアースは何か?

この記事で分かること

  • レアアース供給不安の理由:中国によるレアアースの輸出規制強化が要因であり、主に米国の対中ハイテク規制への報復であり、レアアースを経済安全保障上の戦略的な交渉カードとして活用し、国内産業の優位性を確保するため、輸出規制を行っています。
  • 使用されるレアアース:電動車の駆動モーター用磁石にネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)が不可欠です。また、内燃機関車の排ガス触媒にはセリウム(Ce)などが使われます。

自動車業界のレアアース安定供給対策での国と協議

 中国によるレアアースの輸出規制強化を受け、サプライチェーンの途絶リスクが高まっています。

 https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/94811ecc2e2875858074f98d9890f66ae8f403dc

 自動車業界は、このような国際情勢の変化に伴う供給途絶リスクを回避するため、安定供給の確保に向けて国(経済産業省など)と協議し、対策を講じています。

中国によるレアアースの輸出規制強化の理由は何か

 中国によるレアアースの輸出規制強化は、以下のように主に米中間の経済・技術覇権争いを背景とした経済安全保障上の戦略的措置です。


1. 対米(対西側諸国)報復・交渉カードとしての活用

 最も直接的な理由は、米国による中国企業やハイテク製品への規制・関税措置に対する報復と、今後の交渉における強力な「切り札」としてレアアースの支配力を利用することです。

  • 報復措置: 米国が中国のハイテク産業(特に半導体関連)に対する輸出規制を強化したり、追加関税を発動したりしたことへの対抗措置として、中国はレアアースの供給管理を強化し、サプライチェーンを混乱させることで米国経済に打撃を与える狙いがあります。
  • 交渉手段: レアアースは、電気自動車(EV)モーター、風力発電機、ミサイル、高度な電子機器などに不可欠な戦略物資です。中国は世界の精製・供給の大部分を握っており、その供給を制限することで、米国やその他の貿易相手国に対し、自国に有利な条件を引き出すための交渉材料として使っています。

2. 国家安全保障と戦略的資源の管理強化

 レアアースを単なるコモディティではなく、国家の安全と利益を守るための戦略資源として位置づけ、管理体制を強化する目的があります。

  • 技術・情報の囲い込み: レアアースの採掘、精製、加工といった高度な技術が外部に流出するのを防ぐため、輸出規制を通じて管理を厳格化しています。
  • 違法採掘・輸出の取り締まり: 国内における環境保護や、資源の浪費を防ぐ目的で、採掘・生産・流通の一元管理を強化し、違法な輸出入を取り締まる側面もあります。

3. 産業の高度化と優位性の維持

 中国自身が「世界の工場」として、また次世代産業の主要プレイヤーとなるために、レアアースの優位性を最大限に利用しようとしています。

  • 国内産業の安定確保: 国内のハイテク産業やEV産業などの成長を支えるため、レアアースを安定的に確保し、国内での加工・製品化を促進する目的があります。
  • 市場支配力の強化: 国家主導でレアアース産業の統合・集約を進めており、規制を強化することで、国際市場における価格決定力を高め、他国企業の参入を抑制し、独占的な地位を維持・強化しようとしています。

中国によるレアアースの輸出規制強化の理由は、主に米国の対中ハイテク規制への報復であり、レアアースを経済安全保障上の戦略的な交渉カードとして活用し、国内産業の優位性を確保するためです。

自動車製造で使用されるレアアースは何か

 自動車製造で使用されるレアアースは、主にその強力な磁力触媒作用といった特性を活かし、電動化された部品や排気ガス浄化装置に不可欠な素材となっています。


自動車で使用される主なレアアースとその用途

 自動車に使われるレアアースは多岐にわたりますが、特に重要度が高いのは以下の元素です。

1. 駆動用モーター(電動車:EV・HV)

 電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)の高性能な永久磁石モーターに使われるのが主な用途です。これらは小型化と高出力化を両立するために不可欠です。

元素用途特徴
ネオジム (Nd)ネオジム磁石の主成分。駆動用モーターの磁石に必須。「最強磁石」として知られ、強力な磁力を生み出す。
ジスプロシウム (Dy)ネオジム磁石に添加。高温環境下でも磁力が失われにくい耐熱性を向上させる。電動車モーターの重要部品。
テルビウム (Tb)ネオジム磁石に添加。ジスプロシウムと同様に、磁石の耐熱性を高める。
プラセオジム (Pr)ネオジム磁石の組成を微調整。磁石の特性を改善する助けとなる。

2. 排気ガス浄化装置(内燃機関車)

 ガソリン車などの排気ガス浄化用の三元触媒に、レアアースが使われています。

元素用途特徴
セリウム (Ce)自動車用排ガス触媒の主要な構成要素。触媒として有害物質(窒素酸化物、一酸化炭素など)の浄化効率を高める。
ランタン (La)触媒の性能維持やニッケル水素電池の電極に利用。触媒の熱安定性を向上させる。

3. その他部品

  • ニッケル水素電池(Ni-MH電池):初期のハイブリッド車などに搭載されていたバッテリーの電極材として、主にランタン (La) が使われていました。
  • 研磨剤:ガラスや鏡の製造工程で、セリウム (Ce) が研磨剤として利用されています。
  • 電子機器・センサー:車載コンピューター、各種センサー、ナビゲーションシステムの液晶画面など、自動車内の電子部品にも幅広く利用されています。

自動車製造では、電動車の駆動モーター用磁石ネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)が不可欠です。また、内燃機関車の排ガス触媒にはセリウム(Ce)などが使われます。

三元触媒とは何か

 三元触媒(Three-Way Catalyst, TWC)とは、ガソリンエンジン車から排出される3種類の有害物質を、同時に無害な物質へ変換・除去するために排気系統に装着される装置です。

 現在、ほとんどのガソリン車に装備されており、大気汚染防止に不可欠な技術です。


除去する3種類の有害物質と反応

 三元触媒の「三元」とは、以下の3種類の有害物質を指します。触媒内部で、酸化反応(酸素を結合させる)還元反応(酸素を取り除く)を同時に起こすことで浄化します。

有害物質略称浄化反応最終的な無害物質
一酸化炭素CO酸化二酸化炭素
炭化水素HC酸化水 と二酸化炭素
窒素酸化物NOx還元窒素 と酸素

触媒の構成要素

触媒の本体は、排気ガスと接触する表面積を最大化するために、ハニカム(蜂の巣状)構造をしたセラミックや金属の担体(支持体)に、以下の貴金属(レアメタル)がコーティングされています。

  • プラチナ (Pt):COとHSの酸化を促進
  • パラジウム (Pd):CO と HC の酸化を促進
  • ロジウム (Rh):NOx の還元を促進

機能の要件

 三元触媒が最も高い効率を発揮するためには、エンジン燃焼時の空燃比(空気と燃料の質量比)を「理論空燃比」(約 14.7:1)に極めて近い、ごく狭い範囲に維持する必要があります。

この精密な空燃比制御を実現するために、O2センサー(酸素センサー)と電子制御燃料噴射装置 ((ECU) の技術が不可欠となっています。

三元触媒は、ガソリン車の排気ガスに含まれる一酸化炭素炭化水素 、窒素酸化物 の3つの有害物質を、白金、パラジウム、ロジウムなどの貴金属の作用で水、二酸化炭素、窒素に同時に浄化する装置です。

三元触媒でのセリウムの役割は何か

 三元触媒におけるセリウム (Ce)(通常は酸化セリウムとして使用)の最も重要な役割は、助触媒として酸素貯蔵・放出能力(Oxygen Storage Capacity: OSC)を発揮することです。

 セリウムは、主触媒である貴金属(プラチナ、パラジウム、ロジウム)の働きを助け、排ガス浄化効率を最大限に高めます。


セリウムの主要な役割:酸素貯蔵・放出能力(OSC)

 三元触媒が高効率で機能するためには、エンジンの空燃比(空気と燃料の比率)を理論空燃比(約 14.7:1)という非常に狭い範囲に保つ必要があります。しかし、実際のエンジン燃焼では、空燃比は常にわずかに変動しています。セリウムは、この変動を吸収し、浄化反応を安定させる「酸素の貯蔵庫」として機能します。

1. 酸素の「貯蔵」機能 (空燃比がリーンな時)

  • 状態: 排気ガス中の酸素濃度が高い(リーン、O2過剰)とき。
  • 役割: 酸化セリウムは過剰な酸素を取り込み、貯蔵します。(酸化セリウムがセリウムイオンにに変化)

2. 酸素の「放出」機能 (空燃比がリッチな時)

  • 状態: 排気ガス中の酸素濃度が低い(リッチ、燃料過剰)とき。このとき、一酸化炭素 や炭化水素 などが残留しやすくなります。
  • 役割: 酸化セリウムは貯蔵していた酸素を放出し、COやHC の酸化反応を助け、浄化を促します。(4価の酸化セリウムが3価に変化)

 このように、セリウムは排ガスの組成変動に応じて酸素を出し入れすることで、空燃比が理論値からわずかにずれても浄化性能を維持する、非常に重要な役割を果たしています。また、セリウムは貴金属触媒の耐久性を向上させる役割も担っています。

三元触媒でのセリウムの役割は、酸素貯蔵・放出能力を持つ助触媒として機能することです。これにより、空燃比が変動しても貴金属触媒の働きを助け、排ガス浄化効率を安定させます。

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